優良エレクトロニカ・レーベルn5MDの歴史を(ざっくり)振り返る。~おすすめの名盤達と共に~

こんにちは。

n5MDは主にエレクトロニカにカテゴライズされる音楽をリリースしているMike Cadooが創設したインディーレーベルです。


<Emotional Experiments in Music> をコンセプトにしており、SubtractiveLAD、Near The Parenthesis、Last Daysなどの自己主張は控えめながらも情緒的な音楽を、数多くリリースしています。

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本記事は、

  • n5MDの歴史を(本当にざっくり)振り返りつつ、
  • 所属アーティストを大まかに分類し、n5MDに興味がある人が足を踏み入れる一助となる

ことを目的としています。

では、さっそく見ていきましょう。

n5MDの始まりと日本での需要 認められなかった数多の名盤

n5MDの特徴

n5MDの活動は20年ほどになり、エレクトロニカとカテゴライズされる音楽のシーンにおいて一定程度の存在感を持ち続けています。
もう老舗と言える立場でしょう。

レーベル全体の音楽的傾向としては、

  • エレクトロニカ/IDM的であり、
  • メロウかつエモーショナルであり、
  • 強烈なオリジナリティ/アイデンティティを追求する「我」の強さがない

といったところになるかと思います。

n5MDの誕生をざっくりと

n5MDは2000年末頃の活動を開始しています。

当初はn5MDという名前が示すとおり(no fives――CDのこと―― Mini Discs!)MDでのリリースを行っていました。

しかし、2003年にソニーがMDから撤退して以降はCDでのリリースに切り替わっており、現在ではCD/デジタル/LPでのリリースが主流になっています。

n5MDの日本での需要

日本におけるメディアからの否定

実際、IDM自体が様式化してから湧き出てきたフォロワーの類は「後には何も残らない音楽」という意味では同じ不毛さがあり、Aiレコーズやn5MDといったレーベルはあえて本書では扱わなかった。

三田格編『IDM Definitive1958-2018』,Pヴァイン,P4

2018年に出版されたIDMのディスクガイドからの引用です。

なかなかショッキングな言葉ですね。
n5MDが活動を開始した2000年前後にIDMを愛好していた方々にとって、IDMとは「何かが残る」音楽であり、n5MDはそうではなかったということになります。

確かに当時のIDM/エレクトロニカには先進性/自由さがありました。
そして、強烈なオリジナリティもあり、多くの方々を魅了する蓋然性は十二分にあったと思います。

ところが一部のIDM/エレクトロニカリスナーを惹きつけない要素(様式美的)を持った勢力が現れたせいで、彼等はIDM/エレクトロニカに裏切られたと感じてしまう。

期待を裏切られた。それはある面においては明確な事実です。
彼等にとっては、とても深い失望であったのかもしれません。
ただ、それはそれとして、違う面から見てみましょう。

n5MDの立場からすれば、「勝手に期待をされて、勝手に裏切られたと主張されている」とも言えるわけです。
それもまた、明確な事実です。

ここでどちらが正しいかを論じる必要性は感じません。
ただし、「勝手に期待をされて、勝手に裏切られたと主張されている」 n5MD側の視点も存在している方がフェアだと思うのです。

つまり、n5MDはシンプルに良い音楽をリリースしているだけ、という立場からです。

……何だか甘酸っぱい別れ話みたいですね。

n5MDを広めた勢力とは

草の根的な、店舗やオンラインショップの影響だと思います。
n5MDの日本での需要において、外資系レコード店やLinus Records等の輸入盤店の存在は、きっと大きかったでしょう。

本記事におけるn5MDのまとめ方

まず、下記の3段階に分けて論じます。

  • 誕生期(2000年頃~2005年頃)
  • 成長期(2005年頃~2015年頃)
  • 現在(2015年頃~)

