こんにちは。
Postcardsは2012年にレバノンで結成されたインディーロックバンドです。

ジャンルとしては、ドリームポップ/インディーフォークになるのでしょう。
フォーキーで陰のある童話的な雰囲気を基礎にしつつ、シューゲイザーやSlow Core/Sad Coreを思わせる内向性で漂わせています。
2020年5月現在、Postcardsは2枚のアルバムをリリースしています。
本記事ではその全てを語ります。
Postcardsの全アルバムについて。レバノン・インディーポップの先駆者
文章だけでは分かりにくいかもしれないので、アルバム相関図を作成してみました。

では、アルバムごとに見ていきましょう。
(1st)I’ll Be Here in the Morning
前史:リリースされるまで
バンドの歴史はボーカルやギターなどを務めるJuliaが、幼いころから一緒に楽器を演奏していたいとこのMawanとPascalをバンドに誘うところから始まります。
(後に旧友の紹介によってRanyが加入しますが、彼は現在バンドのサバティカル期間とのこと)
Postcardsの特徴は何といっても知性的ながらも内向的なインディーポップであることでしょう。
欧米や東~東南アジアでは珍しいわけではないカテゴリーの音楽ですが、レバノンではマイノリティでした。
自分たちの音楽はコマーシャルソングやレバノンで主流を占めるブルースロックやクラシックロックへのカウンターであるとJuliaは述べています。
Postcardsは60’s~70’s風味のフォーキーなEP2作品をリリースします。
すると民俗的ながらも上品な作風が受けたのか、ポルトガル、フランス、イタリアなどヨーロッパ各国で公演を行う機会とドイツのT3 Recordsとの契約を勝ち取ります。
そして、さらに1作品のEPをリリースした後、ドリームポップへと大きく接近した1stアルバムI’ll Be Here in the Morningを2018年にリリースします。
アルバムの魅力
素朴でフォーキーな骨組みのうえだけでなく、シューゲイザーの陰鬱で甘やかな肌触りも感じさせるのが彼等の魅力と言えるでしょう。
文学的で童話的、それでいて知性的。
欧州のインディーポップを彷彿とさせる隙のないクオリティに仕上がっています。
女性ボーカルのソフトな歌声にアコースティックギターやエレクトリックギターのシンプルな響きが重ねられ、ゆったりとしたリズムセクションのうえで揺れ動きます。
英詩であることもあり、レバノンらしさ/中東らしさは感じられません。
欧州インディーポップの瀟洒な雰囲気をさらに蒸留させているとさえ言えるでしょう。(ベルセバやソロ諸作を彷彿とさせます)
そのうえ要所要所でエモーショナルさを強く押し出すときにはシューゲイゲー的な青く茫洋としたノイジーギターをふわりと香らせ、聞き手を揺さぶります。
内省的エレガンスを欧州勢を凌駕するほど上手に着こなした、インディーポップの快作です。
(2nd)The Good Soldier
前史:リリースされるまで
前作のリリース後、ベーシストのRanyが一時的にバンドを離れることになりました。
メンバーを一人欠いた状態で彼等はヨルダン、UAE、イギリス、フランス、ポルトガル、イタリア、ドイツなどへのツアーを敢行をすることになります。
しかし、それは必ずしもネガティブなことばかりではなかったようです。
少ないメンバーでダイナミックなサウンドを生み出そうと試みることは、メンバーにとっても刺激になったようです。
また、本作の制作について重要なキーとしてレバノンで有名なプロデューサー Fadi Tabbalの存在を挙げられています。
Brian Enoにも例えられるFadiの的確なプロデュースにより、アルバムのクオリティはより高次なものへと進化したとJuliaは述べています。
そして、重要なことを。
Juliaによれば、本作は悲しみよりも怒りの感情が込められているそうです。
アルバムのタイトルでもある「良い兵士」とは、社会から期待される結婚や出産といった本質的に家父長的な制度に対して喜んで人生を委ねる人々のことだそうです。
そして、本作は多大な労力と献身によって自分の人生を自分で切り開くということをテーマにしています。
社会に対する強い感情を込めたうえで、本作The Good Soldierは2020年に世に放たれました。
アルバムの魅力
前作の牧歌的な雰囲気から、物憂げで内省的なサウンドに大きく接近しています。
シューゲイザー的であり、なおかつSlow Core/Sad Core(スロウコア/サッドコア)的な面が強く出ているとも言い換えられるでしょう。
ソフトで文学的な空気感は変わらりません。
インディーポップ的な夢見がちな華やかさも健在です。
しかし、それを覆う濃蒼な内省性の膜が明確に強まっています。
陶酔感と童話性の高まった女性ボーカル、
波紋が消えていくように響くエレクトリックギターやシンセ、
繊細さが反転したかのように狂暴なシューゲイズサウンド、
溶け落ちそうな各パートを優しく包み上げるリズムセクション。
前作と変わらぬ上品さはもちろんのこと、崩れ落ちそうな物憂さもさらに生々しく表現されています。
その一方でインディーポップ的な要素がきちんと骨組みとして残っていることも見逃せないでしょう。
軽やかな爽快感が根っこに残っているからこそ物憂いシューゲイズに覆われてもサウンド全体が重々しくならず、エレガンスを放っています。
深い影を帯びながらも、上品で知性的。
静謐で瀟洒、それでいてエモーショナル。
複雑な要素が絡み合いながらも、優雅さを湛えた傑作と言えるでしょう。
結びに代えて Postcardsの魅力 レバノンから届けられた美しいポストカード
ベイルートとポストカード
中東世界におけるレバノンはエジプトに次ぐほど音楽文化が栄えているようです。
しかし、Postcardsのような音楽はベイルートの音楽シーンでは決して多数派ではないようです。
それでもヨーロッパ諸国で受け入れられているようで、Postcardsは毎年のようにツアーに向かっています。
ただ、彼等の音楽を聴くとその理由も分かる気がします。
本場の凡百なインディーポップを凌駕するほど繊細で文学的な美しさを感じられます。
欧州っぽさとか中東っぽさとか抜きにした、純粋に素晴らしい音楽と言えるでしょう。
そして、こういうバンドと日本を含めた南~東アジアの交流があっても良いのかな。とも思うのです。
ハイクオリティなバンド同士が互いに行き交えば、互いを刺激しあえるでしょうし、引いてはポップカルチャーの欧米中心状態を変えることにもいつかは繋がるかもしれません。
地中海に面した小国から届いたポストカードに、まずは目を通してみてはいかがでしょうか。
それでは。
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