Winterpillsについて。物憂い吐息、セカイ系的詩情、ソフトで艶やかな感傷の揺らめき。

こんにちは。

Winterpillsは2003年に結成されたUS出身のインディーロックバンドです。

https://www.metroweekly.com/wp-content/uploads/2016/04/winterpills_joanna_chattman.jpg

Slow Core/Sad Core(スロウコア/サッドコア)やアコースティックな男性シンガーソングライター的なテイストが感じさせるサウンドが特徴的です。
物憂くて知性的に爪弾かれるようなギターの響きが美しいサウンド、といったところでしょうか。

2020年5月現在、Winterpillsは6作のアルバムをリリースしています。
本記事ではその全てを語ります。


注意!!!
本記事ではWinterpillsの世界に深く踏み込むため、歌詞についても触れています。
ただし、本記事の著者は英語について明るいわけではありません。
あくまでも雰囲気を楽しむ程度に捉えてくださいますようお願いいたします。

Winterpillsの全アルバムについて

本記事では全てのアルバムについて語ることになります。しかし、文字だけでは分かりにくいと思い、相関図を作成してみました。

では、アルバムごとに見ていきましょう。

(1st)Winterpills

前史:リリースされるまで

Winterpillsのメンバーたちはバンドを始動させる前から友達で、それぞれのプロジェクトやバンドで活動をしていました。

しかし、メンバーたちが破局や身近な死など人生の危機に直面した2003~2004年の冬にかけて集まり、安いワインを飲みながらプレイを開始します。

やがて、徐々にElliot Smithに影響を受けたフロントマンPhilip Priceの曲を活動の軸とするようになりました。

そして、2005年に本作Winterpillsをリリースします。

アルバムの魅力

Winterpillsのデビュー作であり、物憂い側面が最も強く出ている作品でもあります。
儚く内省的な感性がそっと花開くような、柔らかな曲調がアルバムを通してひっそりと続いています。

囁くような男女混成ボーカル、
ひそやかに紡がれるエレクトリックギターのアルペジオやアコースティックギターのストローク、
ゆったり陰を縫うように淡く上下するベースライン、
華奢ながらも凛とした屋台骨となって、全体を支えるドラムス。
時に悲しげに、時に軽やかに、そして常に繊細なバンドサウンドがゆっくりと縫い上げられていきます。

かといって、ダークサイドに陥ることがないのも本作の特徴です。
育ちの良さそうな人懐っこさが、静謐な詩情から漂っています。

しとしとと降る小雨のような、吐く息がほんの少しだけ白くなるような、微かに肌寒い心地よさが感じられます。

優雅なダウナーさを自然体で奏でている、類例のない快作と言えるでしょう。

歌詞の世界

歌詞の世界を少しだけ覗いてみましょう。
本作に限らず抽象的な表現を多用していることと憂鬱な雰囲気を醸成していることが、Winterpillsの特徴です。


ともあれ、まずは本作一曲目のA Benedictionから見てみましょう。

全ての悲しき少年が君とともに家に来る 花輪の中に君を垂らして 悲しい歌を歌いかける 君を通して悲しい歌を雨のように歌う 全ての緑の子供たちは君を切望する 君の秘密をすべて学び 君のためにその精神を作り上げる 君には不親切だけれど 全ての緑の子供たちは君を切望する  全ての青白く灰色の星は君を通して輝く 君の身体は透明な君の心の獲物になり果てる 全ての青い幽霊は君を探し求める 全ての青白く灰色の星は君を通して輝く

A Benediction(全訳) http://www.winterpills.com/lyrics#winterpills

誌的な美しさがあり、内省的な感情を歌いあげているようです。
ただ、難解さもあり、感情移入や共感をすることは容易ではないでしょう。

事実、インタビューにおいても本作を含む初期の作品は誰かの癒しになるものではなく、他の表現では表しにくいものごとに声を与えるために曲を書いていると明言されています。

しかし、続いての曲Laughtingは誰が耳にしても内容を理解できるのではないでしょうか。

僕は君を失い始めていた 誰でも知ってることを君が僕に話すようになったころから 僕は緊迫へ落ちた バックミラーは君を映していたけど 円は溝の中で回っている 僕は知っていた全ての場所に戻る 僕は激しくノックするけど家には誰もいない なんでみんな鮮やかな色を僕に見せるのか 血を流して灰色になりたい? そして、君が笑ってるのはもう聞こえない 君が笑っているのは聞こえない 