さらには、論じ方においては下記を原則としています。

  • アルバム単位で論じる

アーティスト単位ではアルバムごとの作風変化に対応できないからです。

  • 肩の力を抜いて緩く語る

n5MDのアーティストはあまり我を押し出そうとしない側面があり、真剣にカテゴライズ/ラベリングをするという行為との相性が良くないように感じます。
木漏れ日や水面をピン止めにして標本にするような、無謀さがあると感じました。


それゆえ、楽しく緩くまとめてみました。
もし本記事を読んで僕と同じように楽しんでいただけたなら嬉しいです。

長くなってしまいましたが、そろそろ本題に入ります。

n5MDの歴史を(ざっくり)振り返る ~おすすめの名盤と共に~ :誕生期編(2005年頃まで)

本記事では、ある程度CDでのリリース体制が整ったころからスタートします。

この時期の全体的な特徴としては、IDM的な硬質さ/先鋭さがまだ残っているということが挙げられます。
まだリリース数も少なく、後のように叙情的/文学的のみではない荒々しさが感じられます。

IDM的な性向の強いアーティスト

Bitcrush/Enarc

Bitcrushはn5MDのオーナーでもあるMike Cadooのユニットです。

耳触りがよくやや上向きなビートとSF的なウワモノの組み合わせを土台にしつつ、
時折Squarepusherばりの凶悪なドラムンベースや初期
Ninja tuneのようなギークなヒップホップが顔を出すこともあります。
そのサウンドはまさに変幻自在です。

n5MDらしい柔らかな美しさとその前段階としてIDMらしい硬質さを兼ね備えた、始まりの一枚に相応しいアルバムと言えるでしょう。

余談ですが、次作にあたるIn Distanceでは叙情的で生音重視のポストロック的なサウンドへと変化しており、その後のn5MDが辿る変遷を象徴しています。

Keef Baker/The Wildness Years

メロウなシンセから始まったと思うと、一気に攻撃的なドラムンベースがそんな叙情性を蹂躙していきます。

という驚きのアルバム冒頭から始まり、n5MD的なエモーショナルさをふんだんに含みつつ、緩急織り交ぜた攻撃的なビートを主役にしたサウンドを展開していきます。

そして、この攻撃的なビートと柔らかなウワモノとの乖離が本作The Wildness Yearsの魅力です。
メロウなシンセの下で暴れ狂うビート、
バッキバキのベースシンセ、
そして、荘厳なダンサブルなクライマックス。

凶悪さが奏でる叙情性に、心奪われるアルバムです。

Vesna/Snow Scenes

硬質さはあるものの、上記2作のような攻撃性は控えめになっています。

ひんやりとした地下空間を連想させるようなシンセ/エレクトロニクスに、
転がるように揺れ動くビートが絡み合い、終始ダウナーな雰囲気を生み出しています。


時にジャジーになったりしつつも、不穏なサウンドスケープが淡々と続いていきます。
本作は彼等の故郷ロシアの雪景が色をコンセプトに創られたそうです。

ロシアの雪景色は、こんなにも荒涼としているのでしょうか。
そんなことを考えさせてしまうアルバムです。

n5MDの歴史を(ざっくり)振り返る ~おすすめの名盤と共に~ :成長期編(2005年頃から2015年頃まで)

この頃からいわゆるn5MD的なスタイルが確立され、控えめで叙情的なアルバムが多くリリースされるようになります。
また、「n5MD的」という形容詞の枠内においてではありますが、ラインナップが多彩になってきます。

本記事では、下記の6パターンに分類しました。

  • n5MD王道エレクトロニカ(穏やか系)
  • n5MD王道エレクトロニカ(物憂い系)
  • アンビエント系
  • シューゲイズ系エレクトロニカ
  • ポストロックっぽい
  • 日本のインディーレーベルのライセンス

おそらく過去にこういう分類の仕方は存在していなかったと思いますが、先ほども申し上げたようにふんわり分けています。ご了承ください。

n5MD王道エレクトロニカ(穏やか系)

