こんにちは。
Movietoneは1994年に結成されたKate WrightとRachel Brookをコアメンバーにするロックバンドです。

その音楽性はスロウコア/サッドコア、ポストロックというタグ付けと共に紹介されることが多いようです。
アルバムによってスタイルは異なりますが、ジャズやブリテッシュフォークの影響を感じさせる静謐なサウンドを特徴としています。
2021年6月現在、Movietoneは4作のフルアルバムをリリースしています。
本記事ではその全てを見ていきます。
目次
Movietoneのアルバム一覧
これからリリース順にアルバムを見ていきますが、文字だけでは足りないと思って相関図を作成してみました。

では、本題に入りましょう。
(1st)Movietone(First Album)
Movietoneの中でも最もスロウコアらしい作品と言えるかもしれません。
淡々としつつもダウナーなギターとぼそぼそと呟くような女性ボーカルを軸にした、生々しい苛立ちを滲ませるサウンドが展開されています。
ただ、ピアノやストリングス等が要所要所で顔を出すなどしていることもあり、全編にわたって気品を醸し出しているのも特徴です。ブリテッシュ・フォーク的な匂いもほのかに立ち込めています。
ビートの存在感が虚ろで、輪郭のぼやけた柔らかな響きがゆったりと風に流されるように続いているのも特徴でしょう。
かと思えば、ノイジーなサウンドで神経剥き出しの感情を凄絶に放出する瞬間もあったりと(時にフリージャズ的なインプロビゼーションも)、良い意味で不安定さを感じさせます。
静謐さを基調とするサウンドはその抑制された質感の中に豊かな色彩は誇っており、情緒の移り変わりを表出しているように思います。
全編にわたって共通しているのは、ナイーブさでしょう。
透明感があって、不安定で、優美で、陰鬱な感情が漂っていて。
粗削りではあるものの文学的アンダーグラウンド・ロックミュージックとも言うべき、内省的な感性が結晶化しようとしているようなアルバムです。
(2nd)Day and Night
静謐でシンプルなスロウコア的サウンドに、ジャジーな質感を帯びているのが本作の特色でしょう。
バンドサウンド的な構成要素の上にピアノ・エレピ・管楽器等を使用したジャズ的・ボサノボ的で大人びた音色が重なり、物憂く淡々としたサウンドを構成しています。
アンニュイな囁きのようなボーカル、
脆く繊細な音色を爪弾くギター、
スロウで繊細なグルーヴを刻むドラムスとベース。
インディーロック的・直接的に怒りを放出するのではなく、柔らかく艶やかなサウンドスケープを通してその感情を表明しているように感じられます。
抑制美の奥に潜む底の見えない暗闇が放つ、妖しい煌めき。とでも言えば良いのでしょうか。
不穏さや不気味さを微かに秘めた、微熱のような透明感はなんとも言えず蠱惑的です。
暗鬱としたダウナーさと美しく澄んだ玲瓏さが分離することなく混ざり合い、気品を帯びつつも情念的な色彩が全編を覆っています。
上品・知性的な静謐さは決して損なわれていないものの、その隅々まで生々しい暗鬱さが息づいているようなバランス感覚は絶妙で、その危うさも魅力になっています。
ジャジー・スロウコアとも言うべき、静かな情熱を秘めた美しいアルバムです。
(3rd)The Blossom Filled Streets
スロウコア的・内省的で静謐な生々しさの内側で、フリージャズ的な熱が脈打っている作品です。
前作よりも芳醇なテクスチャーになっているのが印象的です。
叙情的・知性的な抑制美を湛えているのは変わらぬ魅力的と言えるでしょう。
実験精神が内在する微熱、
様々な楽器による柔らかで馥郁とした余韻、
それらもまた基調となり、透明感に満ちた情念が優しく紡いでいます。
激しい苦悩に晒された末に糸が切れてしまったような穏やかな失意を、個人的には感じます。
囁き呻くようなボーカル、
儚く繊細なギター、
ジャジーな空気を帯びた雨粒のようなピアノやストリングス、
かき消えてしまいそうなジャズ・ニュアンスなビート、
音と音の「間」には研ぎ澄まされた緊張感が漂い、繊細で文学的な響きの中にもアンダーグラウンド的でざらついた感情が波打っています。
凛然とした透明感と、滲み出てくるようなダウナーな感情。
両者がその豊かさを失うことなく混ざり合っています。
その一方で、フィールドレコーディングやアブストラクトで音響的な側面も印象的になり、初期のポストロック的な探求心も顕著に感じられるようにもなっています。
また、インストのトラックが印象的になっているようにも、個人的に思います。
Movietone的なナイーブで生々しい感性が、深化しているアルバムと言えるでしょう。
(4th)The Sand and The Stars
上品でアンニュイな空気感はそのままに、メロウでアコースティックになっているのが印象的です。
ただ、静謐さの中に強烈なダウナーが潜んでいた過去作に比べると、随分とふわりとした質感になっています。
実験的なニュアンスもやや後ろに下がり、アコースティック・バンドサウンドを基調としたノーマル・スロウコア的な側面が強くなっています。
Movietoneらしい繊細で文学的な感性を、真っすぐに表現しているのが本作の特徴でしょう。
か細いながらもメロディアスさを増したボーカル、
繊細ながらも素朴さを兼ね備えたギター・バンジョー、
シンプルながらも美しいピアノやストリングス、
霧や雨音を連想させるような、静謐でしっとりとしたベース・ドラムス、
全編を通じて大人びた柔らかさを帯びており、繊細で落ち着いたトーンで統一されています。
時折見せるジャジーな雰囲気もソフトでたおやかな響きを帯びており、森や湖のような素朴ながらも幻想的な響きを感じさせます。
澱みのない、まっさらな響きが伸びやかに続いていくような、繊細で優しいアルバムです。
コメントを残す