こんにちは。
甜梅號(Sugar Plum Ferry)は1998年に台北で結成されたインストゥルメンタル・ロックバンドです。

ジャンルとしてはポストロックに分類され、自然体で風通しの良い質感が特徴です。
台湾ポストロックシーンの始祖的な存在でもあり、台湾インディーミュージック最初期を飾るバンドでもあります。
甜梅號(Sugar Plum Ferry)は2015年に解散するまでの間、4枚のフルアルバムを発表しています。
本記事ではその全てを見ていきます。
目次
甜梅號(Sugar Plum Ferry)のアルバムについて
これから全アルバムを見ていきますが文章だけでは分かりにくいと思いますので、相関図を作ってみました。

では、アルバムごとに見ていきましょう。
(1st) 是不是少了什麼(Lack of Something)
甜梅號(Sugar Plum Ferry) のなかで最も自然体の作品であると言えるでしょう。
程よくラフな質感と軽快でおおらかな曲調が印象的です。
歪んだギターなどで盛り上げるときも、一気に爆発させるのではなく川面がゆっくり上昇するように優しく隆起していきます。
もちろんポストロック的でノイジーな緊張感が強く現れることもありますが、全体としてみると穏やかな雰囲気において調和がとれています。
激しいエモさを特徴とするMONOやtoeのような日本のポストロックバンドと違い、甜梅號(Sugar Plum Ferry)は肩の力が抜けたムードがあります。
その一方で欧米のバンドにはない柔らかな情緒感は両者の共通点と言えるでしょう。
ポストロックの基本的な作法を抑えつつ、デビュー作らしい粗さを活かしつつ、独特なおおらかさを響かせています。
阿飛西雅(Aphasia)や selfkillやなど台湾のポストロックには似た特徴を持つバンドも多く、本作が台湾にもたらした影響は小さくないと思われます。
(2nd) 謝謝你提醒我(Thanks for Reminding Me)
メリハリをつけた鮮烈な展開が印象的なアルバムと言えるでしょう。
叙情的な轟音を一気に炸裂させるようなポストロック的常套句を取り入れています。
ラフでおおらかな曲調や優しく情緒的な雰囲気は変わらず基調になっていますが、多くの人に届ける求心力が高められています。
また、 前作よりも明るい雰囲気になっているのも特徴でしょう。
郷愁を感じさせる旋律も多く登場し、ノスタルジックな側面も強く現れています。
アジア的な情緒を活かすべくポストロックのソリッドな方法論を取り込んだといったところでしょうか。
人によっては冗長とも感じるであろう前作を踏まえたうえで、多くの人に届けようとしたのが本作と言えるでしょう。
(3rd) 腦海群島(Islands on the Ocean of the Mind )
本作はノスタルジックで感傷的な旋律を強く打ち出しています。
前作のように轟音のオン/オフでナイナミズムを引き起こすだけでなく、叙情的な旋律にシンセや弦楽器を重ね、力強くエモーショナルな響きによって聴き手を引き込んでいます。
曲展開のバリエーションが豊かになっていることと旋律がより美しくなったことによって風味豊かな作品へと仕上がっています。
ラフな質感もまだ残っていますが、どこか洗練された近未来感も漂っています。
おおらかな空気感をまだ残しつつも、冷冽なエモーショナルさを鋭く響かせることもあるのも特徴でしょう。
自然体でありながらもスマートな感じも漂い、両者の入り混じった複雑な魅力を放つ作品です。
(4th) 金光之鄉
バンド名を微光群島(Shimmering Islands)に変更したあとにリリースされた本作は、彼等のキャリアで最もからっとした感じの作品です。
強烈にノスタルジックだったりエモーショナルだったりするわけではありませんが、以前の作品よりも輪郭のはっきりしたドライな質感をしています。
ポストロック的というよりもロック的、あるいは真っすぐな感情表現とも言い換えられるかもしれません。
叙情的というよりも、日常の些細な美しさや感情を曲にしたような風通しの良い親密さがあります。
そして、バリエーションの豊富さや旋律の優しさは変わりません。力強くも凛としたバンドアンサンブルが組み上げています。
その一方でスイッチが入った時には飛翔感に満ちた轟音を展開したりとエネルギッシュな一面があり、アプローチの手札も揃っています。
日々の感受性を、耳馴染みの良いサウンドを通して描き出しています。
この感覚は、日本との共通点も非常に多いかと思います。
ある意味では、一番幸福感が漂っているアルバムとも言えるでしょう。
結びに代えて
台湾の郷愁と日本との微妙な差異
優しくて、ちょっと土っぽくて、だけど胸が締め付けられるようなノスタルジーが甜梅號(Sugar Plum Ferry)の作品には通底しています。
台湾的な感覚を欧米的なポストロック的方法論を通して(整然とされていない余地を残しつつも)体現しているところに、彼等のアンバランスな魅力があるのでしょう。
そして、東アジアのポストロックについて調べていると毎回思いますが、彼等は欧米のバンドよりは日本のバンドに近いけれど、それでも日本のバンドとは明確に異なる特徴があります。
その微妙な差異に大きな魅力を感じます。
それでは。
主要参考文献とサイト
主要参考文献
主要参考サイト
https://www.facebook.com/SugarPlumFerryOfficial/
コメントを残す