控えめだけどエモーショナル、そんなn5MDの王道を突き進むタイプです。

Near The Parenthesis /L’Eixample

「n5MDと言えばどんな音?」と世代性別国籍バラバラの人々に問いかけて、その平均を取ればこんな音になるんじゃないかなあと思っています。

軽やかに転がるビート、透明感に満ちたシンセ、のびやかに広がるエレクトリックギター。
それらが集い、溶け合い、しっとりとした叙情性を描き出します。

エモーショナルだけれども、聴き手に感情を押し付けるほどに強烈ではなく、そっと慈しむように寄り添ってくれる。

とても愛おしくなる音楽です。

SubtractiveLAD/No Man’s Land

この時期のn5MDを支えたのは間違いなくSubtractiveLADです。

彼は2005年に1stアルバムをリリースしてからコンスタントにn5MDからアルバムを世に送り出していき、その作風は硬質なIDM調から徐々にアンビエント/ドローン調へと変化していきます。

そんな中で一番n5MDっぽいのが、本作No Man’s Landです。
打ち込みのビートやシューゲイズ調のギターが分厚いレイヤーを作ることもあれば、柔らかなシンセのドローンがふわふわと揺らめくこともあり。

人間的な温もりに満ちたサウンドで、
それと同時にいかなる時にも叙情的で、
胸を打つような旋律が鮮烈に響きます。

初期衝動が仄かに香る、柔らかなレイヤーとビートの力強さが有機的に混ざり合ったアルバムです。

Aerosol/Airborne

Aerosolは上記2組と比べるとややアンビエント寄りです。

ManualことJonas Munkと一緒にLimpとして活動していたRasmus Rasmussenのソロ・プロジェクトです。

スロウでひそやかな打ち込みのビート、
優しい響きのシンセ、
透き通るようなエレクトリックギターのアルペジオ、
慈しむ様なアコースティックギターのストローク、
それらが折り重なり、ゆっくり溶け合い、心地よい揺らぎを醸成していきます。


身体を預けたくなるような、光に満ちたハンモックのようなそんな音楽です。

n5MD王道エレクトロニカ(物憂い系)

こちらも王道的ですが、雰囲気がやや暗めです。
暗めですが、童話的だったり、SF的だったり、ダビーだったりと個性は様々です。

Damiak/Micalvera

簡単に言ってしまえば、mumによく似ています。

それもFinally We Are Nooneの童話性/妖精性を保ちつつ、summer Make Goodのようなダウナーさを持ち合わせたような。
さらには突然場末の酒場で飲んだくれる哀愁漂う男性が登場するような、多様な色彩も兼ね備えています。

軽やかなエレクトロニカなビートのうえで揺らめき踊るのは、ギター、ストリングス、オルガン、シンセ等々様々な楽器です。
様々なサウンドレイヤーが入れ代わり立ち代わり現れます。
その全てがが俯き加減で仄かに陰鬱ですが、それでも総体としては美しい世界を創り上げています。

現実の残酷さを淡々と描いた童話のような、そんなアルバムです。

Arc Lab/No Spectre

DamiakのMicalveraが童話的/妖精的なら、Arc Labの本作はSF的です。
ただ、仰々しく未来的というわけではなく、淡々とした曲調から都会的/近未来的な質感が漂ってくるという感覚です。


アルバムを通して物憂い色彩に統一されており、大きな起伏はありません。
重さを感じさせない耳触りの良いビート、
金属的ながらも温もりを感じさせる響きのシンセ/エレクトロニクス、
その両者が組み合わさり。静かな化学反応がそっと続いていきます。

憂鬱な雨の日に都会の車窓を眺めるような、胸の奥から甘い痛痒が立ち上がってくるようなサウンドスケープが静かに始まり、静かに流れゆき、静かに終わる。
そんな隠れた名作です。

