「したければして、したくなければしない」ファラオ、人々と神々を喰らう。  ウナス王のピラミッドテキスト『食人呪文(呪文273,274)』

こんにちは。

紀元前文学その19は古代エジプト第五王朝のウナス王のピラミッドに刻まれた呪文、いわゆるピラミッドテキストです。

成立年代は遅くとも呪文が彫り込まれた紀元前24世紀に成立していましたが、そこから遥か昔には成立していたと考えられています。
現存する最古の呪文の一つと言えるでしょう。

紀元前文学その19 ウナス王のピラミッドテキストの刻まれた『食人呪文 (呪文273,274) 』

ウナス王とピラミッドテキスト

ウナス王とは

ウナス王は紀元前2375年に即位した第5王朝最後のファラオです。
彼に治世に何が起きたのかについては分かっていませんが、大きな飢饉が起きた可能性が指摘されています。

https://www.ask-aladdin.com/images/unas_ph3.jpg

また、ピラミッドを建設したことと初めてピラミッドテキストを残したことは現代まで伝わっています。

こちらがウナス王のピラミッドです。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4d/02_unas_pyramid.jpg

クフ王をはじめとした第4王朝のピラミッドに比べて小型であるうえ、ほとんど崩壊しかかっています。

ピラミッドが小型化した理由については、中央政権の弱体化とも宗教観の変化とも言われています。

ピラミッドテキストとは?

ピラミッド内部に刻まれた呪文のことで、第5王朝から第8王朝のピラミッドの一部に書き残されています。
ご覧のように棺室、控えの間、通路の内壁等々、壁一面にぎっしり刻みこまれています。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ounas-chambre2.jpg

ピラミッドテキストにはヒエログリフが成立する以前の古い思想や文化を残されており、大変貴重な文字記録です。

各々の呪文は、一見意味を成さない並び方をしているように見えます。
しかし、実は王がオシリスや太陽神とファラオが結び付けられ、来世へと旅立っていく道筋が出来上がるようになっています。

この時代は来世はまだ王のみに開かれており、王を導くのがピラミッドテキストでした。

ピラミッドテキスト『食人呪文(呪文273,274)』 の概要

『食人呪文(呪文273,274)』はサッカラにあるウナス王のピラミッドに刻まれたピラミッドテキストの1篇です。
ヒエログリフにして33行ほどの長さがあり、控えの間の東屏風に刻まれています。

http://www.maat.sofiatopia.org/iwenis1a.jpg



主な内容として、

  • ウナス王は偉大であり、
  • ウナス王が天へと駆け上がり、
  • 神々をも超越する偉大な存在となること

について物語っていてます。

そして、その比喩として『食べること』が頻繁に登場します。

さっそく見ていきましょう。

(ウナスは)自分の食事を用意する者 ウナスは人と神々を食べて生きる

『古代エジプト』,講談社,2014,P.92

非常にストレートな表現で人と神々を食べると宣言しています。

そして、次は神々の調理方法が出てきます。

夕食の鍋で彼ら(神々)を煮て彼(ウナス)の食事を作る。

ウナスは彼らの魔力を食べ、その霊を呑み込む者。

大なる者たちは彼の朝食、中なる者たちは彼の夕食、

小なる者たちは彼の夜食、老人と老婆は彼の薪。

『古代エジプト』,講談社,2014,P.93

神々はお鍋にすると美味しいようです……。
しかも年を取ると薪に……。
知りませんでした……。

そして、ウナス王がとても楽しんでいる描写も見受けられます。

彼は背骨を折り、神々の心臓を捕らえる。(中略)

ウナスは賢者の肺を食らい、楽しみは心臓、魔法を食べること。

『古代エジプト』,講談社,2014,P.94

娯楽になっています。
この呪文の中では、呪文で祝福される者は食人/食神を楽しむことが当然とされています。
忌避をしている気配は皆無というより絶無です。

あと、上記の「背骨を折る」以外にも「殺す」などかなり直接的な暴力表現も頻発します。


さて、楽しそうに神々を食らった結果、ウナス王が得られるものは何でしょうか。

ウナスの尊厳は取り去られない。全ての神の知恵を呑み込むからだ。

ウナスの寿命は永遠、その限界は不朽。

『古代エジプト』,講談社,2014,P.94

来世での復活とそこで得られる永遠の命、ということになるでしょう。


ピラミッドテキスト『食人呪文(呪文273,274)』 の面白いところ

呪文の中の独特な世界観

これがやはり最大の魅力でしょう。
相手の力を得るために相手を食べる、という観念が当然のように表出しており、現代人にとっては驚く様な発言もナチュラルに繰り出されています。

暴力的な文言が多いのも併せて印象的です。
呪文といえばそのあたりを花鳥風月に巧みに例え、格好良く言うというイメージがありますが、『食人呪文』においてはドン引き級のド直球です。

この呪文を最初に創った4500年以上前の人々は、どんな価値観で生きていたのか、とても気になります。
彼等にとって、食人/食神とはどんな意味を持っていたのでしょうか。

ファラオがいかに偉大かを表現する方法が面白い

「したければして、したくなければしない」が彼(ウナス)の威厳

『古代エジプト』,講談社,2014,P.94

ストレートすぎる賛美賞賛ですね……。
まあ、いつでもどこでもこれができるのはとても威厳がある方だとは思いますが。
もっと他の言い回し、あったと思います。

上記以外にも面白いものが沢山あったので、気になる方はチェックしてみてください。

※第三章末にピラミッドテキスト『食人呪文(呪文273,274)』の全訳あり

まとめ ウナス王のピラミッドテキスト『食人呪文(呪文273,274)』について

いかがでしたか。

個人的には、現存する人類最古の呪文に神を食らう呪文が紛れ込んでいるのに古代のロマンを感じます。

何も記録が残されていない以上この呪文が生み出された頃、この呪文が人々にどう受け止められていたかは分かりません。

神を食らうのは、王だけに許された高貴な儀式だと考えられていたのか。
それとも、相手の力を吸収するための食人は一般的だと考えられていたのか。


いつか、そんな過去のことが分かる日がくるといいのですが。


それでは。

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