Temporary Residence Limitedの歴史をざっくり振り返る。~MONOやExplosions in The Skyだけじゃない数多の名盤とともに~



こんにちは。

Temporary Residence LimitedはSonnaのメンバーでもあったJeremy DeVineが創設したインディーレーベルです。

https://geo-media.beatport.com/image/89890b87-abee-4c46-acba-0497539ab952.jpg

有名なアーティストとしてはExplosions in The Sky,MONO,Pinbackあたりになるのでしょうか。

リリースされている作品はポストロック的なサウンドが主流です。
とりわけ轟音系のポストロックがメインになっており、バースト/轟音系インディーミュージックの一大拠点とも言えるかもしれません。


また、近年ではポスト・クラシカル/エレクトロニカ/インディーロック的な作品も増加しており、 個性豊かなラインナップが形成されつつあります。

本記事の目的 Temporary Residence Limitedの歴史と、おすすめしたい名盤の数々を紹介すること

本記事の目的

本記事は、

  1. Temporary Residence Limitedの歴史をざっくり振り返りつつ、
  2. Temporary Residence Limitedに興味を持っている人が音源に触れていく一助となること

を目的としています。

本記事における時代区分

本記事ではCDでのリリースが主流になった2000年頃から歴史を辿っていきます。

そのうえで、時代区分を下記の2点に分けています。

  • Temporary Residence Limited少年期/確立期(2000年頃~2010年頃)
  • Temporary Residence Limited青年期/拡大期(2010年頃~2020年頃)

この時代区分ごとに、さらに音楽の特徴に応じて分類しています。

具体的には下記のような感じです。

このジャンル分けは既存のジャンル区分とは異なる面もあるかもしれませんが、あくまでも私の観点から見たものとご理解いただければと存じます。

僕は多くの人にTemporary Residence Limitedの音楽を聴いてもらいたいと思っています。
そのためには、まずは分かりやすくカテゴライズすることが重要だと考えています。
本棚が空っぽで、床に本が散らばっていて。そんな図書館には誰も足を運ばないと思うのです。


では、Temporary Residence Limitedの歴史を振り返ってみましょう。

Temporary Residence Limited少年期/確立期(2000年頃~2010年頃) ~Explosions in The SkyやMONOといった王道サウンドの登場/私的なおすすめ名盤とともに~

この時期のTemporary Residence Limitedは、激情的なアンダーグラウンドサウンドが主流になっています。

ぎらぎらした若々しさや疾走感、尖りまくったエモーショナルさといったTemporary Residence Limitedの代名詞の目白押しです。

荒々しく、不安定で、繊細で、ロマンティックで、苦悩して。
この時期のTemporary Residece Limitedの音楽を総体的に見ると、少年的な感性を感じます。


また、いわゆるポストロック的な方法論に則ったアーティストの比率が高いのもこの時期の特徴でしょう。

なお、この時期は下記のように分類しています。

  • 轟音・バースト型ポストロック(叙情的/激情的)
  • 轟音・バースト型ポストロック(サイケデリック/実験的)
  • 情感的マスロック
  • 原初的ポストロック
  • アンビエント/エレクトロニカ/ポスト・クラシカル


では、順番に見ていきましょう。


轟音・バースト型ポストロック(叙情的/激情的)

Temporary Residence Limitedの看板と言っても良いサウンドでしょう。
「静」「動」の切り替えという基本構造が、胸を打つ叙情性と激しいギターサウンドによって構成されています。


Explosions In The Sky/The Earth Is Not Cold Dead Place

Temporary Residence Limitedの代表格とも言えるExplosions In The Skyの代表作と言えるでしょう。

きらめく透明感とまばゆい希望が圧倒的な光輝となって降り注ぐ、あまりにも美しいアルバムです。

水晶のように澄んだ音色を奏でるギターアルペジオ、
草原をかけるようにのびやかなドラムス。
瑞々しくも文学的な物語性を感じさせる「静」に軸足に置きつつも、希望の象徴のようなバーストが聴き手を一気にカタルシスへと引き上げます。