Preghost/Ghost Story

薄暗い銀世界のような刺すような冷たさを感じさせるアルバムです。

冷冽なドローンのレイヤーのうえで、凛然としたエレクトリックギターや儚げなピアノの音が姿を見せ、時に陶酔的なダブテクノ的なビートがうねり、物憂げな陶酔感が醸成されています。
そして、積み重なるサウンドテクスチャーは荘厳なカタルシスを構築します。

別名義Moshimossの祝福感とは明確に異なる、陰鬱としながらも透徹としたサウンドスケープです。

幻想的でありながらも逃避的な気配は皆無であり、峻厳な雰囲気を漂わせたアルバムと言えるでしょう。

アンビエント系

エモーショナルで美しい叙情性があるという点においては共通していますが、描かれるサウンドスケープは皆異なります。

ただ、n5MD的な我の控えめさとは相性の良い音楽であり、クオリティは高いと感じます。

Last Days/Sea

このタイプの代表格であり、n5MDの代表格でもあります。
彼の作品は一貫してエレクトロニカ的アンビエントが土台になっており、なおかつアルバムや曲のタイトルからストーリー性を感じらるようになっています。

本作Seaは、「現代的な生活とそれについて回る全ての責任からの逃避」という物語に基づいてアルバムが制作されています。
曲のタイトルを見ていると、たった一人で極寒の地域を目指して無謀な冒険を行い、死の淵をさ迷った挙句、辛うじて救出されたような物語の流れを感じます。

アコースティックギターのアルペジオ、
ピアノの余韻、
シンセの浮遊感、
雨や雪のように降り注ぐグリッチ。
楽曲は極めてシンプルで、櫂を漕ぐように淡々と進みます。

悲壮感はなく、静謐に物語は進み、そして終わります。
一部の無駄もなく、見事に完成されたアルバムです。

※Last Daysについた語った記事もあります。もしよければご覧ください。

Ex Confusion/Embrace

Ex confusionはAtsuhito Omoriによるプロジェクトです。

淡くディレイ/リバーブがかかったエレクトリックギターが幾重にも重なりながらドローン調に棚引き、
ノスタルジックなエコーをかけられたピアノがノスタルジックな旋律を奏でます。
複雑な展開などがあるわけではないのですが、とにかく、この深くかかったエコーに否が応でも感傷を呼び起こされます。

遠い昔の思い出のように触れたら壊れてしまいそうな繊細な世界が、蜃気楼のように立ち昇ってくる。
そんな感覚に浸れるアルバムです。

Mark Harris/The Angry Child

本作The Angry Childは奥行きを感じさせるアンビエント・サウンドスケープを構築しています。

Last Daysが物語性、Ex Confusionが精神性なら、Mark Harrisの本作は空間性です。

サウンドの節々から伸びやかな広がりを感じさせます。
きらめきながら折り重なるドローンシンセを中心にしつつ、ストリングスやピアノの音色が度々そよ風のように通り過ぎていきます。
しとやかな音色の集合体は、光の洪水のようなイメージを喚起させます。

果てしなく広がる光に包まれているような感覚になるアルバムです。

シューゲイズ系エレクトロニカ

Lights Out Asia/ Tanks And Recognizers

壮麗なエレクトロニカ+シューゲイズ+ポストロックサウンドです。

メロウな打ち込みのビートのうえに、ディレイがかったエレクトリックギターや棚引くシンセ/エレクトロニクスが優しく棚引き、さらには雲間から差し込むように神々しいピアノの音色が顔を出すこともあります。

また、n5MDには珍しく我の強さを感じさせる瞬間も多くあります。
ストリングスが荘厳さを演出し、メランコリックなオルゴールの音色が入ったり、ディストーションと強烈なディレイ/リバーブが重なってかかったりする。
抑制された壮麗さの中に内向的な激しさを内包し、時折それを爆発させるような。

