こんにちは。
Warp Recordsは1989年にイギリスのシェフィールドで設立されたインディペンデント・レコードレーベルです。

テクノ/IDM/ベースミュージックといったジャンルを主にリリースしていますが、ロックなどもカバーしています。
30年に渡って名だたるアーティストを輩出し続けており、超名門レーベルと言っても過言ではないでしょう。
本記事は、
- 私が個人的に好きな名盤たちを、
- ざっくり年代別に、それからジャンル・音の雰囲気でふんわり区分けして、
カタログ的に並べることを目的にしています。
素敵なWarp Recordsの世界を旅する一助となれたら嬉しいです。
Warp Recordsの名盤を年代別に振り返る
年代については、下記の3つにざっくり分けています。
- 前半期(Bleep期~IDM初期~IDM隆盛期)(1989年頃~2000年頃)
- 中盤期(多彩化)(2000年頃~2010年頃)
- 現代近く期(さらに多彩化)(2010年頃~2020年頃)
と、こんな感じです。
さらに年代ごとに、私の個人的な感覚でふんわりと区分けをしています。
1.前半期(Bleep期~IDM初期~IDM隆盛期)(1989年頃~2000年頃)
1-(1)Bleep期(1989年頃)
レーベル創設者たちはWarpの立ち上げ目的を「ブラッドフォードやリーズ、シェフィールド周辺のクラブやレイヴ、ベッドルームスタジオで生まれた一連のテクノ」(いわゆるブリープ《Bleep》)を世に広く広げることにあったと後に振り返っています。
ブリープは、発信音(Bleep)のようなシンセとロウなベースラインを特徴としています。
1980年代終盤に上記地域で誕生したジャンルであり、一時ではありますがブリティッシュ・ダンスミュージックを席巻することになりました。
LFO/Frequencies
Warp Records最初期のヒット作と言えるでしょう。
SF的なシンセとディープでグルーヴィなベースが印象的です。シンプルで隙が無く、レトロながらも洗練されたダンスミュージックに仕上がっています。
また、ミニマルなビートが生み出す緊張感と純粋無垢なサウンドも本作の魅力の根源を成しており、陶酔的に跳ね回るビートの裏ではヒリヒリするような衝動がちらついています。
真っ直ぐなエネルギーが感じられるテクノサウンドだと個人的には思います。
Nightmare On Wax/ A Word Of Science
ヒップホップ的な軽快さをブリープの象徴とも言えるヘヴィーなベースと高らかなシンセに上手く混ぜ合わせ、ドープなテクノサウンドを燻し出しています。
Nightmare On Waxは後にはさらにヒップホップやダブに寄っていきますが、本作は軸がダンスミュージックに寄っています。
Sweet Exorcist/Clonk’s Coming
チープに響くブリープサウンドを軸にしつつも、人間的なグルーヴがしばしば顔を出すのがSweet Exorcistの個性でしょう。
SF的というよりも密林的という表現が的確です。肉体的な躍動感やサウンドテクスチャーが、ドラムマシーンのアナログビートからじわじわと炙り出されています。
妖しく儀式めいた陶酔感が、淡々と通り過ぎていくようなアルバムです。
1-(2)IDM化初期(1990年頃~1995年頃)
1991年の夏頃になると、ブリープのブームは下火になっていきます。
方向性のかじを大きく切るべくWarp Recordsはエレクトロニックミュージックの<ホームリスニング>というコンセプトを打ち出し、Artificial Intelligence――いわゆるAI――という作品群をリリースします。
クラブで踊るための音楽とは異質のサウンドはIDM(インテリジェント・ダンスミュージック)と呼ばれるようになりました。
そして、それ以降、「IDM的な」アルバムが多くリリースされるようになります。
90年代初期の作品は、後の作品ほどヴィヴィッドに個性的な印象はなく、言葉通りのホームリスニング・テクノという印象を個人的には受けます。
Polygon Window/Surfing On Sine Waves
Warp Records最大級の鬼才Aphex Twinの別名義Polygon Windowによる名盤です。
後の作品にも通じる無垢で突飛なテクスチャーを魅力的に表現しつつも、シンプルでテクノ的な陶酔感も内に隠しています。