ライブの最後を飾ることが多いThe Only Moment We Were Aloneを筆頭に、凛然としたポストロックサウンドを展開しています。

初めて希望を掴んだ少年の、歓喜に震える手のひらに握られた一粒の輝き。
そんな美しさを感じさせる音楽がここにはあります。


MONO/You Are There

MONOもまたTemporary Residence Limitedを代表するバンドでしょう。

「静」「動」ダイナミズムと日本的な幽玄さを組み合わせた、凄絶なまでに叙情的な音楽を奏でます。

特に本作You Are Thereは最もMONOらしい一枚です。
降り積もる吹雪のように冷冽な旋律と夜の雪山で燃え上がる劫火のような轟音が強烈な対比を成し、深淵の世界へ引き込みます。

深い詩情を紡ぐギターアルペジオ、
時に囁き、時に呻く様なベース、
生々しい感情の爆発のようなドラムス、
そして、混然一体となって吐き出される幽玄なノイズ。

その全てが美しく、重苦しく、吹き荒れる激情となって真夜中の白銀世界を描き出します。

Jeremy DeVineは本作You Are Thereを『ブラック・サバスのようにヘヴィなんじゃなくて、ヴェートーヴェンのようにヘヴィなんだ』と評していましたが、これ以上的確な表現はないと思います。


Maserati/Inventions For The New Season

Maseratiは「静」「動」の切り替えというよりも、激情や熱量のアクセルの踏み込み加減によって緩急をつけていくタイプです。
そして、いかなる時もアクセルは強めに踏み込まれています。

熱量が控えめな時でもその煮えたぎるような勢いは強烈で、ディレイをかけられたギターから湯気が立ち昇る錯覚さえ感じてしまいます。
いわんやバーストするときの野性味あふれるエモーショナルさは何もかもをなぎ倒して進んでいく青臭い推進力となって、聴き手を圧倒します。

沸騰する熱量と堅実なビート感を土台として、本作は展開していきます。
ざらついた生々しさとエモさを感じさせる一対のエレクトリックギター、
うねる様なグルーヴを生み出すベース、
ミドルテンポながらも力強く叩きつけられるドラムス。
ぼろぼろになっても決して止まらない衝動的な推進力に、本作は埋め尽くされています。

不退転の決意を胸に、ぶっ壊れながらも前に進んでいくサイボークの眼差し。
本作Invention For The New Seasonはそんなアルバムだと思います。


轟音・バースト型ポストロック(サイケデリック/実験的)

こちらも広い意味での「静」「動」ベースのサウンドを展開します。
ただし、きらびやかな叙情性や激情だけではなく、妖しいサイケデリックさや実験的で複雑な展開にもアイデンティティの軸足を置いています。

Temporary Residence Limitedのディープな側面を担っていると言えるでしょう。


Tarentel/From Bone To Satellite

Temporary Residenceの経営を軌道に乗せたとJeremyに述懐させている金字塔的なアルバムです。

良い意味で洗練されていない武骨さがあり、
それと同時にポストロック的なエモーショナルさもあり、
さらにはGodspeed You! Black Emperorを思わせる長尺で複雑な構成をしています。


ただ、GY!BEの諸作が映画のサンプリングやバイオリンの導入によってアーティスティックな側面があるのに対し、本作From Bone To Satelliteはよりストレートで荒々しさがあります。

エレクトリックギターの響きを軸にしてアンビエント、ミニマル、ドローンを感じさせる実験的なサウンドスケープを中心としつつ、そこにエモ的な荒々しさが加わることにより独特のオリジナリティを生み出しています。

そして、稀に見せるディストーションギターの大爆発が、一番の見どころでしょう。
突然大波が現れ、幾度となく覆いかぶさり、そのまま突然消えてしまうような、聴き手を引き込む吸引力と破壊力があります。

