こんにちは。
This Will Destroy Youは2005年にテキサスで結成されたインストゥルメンタル・ロックバンドです。

ジャンルとしてはポストロックにカテゴライズするのが一般的でしょう。
いわゆる轟音系と呼ばれるタイプになるかもしれませんが、エレクトロニカ的な柔らかで艶やかな質感を備えているところに彼等の個性があるように思います。
2021年2月現在、This Will Destroy Youは7枚のフルアルバムをリリースしています。
(Young Mountainをナンバリングするかは意見が分かれるようですが、本記事においては含めています)
本記事ではその全てを語ります。
This Will Destroy Youのアルバムについて。
これから各アルバムを順番に見ていきますが、文字だけでは分かりにくいと思って相関図を作ってみました。

では、本題に入りましょう。
(1st)Young Mountain
前史:リリースされるまで
This Will Destroy Youは二人のギタリスト Jeremy GalindoとChris Kingの出会いによって始まりました。
当時はティーンエイジャーだった二人は映画などの共通の話題があったため仲良くなり、数年後にはGalindoが組んでいたThis Will Destroy Youの前身バンドにChris Kingは加入することになります。
Galindoはその過程を「ほとんどロマンスのようだ」と振り返ってみたり、「私たちの間には音楽的にも感情的にも強い繋がりがある」と言ってみたりしています。
二人のギタリストの関係がThis Will Destroy Youの軸にはあるのかもしれません。
その後、二人はThis Will Destroy Youの初期メンバーとバンドを結成するのですが、当初は意外にもRadioheadのような音楽をやっていたようです。しかし、レコーディングしたものを聴いてみると「ひどい」ものだったらしく、彼等はインストゥルメンタルへと方向転換します。
そして、それが功を奏したのでしょう。
デモ作品としてCD-Rで販売したYoung Mountainは予想外の反響を引き起こし、Magic Bullet Recordsと契約をするに至ります。
アルバムの魅力
最もシンプルで、抜けるような開放感に満ちたアルバムです。
叙情的な静けさと、高らかに鳴り響く轟音。
その緩急を使い分け、メランコリックなダイナミズムを描き出しています。
ゆったりと、優雅に、儚く。
それでいて、光の雨のように降り注ぐ轟音からは力強さが感じられます。
美しいアルペジオと感傷的なノイズを巧みに使い分けるエレクトリックギター、
柔らかで艶やかなテクスチャーを添えるエレピや電子音、
しなやかなドラムスとベース。
叙情的なテクスチャーの上で「静」「動」を切り替えさせ、カタルシスをもたらす手法を徹底的に用いています。
その過程に無駄が一切ないのが本作の特徴と言えるでしょう。
絡め手を使わずに「これが一番良いじゃん!」と感じた音を掻き鳴らしているような、若々しい純粋さが何とも魅力的です。
渦巻く感情を全開にしているような初期衝動とは違い、ふわっと身体が軽くなるような感じとでも言えばいいのでしょうか。
完成度では後の作品に劣るかもしれませんが、それを補ってなお余りある無垢さが本作にはあります。
(2nd)This Will Destroy You
前史:アルバムの魅力
本作This Will Destroy Youのレコーディングはバンドにとって苦しいものであったようです。
学業や仕事のためにメンバーは別々の町で生活しており、会うことさえままならなかったとのこと。その過程は「闘い」だったとChrisも振り返っています。
さらに試練は重なります。彼等は65daysofstaticらとのツアーを敢行しますが、Galindoがクローン病にかかり、途中ですべての日程をキャンセルせざるを得なくなってしまいます。
華々しいスタートから一転、バンドの未来には暗雲が垂れ込めていました。
そんな苦闘の果てに生み出されたのが、本作This Will Destroy Youです。
アルバムの魅力
これぞThis Will Destroy Youとも言うべき王道作品ではないでしょうか。
ゆったりと澄みやかな静謐なパートからエモーショナルな轟音へと一気になだれ込み、胸を打つ叙情的なカタルシスを響かせています。
手数も豊富になり、感情の濃度も上がり、轟音ポストロックの一つの極致とも言うべき鮮やかな魅力を放つ作品です。
バイオリン奏法やアルペジオ、轟音を穏やかに使い分けるギター、
随所で顔を出す柔らかな電子音、
伸びやかなビートを生み出すドラムスとベース。
ノスタルジックな響きと澄み渡るような純粋さを併せ持ち、胸を打つ青春文学のような透明度とほんのわずかな痛みを感じさせるサウンドを展開しています。
そして、「動」に突入したときも特筆すべきでしょう。
