こんにちは。
The Dylan Groupは90年代半ばにニューヨークで結成されたインストゥルメンタル音楽集団です。

ジャンルとしてはポストロックになるでしょう。
後にMice Paradeを結成するドラムスのAdam Pierceと後にMice Paradeに加入するヴィブラフォン奏者Dylan Cristyをキーパーソンとしていました。
ビブラフォンの澄んだ音色、Adam Pierceらによる力強いドラムス、時折顔を見せるダブ的な(深くエコーのかかった)音響が特徴としています。
The Dylan Groupは2020年6月現在、3枚のフルアルバムをリリースしています。
本記事ではその全てを語ります。
The Dylan Groupの全アルバムについて
これから全てのアルバムを順番に見ていきます。
ただ、文字だけでは分かりにくいと思い、各アルバムの相関図を作成してみました。

では、アルバムごとに見ていきましょう。
【1st】It’s All About (Rimshots & Faulty Wiring)
HiMとのスピリットアルバムをリリースした後、単独名義としてのデビュー作として世に出たのが本作It’s All About (Rimshots & Faulty Wiring)です。
深淵的でミステリアスに揺らめくヴィブラフォンと緩急をつけたドラムスが絡み合うのが、本作の特徴です。
ムーディーなシンセ、じわじわとした熱量を持つベースライン、実験的なノイズなどが脇を支え、抑揚を抑えたクールな曲調が続きます。
その一方で、溶け合う数多の響きの奥底では、熱いエネルギーが対流しています。
ジャマイカ音楽やブラジル音楽からの影響を感じられます(「イパネマの娘」のカバーも収録されています)。
しかし、両者のような感情の発露はなく、インディー音楽的な内省性を結い上げるように音響空間へ放っていきます。
響きへの探求心は感じられますが、いわゆるポストロック的な緊張感はそれほど強烈ではありません。
ダブ的な加工やジャズ由来の知性的な遊び心なども混ざり合い、複雑多様な香りを醸成しています。
文学的な聡明さを備えつつも本作には良くも悪くも統一感がなく、次に何が起こるか分からないハラハラ感が楽しいです。
本作には分かりやすいポップネスや抒情性/物語性があるわけではありません。
しかし、数多の音が構成する奥行きのある全体像には、鮮明で芳醇な世界で広がっています。
【2nd】 More Adventures In Lying Down
前作よりもラテン的な情熱性と叙情性を増しているのが、本作More Adventures In Lying Downの特徴です。
ヴィブラフォンの旋律が人を惹きつける叙情性を深め、奥底で眠る熱量がやや表面に近づいています。
ただし、ジャマイカやブラジルからの影響を引き続き感じさせつつも、サウンド面においてはポストロックバンドへと近づいています。
澄んだ響きで跳ね回るヴィブラフォンやマリンバ、
時に静謐に、時にエッジを効かせ、時に情熱的にうなりを上げるドラムス、
ぼやけた音色のシンセ、
哀愁と郷愁を響かせる管楽器、
ゆったりとビートを積み重ねるベース。
秘めた熱量は上がりつつ、インディー的な内省性も精度を上げています。
探求的な精神を強く感じさせつつ、人間的なしなやかさを備えているのが特徴でしょう。
ゆったりとした人肌程度のスピード感のうえで、クールかつ情熱的なサウンドはひそやかに波打っては過ぎ去っていきます。
また、時折顔を出すダビーなサウンドもノスタルジックな色彩を帯びており、蜃気楼めいた過去の一幕を感じさせてくれます。
もちろん実験的かつ多様なサウンドは本作において健在です。
ただ、身を委ねたくなる体温感があるのが本作の特徴かもしれません。
【3rd】 Ur-Klang Search
バンドとしてもっとも完成されているのが本作Ur-Klang Search でしょう。
ポストロック的な緊張感を漂わせ、ゆったりとしたテンポ感の中に不可思議な響きを絶えずに漂わせています。
強いて言えば、Toritoseを想起させるMogwaiやExplosions in the Sky以前のポストロックのイメージを美しく具現化したサウンドということになるのでしょうか。
ただ、彼等の特徴であるブラジル/ジャマイカ音楽の影響は、隠し味として随所で魅力的な存在感を放っています。
多様なサウンドをミニマルに響かせ、不思議な透明感のある響きを醸成しています。
美しく叙情的に響いては溶けていくヴィブラフォンとマリンバ、
シンプルで心地よい旋律を繰り返すピアノやギター、
ゆったりとした音の中に冒険的な響きを滲ませるベースライン、
穏やかな鼓動となって楽曲を鳴動させるドラムス、
そして、楽曲に奥行きのある空間を与えるダブ的な加工。
人間的な体温を感じさせつつも過剰にノスタルジックな感じはなく、有機的な響きの美しさに力点が置かれています。
探求的/実験的な精神を貫きつつも、バンド史上最も澄んだ響きを醸成していると言って良いでしょう。
その一方で情熱的なエネルギーも変わらず楽曲の中で揺蕩っています。
見事な統一感のもと、躍動的で美しい響きを描き切った作品と言えるでしょう。
結びに代えて The Dylan Groupの魅力について
ムーブメントという神棚
ポストロックという語が持つ多義性がよく表れているバンドだと感じました。
ポストロックの「インテリア化」に寄与したと評されることもある彼等ですが、ブラジル音楽やジャマイカ音楽を取り込んだスタイルなどを見ていると、そこまでの言い方をしてしまうのは酷であるように感じます。
Slow Core/Sad Core(スロウコア/サッドコア)と同じように同じ時代の空気感を吸って育ったために同じような特徴を持ったというだけの話で、中心地であるシカゴではなくニューヨークにいたためにムーブメントという神棚の中心に備えられることがなかっただけなのではないでしょうか。
それでは。
主要参考文献・サイト
主要参考文献
主要参考サイト
https://www.allmusic.com/artist/the-dylan-group-mn0000142855/discography
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