武骨、エモーショナル、シネマティック。
気付いた時には、Tarentelワールドに引き込まれていることでしょう。




Grails/Burning Off Impurities

シタールの音色を織り交ぜつつ、サイケデリックな「静」「動」ポストロックを展開しているのがGrailsによる本作の特徴です。

妖しい旋律を繰り返しながらディープでオリエンタルな空気感を形成し、沸点に少しずつ近づいていくように盛り上がり、やがて大爆発へと到達します。

ゆっくり忍び寄ってくるようなドラムス、
攻撃的なエネルギーを秘めたベース、
エネルギーが渦巻くドローンサウンド、
南アジア、中東的な音階を上下するシタール、アコースティックギター、エレクトリックギター。

抑制された熱量が放つ緊張感とその放出による開放的カタルシスが全ての土台になっています。

闇夜に蠢く蛇のような静謐さから、毒牙を剥いて咆哮するようなバーストへと変貌する様には圧倒されるでしょう。

危険であるがゆえに。攻撃的であるがゆえに。
アンバランスな魅力を存分に感じさせてくれるポストロックバンドです。


情感的マスロック

マスロックにカテゴライズされるような音楽を奏でているバンドも在籍しています。
Temporary Residence Limitedからリリースされている音源に関しては、一般的なマスロックバンドと比べて生々しさを感じさせる傾向があるように感じます。


By the End of Tonight/Fireworks On Ice

デビューアルバム(EP扱いの場合もあり)ということもあるせいか、マスロック的な鋭さと攻撃性が凝固しきっておらず、エモーショナルな感情表現が生々しく噴出しています。

ざくざくとしたギターリフ、
叩きつけるようにビートを穿つベース、
鋭角的な破壊力を秘めたドラムス。

等々の典型的マスロック的なスタイルを踏襲しているのはもちろんのこと、マグマのようにあふれ出す感情がそんな方法論を打ち砕き、もっとストレートなアンダーグラウンド・ロックサウンドが吐き出される瞬間も多くあります。

瑞々しいエモ的/インディーロック的な青い衝動となって絶えることなく溢れ出しています。

若く、激しく、無垢なアンダーグラウンドミュージック。
その衝動は、聴く者の胸に様々な感情を喚起させるはずです。



Sleeping People/Growing People

高エネルギーの衝動をぶつけるのではなく、不穏な緊張感でじりじり勝負をしていくタイプのマスロックサウンドです。

圧力高めの鋭いギターリフ、
間合いを詰めるように迫りくるベース、
ややスロウながらも力強く叩きつけられるドラムス。
ハイエナの群れ達が獲物を少しずつ追い込んでいくような、一瞬の油断も許されない迫力が絶え間なく続きます。

時に激しく、時にメロウに。
マスロック的アグレッシブサウンドが波動のような押し寄せることもあれば、叙情的な静寂を奏でることもあり。
張り詰めた空気の中で、攻撃的で多彩なサウンドを繰り出しています。

理性的で、情動的。獣のようにアグレッシブ。
ロックサウンドの持つ原初的な側面の一つを、エネルギッシュに描いています。



Bellini/Small Stones

女性ボーカルが歌っているマスロックバンドは、珍しいのではないでしょうか。

マスロック的鋭角さを持ちつつも、インディーロック的なストレートさと刺々しさを併せ持っています。

気だるくも力強いドラムス、
深く落下するように鳴らされるベース、
攻撃的にざくざくと刻まれるエレクトリックギター、
フラストレーションを叫ぶ女性ボーカル。

スティービ・アルビニによるざらついた質感が印象的で、理知的かつアグレッシブなマスロックサウンドを奏でています。
ただし、苛立ちを強烈に放つボーカルが強い存在感を放っており、そんな彼女に引っ張られるようにロック的な疾走感も醸成されています。


そんなサウンドの全てが生々しく、怒りの向こう側まで見えてしまうと錯覚しそうになります。

気だるくも破壊的な情念を歌う、アンダーグラウンド・ロックサウンドです。


原初的ポストロック

このカテゴリーのポストロックバンドはシカゴ音響派的ポストロック的な音色の複雑さを探究しつつも、透明感に満ちた複雑な響きを特徴としていません。
ハードコア的で未研磨な原石のようなサウンドを土台にしつつも、味わい深い独特の響きを追求しています。


