アラブの香りを身にまとい、数多のビートを自在に操るエレガントな鬼才。Maurice Loucaのアルバムについて。


こんにちは。

Maurice Loucaはエジプトの首都カイロを拠点に活動する音楽家/作曲家です。

Dwarves of East Agouzaを筆頭に複数のバンドに所属しており、熱気を帯びたカイロのインディーシーンの中心人物に位置する人物です。

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彼の音楽をカテゴライズするのは非常に難しいのですが、電子音楽、フリージャズ、サイケ・ロック、さらにはエジプトの伝統的な歌謡まで幅広くジャンルを横断するようなインストゥルメンタル・サウンドを特徴としています。

Maurice Loucaは2020年8月現在、単独名義のソロ・アルバムを3枚リリースしています。
本作ではその全てを語ります。

Maurice Loucaのアルバムについて

これからリリース順にアルバムを語っていきます。
言葉だけでは分かりにくいと思って、相関図にしてみました。

それでは、順番に見ていきましょう。

(1st)Garraya

1stアルバムである本作はMaurice一人で作り上げた文字通りのソロアルバムになります。

Mauriceのアルバムで最も電子音楽に接近しており、中東的な妖しさをふわりと漂わせたトリップ・エレクトロニカといった様相を呈しています。

ダンサブルではありますがぶちあげるといった感じではなく、もっと内省的な雰囲気が特徴的です。
エレクトリックギターやビートに深いディレイがかけられたシューゲイザー・エレクトロニカ的な感覚を漂わせている曲も多く、中東のインディーシーンにおいては異質の存在と言えるでしょう。

かすかに中東の匂いがするエモーショナルなシンセサイザーの旋律、
エフェクトを深くかけられ、異境の環境音のように響くエレクトリックギター、
時にグルーヴィに、時に心地よくソフトなブレイクビーツを刻むドラムマシーン。

サイケデリックな陶酔感とエレクトロニカ的な柔らかさを併せ持ち、パンク、エレクトロニカ、エジプト歌謡shaabiまで様々なジャンルを飲み込んだジャンル特定不能の陶酔ミュージックを楽しむことができます。

それも若々しく、まだ未完成であるがゆえの荒く青いエネルギーが漲っているのだから溜まりません。

心のうちで渦巻くエネルギーをエフェクトに込めた、アラブ風エモ・ビートミュージックとも言えるアルバムです。

(2nd)Benhayyi Al​-​Baghbaghan (Salute the Parrot)

13名のゲストミュージシャンと共に作られた本作は、エジプトのストリートを想起させるような力強くオリエンタルな空気に満ちています。

シンセサイザーで奏でられるエジプト歌謡shaabiの旋律を軸にして、アナログ・エレクトリック問わずに様々なサウンドが入れ代わり立ち代わり表れます。
その姿は、豪華絢爛・雑踏喧騒といった汗の香り漂う華々しさを漂わせています。

人間的な熱気とスラム的な鬱屈が混ぜ合わさり、力強い咆哮のような衝動を感じることができるでしょう。

聴き手の心に秘められた熱い感情を高揚させるシンセサイザーの妖しい旋律、
執拗に反復を繰り返し、じわじわと身体を焼く砂漠熱風を思わせるベース、
西洋的なビートを骨格にしながらも中東的で雑多な匂いを漂わせるドラムスやパーカッション。

絶えることなく続くダンサブルなビートは聴き手に陶酔させます。しかし、そこには逃避的な幻想感はなく、闘争的な力強さが常にほとばしっています。

Mauriceは本作がカイロのサウンドやストリートからインスピレーションを受けているといったレビューを多く書かれていることにいら立ちを表明していました。
しかし、裏を返せば、本作がそれだけいわゆる「カイロ的」であることの証左であるとも言えます。

現代エジプトのストリート、その匂いがするインディーミュージック。
希望も欲望も絶望も矛盾も暴力も飲み込んだカオスの一端を、是非楽しんでいただければと思います。

(3rd)Elephantine

アコースティックでオリエンタルな雰囲気――それも西洋の人間がやるような仰々しい異国趣味ではなく当事者だからできる自然体の――と、フリージャズ的な前衛性が魅力になっている作品です。

2ndがアルバム制作中に必要に駆られてバンド体制にしたのに対し、本作は最初からバンド体制を構想しながら作られたそうです。

そのせいでしょうか、オーガニックな躍動感と中東的な響きを併せ持ち、自然に体を揺らしたくなるようなサウンドを特徴としています。
しかし、時にはフリージャズ的で前衛的な曲展開が顔を出すこともあり、無秩序な衝動の解放を感じさせるような破壊力も併せ持っています。


中東の香りを微かに含むアコースティック/エレクトリック・ギターのゆったりとした響き、
砂っぽさを帯びたサウンドに澄んだ音色を散りばめるヴィブラフォン、
数多の管楽器が奏でる生魅力に満ちた解放感、
時に優雅に、時に叩きつけるように、グルーヴを紡ぐドラムスとパーカッション。

砂漠のジャズ、とでもいえばいいのでしょうか。乾いた空気感とジャズの煙たさが両立しているのが印象的です。

ジャズ的な楽器編成で中東の伝統音楽に接近しつつ、中東的な旋律でフリージャズに接近していく。
そんな二律背反のエネルギーが絶えず火花を散らせるような、オーガニックながらも躍動感に満ちたアルバムと言えるでしょう。

結びに代えて Maurice Loucaとノスタルジーの否定

インタビューを見ていて、Maurice Loucaが自分は「ノスタルジーが好きじゃない。あんまり良いものとは思えない。どんな音楽も新鮮であり今である」(ざっくり)というようなことを言っていたのが非常に印象的でした。

中東の音楽にはあまりノスタルジックな響きを感じさせるものがありません。
逃避的、と言えるサウンドも日本と比べると明確に少ないのです。

どんな過去も今である。
そんな風に日常を受け止められる強さが、Maurice Loucaの音楽が秘めるしなやかな力強さの要因なのかもしれません。


それでは。

主要参考サイト

https://downbeat.com/news/detail/maurice-louca-elephantine-northern-spy?fbclid=IwAR08WYjh5QFtbFgpez5Hcwb8CnlVnDoEfFtWoHb9CzRBlqIvHCYUiAJt9pk
Maurice Louca: I want to approach the feeling of being in a band

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