Sigur Rosのアルバムについて。妖精が舞う、シンフォニックな繊細美 ~名盤揃いの歩みを辿る~

こんにちは。

Sigur Rosは1994年に結成されたアイスランド出身のロックバンドです。

出典:公式Facebook

ジャンルとしてはポストロック/アートロック/ドリームポップといったタグ付けをされることが多いようです。
時期によって作風はだいぶ違うのですが、透き通るような透明感と妖精的な幻想感が特長です。

2022年7月現在、Sigur Rosは7作のスタジオアルバムをリリースしています。
本記事では、

  • 全てのスタジオアルバム
  • それ以外のおすすめ作

を紹介します。

Sigur Rosのアルバム一覧

これからリリース順にアルバムを見ていきますが、文字だけでは分かりにくいと思って相関図を作成しました。

あくまで個人的なイメージです。ご容赦ください。

(1st)Von

前史:リリースされるまで

1994年、当時10代だったJonsi、Georg、AgustはレイキャビクでSigur rosを結成します。バンド名は結成直前に生まれたJonsiの妹の名前に由来します。勝利のバラ、という意味なんだそうです。

Sigur rosはすぐにSugarcubesのメンバーが主催するレーベルと契約。当時、メンバーたちはファルセットのボーカルが10代の少女たちにアピールできると考えていたそうです。

分かりやすい理由ですが、どういうわけが1stアルバムを完成させるのに3年の歳月を費やします。

アルバムの魅力

最初のアルバムらしい若々しさを感じられる作品です。

ただし、それはギターがラウドに響き、ドラムスが力強く打ち鳴らされているような類の若さではありません。混沌とした静寂が渦を巻いています。


アルバムの大半はアンビエント的で、風景を喚起するようなサウンドです。例えば、冒頭は洞窟の中を歩いているかのような印象を受けます。不気味な鳴き声のような、或いは何かの足音のような。そんな音響が浮かび上がっては消え、また浮かび上がっては消えていきます。かと思えば、天国にいるかのような荘厳な音の揺らぎや歌声が現れたり。

そして、時折静寂の中からゆっくりとロック的楽曲が姿を見せ、時にJonsiの負の感情をぶちまけたような咆哮が炸裂します。

様々な姿を見せつつも、いかなるときも透明感を帯びています。
繊細で、いびつで、だからこそ美しい。

荘厳な静けさの奥底でさえ、若々しい衝動がヒリヒリと揺蕩っています。

(2nd)Agætis byrjun

前史:リリースされるまで

Vonのリリースあと、リミックスアルバムVon brigdiがリリースされます。アイスランド語の言葉遊びになっており、Vonbrigdiはアイスランド語で「失望」を意味し、Von brigdiは「Vonのバリエーション」になるのだそうです。

その後、Kjartan Sveinssonが加入。音楽的なトレーニングを受けた彼の加入は、Sigur Rosの音楽性に大きな影響を与えることになります。そして、1998年から1999年にかけてレコーディングされた本作Agætis byrjunは、Sigur Rosのブレイク作となりました。

アルバムの魅力

唯一無二の名盤、と考えている方も多いのではないでしょうか。

温もりと凍てつきが共存する質感の中で揺蕩う、アンビエンスな神秘性と妖精性。

ゆったりと伸びゆくシンフォニックなサウンドは、どうしてもアイスランドの荒涼とした(だからこそ美しい)サウンドスケープを想起したくなります。


Jonsiの儚いファルセットボイス、チェロの弓で弾かれるアンビエントなギター、幻想的なシンセ、エモーショナルさと優美さを添えるオーケストラ。アンビエント調の中に脈打つような存在感を見せるリズムセクション。ひっそりと神秘を奏でるような静謐さを感じさせつつも、時折エモーショナルな躍動を見せることも本作の魅力です。

オーロラのような荘厳さの中にも人間的な歓喜を湛えたアンサンブル。優しい響きを奏でつつも、冴え冴えとした透明感を帯びています。

後の作品と比べるとSigur Rosの魅力がストレートに(つまり素直に)現れている作品だと思います。

(3rd)()

前史:リリースされるまで

前作のレコーディング後にAgustがバンドを去り、Orriが加入します。

バンドの状況は、好調だったと言えるでしょう。ポストロック系バンドの台頭やRadioheadのKID Aなどが発表されたタイミングだったこともあり(前座に抜擢)、前作Agaetis Byrjunは欧米系メディアの称賛を集めます。テレビドラマのシリーズに楽曲が使われることもありました。また、EP Rimurもリリースされています。

そんなバンドを取り巻く混沌を反映した作品とも評されているのが3rdアルバムにあたる()です。

アルバムの魅力

こちらもまた、唯一無二と考えている方が多い傑作でしょう。

そこにあるのは内省的なのに美しく、優しく、箱庭的な幻想性。静謐な調べが緩やかに続き、エンジェリックな荘厳さとパーソナルな質感が溶け合いながら、真っ白な透明感を感じさせるアンビエンスを生み出しています。