Sonna/We Sing Loud, Sing Soft Tonight

Jeremy DeVineが所属していたSonnaのデビューアルバムです。

TristezaやThe Mercury Programのような絡み合うギターアルペジオを武器にしたメランコリックなポストロックスタイルではありますが、本作はやや粗削りで金属質な印象を受けます。

スロウコア的な暗鬱さとしなやかな力強さを兼ね備えたドラムス、
伸びやかに広がっていくベース、
ヒリヒリとした静寂の合間から顔を出すこともあれば、心地よく寄り添うこともあるツインギター。
さらに時折挟まれる、ちょっと朴訥すぎるくらいの無垢なボーカル。
洗練されきっていない粗っぽさが奏でるメランコリーは胸を打つ旋律となって顕現します。

轟音が爆発することはあまりありません。
しかし、穏やかさの中に濃密な透明感を讃えています。

派手さはありません。
しかし、一つ一つの音が、一つ一つの間が、その全てが鮮烈です。



Parlour/Octopus Off Broadway

The For CarnationやAerial MのメンバーだったTim Furnishによるバンドです。

ハードコア的で洗練されていないサウンドをベースにしつつも、ポストロック的で緩やかな響きの音色を醸成しています。

ダウンテンポなドラムスと揺蕩うようなベース、
穏やかな響きのギターコードといぶし銀のアルペジオ、
サウンドに奥行を与えるくすみを帯びたシンセサイザーの音色。
いずれのサウンドも丸みを帯びていますが、 ぶつかり合う原石を思わせる「そのまま」の魅力があります。

決して目を見張る様な透明感があるわけではなく、
決して張り詰めた緊張感があるわけでもなく、
誰もが歓喜するような胸を打つ旋律があるわけでもありません。

しかし、絶妙のバランスで引いては返すグルーヴがあります。
各楽器は有機的に絡まり合い、朴訥なやすらぎで聴き手を包むでしょう。



アンビエント/エレクトロニカ/ポスト・クラシカル

ロック的ではない音楽を奏でた作品もTemporary Residence Limitedはリリースされています。
ただ、全体的な傾向として、ポストロックと隣り合わせに発展を遂げてきたエレクトロニカやポスト・クラシカル的な作品が多くリリースされているように感じます。

「その他」的にまとめてしまっていますが、その個性は実に多様です。
少しだけ見てみましょう。


Eluvium/Talk Amongst the Trees

Eluviumの孤高ともいえる存在感は、Temporary Residence Limitedの歴史において注目すべき点の1つです。

基本的にはポスト・クラシカル的な質感によって楽曲を奏でつつも、どちらかと言うとアンビエントやポストロック的な精神性を描いています。

本作Talk Amongst the Treesは、Eluviumの魅力が分かりやすく現れているアンビエントな作品です。

シンセやギターのドローンサウンドを丹念に折り重ね、揺蕩わせ、荘厳で真っ白なサウンドスケープを濛々と立ち上がらせています。
その奥深さは、ジャケットアートのような濃霧を思わせます。

とにかく美しく、心地よく、静寂を紡ぐようにして柔らかなノイズが揺らいでいます。
神秘的とさえ言えるでしょう。
大きな曲展開や起伏はありませんが、だからこそ成立し得る繊細なサウンドスケープとも言えます。

神々しくもノスタルジック。
聴き手の心の奥底にすっと入り込んでいくような訴求力もあり、誰にとっても意味のある響きとなってくれる音楽だと思います。


Sybarite/Musicforafilm

電子音楽的なビートに楽器的なサウンドを載せるという意味において、極めてエレクトロニカ的な作品です。
しかし、本作Musicforafilmは近年のエレクトロニカのようなメロウさだけでなく、先鋭性/実験性を感じさせる作品です。

まず何よりも澄んだ音色とダークな空気感の対比が印象的です。
弧を描くように転がっていくビート、
伸びやかで豊潤なベースサウンド、
透き通るような音色のシンセ/エレクトロニクス、
ギターやベル、ストリングスといった楽器のエモーショナルでスリリングな響き。