Laughing(抄訳) http://www.winterpills.com/lyrics#winterpills

恋人の心が離れていくのを感じている心理を表しているようです。

今度はとても物語っぽい話です。

君の監房からこのホテルが見えるかい? よく眠れているかい? 飯はまずくないかい?  知らせを聞いてから数か月が経った 君のスピーチが録音されてる唯一のテープは 不明瞭で良く聞こえない 君のために娑婆のニュースを用意してある まず、誰もが隠れることに対して盲目的になった 古臭いアーケード街は連れていかれちまった ますます日々は監獄みたいになりつつある 監獄にいる友への手紙 監視員は深夜のキスを許さない 連中はこれを送ってるのが僕だって知らない このタルトの中には焼かれたファイルがある だけど、これは君の心の監獄の閂を開け放つことはない 君は全てを告白する必要はなかった 高価な断片にしがみ付いてもよかった 僕をいまだ揺り動かさない罪のね 僕は思う 君は裏切られたたった一人の人間だ  監獄にいる友への手紙 何かしてほしいことがあるなら 待ってるよ 何か頼みたいことがあるなら 待ってるよ 何にもないなら 静かな微笑みの上を歩こう 僕はこの試練によって傷ついている  監獄にいる友への手紙。  監獄にいる友への手紙

Letter to a Friend In Jail(全訳) http://www.winterpills.com/lyrics#winterpills

「監獄にいる友人へ手紙を書く」という分かりやすいストーリーを骨組みにしつつ、詩的な表現で内省的な感情を表現しています。

どの曲もシンプルに何かが解決したり否定されたりするわけではない、心に余韻を残すような言葉が記されています。

(2nd)The Light Divides

アルバムの魅力

物憂い雰囲気はそのままですが全体的にビートを刻む力がやや強まり、ゆったりとしつつも躍動感を含んだ展開が印象的です。

内省的で知性的、淡く浮かんでは消えていく繊細な感傷、そして優雅なメランコリーがアルバム全体を通して紡がれています。

そっと囁く男女混成ボーカル、
優しく胸を打つアコースティックギターのストロークやアルペジオの旋律、
柔らかに起伏する楽曲に色を添えるエレクトリックギター、
繊細な楽器を寄り添うようにベースやドラムス。
そのいずれも淡く濡れたようなしとやかさな質感を豊かに含んでいます。
そして、常に物憂さと軽やかさを併せ持ち、時にはエモーショナルに盛り上がることもあります。

前作よりも含まれる感情の総量が上がっているように感じます。
育ちの良さは変わりませんが、憂鬱の重たさも無邪気な祝福も唸りを上げる感情の迫力もギアが一段階上がっています。

曇天立ち込める静けさの中、雨粒に揺れる水たまりの奥底では様々な感情が渦を巻いている。
そんなイメージでしょうか。

物憂さの内側に潜むエネルギーの蠢動が魅惑的なアルバムです。

歌詞の世界

引き続き、本作の歌詞の世界を少しだけ覗いてみましょう。

まずは一曲目のLay Your Heartbreakから。

壊れた身体を横たえるんだ 張り裂けるような思いを横たえるんだ 全て変わりゆくだろう 全て間違ってる 間違っている人々が愛されている 間違った人が死にかかってる 間違った人がいつも主導権を握る 今日、彼女から何か聞いたかい? 君なら僕のことをとても良い気分にできる ここにきて泣いてくれるなら 君は僕のことをとても良い気分にできる ここにきて泣いてくれるなら 君は僕のことをとても良い気分にできる 彼女は決して治療を受けないかもしれない 彼女はずっとそうしてきた 彼女は孤独というよりもむしろ純粋ではないのだ 壊れた身体を横たえるんだ 張り裂ける様な思いを横たえるんだ 言語が石みたいに眠っている規範のなかに全てがある  君なら僕のことをとても良い気分にできる ここにきて泣いてくれるなら 君は僕のことをとても良い気分にできる ここにきて泣いてくれるなら 君は僕のことをとても良い気分にできる 

Lay Your Heartbreak (全訳) http://www.winterpills.com/lyrics#the-light-divides

非常に難解ですが、個人的には女性に対して手を伸ばしている歌のように感じられます。(そして、おそらくはその手に彼女を掴むことはない)