This Will Destroy Youらしい純粋な艶やかさを保ったまま、聴き手を引き込む音の洪水を解き放っています。
音色にも深い叙情性がたっぷり詰まっており、轟音文学とでも呼ぶべき繊細な物語性が感じられます。
儚くナイーブで、だからこそ力強い意思を奥底に秘めているような。
優しい情感を湛えた、たおやかな轟音ポストロックを楽しめる作品です。
(3rd)Tunnel Blanket
前史:リリースされるまで
前作リリース後、結成当初のメンバーであるベーシストとドラマーがそれぞれ自身のキャリアと音楽性の違いを理由に脱退し、新しいメンバーに入れ替わっています。
その一方でLymbyc SystymとスプリットアルバムField StudiesやEP作品Moving on the Edges of Thingsをリリースするなど精力的に活動をしていたようです。
しかし、This Will Destroy Youには引き続き困難が降りかかっていたようです。なんでも、メンバー全員が友人、家族、ペットなどの死を経験していたんだとか。
その重たい雰囲気を纏ったまま制作されたのが3rdアルバムにあたるTunnel Blanketです。
アルバムの魅力
- やや物憂い空気感
- アンエント的で複雑濃密なサウンドスケープ
を特徴としているのが本作Tunnel Blanketです。
エレクトリックギターを軸に据えて澄みやかで純粋な轟音サウンドを展開していた過去のアルバムとは毛色が大きくことなります。
張りつめた叙情性と濃霧のようなドローン・アンビエントサウンドを中心にして、時折ダークな轟音サウンドを濛々と燻しています。
フィードバックやディレイを多用する、繊細で淡いエレクトリックギター、
ひっそりとした荘厳さを添えるストリングスやオルガン、
スロウに蠢き、神聖さとダウナーさを沸々と漂わせるリズムセクション。
各楽器はそれぞれの個性を際立たせるというよりも溶け合うように折り重なり、幽玄にたなびく音色は静寂に踏み入るようにじわりと広がっていきます。
ゆったりと伸びては消えていく静謐なドローンサウンドからは、心の深い傷やその浄化のような悲しみを感じさせます。
アルバムを構成する楽曲には寄り添うな柔らかさがあり、神々しさと物憂さ(時に希望も)を情景喚起的な叙情性を伴って広がっていきます。
過去2作はThis will Destroy Youの個性をそのままぶつけているような作品でしたが、本作はThis Will Destroy Youの奏でる物語とも言うべきでしょう。
一歩引いてはいますが、巧みな語り口でダークながらも力強い物語を紡いでいるような。
「変化球の作品」という言葉では片づけきれない、沈み込むような迫力があります。
(4th)Another Language
前史:リリースされるまで
前作からの本作までの間で重要なことの一つに、ライブアルバムであるLive in Reykjavikのリリースが挙げられるでしょう。
また、バンドのクルーに薬物中毒者がいるなどの困難な状況から脱したあとでレコーディングを始めている点も重要かもしれません。
Galindoは、Chrisと自分が新たなチャプターに足を踏み入れたと考えていたそうです。「自分たちが一緒に成し、創造してきたもの全てに新発見の誇りを見出している」「出来る限り良い人間・良いミュージシャンへと互いに高め合おうとしている」と状態になったと語っています。
暗雲垂れ込める状況から脱してリリースされたのが、Another Languageです。
アルバムの魅力
1stや2ndのようなメランコリックな轟音ギターサウンドに回帰すると同時に、3rdの複雑なサウンドスケープを残り香のように纏っている作品です。
濃霧のように柔らかな幻想性を帯びつつも、冷泉のような清澄さを兼ね備えています。
伸びやかな解放感に満ちているわけではありませんが、前作ほど物憂いわけでもありません。
夜空の月を見上げるような、影を含みつつも幽玄なサウンドスケープを展開しています。
繊細で、柔らかで、それでいて確固たる芯の強さも感じさせます。
叙情性に濡れた音色たちが溶け合いながら、荘厳なハーモニーを奏でているのも魅力的です。
多種多様の凛然とした響きを生み出すエレクトリックギター、
神秘的な雰囲気を醸し出すシンセ、
控えめながらも時に存在感を放ち、堅固な骨組みとなるリズムセクション。
ギターが炸裂する轟音パートも感情のままに掻き鳴らすというよりも丁寧に絵画を描いているような緻密さがあり、メランコリックな質感がサウンドの奥深くまで浸透しているような印象を受けます。
密やかで、触れたら壊れてしまいそうで、儚いほどにエモーショナル。
本作はそんな魅力を備えたアルバムです。
(5th)New Others Part One
前史:リリースされるまで
前作リリース後、再びベーシストとドラマーが入れ替わっています。
ギターの二人だけは変わらないということは、ティーンエイジャーからの幼馴染である彼等の絆が確固たるものなのかを逆説的に証明しているのかもしれません。