素朴なメロウさが主軸ではありますが、緊張感と並走するような楽曲が続きます。

そんな危ういアビバレントさにある刹那の美学こそが本作Musicforafilmの魅力でしょう。


Caroline/Murmurs

本作MurmursはPostal ServiceやLali Punaのようなポップな歌モノエレクトロニカです。

どこか拙い雰囲気もありますが、祝福のようなまばゆさを感じます。

優しげなメロディを歌う女性ボーカル、ハープ、トランペット、ピアノ、ストリングスといった気品に満ちたサウンド、
ややスロウなテンポ感を基調として、波打つように展開する柔らかなベースとエレクトロニカビート。

光輝と透明感に満ちたサウンドスケープにメランコリーに魔法をかけて、かじかむ手を伸ばした暖炉のような温かさを創り上げています。

じっと見つめているだけで心地よくなるような、素朴な慈しみに満ちた音楽です。


Temporary Residenceの青年期/拡大期(2010年頃~2020年頃) ~MogwaiやPinbackのような大物の加入とEnvyやMy Discoのようなニューカマーの登場/私的なおすすめ名盤とともに~

Explosions In The SkyMONOといった多くのバンドの成功により、Temporary Residence Limitedの存在感はより大きくなっていきました。

それによって知名度も上がり、多くのアーティストの目に留まるようになったのかと思われます。

以前から所属していたアーティスト達も引き続き活躍していますが、アンダーグラウンドっぽさが薄まった作品もリリースされるようになります。

そんな作品の中にはMogwaiやPrefuse73といったビッグネームも含まれていました。

結果として、リリースされるアルバムの作風も多様になります。
そして、総体的に見ると、少年期/確立期よりも視界が開けたような穏やかさや聡明さが若干感じられるようになります。

自分の世界で苦悩していた少年期から、様々な物事に溢れかえる世界へ一歩足を踏み出したとも言えるかもしれません。


青年期/拡大期と言い換えることもできるでしょう。


この時期の音楽について、本記事においては下記の通り分類しています。

  • 大物アーティスト(幅広いジャンル)
  • エッジの効いたニューカマー
  • エモーショナルなポストクラシカル
  • 知性的実験音楽/アンビエント


では、見ていきましょう。



大物アーティスト(幅広いジャンル)

インディーミュージック界の大物達もTemporary Residence Limitedからアルバムをリリースしています。
ジャンルもポストロック、IDM/ヒップホップ、インディーロックと三者三様です。


Mogwai/Every Country’s Sun

轟音ポストロック界の始祖の一柱を成すグラスゴーのポストロックバンドです。
彼等のUS盤もTemporary Residence Limitedからリリースされるようになりました。


Mogwaiの影響下にあるバンドを多数抱えているTemporary Residence Limitedにとっては、自らのアイデンティティの大本とも契約を取り交わすまでに拡大したと言えるかもしれません。

重たい叙情性を感じさせる「静」のパートから混沌としつつも光を感じさせる轟音へと展開する美しさはまさしく唯一無二。
ポストロック界における「静」「動」ダイナミズムの始祖だからこそ成しうるような、複雑な感情を精緻に織り込んだ壮麗なノイズを放射していきます。

穏やかなドラムス、
寄り添うようなベース、
優美さが漂うエレクトリックギター。
美しい静寂を紡ぐ時も、轟音をうねりだす時も、気品に満ちた旋律が孤高の魅力をMogwaiに与えます。

アンダーグラウンドの混沌と気品に満ちた美しさを、高い次元で昇華させたポストロック界のボスに相応しい作品です。


Prefuse73/RIVINGTON NÃO RIO

ボーカルチョップ・スタイルを引っさげて、ワープから数多の名作をリリースしてきたスコット・ヘレンことPrefuse73もTemporary Residence Limitedからアルバムをリリースしています。

ブレイクビーツを基調としつつも、ワープ時代よりもインディーロック的なテクスチャーになっているのが本作の特徴です。

透明度がやや高めのビート、
メロウな旋律のウワモノ、
時折降り注ぐ歌声の不穏さ。
PinbackのRob Crowを始めとしたゲストボーカル達もインディーロック的な歌声を残していきます。