今にもひび割れそうなウィスパーボイス、澄んだ響きを紡ぐエレクトリックギター、静寂に滲むようなキーボード、ひっそりと脈打つリズムセクション。ゆったりとしたサウンドは風景喚起的で、荒涼としつつも叙情的な情景を描き出してくれます。

ゆったりとメランコリーを描く旋律、繊細な美を綴るハーモニー。内に向かって閉じていく詩情のようでいて、彼方まで広がる光景のようでもあり。真っ白な調べの中にはさまざまな心の在り様が複雑に投影されていて、それでいて透き通るような美しさを常に讃えています。

Sigur Ros諸作の中では「夜」の匂いや温度が一際強く感じられる、作品だと個人的には思っています。

(4th)Takk…

前史:リリースされるまで

前作()は全米チャートHOT100入りを果たし、グラミー賞の最優秀オルタナティブ・ミュージック・アルバムにもノミネート。100万枚を超えるセールスを記録します。引き続きテレビドラマで楽曲が使用されることもあったようです。

成功を収めた前作の3年後にリリースされたのがTakk…です。

アルバムの魅力

こちらも「これが一番好き! 名盤!」という方が多いかもしれません。

過去作の内省的な美から一転、解放感にあふれた作品となっています。荘厳でアンビエンスなテクスチャーを残しつつも、シンフォニックな広がりやインディーロック的な躍動感で緩急をつけているのが印象的。繊細ながらもポジティブなサウンドは、明らかに前作の空気感とは異なります。

特にアルバム前半部のGlosoliやHoppipollaが鮮烈です。凛とした力強さと妖精性を併せ持つ調べが、祝福に満ちた優しい響きを生み出しています。

天使のようなファルセットボイス、きらめきや叙情性を添えるピアノ/ベル、きらびやかさ/エモーショナルさ/透明感を紡ぐエレクトリックギター、祝福を描くストリングス/ホーン、しなやかなリズムセクション。白さを感じさせる繊細美を、今までになく人間的なエモーショナルさを織り交ぜながら奏でています。

透明感と前向きなエネルギーを秘めながらラウドに炸裂するエレクトリックギターからは、(敢えて語弊を生むかしれない表現をすれば)オーガニックさを感じます。ただ、それはジャムバンド的なモノではなく、果て無く広がるアイスランドの荒野を想起させます。峻厳としつつもどこまでも美しい風景を。

Sigur Rosにとってターニングポイントになった作品なのかもしれません。

(5th)Med sud i eyrum vid spilum endalaust

前史:リリースされるまで

前作はアイスランドの音楽賞を複数受賞し、国外のテレビや映画で楽曲が使われるなど、成功を収めます。

その後、コンピレーション作Hvarf/Heim、2006年のアイスランドツアーでの演奏を収めDVD作Heimaをリリース。その後、本作Með suð í eyrum við spilum endalaustを世に送り出します。

アルバムの魅力

前作まで儚い白昼夢感から転換し、音像がクリアーになっていることが印象的です。

高らかに掻き鳴らされるアコースティックギターから始まる冒頭曲に象徴されるように、解像度の高いインディーロックな躍動感を生み出しています。もちろん、Sigur Rosらしいシンフォニックなサウンドや妖精的オーガニックさは変わらず。祝福に満ちた慈しみを奏でています。


繊細な歌声、飾り気のない優しさを奏でるアコースティックギター、素朴な気品を漂わせるシンセ/ピアノ、エモーショナルな響きを添えていくストリングス/ホーン、緩やかな脈動を形づくるリズムセクション。柔らかい雰囲気を帯びつつ、妖精のような幻想性を漂わせつつ、それでもすごく凛とした美しさを感じさせるのが印象的です。

丁寧に紡がれる静謐、穏やかに波打つ安らぎ、しなやかに躍動するロック的な迫力。その移ろいは流れるように自然で、たおやかながらも生命力に満ちあふれたアンサンブルを響かせています。

広大さ/妖精性の中に人間味も感じさせる、美しい作品です。

(6th)Valtari

前史:リリースされるまで

2009年にJonsiはソロアルバムを、別ユニットRiceball Sleepsの作品をリリース。同年にはSigur Rosの新作がほぼ完成されているとも発表されました。

しかし、バンドはこの未発表作をお蔵入り。活動休止に入るという噂もあったそうですが、2011年には映像作品Inniをリリース。そして、2012年に本作をリリースします。

アルバムの魅力

アンビエント的/実験的なニュアンスが強い作風が印象的です。

新旧のジャムセッションの音源を編集しながら楽曲を構築しており、楽器の輪郭は儚く朧。幻想譚のようなサウンドスケープを描き出しています。


インディーロック的なシンプルさはやや後ろに下がり、静謐でシンフォニック/アブストラクトな響きが強弱を(時に大胆に)付けながら、揺らめいている。そんな印象を受けます。

広大で荘厳でハーモニー、幻想的で美しい旋律、儚い響きの揺曳。繊細な音の響きや揺らぎはエレクトロニカ的な質感をも帯びています。もちろん、荘厳さを帯びつつも妖精的なオーガニックさを感じさせる、Sigur Ros的空気感は不変です。

