Soapkillsのアルバムについて。内戦と荒廃から目を逸らした先にある、陰鬱な白昼夢。


こんにちは。

SoapkillsはYasmine HamdanとZeid Hamdanによるレバノンで結成された二人組音楽ユニットです。

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Massive AttackやCocteat Twinsに代表されるトリップホップに中東の伝統音楽のテイストを足しているのが特徴で、ダウナーでオリエンタルなサウンドを奏でています。

中東におけるインディーシーンの最初期に活動をしていた音楽家であり、現在でもカルト的人気を博しています。

Soapkillsは2005年に活動停止するまでの間、3枚のフルアルバムをリリースしています。
本記事ではその全てを語ります。

Soapkillsの根底にあるもの

最初に、こちらのインタビューからSoapkillsの音楽性の根底にあるものを少し探ってみましょう。

バンド名に込められたレバノンの社会的背景

Soapkillsというバンド名の由来として、 Zeid Hamdanは「正直に言って、ストーリーやオフィシャルなヴァージョンはないんだけど」と前置きをしたうえで、断続的な内戦に苦しむ国の状況を反映した名前であると述べています。

荒廃した都市の再構成――大規模な掃除――によって、レバノン人はアイデンティティと自国の歴史に関する知識以外の全てを失ったと感じているそうです。

レバノンのメインストリームの否定

また、当時のレバノンの音楽シーンへの強い否定を表明しています。

レバノンのメインストリームとなっていたエジプトから流入しているディスコ・ポップス(shaabiのことでしょうか)は音楽とは何の関係もないものであり、歌っている面々もビジネスマンに操られれている人形に過ぎないとさえ述べていました。

一方Yasmine Hamdanはギリシャ、Zeid Hamdanはフランスとそれぞれヨーロッパで過ごした経験を持っていることも、Soapkillsの音楽に大きな影響を及ぼしているのも事実でしょう。

なぜトリップホップなのか?

彼はいわゆるトリップホップと呼ばれるスタイルを自分たちの音楽として採用した理由として、内戦という時において、日々の現実から逃避するためにトリップすることが重要であるからとも述べていました。

壮絶な現実逃避が必要な社会なのかもしれません。

Soapkillsの全アルバム

ここからアルバムごとに見ていきます。
文字だけでは分かりにくいと思って相関図を容易してみました。

(1st)Bater

記念すべきデビュー作です。
本作の特徴は、後の2作と比べてもひときわシンプルかつダウナーなことです。余分な要素を削ぎ落された生々しく暗鬱な美しさがあります。

ローファイなサウンドの内側では緊張感が絶えずのたうっており、さりげなく取り込まれた旋律からは異国情緒漂う煙たさが妖しく立ち込めています。

薄暗い緊張感を漂わせるベースライン、
時に控えめに時に力強くあふれ出すドラムマシン、
エレクトリックギター、ハーモニカ、フルート、伝統音楽等々、少ない音数で聴き手を引き込む妖しさを咲かせるウワモノ。
Jasmine Hamdanのビタースウィートで艶やかな物憂い歌声。

無駄な要素がなくソリッドな音像ながらも濃度の高い妖艶さが揺らめいてます。
薄暗い洞窟で耳元で囁かれた妖艶な呪文のような音楽と言えるでしょう。

(2nd)Cheftak

トリップホップ的な物憂さを漂わせつつも前作よりも解像度が上がっているのが本作の特徴です。

また、メンバー達が暮らしていたこともあるフランス的なキッチュさがしばしば顔を出しているのも魅力的な個性と言えるでしょう。

もちろん中東的な妖しさも存分に匂い立っています。
ダウナーな旋律はメロディアスさも含み、シンプルながらもしなやかで色鮮やかな響きが描き出す音世界は多様性を増しています。

淡々と繰り返すことによって陶酔感を高めるベースライン、
前作よりもブレイクっぷりを増したダウナービートを燻し出すドラムマシン、
陰鬱な響きを代わる代わる棚引かせるシンセ、ギター、ストリングス、フルート、民俗楽器等々。
そして、ヨーロッパと中東の気品と妖艶さを併せ持つJasmine Hamdanのボーカル。
オリエンタルな優雅さとヨーロピアンな気品を違和感なく兼ね備えた、内省的かつ妖艶なウィスパーサウンドが紡がれていきます。

俯き加減に語られる物憂げな千夜一夜物語、そんなイメージを想起させるアルバムです。

(3rd)Enta Fen

ラストアルバムとなった本作はいわゆるトリップホップ的でダークな陶酔感はやや減退しており、その代わりにアンニュイな雰囲気の絵画を思わせる空気感が前面に出ています。

メロディアスで滑らかな Jasmine Hamdanのボーカル。
ギターやピアノなどのバンドサウンドが印象的に顔を出すウワモノ。
淡々としたビートを刻むドラムマシーン、生ドラムス、パーカッション。
俯き加減の淡々とした雰囲気は変わりませんが、自己の暗鬱さを俯瞰的に見ているようなさっぱりとした質感も感じられます。

自意識的な暗鬱さに満ちていた1stに比べると、ナチュラルな雰囲気を感じられます。
また、郷愁といった普遍的な感覚が分かりやすく込められており、キャッチーさもあります。

中東的な妖しさと欧米的なキッチュさ・気品を巧みに織り交ぜ、オリジナリティ溢れるエレガントで憂鬱なサウンドを奏でています。

物憂いながらも有機的で温かみがあるアルバムです。

Soapkillsのその後

Soapkillsの活動停止後、 Yasmine Hamdanは拠点をフランスに移して活動をしています。
なんと2014年には来日もしています。 Zeid Hamdanもプロデューサーとして活動を続け、 Maryam SalehやEL MORRABA3のメンバーとも活動しています。

才能豊かな若き男女が描く沈み込むように重たく儚い白昼夢こそが、Soapkillsの真髄なのかもしれません。

Soapkillsのアルバムについて:主要参考サイト

https://www.bidoun.org/articles/soapkills-lather-and-rinse-well https://en.wikipedia.org/wiki/Soap_Kills https://soapkills.bandcamp.com/

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