Pinbackというバンドの全アルバムについて。月明り、夜の砂漠、彼方を見つめる豹のように。 

こんにちは。

Pinbackはサンディエゴ出身のZach SmithとRob Crowによる二人組ロック・ユニットです。

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インディー・ハードコア的な太く精悍な骨格のうえにSlow Core/Sad Core的な静謐さをまとい、USインディー界において孤高の存在感を放っています。

アンダーグラウンド・ミュージックからの影響を、毒っ気とセンチメンタルさを併せ持つ感性で昇華したような音楽を奏でています。
静かな感傷と野性的なしなやかなさを併せ持つバンドとも言えるでしょう。

また、それぞれ多くの別プロジェクトを抱えているのも特徴かもしれません。

そんな彼等の全アルバムについて語ってみました。

Pinbackというバンドについて 全アルバムについて語る

Pinbackのアルバムについて語りたいと思います。
ただ、口だけでは分かりにくいと思うので相関図にしてみました。

ご参考までに。

また、作風に応じて3段階に分けて特徴を論じています。

  1. ゆったりLo-fi期
  2. 文学的な繊細さ期
  3. 肉体的な躍動感期

では、見ていきましょう。

(1)ゆったりLo-fi期(Ace-fu在籍時)

この時期の特徴は下記のようにまとめられます。

  • 音像がLo-fi。
  • ギターやベースによるフレーズ・リズムの刻み方が、淡泊でゆったりしている。
  • 後の作品と比べると雰囲気が暗い。

サウンドの表面的な特徴だけを取る「ジャンク」になりかねないのですが、とても感傷的なフレーズに仕上げているのが印象的です。

まだまだ未完成なところがあり、だからこその魅力があります。

(1st)Pinback

バンド名を冠した彼等のデビュー作です。

非常にシンプルながらも、誰がどんな風に聴いてもPinbackと感じるであろうノスタルジックなサウンドを繰り広げています。

エモーショナルで、センチメンタルで、単調に拍を刻む音色達。
ミドルテンポのシンプルなビート、その上に乗る二対のエレクトリックギター。線の細いボーカルが歌う、シンプルなメロディライン。
解像度の低いLo-fi的にざらついた色彩に包まれながら、それらは静かに寄り添い合います。

サウンドに溜まっている感情が静かに波紋を起こし、徐々に大きな波へと変わり、やがては消えていく。
本作はそんな風にゆっくりと波打つ感情を楽しむ音楽と言えます。


曲の展開も単調ですが、飽きることはありません。
曲に込められた情緒の色彩がそれぞれ違からです。
暗い曲もあれば、叙情的な曲もあり、コミカルな曲もあり、怜悧な曲もあり。
清冽なエモさが常に絶えることなくせせらいでいます。
モノクロの青春映画を見ているような、古い本の頁を繰っているような、ノスタルジックな味わいを付け加えてくれます。

シンプルに、まっすぐに、余計なものなどなくストレートに胸の内をさらす魅力。
Pinbackの根幹を成す部分を、最も魅力的に魅せているアルバムでしょう。

(2nd)Blue Screen Life

1stの延長線上にあり、完成度を高めたアルバムと言えるでしょう。

Lo-fiをより美しく見せるという路線を突き進み、高みを目指しています。
曲調のバリエーションはより豊かに、
必要であれば緩急もつけて、
シンセなども以前より多用し、
不必要な適当さは削いでタイトなゆるさを醸成し、
隅々に至るまで計算されているように感じます。

結果として、曲に漂っていた感情の光輝はさらにノスタルジーを増しています。
線の細い男性ボーカルが交互に紡ぐ淡々としたメロディ、
タイトになりつつも肩の力が抜けているリズムセクション、
柔らかに絡まり合う二本のエレクトリックギターは平板としつつも切れ味鋭く、時折聴き手を惹きつける情感豊かな旋律を紡ぎます。

ノスタルジックな切なさはさやかに吹き抜け、
全てのサウンドレイヤーに染み込んだ感情は静かに混ざり合い、
大小様々数多のさざ波が起こり、相互に反響し合い、
心の波は複雑な文様を描いては消えていきます。

感情表現が深みを増し、演奏そのものから余計なものが砥ぎ落されたことにより、曲から凛とした気配が立ち込めています。

1stがひたすらにセピア色のノスタルジーだとすれば、本作の空気には吐く息が白くなるような怜冽な匂いが吹き抜けています。

Lo-fiでありながら一切の曇りがない。そんなアルバムです。

(2)文学的な繊細さ期(Touch And Go在籍時)

この時期の特徴は下記のようにまとめられます。

  • それまでのlo-fi感が減衰し、凛然なサウンドの解像度が一気に上がる。
  • その結果、楽曲を織り成していた繊細さを強く感じ取ることができる。
  • サウンドの骨格を担うリズムセクションが、精悍さを増す。