以前よりもさらに感受性豊かな華奢さを感じさせるビートになっており、しかし不穏な影は相変わらず感じられます。

文学的ビレイクビーツ、仄かに香る郷愁、棚引くイルな繊細さ。
カテゴライズ不可能な無定形ビートサウンドが煙たく充満したアルバムです。



Pinback/Information Retrieved

両メンバーのサイドプロジェクトのリリースは以前からありましたが、USインディーにおける鬼才ともいうべきPinbackの4thアルバムもTemporary Residence Limitedからリリースされています。

本作は過去作におけるノスタルジックで繊細なイメージを払拭とするような躍動的な曲から始まります。

細い声を高らかに張り上げるボーカル、
平坦ながらも力強さを感じさせるエレクトリックギター、
唸りを挙げるようなドラムス。
大きな起伏があるわけではありませんが常に小気味の良いステップ感があり、前進していくような力強さに満ちています。

もちろん従来のようなセンチメンタルな旋律も健在ですが、宅録的な空想感はなくしなやかな肉体性を感じさせます。

しとやかな攻撃性を秘めた魅力的なアルバムです。


エッジの効いたニューカマー

従来の轟音バンドの多く達が看板として活動を続ける一方、新たなバンド達も加わっていきます。

ただ、おそらくJeremy DeVineの判断なのでしょう。今まで所属していたバンドにはない個性の持ち主が揃っています。


Envy/Atheist’s cornea

日本が誇るポストハードコアバンドと言えるでしょう。
彼等もUS盤をTemporary Residence Limitedよりリリースしています。

その魅力は、帰れらの音楽は「激情」のイデアそのものなんじゃないかと思わせるほどの圧倒的なエモーショナルさです。

詩情的でありながら凄絶な激しさを叫ぶボーカル、
エモーショナルな激情を叩きつけるエレクトリックギター、
地の底で渦巻き猛るようなベース、
全てを燃やしつくようにビートを刻むドラムス。

生々しい咆哮のようなサウンドとカタルシスのような聖性を両立させてしまうのが、Envyの魅力でしょう。

本作は激しさがやや後ろに下がり、代わりにメロディアスな叙情性を増しています。


激情の峰々を踏破したその先にある、絶えることなく燃え続ける水晶のような美しさを感じることができるでしょう。
純粋、破滅、峻厳、高貴。
気高い魂の終わることなき戦いが、描かれています。

最果てを目指し続ける孤高の歩みが、鮮烈に胸に響きます。


My Disco/Severe

ポストパンクサウンドをポストロックスタイルで演奏した、といったところでしょうか。

ポストロック的な長尺な曲構成で、暗黒のミニマルサウンドが展開されていきます。
間を活かすようなシンプルさと鋭さを併せ持つドラムス、
どろどろに沈み込む様なベース、
シンプルでエッジの効いたエレクトリックギター、
そして控えめな存在感を添える男性ボーカル。

長延な展開を存分に生かし、煙を充満させるように真っ暗闇のサウンドスケープを焚きあげていきます。

Joy DivisionやGang of Fourのようなポストパンク的な鋭さも彼等の魅力です。
しかし、それだけでなくModern LoveやTri Angle Recordsに所属しているダーク・エレクトロニカ系にも通じるような荒涼とした幻想性も持ち合わせています。

刃物のように鋭利、煙のように妖しく、深海のように暗鬱。
その全てを兼ね備えたダウナー系トリップ・ロックバンドです。



Tangents/Stateless

ジャムバンド/ジャズ/エレクトロニカが活性化しながら融合したようなハイファイなエネルギーに満ちています。

ポスト・エブリシングと称された唯一無二の変幻自在性が本作の魅力でしょう。
抑制されたサウンドを容器としつつ、その中ではきらびやかで自由なサウンド達が舞い踊っています。

呼吸のような静けさと生命力を讃えたタイトなドラムス、
静かにスイングするベースライン、
自由でのびやかなピアノやローズピアノ、
舞い散る水晶欠のようにキラキラとしたシンセ。
即興的なフレーズを残して飛び去るチェロやギター。
危ういバランス感覚の緊張感と未来的かつ躍動感に満ちたサウンドを構築しています。