穏やかな空気感から一転して突如不穏になったりと、調律が微かにずれているような正気の歪みがビートの節々から濛々と溢れ出ているのも個性でしょう。
なお、学生時代に工事現場でバイトしたときの騒音がインスピレーションになっているとのこと。
Autechre/Incunabula
こちらもWarp Recordsの看板役者とも言うべきAutchreのデビュー作です。
奇抜なビートはまさしくAutechreですが、後の作品に比べるとスムースでメロディアスになっているのが印象的と言えるでしょう。
全体を通して抑制的で、金属質でひやりとした耳触りになっています。
SF的で不穏な空気感の中で澄んだシンセがふわふわと漂い、複雑ながらも軽やかなビートが揺らめいています。やや複雑な曲展開も印象的で、聴き手を飽きさせない意表性を含んでいます。
音数も少なくシンプルな響きになっていますが、ディープな音世界を構成しているアルバムです。
Black Dog Productions/Bytes
Black Dog,Plaidと名前とメンバーを変えつつも長くWarpに貢献している面々の移籍作です。
シンプルでテクノ的な陶酔感の奥底から荘厳さが煙りのように棚引いています。
ロウなシンセやビートが優美に時を刻み、深淵を感じさせる音響空間が広がっていきます。
デトロイト・テクノ、ジャズ、ヒップホップ等の影響を自然に取り込み、自然体ながらも多彩な展開を披露しています。
穏やかながらも表情豊かなのが特徴で、馥郁とした響きを楽しむことができます。
1-(3)IDM隆盛期(1995年頃~2000年頃)
90年代も後半になるころからWarpのIDM勢力は個性を発達させた面々の層が厚くなり、ディープで独創的な名盤たちを世に送り出しています。
Aphex Twin/Richard D. James Album
この時期のAphex Twinの作品を言葉で表現するのは非常に難しいと感じます。
子どもみたいに純粋無垢で、真っ直ぐで、時に悪ふざけをして、時に残虐で。
メロディアスな旋律に促され、ころころと変わる情緒を追いかけているような感覚になります。
ポップなメロディラインはそこはかとなくノスタルジックで、
常軌を逸するほど高速にプログラミングされたドラムスは美しく波打ち、
心象世界のダンジョンに潜り込んでいるような感覚を楽しめます。
全編を通してどことなく「普通」からずれているようなテクスチャーを帯びていますが、だからこそふと見せる真っ直ぐな純粋さがあまりにも美しい名盤です。
Squarepusher/Hard Normal Daddy
Warp Recordsの看板役所Squarepusherの移籍後第一作です。
自身の手によるバカテクベース、高速プログラミングドラムスによるドリルンベース型ぶっ壊れビート、ジャジーでアシッドなメロディライン、一分の隙もない突き抜けた快作です。
後の作品のような深淵さも匂わせてはいるものの、本作は何かを突き破ろうとする真っ直ぐなエネルギーが深い魅力となっています。
タガが外れたような疾走感、衝動。
それを支えるぶっ飛んだビート。
ヒリヒリした焦燥感のような熱量が渦巻いている名盤だと思います。
Boards of Canada/Music Has The Right To Children
Boards of CanadaもWarp Recordsの看板と言っても差し支えないでしょう。
浮遊感を帯びた気だるいシンセとダウナーで心地の良いビートが混ざり合いながら、ゆったりとした白昼夢的でチルなサウンドを形成しています。
エレクトロニカのように心地よい揺らぎ、
その節々から滲み出る実験精神、
響きやビートの美しさをストイックに追求するかのような透徹さが感じられ、夢幻的でありながら冷泉のような澄みやかさを形成しています。
微睡むようなアンニュイさと抑制されたサイケデリックさを兼ね備えている、稀有な作品と言えるでしょう。
Autechre/Confield
2001年発の本作はAutechreの複雑怪奇な一面を良く表している作品といえるでしょう。
アグレッシブによじれるビートと不穏な響きのシンセが人外的に融合し、抑制された金属質なサウンドの下では滾るようなエネルギーが沸々と蠢いています。