インディーロック的でありつつエレクトロニカ的でもあり、シューゲイズを消化した先にある美しい響きを楽しむことができるアルバムです。

Winterlight/Hope Dies Last

Ulrich SchnaussやGuitarなどの影響が明瞭に感じられるアーティストです。

ゆっくりと弧を描く様なスロウなビート、
軽やかに跳ね回る低音、
澄み渡るエレクトリクギターの音色、
時に薄く時に濃密に立ち込める甘美な透明感に満ちたシンセのレイヤー。

いわゆるシューゲイズ・エレクトロニカ的な方法論に則っていますが、余分な虚飾がないのが本作の特徴でしょう。
聴き手の胸にぐいぐい迫る様な荘厳さはありません。
サウンドスケープは徹底的にシンプルで、だからこそふわりと香るメランコリーが愛おしく感じられます。

ポストロックっぽい

前述のシューゲイズ系エレクトロニカと区分が曖昧なところがありますが、こちらはバンド的な骨の太さがより強く感じられるものを選んでいます。

To Destroy A City/Sunless

n5MD的な控えめな叙情性やエレクトロニカっぽさを残しつつも、Explosions in The SkyやSaxon Shoreのような煌びやかさとMogwaimのような緊張感を感じさせるポストロックサウンドです。

伸びやかなエレクトリックギターの音色、
ロック的なビート感を感じさせるリズムセクション、
時折顔を覗かせる透明感のあるシンセ、
静/動の切り替えによるカタルシス等々、
轟音系ポストロック的方法論を用います。
しかし、「動】の発露はやや抑制されており、ギターのきらびやかさが前面に出ています。

n5MDでは数少ない、力強さを感じるサウンドです。

Dalot/Mutogibito

エレクトリックギターがサウンドの中軸を担っているという意味ではギターロックとも呼べるかもしれません。

ノスタルジックで牧歌的な雰囲気が、優しい気持ちにしてくれます。
打ち込み/生ドラムスを使い分けた心地よいビート、
伸びやかなベースライン、
キラキラとしたシンセ/エレクトロニクス、
胸を打つ旋律を紡いでいくエレクトリックギター。
ドローンな曲を挟みつつ、アルバム全体として緩やかな起伏を描く展開が続きます。

ポストロック/エレクトロニカの汽水域に花開いた、素晴らしいアルバムです。

日本のインディーレーベルのライセンス

この時期に日本のインディーレーベルからリリースされた作品のUS盤を世に送っています。
どちらも非常に素晴らしいアルバムです。

ent/Welcome Stranger

ストレイテナーのフロントマンによるソロアルバム。Precoからリリースされていたものです。

宅録歌ものインディー/エレクトロニカ的で穏やかな叙情性も美しいのですが、人気バンド出身者らしい求心力のあるメロディがとても印象的です。

囁くようで控えめなボーカルの声色、
エレクトリックギターとシンセが絡み合って織り成すメランコリックなサウンドレイヤー、
控えめで温もりのあるリズムセクション。
展開の起伏はなだらかですが、時に心地よくも鮮烈な盛り上がりをすることもあり、心洗われるような美しい光景を見ているような感覚を覚えます。

朴訥とした慈しみを感じさせるアルバムです。

horogram/hologram+

こちらは残響からリリースしていたポストロックバンドです。

slow core/sad coreの影響を感じさせるスロウな曲調と、コーラスを深く効かせたエレクトリックギターの透明感が魅力的です。

スロウなドラムス、
ミニマルなうねりをそっとそえるベース、
揺らぎの美しさを奏でるエレクトリックギター、
時折顔を見せる、幻想的でふわりとした女性ボーカル、
ミニマルに、ひそやかに、透き通るような美しさを蜃気楼のように揺らめいています。

凛として、メランコリックで、早朝の空気のような、澄んだ美しさを感じさせます。

n5MDの歴史を(ざっくり)振り返る ~おすすめの名盤と共に~ :現在編(2015年頃~現在) ちょっと暗鬱な感じに?