続いてはすれ違いを描いていると思われる曲です。

僕は境界線を越えていく そして僕の者にならない顔に会う 長い長い夜を超えて 僕たちがみんな繁栄できる場所を探すために 全ての脆きものが生き延びる場所 世の夢を生きることができる場所 ほの暗い青い光の中で彼女は戦いを諦めた彼の目を見る 手は僕の者を見つける 痕跡は僕の脊髄の上で答える 悪性から良性まで 真夜中に 松の匂い 歩け、歩くんだ。今までの人生で最も長く 歩け、歩くんだ 雪の中へと 生死の危機 彼女の良い友達が死んだなんて知らなかった 黒光のチョークで描かれた 彼女の足首は花々の茎に結び付けられている 僕たちは話し合える場所が必要だ ただ話し合える場所が必要だ 僕たちのハンカチのなかで どちらもぼくたちのハンカチのなかで  僕たちのハンカチのなかで どちらもぼくたちのハンカチのなかで  歩け、歩くんだ 雪の中へと

handkerchiefs (全訳) http://www.winterpills.com/lyrics#the-light-divides

困難さの象徴と思われる「雪原の中へ歩くこと」への意思と同時に「ハンカチの中」という温かい場所での話し合いが必要とされています。

最後に、孤独を歌っているような曲です。

世界は僕から遠ざかる 世界は遠ざかる 言葉 身代金 世界は僕から遠ざかる 世界は遠ざかる 言葉 身代金 君が生まれた日 全ての取りはトウモロコシから飛び去った そして空は灰色になった。その夜、君は家を出た。ひび割れがドームに現れた そして一日中雨が降った こうやって君が世界の終わりになるだろう こうやって君は世界の終わりになるだろう

A Ransom(抄訳) http://www.winterpills.com/lyrics#the-light-divides

僕から遠ざかる「世界」と君が「世界」の終わりになる。その関係性が気になるところです。

(3rd)Central Chambers

アルバムの魅力

前作の薄暗い雰囲気が消え去り、フォーキーでソフトながらも風通しの良い空気感に変わっています。

ピアノやシンセなど多彩な楽器が存在感を見せるようにしつつも、研ぎ澄まされ抑制された美を感じさせる曲調が印象的です。
繊細ながらも軽やかに跳ねる男女混成ボーカルの旋律、
エレクトリックギターのエモーショナルな響き、
アコースティックギターの心地よい手触りを感じさせる響き、
優しいステップのように踊るリズムセクション。

穏やかで木目調の温もりを感じさせる質感へと変化しています。
その一方で静謐な疾走感をふわりと漂わせる曲も存在しており、曲のバリエーションは豊かになっていると言えるでしょう。
そして、Winterpills特有の気品が要石となって、アルバム全体の調和がとれています。

決してきらきらとしたポジティブさに満ちているわけではありませんが、視線が下を向いている感じもしません。
もちろん繊細さもそのまま、詩的な内省性もそのまま。

しかし、アクセルペダルを少しだけ強めに踏み込んでいるようなエネルギーが、そっと脈打っています。

繊細ながら、それでいて毅然としたパワーを感じさせるアルバムです。

歌詞の世界

音の作風が変わるに伴って、歌詞のほんの僅かですが、前向きなエネルギーを発散するようになっています。

では、まずはTake Away The Wordsから。

全てから言葉を奪い去れ 言葉を奪い去れ 全てから言葉を奪い去れ 言葉を奪い去れ 柔らかな上昇のための言葉を捨てろ 雪と風へと言葉を捨てろ 僕が言及するのを忘れた言葉を捨てろ つまり、この全て語られていないかもしれない 全てから名前を奪い取れ 全てから奪い取れ この部屋の壁の名前を捨てろ 安全な家族への軌跡を捨てろ この花の色の名前を捨てろ つまり、この全て語られていないかもしれない  柔らかな上昇のための言葉を捨てろ 雪と風へと言葉を捨てろ 僕が言及するのを忘れた言葉を捨てろ つまり、これらは全て語られていないかもしれない