この時期に二人は話し合ってオンラインでの売り上げの25パーセントをアメリカ自由人権協会に寄付を始めているようです(現在も行っているかは不明)。
前作リリース時のポジティブな空気を引き続き纏っていたのかもしれません。
アルバムの魅力
今までのメランコリックな轟音サウンドはそのままに、ビートの存在感が強まっているのが特徴でしょう。
過去作の柔らかな霧めいた質感は保っていますが、ゆったりとしつつも躍動感を感じさせる楽曲が印象的になっています。
幻想的な詩情と血の通った温もりを併せ持つ、優しい響きがアルバムに通底しています。
澄んだドローンや叙情的なアルペジオを紡ぐエレクトリックギター、
霧に溶け込むような柔らかなシンセ、
包容力のある低音を囁くベース、
一歩引いたところで力強く全体を支えるドラムス。
儚く、荘厳で、エモーショナル。胸を打つ小説のような深いストーリー性を感じさせる展開が続いています。
穏やかなパートは、いわゆるエレクトロニカ的な面だけでなくアンビエント/テックハウス的な面が顔を出すこともあり、静謐な陶酔感を覚える場面も珍しくありません。
そして、盛り上がる場面はその一方で非常にシンプルで優しい迫力を秘めています。
脈打つ鼓動のようなビートと、神々しい轟音ギター。
慈愛に満ちたノイズが高らかに響き渡る様な、祝祭的なユーフォリアに通じる魅力があります。
「穏やかな神々しさ」というThis Will Destroy youらしい雰囲気を残しつつも「静」「動」の切り替えがハッキリしており、アルバムの物語性をより深いものにしています。
神々しいながらも人間の息吹が感じられるアルバムです。
(6th)New Others Part Two
前史:リリースされるまで
前作リリース後、一か月も経たないうちにバンドのインスタグラムにニューアルバムの制作をほのめかすような投稿がされます。
そして、それから数時間後にサプライズ的に本作New Others Part Twoがリリースされました。
アルバムの魅力
ビート感を強めるという前作の路線をさらに推し進められており、エネルギッシュな迫力を感じられるようになっています。
その一方でエレクトロニカ的/音響的な奥行きの深い叙情性もさらに純化されており、滾る様な激情の周りを柔らかな慈しみが覆っているという印象を受けます。
繊細で、胸を打つメランコリーがあって。
それでいて芯の太さを感じさせる温かみも持ち合わせて。
幻想的な雰囲気は相変わらずですが、「神々しい」というよりも「妖精的」とも換言できるような、もっと人々に寄り添った近しい幻想性を個人的には感じます。
美しいアルペジオや浮遊感のあるエフェクティブなサウンドを響かせるギター、
伸びやかに上下するベースライン、
力強く突き進むドラムス。
前作以上に緩急がしっかりしており、エモーショナルな轟音パートと幽玄な静謐パートの対比が際立っています。
連作となる前作ほど陶酔的な感じはせず、どちらかというと地に足の着いた質実剛健とした迫力を感じます。
いわゆる轟音サウンドのアルバムかもしれませんが、This Will Destroy Youのエレクトロニカ的側面が本作に独特の暖かさを与えています。
儚い美しさの中に人間らしさが脈打っているアルバムです。
(7th)Vespertine
前史:リリースされるまで
前作リリース後、コンピレーション作であるEP Variations & Raritiesがリリースされています。
そして、本作VespertineはLAにある同名レストランのBGMとして制作されたものです。
アルバムの魅力
轟音ギターは一切なし、
ビートも一切抜き、
完全アンビエント/ドローンサウンドの異色作です。
しかし、そのサウンドにはThis Will Destroy Youらしさが詰まっています。
ディレイやリバーブのかかった繊細なギターサウンドを中心にした、暖かくも荘厳なサウンドスケープが広がっています。
EntranceやDining Roomなどレストランの場所が名付けられた曲は、Vespertineでの食事を通して遭遇する出来事をイメージして作られているそうです。
仄かに揺蕩うバイオリン奏法やアルペジオを奏でるエレクトリックギター、
慈しみのようなフィードバックノイズ、
慰撫するような優しい余韻が揺らめいては続き、やがてそっと消え落ちていき、そして次の曲が始まっていきます。
良い意味で実験的な雰囲気はなく、暖かい響きが波のように引いては返していくような印象を受けます。
レストランのサウンドトラックというコンセプト・アルバムではありますが、退屈さとは無縁です。
むしろ、そのストーリー性がアルバムを穏やかな旅路へと仕立ててくれます。
個人的にはThis Will Destroy Youで最も好きなアルバムです。
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