生まれし者は皆死ぬ、という定めを説くブッダの前世譚(ジャータカ)『スジャータ』

こんにちは。

紀元前文学その18、ブッダの前世譚ジャータカの一篇『スジャータ』です。
遅くとも紀元前150年頃には北インドにおいて物語が成立していたと考えられています。

ジャータカって何? スジャータって誰?

『スジャータ』はジャータカという説話文学にカテゴライズされる掌編作品です。
まずはジャータカについてお話します。

https://www.ibiblio.org/britishraj/img/BharahatTopeScrollwork.jpg

ジャータカの性質

『スジャータ』はジャータカという説話文学にカテゴライズされる掌編作品です。

ジャータカはブッダの前世における物語です。
ジャータカが成立した頃、ブッダ(菩薩)は何度も輪廻転生を繰り返した果てに悟りを開くような人物になったと考えられていました。
いわば『ジャータカ』は前世における活躍の瞬間を切り取った物語とも言えます。

ジャータカの成分

もっともジャータカは一から創造されたわけではなく、当時民衆の間で広まっていた説話を取り込んで成立させた物語です。
何故そんなことをしたのかというと、仏教の普及のためです。
日本の物語一寸法師に喩えるなら、皆に親しまれた一寸法師の物語を一通り語った後、

実は一寸法師はブッダの前世で、鬼は実は仏教に徒を成す外道だった!

という展開を付け加えられました。

元々民衆から愛されていた話が元になっているだけあって、物語としても面白く文学的に深い作品が多いのも特徴です。

ジャータカの構成

また、ジャータカの構成にも特徴があります。
必ず、

  1. 現在世の物語
  2. 過去世の物語
  3. 結びのお話

という展開で物語が進むのです。

また、一寸法師に喩えるなら

  1. 祇園精舎で僧達が「近頃小づちを持った鬼が人を食ってるらしい」「それはまことか」とひそひそ話し合っているとブッダが通りがかる。「お前たち、一体何の話をしているのだ?」「実はですね……」と僧が答えるとブッダは「以前にも同じようなことがあったのだ。それはだな……」
  2. (以下、一寸法師本編をブッダが語る)
  3. 話し終わると、ブッダは「その時の一寸法師が私だったのだ」と言った。

という感じでしょうか。

この作中談的な物語パターンは『イソップ物語』や『アラビアンナイト』にも影響を与えたと考えられているそうです。

『スジャータ』のあらすじ ジャータカのケーススタディとして

それでは、『スジャータ』のあらすじを見ていきましょう。

0. 『スジャータ』のあらすじ

  • ブッダ         仏教の開祖。ジャータカでは語り部でもある。
  • 地主(現在世)     父親を亡くして落ち込んでる。
  • スジャータ(過去世)  ブッダの前世(菩薩)。地主の息子
  • 地主(過去世)     スジャータの父。父親を亡くして落ち込む。

1. 現在世

父親を亡くした地主が毎日泣き叫んでいるという噂を耳にしたブッダ(釈尊)は、彼の家を訪ねます。

「父親を亡くして悲しい」と告げる地主に対してブッダは「昔にもそなたと同様に悲嘆にくれていた男がいたが、賢い息子の助けによって立ち直ったのだ」と、前世のことを語り始めます。

2. 過去世(1)悲しむ父 知恵を巡らす息子

昔、地主の家にスジャータという息子がいました。

ある時、スジャータの祖父が亡くなってしまいます。
スジャータの父は悲しみに沈み、庭に遺骨を埋めてその上に石塔を建てました。
そして、そこでずっとすすり泣き、食事もろくにとらず、仕事もしなくなってしまいました。

人が変わってしまったを心配をしたスジャータは、知恵を巡らせます。
そして、スジャータは村はずれのあぜ道で死んでいる雄牛の頭を撫でながら「ほら、草を食べろ。水を飲め」と話しかけます。

驚いた村人は当然「その雄牛は死んでるんだから何も食べないよ」とスジャータを止めます。
しかし、スジャータは耳を貸さずに牛に「食べろ、飲め」と話しかけ続けます。

3. 過去世(2)我に返る父 機知に富んだ息子

村人から報告を受けた地主は心配のあまり我に返り、雄牛に話しかけているスジャータのもとまで駆けつけます。
そして、息子を諫めるべく詩を唱えます。

草与えても 死に果てた 雄牛は決して 起きるまい。

死したるものへの 呼びかけは 虚しく愚かな 行為なり。

「スジャータ」『ジャータカ 仏陀の前世の物語』角川ソフィア文庫,p227

これに対してスジャータはウィットに富んだ詩を返します。

頭もあれば 足もある。角も尻尾も ついている。呼びかけの声 聞こえれば 雄牛は起つと 思われる。祖父の体は すでに無く 灰と骨とは 搭の下。搭のそばにて 泣き叫ぶ 父上はさらに愚かなり。

「スジャータ」『ジャータカ 仏陀の前世の物語』角川ソフィア文庫,p228

地主はこの詩を聞いて、息子は正気を失っていないことを理解しました。
そして、「生きる者は皆死ぬ」という運命を自分に受け入れさせるためにこんな真似をしたと理解しました。

そして、地主は悲しみを克服しました。

結びの話

こうしてブッダの話が終わると、現在世の地主の憂いは消えました。
そして、ブッダはそのときスジャータだったと明かされました。

『スジャータの魅力』 当時の文化の豊かさを感じさせる物語展開

一休さんのようなトンチ

やはりトンチの効いたスジャータの振舞いが魅力です。

わざと牛に草を与えたり頭を撫でて、「そんな愚かな真似はやめろ」と止めに来た父親に対して「この牛には身体はあるからきっと起きる。骨も灰も埋められてる祖父の墓で嘆いている父さんの方が変だ」と切り返します。

その理屈にはまったく検討違いな筋が通っていて、だからこそ父親がおかしなことをしている事実を浮かび上がらせます。

そして、最も重要なことですが、同時に彼は『生きる者は皆死ぬ』ことはどうしても受け入れなくてはいけないと優しく教えてくれるのです。

この民話を生み出した紀元前インドの文化の豊かさを感じさせます。

余談:『スジャータ』って、あのスジャータ?

これは余談ですが……。

コーヒーに入れる乳製品に、スジャータってありますよね。
この物語、あれと同じ名前ですよね? ちょっと気になりませんか?


名前の由来になっているスジャータ、実は別人なのです。
厳しい修行でやせ衰えたブッダにミルク粥を与えた女性の名前が「スジャーター」といいます。
名前の由来はそちらの女性だそうです。
商品にぴったりの素晴らしいネーミングですね。

ただし、「スジャータ」は男性名詞なので男性になります。
女性という意味も付与したいのであれば女性名詞の「スジャーター」が正解であるようです。

終わりに ジャータカの入口としてぴったりな『スジャータ』

いかがでしたか。

ジャータカは説話文学として非常に寓意的で面白いし、現代日本人の倫理観にも響くものが多いです。

『スジャータ』は、マイルドで現代日本人にも理解しやすいです。
入り口としてぴったりだと思います。

それでは。

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