異形的で予想しづらい曲展開が続くなかで乱れ打たれるアットランダムなビートが時間の感覚を奪い去り、いつまでも続くような不穏でトリッピー没入感を聴き手に与えます。
攻撃的で、ディストピア的で、ディープでアンダーグラウンドな名盤です。
Plaid/Double Figure
Black Dog Productions3名のうち2名によるユニットPlaidのアルバムです。
SF的なテクスチャーとポップでメロディアスな響きを併せ持ち、軽やかにトラックが進んでいきます。
トリッピーで不穏ではありますが、優美で心地よい響きも絶えず放っています。
金属質でありながら生き物めいたうねり方をする軽快なビートと美しい音色のシンセが混ざり合い、高い完成度のIDM/エレクトロニカサウンドを構成しています。
鬼才というよりも、誰もが目を見張る才気あふれる秀才と言えるでしょう。
2.中盤期(多彩化)(2000年頃~2010年頃)
2000年代でも今までWarp Recordsの看板を背負ってきた面々は素晴らしい活躍を遂げていますが、いわゆるテクノ以外のアーティストも幅広くリリースされるようになります。
本記事では分野別に追ってみます。
2-(1)IDM・電子音楽勢
以前のWarpの流れを汲んでいるアーティストも多数輩出されています。まずはこちらから見ていきましょう。
(以前から所属していた面々も素晴らしい作品をリリースしていますが、本記事では新たな顔ぶれにピックアップします)
Clark/Turning Dragon
先達の影響を感じさせながらも、自分のスタイルを確立させているClarkによる作品です。
アラスターグレイの小説『ラナーク』にインスピレーションを受けたという本作は、
- アグレッシブな4つ打ちとその周辺で奇々怪々によじれるビート
- 異様に振りまかれるウワモノと突飛な展開
を特徴としており、激しい攻撃性の裏で内省的で繊細な狂気を吐き出しています。
かといって人を突き放したところはなく、聴きやすいポップさも程よく感じさせます。
『ラナーク』には主人公と一夜を共にした女性が精神的な鬱屈が原因で竜になってしまう――Turning Dragon――場面があったと記憶しています。
本作には、大切な誰か・何かが異形へと変貌していくようときに感じる畏怖と悲嘆を凄絶に表現しているように感じます。
蠢く狂気と繊細な内省性を音楽へと変換した、素晴らしい名盤だと思います。
個人的には、一番思い入れがあります。
Bibio/Ambivalence Avenue
BibioはWarpのノスタルジックサウンド枠、と呼べるかもしれません。
本作Ambivalenve Avenueは移籍第一作であるせいか、以前のアルバムよりもビートが強めになっています。
ピアノやギターによるブリティッシュ・フォークな雰囲気を醸し出し、ヒップホップやIDMの影響を感じさせる打ち込みのビートが素朴で心地よい響きを創り出してくれます。
そして、何より時折姿を見せるボーカルの、味わい深くも美しいメロディに心を打たれます。
郷愁や幻想をふわりと漂わせている、エレクトロニカ/フォークトロニカサウンドの金字塔だと個人的には思います。
Jackson and His Computer Band/Smash
退廃的ながらもどこか艶っぽく、そして力強いサウンドが印象的です。
クリックハウス的なきめ細やかさを見せる一方で不良的な危うさを匂わせダイナミックにビートを展開することもあり、多彩な手札を惜しみなく披露してくれます。
ダークでミステリアスなムードを絶えずまとい、突飛に蠢くビートが陶酔的な高揚感を与えてくれます。
妖しいエンターテイナーに踊らされているような気分にしてくれるアルバムです。
2-(2)エクスペリメンタル・ヒップホップ(2000年頃~2010年頃)
この頃からインディー的・実験的なヒップホップのリリースの存在感が目立つようになります。
Prefuse73/One Word Extinguisher
サンプリングされた人の声を刻んで再生する手法ボーカル・チョップを世に広めた本人の手による、見事なチョップが楽しめる名盤です。
IDM的で金属質なテクスチャーとヒップホップ的なグルーヴの融合が個性的なビート感を醸成しており、スタッカートが効いた重すぎず軽すぎずの自然体なサウンドを奏でています。
そして、時折細かくエディットされたラップ・ボーカル・声が振りまかれ、アブストラクトなアクセントとなっては消えていきます。