Take Away The Words(全訳) http://www.winterpills.com/lyrics#central-chambers

希望に満ちている、と解釈するのは難しいかもしれません。
しかし、力強いエネルギーが込められているのは明白です。

続いてはGentleman Farmerを。

僕は平野を超えて歩いた 雨の降りそうな野原に出て 石で出来た豊かな土壌があって 少なくともある程度の汚れを受け入れてくれそうだ この白色人種の骨をね 僕は分かってもらっちゃいけない 君に分かってもらっちゃいけない 僕は君に何も分かってもらっちゃいけない 僕は紳士農夫なんだ 三人の子供が生まれた 一人だけが生き残って 残りは死んだ 僕たちはみんな警告されていた 僕は小屋の外へ落ちた 僕の馬を死者の土地へと捨てろ  僕は分かってもらっちゃいけない 君に分かってもらっちゃいけない 僕は君に何も分かってもらっちゃいけない 僕は紳士農夫なんだ

Gentleman Farmer(全訳) http://www.winterpills.com/lyrics#central-chambers

こちらはやや暗めですね。
ただ、「困難な人生を受け入れた」たという事実は、それだけでも勇敢で力強いことではないでしょうか。

続いて、What Makes Me Blind?です。

この土地を通って僕を導いてくれ 見えない手よ 夏が僕を分割したとき 夏が僕を分割したとき 君は痛みの子供を産まされるだろう 君の新しい心臓は責められないだろう 夏が君を分割した時 夏が君を分割したとき 何が僕を盲目にするのか 何が視野を作るのか 何が僕を盲目にするのか 何が視野を作るのか

What Makes Me Blind?(抄訳)http://www.winterpills.com/lyrics#central-chambers

盲目にする/視野を作るという破滅/創造がコインの表裏となる関係を構築しています。

少しだけ前向きな空気を出している点において、興味深い変化であると言えるでしょう。

(4th)All My Lovely Goners

アルバムの魅力

抑制された情緒的な美しさはそのままに、祝福的な風味が感じられるようになりました。

エモーショナルなウェットは後ろに下がり、静謐ながらもカントリーなドライさの気配が色濃くなっています。

もちろん、育ちの良い耳触りは変わりありません。
優雅で軽やかな主旋律を奏でる男女のボーカル、
こっそり微笑む様に跳ねるアコースティックギターのストローク、
優雅で開放的なエレクトリックギターのアルペジオ、
ソフトながらも芯のあるリズムセクション。
Slow Core/Sad Core(スロウコア/サッドコア)的な物憂さは消失し、シンプルでオーガニックな乾いた空気にさっと入れ替わっています。

それゆえ、センチメンタルな曲も沈み込む様な感じにはならず、感傷を受け流しながら微笑んでいるような凛とした美しさを湛えています。
独りぼっちで見つめる荒野の夕暮れのような、そんなイメージでしょうか。

様々な意味において非常に「乾いている」作品だと言えるでしょう。

歌詞の世界

例のごとく歌詞を読んでみましょう。

まずはWe Turned Awayです。

僕達は世界を見つけるために目覚めた 僕たちの口は真珠がいっぱい詰め込まれて、僕たちの手は解かれている 僕たちの言葉は見つかっていない そして僕たちの心臓は新たに脈打つ 僕たちの友達は皆古くて真実で、全てのライムグリーンの葉 全ての見出された露滴 そして、僕たちは日々の数を感じる墓から見上げる そして、僕達が知った瞳 そして、僕達が知った瞳 そして やっぱり僕たちは君に背を向けた やっぱり僕たちは立ち去った

We Turned Away(全訳) http://www.winterpills.com/lyrics#all-my-lovely-goners

世界を見つけるために解き放たれた状態で目覚めた「僕」には、まだ見つかっていない「言葉」がある。
そして、古くて真実でもある友達を見捨てて立ち去ります。

明らかに何処かに向かって突き進む展開になっています。

続いてAmazing Skyです。

僕たちは君を引きずり下ろした 僕たちは君を降ろした 素晴らしい空の下へ 素晴らしい空の下へ 僕たちは緑の大地に君を寝かせた 素晴らしい空の下の 素晴らしい空の下の 誰が教えたかい? 誰が教えたかい? 君が何者なのか君に教えた者がいるかい? 孤独に鼓動し 石のように重く 素晴らしい空の下へ 素晴らしい空の下へ 満足したかい? 満足したかい? 素晴らしい空の下で 素晴らしい空の下で  誰が教えたかい? 誰が教えたかい? 君が何者なのか君に教えた者がいるかい?