近年においてもn5MDは良くも悪くも変わらず、優良なエレクトロニカサウンドの音楽を供給しています。

ただ、全体的に暗い雰囲気をまとう作品が増えているように感じます。


ウィッチハウスやヴェイパーウェイブ等の影響なのか、あるいは自体的背景によるものなのか、そのあたりは定かではありません。

この時期は下記の3つにふんわり分けています。

  • 憂鬱なエレクトロニカ
  • n5MD王道エレクトロニカ(新世代)
  • シンフォニックなドローン/アンビエント

では、見ていきましょう。

憂鬱なエレクトロニカ

Okada/Love Telepathic

ダブステップやトリップホップなどの影響をウィッチハウス、ヴェイパーウェイブなどのスロウで憂鬱なサウンドスケープに溶かし込んだ、ダークで陶酔的なアルバムです。

オーセンティックなエレクトロニカ、というよりも明確にビートミュージックの影響を受けているとも言えます。

スローモーションな躍動感と沈み込む様なダウナーさを兼ね備えたビート、
深淵から静かに昇ってくるようなメランコリックなシンセ、
壮麗な響きを残しては、水面の波紋のようにそっと溶けていく女性ボーカル。

徹頭徹尾、聴き手を優しく引き込む様な甘美な吸引力に満ちています。
ただし、現実感のないぼやけた感覚だけではなく時折芯の太さも感じさせます


幻想的で、憂鬱的で、逃避的で、だけど脈打つような生命力も感じさせるアルバムです。

(Ghost)/Everything We Touch Turns To Dust

詩情に溢れるタイトルと悲劇的結末のSFボーイミーツガールを想起させるジャケットアートが想起させるとおり、物憂いSF調のエレクトロニカ/IDMがとても印象的です。

90年代~00年代フレーバーでオーセンティックなサウンドが物語るのは、彼の過去作から続くストーリーです。

ディストピア的な現代社会に目覚めた主人公は、紆余曲折を得て最終的に逃避場所を見つけるという結末を迎え、物語は終わります。
金属質で近未来的なサウンドにはその細部の隅々までメランコリックなエモーションが染み込んでおり、心地よく転がるビートや柔らかなシンセの音色と共に物語の世界に浸ることができます。

なお、本作はヴェイパーウェイブやダブステップに影響を与えた現代思想「暗黒啓蒙」ともリンクしているような印象を受けます。

余談ですが、公式サイトによれば本作は(ghost)が愛して止まない00年代のエレクトロニカを支えたMerckへの追悼という側面もあるそうです。

どちらのストーリーとして聴くのはあなた次第だそうです。

Tangent/Approaching Complexity

ミニマルな緊張感が張り詰めている、エレクトロニカ/IDMサウンドです。

薄い空気のように立ち込めるドローンなシンセ、
不穏な静けさの中に打ち込まれる重たいキック、
無機質に生成されるグリッチノイズ、
大きな存在感を放つ、冷たくも叙情的なピアノの音色。
全体としてはアンビエント寄りのサウンドになっており、叙情的ではありますが甘美さは控えめで峻厳なサウンドスケープに仕上がっています。

荒涼とした情景の中で静かに吹き去っていく風のような孤独な美を、精緻に描き切ったストイックなアルバムです。

n5MD王道エレクトロニカ(新世代)

老舗レーベルと言えど、時代が変わればサウンドは変わります。
n5MD的な控えめな叙情性は保持していますがビート・ミュージックなどの影響を受けつつ、瑞々しい「今」を強く感じさせます。

Fall Therapy/You Look Different

「n5MDという多元宇宙の中にある沢山の音楽を聴いて」育ったという、n5MDチルドレンのデビューアルバムです。

「叙情的でエモーショナルでありつつ、聴き手に寄り添うような音楽」というスタイルは完璧に踏襲しつつも、ビートミュージック全般の影響が匂い立っているのが特徴です。
あと、とにかく澄み切った若々しさを感じます。