Prefuse73を通してヒップホップ+エレクトロニカという評され方がされているようですが、その表現には少なくとも一理はあるように思います。
Antipop Consortium/Arrythmia
アンダーグラウンドなヒップホップの、ゾクゾクするような魅力を感じる作品です。
時に抽象的に、時にコミカルに、時に熱量全開でビートを叩きつけ、さらにはオペラ歌手の導入やストリングスのサンプリングを行うなど先の読めないトラックが印象的です。
そして、滑らかでスキルフルなラップがトラックに魂を入れ、煙たい魂を注ぎ込んでいきます。
IDM的な硬質さを匂わせつつも、アブストラクトなドープさが軸となっていると言えるでしょう。
2-(3)ロックバンド(2005年頃~2010年頃)
SeefeelやBroadcastなどの例外は存在しますが、2005年頃からロックバンドのリリースが増えてくるようになります。
当時、隆盛を極めていたロックンロール・リバイバルを横目に見てのことだったのかもしれません。
Maximo Park/A Certain Trigger
ロックンロール・リバイバルど真ん中のサウンドが繰り広げられています。
粗削りでガチャガチャしたガレージサウンドとキャッチーなメロディがぶつかり合って若々しく突進していく様は、言い訳のしようがないユースフル・ロックンロールです。
伸びしろだらけなのが結果的に魅力となるのがロックンロールの良いところであり、本作はそんな瑞々しい魅力に満ち満ちています。
!!!(chik chik chik)/Myth Takes
人力のダンサブル・ビートを基盤に、ジャングルで踊り狂っているようなプリミティブで熱量の高いサウンドを奏でています。
徹頭徹尾アッパーな展開を支えるのは、ファンク的なギター・ベースと4つ打ち多用のドラムスです。そこに情熱的なボーカルが加わって、汗の滴るような大迫力ダンスグルーヴを叩き出しています。
バンドというところが肝心なのかもしれません。肉体的な躍動感や脈打つようなテクスチャーは人間由来のビートに起因しているように思います。
そこにほんのり儀式めいた妖しさが加わり、本能に突き刺さる様なグルーヴが完成しています。
Battles/Mirrored
ポストロック・マスロックの金字塔ともいえるBattlesの名盤です。
切れ味鋭いギターリフと奇抜に展開するヘヴィ級のリズム、ハードコア的なアンダーグラウンドとよじれたポップネスを縒り合わせ、力任せにぶちまけたような高濃度のエネルギーが渦を巻いています。
先鋭的で実験的精神を目一杯抱えている割にはとっつきにくさはなく、ロック的で吠え猛るような衝動が絶えず吹き抜けているのが非常に魅力的です。
ヒリヒリした熱量を失わぬまま、複雑怪奇な道路を駆け抜けているようなアルバムです。
3.現代近く期(さらに多彩化)(2010年頃~2020年頃)
この時期以降、ベースミュージック的なもの全般において、ジャンルがという区分が一際あいまいになっていきます。
特徴ごとに分類をするべきか迷いましたが、参考程度に、あくまでも私の観点から見た分類(図書館の分類程度にお考えいただければと)をしてみました。
では、見ていきましょう。
3-(1)ビートミュージックっぽい人たち
2010年頃に世界同時多発的に発生した新進気鋭のビートメイカーたちのなかでも、LAの領袖のFlying Lotusとグラスゴー組が中心になっています。
Flying Lotus/Cosmogramma
宇宙の匂いとレコードの匂い、
タメの効いたアブストラクトなビートとドープなベース、
軽やかにうねり回る煙たいサウンドは、くすんだ神秘をチカチカと放っています。
一定のテンポで進み続ける一方で予想外の音色が次から次へと現れ、アンダーグラウンドな万華鏡がキラキラと回り続けているようなディープでトリッピーな華やかさがあります。
SF的でありながらスピリチュアルさも感じ、覗き込んだ先には深い深淵があるかのような印象を覚えます。
Hudson Mohawke/Butter
目が覚めるようなきらびやかさとドープなビートが化学反応を起こし、ポップながらも深みのある高揚感を作り出している名盤です。
鮮やかにきらめくシンセと軽やかながらも独特の間で乱打されるビートが絶えず絡み合い、突き抜けるような解放感とゾクゾクするような危うさを絶妙のバランスで構築しています。