特に本作は聖性が強く出ているようにも感じます。Takk…以降のポジティブな空気を秘めつつ、サウンドがアブストラクトになった結果、人間性よりも自然の神々しさのようなニュアンスが出ているためです。

独特な立ち位置の作品だと思います。

(7th)Kveikur

前史:リリースされるまで

Sigur Rosは2012年には早くも次回作の制作に着手していました。

しかし、2013年1月にはSiugr Rosの音楽に大きな影響を与えたKjartanの脱退をRedditのQ&Aで発表しています。その後、同年6月に発表されたのが本作Kveikurです。

アルバムの魅力

本作を初めて聴いたとき、驚いた方も多いかと思います。

繊細な透明感を基調としていたサウンドからヘヴィなロックサウンドへと転換をした異色作です。

従来のSigur Rosに通じる聡明さ/しなやかさは健在なのです。ただ、個々のサウンドがしばしば放つヘヴィさ/存在感は今までの作品にはなかったモノです。パーカッションやエレクトロサウンドが存在感を増していることも印象的。エネルギッシュに躍動し、気迫を感じさせる佇まいを醸成しながらアルバムは進みます。


耳に残る旋律を歌うボーカル、ヘヴィな厚みを加えるディストーションギター、力強いビートを生み出すリズムセクション。ゆったりとしたスピード感は今までと変わりませんが、音の迫力が違います。

また、特筆すべきはメロディがかなり前に出ていることでしょう。かなりキャッチーな印象を受ける瞬間も多く、サウンドの起伏が付いていることも相まって、聴きやすい印象を受ける瞬間も多いです。

かなり自然性/妖精性に寄った前作に対し、本作はかなり人間味があります。
繊細ながらも生命力に満ち、歯を食いしばって人生を駆け抜ける。そんな人間が秘める等身大の美しさを感じられる作品です。

フルアルバム以外のおすすめSigur Ros作品

(EP)Rimur

Steindor AndersenをフィーチャーしたEP作品。北欧伝統的音楽にも通じる、Steindorのボーカルが本作にフォーク的雰囲気をもたらしています。単独名義の楽曲も(短いながらも)半数を占め、他作品と違う空気感を醸成しています。

もちろんSigur Rosらしい繊細なポストロック感も健在。両者が有機的に結びつきながら、儚くも神々しいアンビエンスを奏でています。

全体的に活き活きとしつつもダークな雰囲気を帯びており、異教的な妖しさが感じられる作品です。

(ライブ盤)Inni

2008年にAlexandra Palaceで行われたコンサートを収録したライブ盤。人気作が収録されており、ライブ音源としては言うことなしのクオリティを有しています。

Sigur Rosのスタジオ作は良い意味でナイーブな質感が魅力的ですが、ライブではロックバンドらしい精悍さがビビッドに魅力として現れます。静謐ながらもダイナミックさが印象的。本作では、そんな彼等のライブバンドとしての魅力の一端を垣間見れます。

本作を聴くと「Sigur Rosのライブをまた見たい」という気持ちが湧き上がってきます。

(サントラ)Route One

アイスランド国道1号線1332kmの風景を24時間ライブ配信する企画のBGMを基にしたサウンドトラックです。

サントラということもあり、バンドとしての我を出し過ぎずシンセを軸にしたアンビエント/ドローンなサウンドが展開。神々しさを感じさせるサウンドスケープが、滔々と紡がれています。

荒涼としつつも妖精感のあるアイスランドの荒野にぴったりのサウンドです。

ちなみに24時間ヴァージョンもあります。気になる方はチェックしてみてはいかがでしょうか。

(オーケストラとのコラボ作)Odin’s Raven Magic

2002年に収録したオーケストラのコラボ作。18年越しにリリースされた話題作です。

北欧神話について語られた17世紀の写本『古エッダ』の一編『オージンのワタリガラスの呪文歌』(詩自体の成立年代は喧々諤々のようです)をコンセプトに製作されています。

そのため、オーケストラとのコラボ作といっても「いかにもクラシック」な壮大さがあるわけではありません。オペラ的な匂いを漂わせつつ、現代インディーミュージック的なポップさを見せつつ、全体としては民俗的な雰囲気。石製のマリンバを使用するなど、荘厳さの中で醸し出される独特のプリミティブさが原初的な美を演出しています。

(他のヨーロッパ諸国に比べ)アイスランドの文化にはキリスト教以前の異教的要素が大きな影響を与えています。そんな彼等のアイデンティティを、シンフォニックに顕現させたアルバムです。

主要参考文献・サイト

結びに代えて

本記事を少しでも参考にしながらもっと良いモノを書いてくれる方が現れたら、とても嬉しく思います。もちろん批判でも構いません。大切なのは書いた者の自我ではく、より良いモノが残ることだと思っています。

主要参考文献

主要参考サイト

https://en.wikipedia.org/wiki/Sigur_R%C3%B3s

https://www.hmv.co.jp/en/news/article/2011261030/

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