ハトシェプスト 古代エジプト王朝唯一の女ファラオ/山岸凉子

こんにちは。

面白い漫画を読んでしまったので語らせてください。

山岸凉子先生による『ハトシェプスト 古代エジプト王朝唯一の女ファラオ』です。



ハトシェプストは紀元前十五世紀に古代エジプトを納めた数少ない(唯一ではないですね……)女性ファラオです。

本作にはそんな彼女を主役に添えた物語などが収録されています。

『ハトシェプスト 古代エジプト王朝唯一の女ファラオ』 の魅力

本作は「ハトシェプスト1」「ハトシェプスト2」「イシス」の三編構成となっています。

「ハトシェプスト1」「ハトシェプスト2」はハトシェプスト女王の若かりし日々を描き、「イシス」は古代エジプト神話に登場する夫婦神オシリスとイシスを中心として物語が描かれています。

ただ、三分の二を占めるハトシェプストが本著の主役と言ってよいでしょう。

ハトシェプストは親族関係などがかなり分かっているうえにクレオパトラのように「女」を使った振舞いが記録されているわけではないので、現代のジェンダーに苦悩する作家の感情を投影されることがしばしばある人物です。

それは本作『ハトシェプスト』においても変わりません。
ただ、山岸凉子先生の描く物語が傑出している点は、そんな「女らしさ」「男らしさ」「ジェンダー」といった社会的要素に苦労を感じている人と感じていない人との対関係を随所に散りばめていることです。

例えば、「ハトシェプスト1」の主役となるのは双子の姉妹です。一方は美人であまり知性的でないため男性から好かれますが、もう一人は美人ではなく頭が良いため男性や社会との折り合いが良くありません。

そんな社会における光と影のような対立構造が複数存在し、絡まりあいながら物語の軸になっています。

しかし、そんな二項対立を明示したうえで物語が進むにつれて、人も世界もそんなに単純ではないということをさりげなく示していきます。
この辺はネタバレなのであまり語れないのですが……。

物語の結末も、どこか満たされない虚しさを多分に含んだ味わい深い余韻を感じさせてくれます。

ハトシェプストも良いけどイシスも良いよ!

本著の最後を飾る『イシス』も素晴らしいです。

登場人物はエジプト神話ですが関係性は昔ながらの日本的家父長制が投影されています。

長子として生まれ、安定した将来を手にするオシリス。
長子でないために兄オシリスに様々な局面で譲らねばならないセト。
可愛らしいが、あまり知性的ではないネフティス。
変わった外貌をしてコミュニケーション能力に欠いたイシス。

この4人が複雑な対関係を形成しながら、徐々に話はイシスを中心にしてどろどろとした展開を見せていくことになります。

エジプト神話をここまで日本的で湿っぽい関係にリライトできるのは本当に驚きでした。

『ハトシェプスト 古代エジプト王朝唯一の女ファラオ』は歴史モノというよりも耽美モノ

少女漫画家が描いただけのことはあり、本作にはリアリティのある古代エジプト漫画ではなくエジプト風のオリエンタルで耽美な空気感があります。

『ハトシェプスト』シリーズのホモソーシャルな関係性から匂い立つ、触れたら壊れてしまいそうな妖しさなども非常に魅力的です。

古代エジプト文明が本来持っていた魅力を、日本的な想像力を触媒として幻想的に昇華した物語と言えるでしょう。

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