轟音的な爆発は存在せず、終始軽やかな音色が飛び交っています。
各パートが融合して生み出されるサウンドは個性的かつ魅力的で、聴き手をぐいぐい引き込むでしょう。

絶えることなく融合し続ける未来の燃料炉のような、希望に満ちたエネルギーを感じさせてくれるアルバムです。


エモーショナルなポスト・クラシカル

いわゆるポスト・クラシカルと呼ばれるアーティスト達の存在感が増えてくるのもこの時期の特徴です。
ロック的な激情のみならず、クラシック的優美さもラインナップされるようになってきたと言えます。

ただ、一般的なポスト・クラシカルに比べると美しさよりも緊張感を讃えたアーティストが多い傾向にあるようにも感じました。


Hauschka/What If

ポスト・クラシカルの源流の一人、HauschkaもUS盤をTemporary Residenceからリリースしています。

プリペアド・ピアノの使用が彼の特徴と言えるでしょう。
独特のこもり方をしたピアノの音色による、緊張感と叙情性を讃えたサウンドを奏でています。

本作においてはピアノの自動演奏プログラムも導入されています。
プログラムのスピードの限界を追求したという旋律は無機質かつ微細で、軋む様な危うさから零れ落ちる叙情性が魅力的です。


機械的な自動演奏とHauschka本人の有機的な演奏が組み合わされ、優美で孤高の世界観を創り上げています。

暗鬱な気品と荒野に残る城跡のような侘しさを身にまといながら、深い情感を静かに紡いでいます。

苦みがありつつも甘美で、暗鬱で優雅なピアノの旋律。
その魅力を楽しめるアルバムです。


Rachel Grimes/The Clearing

かつて室内楽ポストロックとも称されたRachel’sの中心人物、Rachel Grimesによるソロ作です。

本作The ClearingはRachel’s時代よりも音の厚みと空気の張り詰め方が増しているように感じられます。

空想的な色彩を帯びつつも緊張感を讃えた、艶やかな幻想世界が紡がれます。
瑞々しさと穏やかな気品を兼ね備えたピアノの旋律、
森に漂う霧のように幻想的なハープやストリングスの響き、
脈打つ生命力を放つ管楽器達。

時に潜むように、時に大胆に、緩急をつけながらもいかなるときもメロディアス。
残忍さを臓腑の底に隠しながら、壮麗なファンタジーは展開していきます。


優美で、残酷で、美しい童話世界。
逃避ではない幻想を楽しめるアルバムです。


Bruno Bavota/Get Lost

センチメンタルなピアノの旋律を特色とする、典型的なポスト・クラシカルなピアニストと言えるでしょう。

ただ、Temporary Residence Limitedよりリリースされた本作は、それ以前のアルバムと比べてエモーショナルさが増しています。
良い子っぽさがやや後ろに引き、静かな激情が前に出ているように感じられるのです。

楽曲の中心に存在しているのは、凛然としたピアノの旋律です。
その周りに添えられるストリングやアコースティックギターの音色は優しく。
荘厳な輪舞のように舞い踊る淡いエフェクトはあまりにも美しく。
込められた感情の激しさに比して、紡がれた音楽は触れたら壊れてしまいそうなほどに繊細です。

「人々は自分勝手になりつつあると思う。聞かれる必要のある誰かの言葉に耳を傾ける時間を持たない。僕達はあまり共感しないんだよ」とは彼の言葉です。
確かに本作Get Lostには押しつけがましい狭量さは感じられず、玲瓏な音色で奥行きの深いサウンドスケープを構築しています。

終始、線の細い音楽であるにも関わらず、激しい衝動を感じさせます。
そんな文学的ピアノアルバムです。



知性的実験音楽/アンビエント

このカテゴリーもTemporary Residence Limitedの多様化を象徴する一翼と言えるでしょう。
従来の激情を売りにしたサウンドだけではなく、知性を感じさせる実験的ポップネスやアンビエンスを感じさせるアルバムも多くリリースされています。


Paul De Jong/The Fucken Sucker

The Booksの一員Paul De Jongによるソロアルバムです。

The Booksの礎となった好奇心と知性に満ちた実験的ポップネスが彼の魅力です。
そして、本作The Fucken Suckerは特に激しい怒りが込められているように感じます。