Amazing Sky(全訳) http://www.winterpills.com/lyrics#all-my-lovely-goners

解釈の難しい歌ですね。ただ、「君が何者なのか教えない者」から「君」を「素晴らしい空(Amazing Sky)」のもとへと引きずりおろしています。

おそらく、いつわりの天空から地に足の着いた世界へと「君」を連れ戻した歌という理解で良いのではないでしょうか。

再び解釈の難しいFeather Blueです。

激流を漕いで 無力感を感じて ゆっくり櫂を引く 行かねばならない時を知った時 僕は瞬間に捕らわれた 僕は知らない言葉を言おうとしていた カーテンの下のキャンドルは輝かなかった 描き上げて叩いて落す 僕の親愛なるプライベートな瞳 僕の中は疑問でいっぱいだったけど タイがなかったんだ 僕は全ての車の車輪の下にいた 全てのバーの壁に手を挙げながら 青に羽根飾りをつけろ 僕の名前を呼んでくれるかい? 新しいままでいてくれ 僕の焔になってくれ

Feather Blue(抄訳) http://www.winterpills.com/lyrics#all-my-lovely-goners

「激流」や「カーテン」は困難の比喩であり、「キャンドル」などは歓喜の比喩とみるべきでしょう。

結局を困難を打破できないままの状態であるとみることができます。

そんな状況ですがるようにして「青に羽根飾りをつけろ 僕の名前を呼んでくれるかい? 新しいままでいてくれ 僕の焔になってくれ」と告げています。

この「青 blue」なるものが、心織れずに進んでいくための希望になっています。
「青 blue」とは何なのでしょうか。個人的には「ブルースblues」と解釈したいところですが……。


ちょっと飛躍しているでしょうか。

(5th) Echolalia

アルバムの魅力

本作はカバーアルバムです。

ラインナップはNick DrakeからBuddly Holy、果てはBeckや Sharon Van Ettenまで様々です。

ただ、Winterpillsらしいインディーポップらしさは首尾一貫として通底しており、オリジナル作品と変わらぬ魅力を放っています。

Winterpillsらしい上品な雰囲気は変わらず魅力的ですが、アルバム全体を自然体でからっとしたノスタルジーが覆っています。

ビートもしっかり効いており、快晴の下で繰り広げられるおとぎ話のような、或いは曲によってはすごく日常的な空気感を描いています。
今までよりも力強い旋律を歌う男女混成ボーカル、
乾いたアコースティックギターの音色、
土の匂いを感じさせるなエレクトリックギター響き、
ベースの骨太なベースラインにドラムスの芯の固いビート。

祝福というおおげさな言葉ではなく、些細な幸福とでもいうべき優しさが穏やかな風が宿っているアルバムです。

(6th)Love Songs

アルバムの魅力

Slow Core/Sad Core(スロウコア/サッドコア)からさらに遠ざかり、深淵かつオーガニックな雰囲気を体現しています。

インディーポップらしい繊細さを保ちながらもジャムバンドを想起させるほどの軽やかなアーシーさが匂い立っているのが特徴です。
ほんのりとですが、ゴスペルやブルースの気配も漂っているのも見逃せません。

ソフトながらもソウルフルに絡み合う男女のボーカル、
土の匂いを感じさせるスライドギターやハーモニカの音色、
華奢ながらも疾走感を感じさせるリズムセクション。
優しさを源流とする澄み切った響きを保ちながらも、大地の力強さや豊穣を感じさせるサウンドへと変貌を遂げています。

かといって必要以上に祝福的になるわけではなく、苦みの気配も常に感じられます。
また、過度にドラマティックで壮大になるわけでもなく、家庭的でミニマルな空気感が常に揺蕩っています。
文学的でアメリカ南部的と言うのが最も端的な表現かもしれません。

