文学的ポスト・クラシカル  Hildur Guðnadóttir / Without Sinking


こんにちは。

Hildur Guðnadóttirはアイスランド出身の女性チェリストです。
mum、Johann Johannson、Pan Sonic、Animal Collectiveなどの名だたるアーティストの作品やツアーに参加しています。

そんな彼女による本名名義での初リリース作品が2009年作のWithout Sinkingです。
(2006年にLost In Hildurness名義でリリースされたアルバムが2010年には本名名義で再リリースされています)

本作はポスト・クラシカルにカテゴライズされるものですが、他にはない独特の魅力に満ちています。

ポスト・クラシカルとしてのWithout Sinking Hildur Guðnadóttirが生み出した悠久なるチェロ・ドローン 

サウンド的な特徴

本作の特徴は、ほの暗く灰色の情景が浮かび上がるサウンドでしょう。

基本になるのはチェロで、そこにオルガン、ハープ、電子音などが加わります。
あまり大きな起伏はなく、物憂げな曲達が適度な距離感を保ったままそっと聴き手に寄り添います。

一番の魅力

本作の最も美味しいところは、豊潤なチェロの音色を幾重にも重ねていることでしょう。
チェロが持つ高貴さと魅力を存分に生かしながら、時にはドローンのようにその余韻を暗く響かせ、情念的ともいえる心象風景を描き出しています。

しかし、 Hildur Guðnadóttirがクラシックの教育を受けているせいなのかあるいは生来の人間性なのか、ドス黒い感じはしません。
品格ある芸術性が漂っているのです。

自己本位の衝動のまま、感情を叩きつけているようなことは一切ないのです。

一つ一つの音色を大切にして音楽を愛おしむように鳴らしているような、優しさを感じられるような気がします。

煮えたぎるなマイナスの感情は全て調理されたうえで差し出されています。
その美しさは一聴の価値あり、と言えるでしょう。

総括

本作には、アルバム全体を通して大きな起伏があるわけではありません。

しかし、瞑想的な作品といったことは決してありません。
心のうちに宿る不協和音を優美で繊細なサウンドスケープへと再編成しています。
どんな瞬間でも次の展開が気になり、気を逸らす暇もないような緊迫感があります。

退廃した欧州貴族社会を舞台にした小説を音で表現しているかのようです。

エンターテイメント的な大仰な展開に頼らず、登場人物のささいな日常を描きながら人間の迫力ある心情を深々と抉り出す。
そんな香り高い欧州文学のような一枚です。

Without Sinkingの魅力 Hildur Guðnadóttirが愛される理由

本作は、お気に入りの小説の頁を繰るように聴ける素敵なアルバムです。

上品だけど、身近にあって。
ゴシックだけど日常的で。

淡々としているようでダイナミック。
絶妙なバランス感覚が、ポスト・クラシカルサウンドの中で成り立っています。

そんなアルバムを生み出せるのも、Hildur Guðnadóttirが色んなアーティストのサポートを務めている理由なのかもしれません。


それでは、また。

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