ピアノ、シンセ、ギターなどの様々な音色が軽やかに跳ね回ります。
その色彩は時にセンチメンタルであり、時に情熱的でもあり、時に暗鬱でさえあります。
そのうえ、次の色彩への変化は唐突かつ優雅、万華鏡のような展開を繰り広げるのだから驚きです。

また、その下で踊るビートもジャブのような軽やかな激しさをうならせています。

そして、一番のポイントはサンプリングされているボイスでしょう。
老若男女問わず様々な声がサンプリングされていますが、直接的に怒りを吐き出しているものが非常に多いのです。


特に最終曲Breaking Upはアコースティックギターのシンプルな音色を背景に、フラストレーションを爆発させる咆哮/ポエトリーリーディングを聴くことができます。

ひねくれたカラフルさを武器にして、徹底的な怒りを表明したアルバムと言えるでしょう。


Field Works/Born in the Ear

Field WorksはStuart Hyatt自身によるフィールドレコーディングと様々なアーティストとの共演を基盤としたアンビエントなプロジェクトです。

2018年以降に多くの音源をリリースしていますが、とりわけBorn in the Earはカラフルでポップなアルバムと言えるでしょう。

Paul De Jong、Eluvium、The Album Leaf、Juana Molinaと言った個性豊かな面々と共に創られた曲の個性は実に豊かです。
ドローンなシンセ、
そよ風のように漂う叙情性、
主張しすぎないボーカルの旋律、
ささいな音へのフェチズムと知性を感じさせるサンプリング/フィールドレコーディング。

そよ風のような叙情性と澄んだ空気のような凛然さが漂い、濁りの無い感情を絶えず聴き手の心に注ぎ込みます。

極限まで拡大しないと認識できない日常の一瞬が持つ美しさを分かりやすく映し出してくれるような、マニアックな美学と肩肘張らないフランクさが同居しているアルバムだと思います。


Floating Spectrum/A Point Between

台湾出身の才女が解き放った、文学的SFメランコリーを通して心の鵜網を顕現させた素晴らしいアンビエント寄りのアルバムです。

未来的な質感のシンセが紡ぐ叙情的な旋律、
荒涼としたドローンの揺らめきが立ち昇らせるノスタルジー、
時に強い存在感を見せる引きずり込む様なビート。
孤独の深さを感じさせる、滲んだサウンドスケープを描き出しています。

ただ甘美なわけではなく、かといって決して絶望的に暗鬱なわけではなく、
心の闇とそれ以外の何かが蠢く心象世界へと聴き手を呑み込んでいきます。


誰もいない、誰の声も届かない、奥深い何処か。
深淵は広大で、こだまは果てなく飛んでいく。

足元から絡みついてくる、かすかな恐怖。

シネマティックでありながら極めてパーソナルな心の世界と向き合えるアルバムです。

結びに代えて Temporary Residence Limitedがおすすめしたレーベルである理由 バリエーションに富んだ数多の名盤

Temporary Residence Limitedの魅力は激情ポストロックサウンドです。

ただ、こうしてざっくりと時系列に沿って振り返ってみると、Temporary Residence Limitedの姿は変化しているとも感じました。

レーベル全体でみると、大物アーティストのリリースが増えたり、バリエーションが増えたり。
また、本記事では取り上げませんでしたが他レーベルのリマスター再発なども行っています。

Temporary ResidenceはJeremy DeVineが自室で始めた小さなレーベルでした。
しかし、拡大しながら少しずつその姿を変えているのです。

それはアーティストも同じで、加わる者もあれば去りゆく者もあり。
長く所属している者の作風も少しずつ変わっていきます。
Temporary Residence Limitedの姿が少しずつ変わっていくように。

少年期から青年期へと変化したTemporary Residence Limitedもやがては壮年期や老年期へと向かうことでしょう。


そして、それは僕達もまた同じです。
少しずつ変化しながら、大切な何かをリリースして生きているはずです。

その意味をよく考えたいと思いました。



それでは。

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