大冒険を生き残って帰ってきた仲間たちが大自然に立てた小さな小屋のような、愛おしい時間が流れています。

ありふれた笑顔と日常、時折痛む古傷、そんな幻想を卓越した感性によって創造しているアルバムです。

歌詞の世界

では、一曲目のincunabulaから見ていきましょう。

僕を 僕の眠りの影に隠してくれ 僕を 僕の 僕の目の影に隠してくれ ヘイ、ヘイ、ヘイ その日の影に隠れろ でも、僕はずっと真実なんだよ 僕はずっと真実なんだよ だからずっと真実なんだよ 日は破壊する 空は落ちる 炎は至るところに 誰も電話をしたことがない 雲は流れゆく 心臓は脈打つ 何も、あるいは決して 死んだ者は誰もいない 愛の中ではとても孤独だ 愛の中ではとても孤独だ 愛の中ではとても孤独だ とても長い愛 とても長い愛 だけど僕たちの荒廃を置き去りに

Incunabula(全訳) http://www.winterpills.com/lyrics#love-songs

「僕」と「世界」との軋轢を感じさせます。
とくに「愛の中ではとても孤独だ」というフレーズが重要な意味を持つように思います。

歌詞で描かれる荒廃した「世界」は「愛の中の孤独」を描いたものなのかもしれません。

彼等の顔はどれも退屈で 消えかかっていて ブルースが全部洗い流してくれて ピクセル化した 彼等がセレナーデを捧げられてるという証明など存在しない でも、僕は君にカメラを向け続けるよ 僕は君にカメラを向け続けるよ 君の光を凍らせる 夢にまで見た星明りのモーテルから引きずり出された 壊れたハンドルとレンズ それからローマ風のキャンドルで埋め尽くされた段ボール箱  でも、僕は君にカメラを向け続けるよ 僕は君にカメラを向け続けるよ 君の光を凍らせる  僕は君の罪の賞賛を永遠に愛し続ける 煙たい迷路に隠された 全ての道は下へ 全ての道は下へ  でも、僕は君にカメラを向け続けるよ 僕は君にカメラを向け続けるよ 君の光を凍らせる

Freeze Your Light(全訳) http://www.winterpills.com/lyrics#love-songs

無情な世界に打ちのめされた「君」と、カメラを向け続けその光を凍らせる「僕」の関係性を、退廃的な世界を舞台に描いています。

そして、最後にHe Grew a Wallを。

そして、風は嘘をついた 君は空に欺かれた 太陽は君の電話を拒絶し 月はその全てを否定する 君は壁を育てた 僕は君のことをほとんど知らない 君のホールの外にある音階で6日間眠った 高音までは届かなかった 君の堀を横切って泳げるコップをなくしたに過ぎない 君は壁を育てた 動けなかった 喋れなかった 聞こえるのは時計の音と消防士の足音だけ でも、タイプライターには届かない 君は壁を育てた 君は壁を育てた 

He Grew a Wall(全訳) http://www.winterpills.com/lyrics#love-songs

世界に欺かれ続けた君が「壁を育て」続け、しかも君の声は外には届かない。

とても有り触れた、世界中のどこにもあるような悲劇を歌っています。
そして、誰からも見向きもされない悲劇を。

結びに代えて Winterpillsの魅力

キミ、ボク、セカイ(スロウコア)

Winterpillsの歌詞は「君」「僕」「(荒廃した)世界」を描くものが少なくないのが特徴です。
いわゆる「セカイ系」にも通じると言い換えることもできるでしょう。

ある意味では日本人にもなじみ深い感覚を、Winterpillsはアメリカ的でスロウコアなメランコリーに乗せて囁いています。
ソフトに歌われる、詩情に満ちた感傷とゆるやかに充満していく苦悩。
胸に染み入るような、エモーショナルな旋律。

しかし、彼等が影響を受けたと公言しているElliot Smithのような、刹那的で破滅的な疾走感も感じられます。
切れ味鋭く、ぐさりと刺さるような苦味。
救いの光が見えない、暗黒度の高い叙情性。
アメリカ的な文学性とも言えるでしょう。

何にせよ、Winterpillsは物憂い感情を詰め込んで、ゆっくり進んでいく列車のようなものでしょう。
時に立ち止まり、考え、悩み、引き返し、もう一度進む。
そして、ほんの少しだけ成長してもう一度進む。

彼等の音楽には、そんな強さが、きっと込められていると思うのです。




それでは。

主要参考サイト

http://www.winterpills.com/ https://winterpillsmusic.bandcamp.com/
Coffee with Winterpills: Ten years of playing soft songs LOUD
https://www.ondarock.it/interviews/winterpills.htm

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