レバノン発、社会に埋もれる苦悩を暴く、エキゾチックで耽美なインディーロック。Mashrou’Leilaのアルバムについて。

こんにちは。

Mashrou’Leilaはレバノン出身の4人組ロックバンドです。

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中東的でエキチゾックな空気感を土台にしつつ、ニューウェーブ的な耽美さを組み合わせたサウンドを特徴としています。
権威に容赦なくかみついたり日々の苦悩を歌う歌詞もレバノンのみなら中東の若者の心を惹きつけている要因とも言えるでしょう。

またボーカルのHamed Sinnoは同性愛を公言しており、その尊厳の主張も彼等の活動において重要な意味を持っています。



Mashrou’Leilaは現在までに合計4枚のアルバム(EP1枚・フル3枚)をリリースしています。
本記事ではその全てを語ります。

Mashrou’Leilaのアルバムについて

これからMashrou’Leilaの全アルバムについて語りますが、文字だけではイメージが分かりにくいと思って、相関図を作ってみました。

では、アルバムごとに見ていきます。

(1st)Mashrou’Leila

前史:アルバムがリリースされるまで

Mashrou’Leilaはベイルトート・アメリカン大学で2008年に結成されました。

その経緯は少し変わっていて、バイオリニストのHaig Papazian、ギタリスト のAndre Chedid、 ピアニストのOmaya Malaebが大学生活や不安定な政治情勢からくるストレスを発散するために誰でも参加できるジャムセッションを開催したことに端を発しています。

演奏が友人からの評判を博しため、彼等は小さなライブハウスで演奏をするようになりました。
そして、徐々にその政治、社会、同性愛、セクシャリティについての赤裸々な歌詞が話題を呼ぶようになります。

さらにはなんと暇もなくレバノンのモダン・ミュージック・コンテストでPopluar Awardsと7月期賞を受賞し、その景品としてレコード契約を結ぶことになりました。

本人たちも予想していなかったスピーディな展開だったようです。
それほど瞬く間に人気が広がっていったのでしょう。
CDの発売日には前例のないほどの人が列を作っていたそうです。


そして、そんな勢いをレコード会社が見逃さなかったのも自明の理と言えます。
様々な事情や思惑が込み入ってのデビューだったのかもしれません。
色々な意味で人を動かすだけの力を、彼等の音楽は持っていたのでしょう。

アルバムの魅力

本作の特徴は中東的でエキゾチックな旋律とニューウェーブ的な耽美な空気感が渦を巻いて一塊となりながらも、ヒリヒリとした緊張感を漂わせていることです。

音数も控えめで、引きの美学が感じられます。
ロック的な目の粗さが最も感じられる作品と言ってもいいでしょう。

最前面でうねるバイオリンの旋律、薄暗くも刺々しいバンド楽器、ロバート・スミスやモリッシー等の影響を感じさせるディープな歌声が混然一体となって、妖しい初期衝動を吐き出しています。

歌詞についても少し見てみましょう。
Mashrou’ Leilaは社会問題を歌ってはいますが、アイデンティティの不安について歌わないのだそうです。

例えば、Shim el Yasmineは同性愛の男性が家族に婚約者を紹介したいけどできないという苦悩について、Fasateenはレバノンで増加する異宗教間の結婚について歌っています。
確かに肥大する自意識ではどうにもならない問題です。

直視すべき現実とドライに向き合っているところが、本作のエキゾチックながらもまっすぐなサウンドに繋がっているのかもしれません。

(2nd EP)El Hal Romancy

前史:アルバムがリリースされるまで

前作をリリースした翌年に、 Mashrou’Leilaはレバノンで開催されるRadio Liban’s Modern Music Contestで the Gorillazと並んでヘッドライナーに抜擢されるという快挙を成し遂げています。

さらにはカタール、UAE、エジプトといった中東諸国でも演奏をする機会が与えられるようになりました。

時はおりしも「アラブの春」の前夜(2010年頃)、社会に不満を覚える中東の若者にとってMashrou’Leila の音楽は鮮烈に響いたのかもしれません。

そんな状況においてMashrou’Leila は新作El Hal Romancyをバンドのホームページからの無料ダウンロードという形で発表しました。

アルバムの魅力

オールディーズな中東音楽サウンドに接近させたサウンドを特徴としています。

控えめな音数は前作と変わりません。
しかし、ニューウェーブ的な気配は後退し、生々しくもエッジの効いたギターサウンドが目立ちます。
さらにレコードのプチノイズを演出したり、オールディーズな音質を導入したりと懐かしい空気感を強めに押し出しています。

もちろん Mashrou’Leilaの特徴とも言える妖しいバイオリンは健在です。
エキゾチックながらも体を揺らしたくなる旋律をドラムスやベースとともに生々しい質感で響かせます。

歌詞に関しては、前作よりも個人的な部分にフォーカスを当てているそうです。虚栄のトリップに浸るドラッグ・クイーン、経済的安定のために結婚を望む女性、無責任でブルジョワな恋人といった人物の物語や挫折や描かれているとのこと。