浮遊感と幻想感を併せ持つシンセのうねり、
ノスタルジックなアコースティックギターやピアノの響き、
未来を切り開く様な力強さと甘酸っぱい内向性を併せ持つエレクトリックギターの旋律、
心地よい陶酔感を燻しだすビート、
時折挟まれる少年性を色濃く残したボーカル、
メロウな要素が変幻自在に現れては混ざり合い、叙情的な色彩は揺らめくように形を変えていきますが、いかなる時も瑞々しさは失われません。

控えめに抑制しつつ、その奥に潜む少年的で壮大な夢想を感じさせるアルバムです。

Axel Rigaud/Transformation

n5MD流ジャズ・エレクトロニカとも言うべき流麗なサウンドです。

サックスやフルートの色気漂う音色の周りで、熱を秘めたエレクトロニカビートがスウィングしているような印象を受けます。

ジャズ的な肉感をエレクトロニカ的幻想に取り込んだ結果、両者が互いの触媒となって随時変化をしているような、両者が完全に融合しきっていないがゆえの不安定なエネルギー反応が魅力的です。

サウンドの土台はn5MD的で自己主張しすぎない叙情なのですが、それを創り上げている血管や筋肉が熱い血潮にたぎっており、ヒリヒリするような緊張感があります。
今まであまりいなかったタイプではないかと感じます。

余談ですが、彼は自分が演奏している様子をYoutubeにアップしています
見ていると楽しいです。

シンフォニックなドローン/アンビエント

たまたまなのか、特に最近ドローン/アンビエントな作品が多く見受けられるように感じます。
今後のn5MDにおいて重要な役割を担うタイプかもしれません。

PCM/Attraverso

白色の霧が徐々に立ち込め、気付いたら分厚い蜃気楼に取り囲まれているような感覚を覚えるアンビエントアルバムです。

一言でいうならば、荘厳さを感じさせるノイズやドローンを効果的に使用するタイプです。
シューゲイズ的な内向性と楽園的な聖性を併せ持つシンセやフィードバックノイズが重層的に重なり、壮麗な啓示的なカタルシスに向けてじわじわと侵食するように達していきます。

優美で慈愛的ではありますがその奥には凶暴さにある凶暴さも感じさせてくれます。

Bvdub/Heartless

様々のレーベルで数多くの作品をリリースしているBvdubですが(本作が29thアルバム)、近年のn5MDでの作品においてはビートレス/アンビエントな作風が目立ちます。

特に本作Heartlessは荘厳なドローン調を多層的に組み合わせた、息を呑む様な美しさを見せている注目作です。

聖性を深く感じさせる美しいシンセ、
祈りのような美しい旋律を奏でるピアノ、
儚く揺れては消えていくささやかな歌声、
滲んで溶けていくように混ざり合い、時にシンフォニックなカタルシスを歌い上げます。

深い叙情性を讃え、光の雲の奥底で漂うような一体になるような体験をさせてくれるアルバムです。

終わりに n5MDというエレクトロニカレーベルの存在意義について それでも僕はn5MDをおすすめしたい

n5MDの音楽には圧倒的な「個」の存在感があるわけではありません。
それはつまり世界の革命や自己の変革を音楽に求める方にとっては、とても退屈な音楽と感じられるということです。

ただ、n5MDの本質は聴く者の日常にそっと寄り添い、そっと去っていくというものです。
n5MDは決して自分や世界を揺るがす壮大なロマンを与えてくれるわけではありません。

しかし、「そっと寄り添ってくれる」ことを音楽に求めるということが、咎められることだとは僕には思えません。
音楽の好みは人それぞれであり、音楽に何かを求める事情も人それぞれです。

n5MDの音楽はは日常にそっと寄り添い、そっと離れていく。
その後には、いつもと同じ日常が少しだけ違って見えるようになっている。
そんな力がn5MDの音楽にはあると思うのです。

それでは。

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