といったところでしょうか。
文学的な繊細さを強く感じます。

【3rd】Summer In Abaddon

名門Touch and Goに移籍しての第一作です。
もっともPinbackらしい作品ではないでしょうか。

非常に洗練されているのに、シンプルさが失われていないところが特筆すべき特徴でしょいう。

相変わらず平坦な調子でアルバムは始まります。
しかし、必要最低限しか積み上げられていないサウンドのレイヤーは、冴え冴えとした鋭さを見せています。
ノスタルジーとシンプルなサウンド、それ以外の余計なものは削ぎ落されています。

なだらかに絡まり合うエレクトリックギターの音色は叙情性を増し、
ピアノの音色は凛とした余韻を残し、
リラックスしたミドルテンポは時折ひねくれることもあり、
シンプルかつタイトなドラムスは精悍な楽曲の基部となり、
ベースラインは優美に流れていき、
儚いツインボーカルは一瞬で胸の奥底まで入り込むようなノスタルジーを醸し出します。

それらは透徹さを一切失わぬまま混ざり合い、複雑な色味を帯びながらも透き通るような旋律を生み出します。

曲としての完成度が極めて向上しており、今までよりもPinbackサウンドの奥底にあるエモーショナルさが伝わりやすくなっています。

透明感と淡い光輝が胸を打つ、最も鮮烈なアルバムと言えるでしょう。

【4th】Autumn of The Seraphs

Pinbackの中で最もロック的なアルバムと言えるでしょう。

まず冒頭曲From Nothing to Nowhereの疾走感に驚かされるはずです。
そして、その驚きこそが本作の象徴とも言えるでしょう。


本作はロックサウンドを経由したうえでのキャッチーさを手にしているのです。
カッティング、ディレイ、ディストーションを多用した硬質で多彩なサウンド、
時にエッジを効かせ、時にエネルギッシュに刻まれるベースとドラムス、
簡潔にしてスピード感に溢れるそれらのパーツを組み合わせ、平坦・シンプルながらひねりの効いた骨太なサウンドを構築しています。

そして、最も流目すべきはボーカルが印象的なサビのメロディを歌い上げていたことです。
むろん、インディーの帝王に相応しい刺々しさは失われていませんが。
その歌声はナイーブさを残しつつも、大声を張り上げる場面も激増しています。
全てをなぎ倒すほどパワフルというわけではありませんが、突き進もうとするような強いエネルギーを感じます。
前進への意思とも解釈できるかもしれません。

もちろん、彼等の武器であった平坦さとシンプルさの奥に潜む透徹エモ・サウンドは健在です。
平坦なギターフレーズに湛えられた豊かな感情も、
隠し味のように振りまかれるピアノやシンセの完璧な美しさも。

本作はインディーの帝王Pinback節は健在なまま、大胆にキャッチーさも取り入れています。
文化系的な華奢さは健在ですが、世界を睨むような眼差しの強さに心を惹かれます。

USインディーとしてPinbackを極めたアルバムといえるかもしれません。

(3)肉体的な躍動感期(Temporary Residence在籍時)

MonoExplosions in The Skyなどが在籍しているTemporary Residenceへの移籍後にリリースされたアルバムです。
特徴としては下記のとおりです。

  • 文学的な繊細さが特徴だったが彼等のサウンドが、肉体的な躍動感へ変貌を遂げる。

この一言に尽きます。
では、見ていきましょう。

(5th)Information Retrieved

ロックの肉体性を強く感じるアルバムです。

最初の音が鳴った瞬間、まずダイナミックさに驚かされるはずです。

平坦ながらも力強さを感じさせるエレキギターやピアノの旋律、
唸りを挙げるドラムスとベース。
声を張り上げるボーカル。
とにかく、今までにない前進していくようなパワーが印象的です。
過去作にないほどの小気味よさを感じる瞬間も多く、それが壮大なカタルシスへと連れて行ってくれます。


もちろん今までのようなインディー的エモさがある曲も健在です。
美しい景色を聴き手に想起させる叙情性は、感嘆するほかありません。
ただ曲の根幹を成すビートの在り様が完璧に異なっています。
とにかく、しなやかなのです。
豹やチーターなどの肉食獣を連想させるというべきか、美しさと攻撃性が見事に同居しています。

そして、ビートがしなやかである以上、その上に構築されるギターやボーカルも肉食的なものに変容しています。

今までも瑞々しいエモさは損なわれていませんが、サウンドを構成する細胞はがらりと変わっています。
美しくも危険な、肉食動物のそれへと。

肉体的な美しさに思わず感銘を受けるアルバムです。

まとめ Pinbackというバンドの魅力は何なのか? 解散してもおかしくないような不安定さがおすすめのポイント

いかがでしたか。

Rob CrowとZach Smithはどちらも素晴らしい才能を持っています。
二人とも歌います。
二人とも複数のソロ・プロジェクトを抱えています。
さらにRob Crowは音楽活動からの引退を宣言するなど中々の波乱を起こしています。

非常に多才な二人が、そこには当然ばちばちと火花がぶつかり合うこともあるのではないでしょうか。

そんな二人が組むからこそ生まれるの危うさも、彼等の魅力なのかもしれません。
そして危うい存在ということは、彼等はやはり美しくも獰猛な肉食動物のような存在なのかもしれません。



それでは。

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