デビュー作らしい瑞々しさも相まって、目まぐるしく展開していくトラックたちからは心湧き立たせる魅力が香りたっています。
Rustie/Glass Swords
ネオンのようにキラキラと耀き、真っ直ぐな高揚感を放っている作品です。
高らかに響く無垢なシンセ・ギターと表情豊かなビートが多幸的な陶酔感へと聴き手を導いていきます。胸を打ち抜く瑞々しくエモーショナルな旋律が響くこともあり、甘酸っぱい若々しさが魅力的です。
心のままに駆け回っている純粋な人々を見ているような気持になり、一緒に走り出したくなるようなような気持にもなる音楽だと思います。
3-(2)ポスト・ダブステップっぽい人たち
非常にざっくりいうと、ダブステップ(三連符や間を多用するベースミュージック)を一人で聞けるような落ち着いた雰囲気にした音楽をおおむね指します。
身も蓋もない言ってしまえば、本記事の文脈においてはJames Blakeをイメージするのが良いかもしれません。
Mount Kimbie/Cold Spring Fault Less Youth
ダウナーでソウルフル、寂静とした色気を感じさせる作品です。
生楽器を多用するがゆえの体温感と「間」の魅力を生かしたサウンドを展開しています。
シンセやギターが生み出すけだるい透明感、
アンニュイなベースが紡ぐ薄氷のような低音、
生ドラムスと打ち込みを使い分ける不穏なビート。
そして、ボーカルが作品が持つ人間味を強めています。
影を帯びた陶酔感を漂わせ、物憂く冷ややかなテクスチャーの奥で時折火照るような熱が蠢動しています。侘び寂びの美が持つハッとするような艶やかさが魅力的と言えるでしょう。
Darkstar/News From Nowhere
幻想的で陶酔的、
アンニュイな艶やかさで、
ずぶずぶと沈み込むような桃源郷を創り上げています。
そっと紡がれる線の細いボーカル、
夢幻のように揺らめくシンセ、
囁くように細やかなビート、
ひたすらにゆったりと心地よい柔和なサウンドですがトリッピーで危うい雰囲気も秘めています。
さらにはブリティッシュポップ的なテイストが奥底に眠っているのは本作の奥行きを広げています。
芯の強さとほんのりとした瀟洒さがあり、だからこそとろけるようなドリーミーサウンドの美しさもまた際立っているといえるでしょう。
本作はNorthなどの従前の作品から大きく変化していわゆるポスト・ダブステップからは離れた作品になっていますが、独創的な色彩を放つアルバムです。
3-(3)先鋭的・アヴァンギャルドな傾向が特に強い人たち
Oneohtrix Point Never/Garden of Delete
圧倒的に先鋭的なセンスであらゆる音楽をコラージュ・スクリューし、
そこから深淵な響きが立ち上り、
異形ながらも神々しいポップネスを創造されています。
とにかく鬼才と言わざるを得ないでしょう。
アンビエント、エレクトロニカ、ロック、ノイズ等々様々な要素を持ち寄ってきますが、それはあくまでも素材。影響を受けている感じではありません。
サウンドがどんなに人外魔境的な捩れ方をしているときでも、不穏で荘厳な透明感があります。
静謐なときの深淵な雰囲気にも凄みがあり、アグレッシブにうねるときの迫力は鬼気迫るものがあります。
名盤、という言葉さえ陳腐に感じられるような独創性の極致にある作品です。
Yves Tumor/Safe In The Hands Of Love
アンニュイで奇抜、
生々しくて耽美、
エモーショナルで先鋭的、
ディープでダークでサウンドが力強く蠢いています。
多彩なアプローチの源はトリップホップ、インダストリアル、ロック、ノイズあたりになるのでしょうか。のたうつようなビートと内面の感情を吐き捨てるようなボーカルを軸に、ダウナーながらも力強いサウンドが響きます。
沈み込み溶けていくような感覚と、そこから這い上がって咆哮するような感覚が混ざり合っているのが本作の魅力でしょう。
Kelly Moran/Ultraviolet
プリペアドピアノの美しい響きと、伸びやかに透き通る電子音。
ポスト・クラシカルとの近接性もありますが、先鋭的な響きを追求している点において本作は明確に異なるといえるでしょう。
時にゆったりと音色を静寂に溶かし、
時に音階を複雑に滑る旋律を奏でることもあり、