個人に焦点を当てたせいか親密感が強まっているように感じます。

鬱屈としたベイルートの日常が垣間見える様なアルバムと言えるでしょう。

(3rd)Raasuk

前史:アルバムがリリースされるまで

彼等の快進撃は続きます。

カナダでレコーディングされた本作Raasukは2013年8月にリリースされたのですが、そのプロモーションの費用をクラウドファウンディングで募ったところ中東のアートプロジェクトでは前例のない 60,000ドル以上もの金額を達成したのです。

また、ボーカルのHamed Sinnoは中東で初のLGBTQIマガジンであるMy.Kaliで表紙を飾っています。


中東のインディーズにおける彼等の存在感は非常に意義深いものになっているようです。

アルバムの魅力

レトロでエキゾチックな空気を残しつつ、もシンセや規模の大きめなストリングスを導入しています。

妖しい旋律やビート感といった骨組みは変わっていませんが、血肉のスケールが大きくなっているのです。


壮大さを演出するストリングス、豊かな響きを散りばめるピアノ、ポップネスを演出するシンセ。
今までの引きの美学から足しの美学へと一歩踏み出しています。
その結果、耽美な空気感も強まっています。

ただ、今まで通りの引きの美学が色濃く残っている局面も多く、緩急を使い分けられているようにも感じます。


そして、緩急がしっかりしているということはメリハリがあるということでもあり、他の作品とは違う魅力も備えているアルバムです。

(4th)Ibn El Leil

前史:リリースされるまで

フランスでレコーディングをされた本作によって、Mashrou’Leilaは欧米での人気を獲得していくことになります。
欧米へのツアーを敢行する回数も増えており、メディアで取り上げられることも増えました。

しかし、ヨルダンやレバノンではライブを政府から中止されるような出来事がしばしば起こっています。
エジプト公演ではレインボーフラッグ(LGBTの尊厳を象徴する旗)を掲げた観客が逮捕されたことがありました。


影響力の大きさが良くも悪くも出ているということなのでしょう。

アルバムの魅力

最もポップでメランコリックなアルバムです。
驚くほど垢ぬけているというのが率直な印象です。
ブルックリンのバンドと言われても信じてしまうかもしれません。


多様かつ洗練されたサウンドアプローチが傑出した特長と言えるでしょう。
西洋的な壮大さを演出するストリングス、
勇壮な響きを湛えるブラス。

軽やかな印象を与えるシンセと打ち込み系ビートなどが前面に出ており、エキゾチックさは微かに残しつつも耽美系ニューウェーブ風ポップへと転身しています。
それでいて Mashrou’ leilaらしいエネルギッシュさはいかなるときもサウンドの奥底で渦を巻いているのだから、ついつい胸を高鳴らせてしまいそうになります。

歌詞のテーマとしては、閉店したゲイクラブについて歌ったTayfや、「ベイルートで女性であることと西洋でアラブ人であることは同じくらい難しい」と学んだ女性について歌ったBint Elkhandaqなどがあるそうです。
通常のポップ・ミュージックではあまり取り上げられない(少なくとも日本では)テーマであるように感じます。

本作からは耽美ながらも力強く、憂鬱ながらも脈打つ生命力を感じます。
エネルギッシュな感情が複雑に入り組み、重層的に調和しているようなアルバムと言えるでしょう。

結びに代えて  Mashrou’Leilaと闘志みなぎる諦観

怒ること・憤ることへの経験値の高さ

Mashrou’Leilaに関する記事を読んでいて非常に印象に残ったことがあります。

歌詞の風刺性・政治性についてコメントを求められた際に彼等は「人々にその問題についてそのことについて話題にするよう意識づける」以上のことはできず、「問題があると思ったからそのことについて話すのであって、それらを変えたいからではない」と述べていたのです。

レバノンは今でも反政府デモが起きています。
宗教による不平等も存在します。
社会、政治、文化を変えたいという思いは大きいはずです。

しかし、きっと過去の苦い経験などを経て音楽では何も変えられないという結論に達しているのかもしれません。
そして、それでも自分たちに何ができるのかを考えたうえで「問題があること」を人々に知らせることが最善かつ最大限の振舞いだと結論付けたのでしょう。

向こう見ずで夢見がちな万能感は存在しません。
薄っぺらい正義感に酔いしれているわけでもありません。
心地よい怒りに思考を預けているわけでもありません。

高い経験値からリアリスティックで現実的な最適解を、Mashrou’Leila
導き出したのでしょう。
どうすれば世界に貢献できるか、冷静に考えて。
レバノンという国が高く積み上げざるを得なかった経験値が、Mashrou’Leilaという結晶になったのでしょう。


日本という文化圏も、その結晶から見習うことは多いかと思います。

それでは。

主要参考サイト

https://web.archive.org/web/20110420110701/http://www.nowlebanon.com/NewsArchiveDetails.aspx?page=2&ID=101430&MID=0&PID=0&FParentID=0&FFParentID=0 https://www.beirut.com/l/10178 https://en.wikipedia.org/wiki/Mashrou%27_Leila http://mashrouleila.com/?page_id=57 https://www.last.fm/music/Mashrou’+Leila/+wiki https://i-d.vice.com/jp/article/bj77kw/politics-making-music-middle-east https://www.afpbb.com/articles/-/3237654

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