こんにちは。
『ピラミッド ~最新科学で古代遺跡の謎を解く~』の著者は名古屋大学高等研究院所属の考古学者 河江肖剰先生です。
なんと、丸一冊ギザのピラミッドについて語られている素晴らしい一冊です。

非常に面白い内容なのですが、個人的に特に素晴らしいと思うところをまとめてみました。
『ピラミッド ~最新科学で古代遺跡の謎を解く~』のあらすじ
全体の構図
本書は3部構成になっています。
その内容は下記のとおりです。
- どのようにピラミッドを作ったか
- なぜピラミッドを作ったか
- 誰がピラミッドを作ったか
How,Why,Whoという疑問に対して答える構成になっています。
また、現場の状況こそが謎を解く答えであるという主張を一貫とされているのも本書の特徴です。
では、1部から順にみていきましょう。
1.どのようにピラミッドを作ったか
ギザには三基の巨大なピラミッドがあります。
現代のような技術がない古代の人間が作り上げるのはどう考えても困難であると長年考えられてきました。

巨大な花崗岩を切り出し運搬すること、
それを精緻に積み上げること、
精密な副葬品を作りあげること、
そのすべてが4000年以上前の人間には困難であるように思われました。
そのせいか、「ピラミッドや副葬品は宇宙人が作った」というようなオカルトまがいの意見が横行したり、現場にも行ったことがない研究者の奇抜な意見が持てはされたり、さらにピラミッド建造時にはまだ発明されていない「未来の器具」を使った仮設が提唱されたりもしていました。
しかし、実態はとても地道なものでした。
ギザのピラミッド周辺に傾斜路を設置した後が見つかりました。
彼等は人工的に作った坂道を巧みに組み合わせ、花崗岩をピラミッド状に積み上げていった可能性が高くなりました。
また、花崗岩そのものの加工も、現代人からは想像もつかないほどの長い時間をかけて人力で行ったものでした。
現代人が想像するような突飛な方法ではなく、もちろん宇宙人の力でもなく、ひたすら時間をかけながら人力で行っていたようです。
なぜピラミッドを作ったのか?
近代において、エジプトはヨーロッパから非キリスト教的で神秘的な国と思われていました。
しかし、ニュートンがピラミッドの玄室の大きさを関数として全ての部屋の大きさが定められていることを見抜いて以来、研究では測量に基づいて石の切り出しかたや人員などを予測するものに変わりました。
また、公共事業として建てられたのではないかという説に対して著者ははっきりとノーを突き付け、王墓であるとしています。
ヘロドトスやマネトと言った後世(とは言っても紀元前ですが)の著書ではなく、あくまでもピラミッド周囲にこそ「なぜ」を解くカギがあると著者は考えます。
事実、ピラミッド周囲には王をピラミッド化する作業を行う<清めの天幕(イブウ・アン・ワアブ)>やミイラの安置場所<清めの場所(ワアベト)>などが設置されています。
当然玄室もあります。そして、王墓であることはわかります。
では、なぜこのような王墓を作ったのでしょうか。
答えは神話と関連付けて建造されているということになるでしょう。
たとえば、クフ王のピラミッドはエジプト神話における大地創造の原初の丘であるベンベンを象徴しています。
カフラー王はクフ王のピラミッドと自分のそれの間に夏至の日の太陽が落ちるようにピラミッドを建築し(そしてスフィンクスの後ろに)、

メンカウラー王は自分のピラミッドを加えることでピラミッド群とエジプトで特別視された三ツ星サフと同一化しました。
ピラミッド周辺の空間は新たにピラミッドが付け加えられるたびに再創造されたのです。
誰がピラミッドを作ったのか
マックス・ウェーバーも「都市のない文明」と言われたエジプトですが、ピラミッド東部には建築に従事した人々の町が発見されています。
周囲を壁で覆われた内部は小さな家々が立ち並ぶ下町のようでした。
当初、アトランティスと古代エジプトが関係しているというオカルト思想に影響されていました。
しかし、ギザ周辺のマッピングなどの堅実な発掘に徐々に切り替わっていき、パン焼き場などの発掘に成功します。
また、労働者は組織化されたチーム体制で建築に臨んでいました。
「メンカウラーの友人たち」と「メンカウラーの大酒飲みたち」いうチームもあったようです。

また2013年に発見された「メレルの日誌」パピルスも重要です。
現在でいうところのエクセルの管理表のようなもので、ピラミッドの石材運搬について書かれています。
石の運搬経路や1トンに及ぶパンの運搬についても書かれていました。
『ピラミッド ~最新科学で古代遺跡の謎を解く~』 の魅力
現場主義
ピラミッドを徹底的に現場主義的に見ている点でしょう。
著者はピラミッドの謎をミステリーの殺人事件に例え、現場に基づかない意見は現場検証をしないようなものであると考えています。
マネトやヘロドトスのような古代の偉大な歴史家ではなく、ピラミッド周辺の太鼓のゴミを丹念に拾挙げる作業に重きを置いています。
そして、丹念な作業から過去を浮かび上がらせる過程はとてもエキイティングでワクワクします。
考古学者たちの生きざま
考古学者たちの生き様にもスポットを当てているのが本書の面白いところです。
具体的には本書を見ていただきたいのですが、皆さん情熱的で面白いです。
研究者の生き様を感じられるでしょう。
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