アンビエントな質感を保ちつつも多彩で繊細な表情を見せてくれます。
また、少しずつ熱を持って盛り上がるときもあり、冷たく澄んだ夢心地を長く楽しませてくれます。他の作品ではなかなか体験しにくい感覚ではないでしょうか。
3-(4)ラップ・R&Bっぽい人たち
Kelela/Take Me Apart
エレクトリックミュージックとR&Bが混ざり合った本作は、両者のスムースさと温度感が融合しているように感じます。
カテゴリーの話をするのが無意味に思えるくらい様々な自然に要素が溶け込んでおり、滑らかな質感が優美に流れていきます。
そして、それらがキャッチーな響きへと収束されている点に彼女の凄みがあるのかもしれません。
荘厳ながらも蠱惑的な息遣いを感じさせる歌が、彼女の魅力を成しているように感じます。
Danny Brown/Atrocity Exhibition
実験的な雰囲気を漂わせながらも、ダークな人間味を放っているヒップホップ・アルバムです。
縦横無尽かつ動き回る奇抜なフロウ、
変幻自在に姿を変え、仄暗い衝動を感じさせるトラック、
異様な魅力がぶつかり合い、バイオレンスで異形なサウンドを創り出しています。
繊細な内省性がかすかに匂っており、それが本作の狂気をより強めているのかもしれません。
3-(5)ロック的な人たち
Lonelady/Hinterland
ポスト・パンクのソリッドでヒリヒリする熱量を、優美な気品とともに表現している作品です。
必要最低限の構成要素から成る、痩身で精悍なスタイルが特徴でしょう。
言葉を投げつけるように歌う女性ボーカル、
素朴でミニマルなエレクトリックギター・シンセ、
抑制されたファンクネスを奏でるベースとドラムマシーン。
平坦だからこそ燻しだされる独特のグルーヴは味わい深く、派手さがないからこそスリリングです。
そして、ふんわりと優雅さが漂っているのも独自の個性になっています。
クールなカッコよさが香り立つアルバムだと思います。
The Hundred In The Hands/The Hundred In The Hands
多感でアンニュイなポップサウンド、というのが本作の魅力でしょう。
エレクトリック・ディスコで多幸的なビート、
ポストパンクのシンプルなソリッドさ、
その両者が並び歩き、ほんのり憂鬱で、だけどしたたかな強さも感じさせるサウンドを形成しています。
文学的で繊細ではあるのですが、柔な印象は受けません。
詩情に満ちてこそいるものの、芯は強い音楽です。
Warp Recordsの(私的)名盤を、ざっくり年代順に振り返る:主要参考サイト等
https://jp.ra.co/features/3563
https://jp.ra.co/features/2371
http://www.ele-king.net/interviews/006591/
https://tower.jp/item/1840096/Smash
https://clubberia.com/ja/artists/2161-Prefuse-73/
https://tower.jp/article/interview/2002/04/11/100038005
https://clubberia.com/ja/artists/3704-Mount-Kimbie/
https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/15433
http://www.ele-king.net/review/album/002716/
https://en.wikipedia.org/wiki/Take_Me_Apart
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=2881
http://www.ele-king.net/review/album/006549/
https://www.hmv.co.jp/artist_Lonelady_000000000370334/item_Hinterland_6216824
https://tower.jp/article/interview/2010/10/01/70237
Turning Dragon国内盤のライナーノーツ
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