エジプトの椎名林檎? それともエリカ・バドゥ? 砂漠の国のインディー・クイーンMaryam Saleh(マリヤム・サーレフ)について ~エジプトのアンダーグラウンド・シーンにも触れながら~



こんにちは。

Maryram Saleh(マリヤム・サーレフ)という歌手をご存じでしょうか?
おそらくそうではない方のほうが多いかと思います。

しかし、5000年以上の歴史を有する伝統国エジプトのインディーミュージックにおいて彼女は大きな支持を集めています。

https://scenenoise.com/Content/Artist/Maryam%20Saleh%20Noise.jpg

彼女に向けられる賞賛は実に華々しく「エジプトのポップのクイーン」「彼女の世代(1985~1986年生)における主要な創造性の力であり、大きな声」「カリスマ」などの言葉が並びます。


本記事では、

  1. Maryam Salehの音楽的背景や
  2. エジプトのアンダーグラウンド・シーンなどにも軽く触れつつ、
  3. 彼女の全アルバムの特徴

について語りたいと思います。
では、さっそく見ていきましょう。

Maryam Saleh(マリヤム・サーレフ)の生い立ちと音楽的背景

Mayram Salehは歴史家/批評家でもある父と歌手/女優の母の間に、首都カイロで生まれました。

芸術に理解のある富裕層の家で育ったと言っても差し支えないでしょう。
幼い頃から両親が主催する芸術家たちの集まりにも顔を出していたようです。

そして、そこで出会った偉大なミュージシャンがMayram Salehに大きな影響を与えることになります。

それがSheikh Imamです。

Sheikh Imamはエジプト・アンダーグラウンドミュージックのレジェンドです。
風刺的な歌詞で労働者階級の側に立った歌を歌い、テレビやラジオからは締め出され、さらには投獄もされていたそうです。(上記動画の歌詞からも察せられます)

Sheikh Imamの音楽はMayram Salehの中に深く溶け込んでいきました。

shaabi

shaabiはエジプトのポップミュージックのジャンルです。
二十世紀後半に労働者階級の間で流行していたそうで、具体的には下記のような音楽だったようです。

その後、Shaabiは時代に合わせて発展をしつつ、エジプトのポップ・ミュージックの中で生き続けているようです。
具体的には、こんな風に。

パーティ・ミュージックのようですね。
それのみならず、shaabiは非常に汎用性の高い音楽のようでアンダーグラウンドにも、それに合わせた姿で登場します。

Maryam Salehの音楽にも影響が感じられるように思います。

エジプトのアンダーグラウンドシーンとMaryam Saleh(マリヤム・サーレフ) の立ち位置

エジプトのアンダーグラウンドシーン(私見)

エジプトのアンダーグラウンドシーンの現状は、私が調べた限りにおいては、世界の他の地域と大きくは変わらないかと思います。

ロックもいれば、ヒップホップもいて。
DJもいれば、トランペッターもいて。
アラビア語で歌う者も入れば英語で歌う者もいます。
インストゥルメンタルだっています。
全体的には、特定のジャンルに捕らわれないカオスさがあるように感じます。

ただ、やはり地域柄が出るというか、中東的な旋律が目立つ音楽家が少なくありません。

また、中東内での交流が多いのも特色なようです。

そして、アンダーグラウンドな音楽に対する需要に対して、音楽を供給できるだけの産業的な体制が整っていないという問題もあるようです。
また、統制的な政府が立ち塞がっている問題も(アンダーグラウンドだけではなさそうですが)

おすすめのエジプトアンダーグラウンド

現行の音楽シーンとしてどんなものがいるかというと……

shaabiとヒップホップを合わせたYunis + Ibrahim X、
グライム、テクノ、ヒップホップの影響が感じられるZuli、
英語でガレージロックを歌うDirty Backseat、
トライバルビート全開な実験音楽集団Dwarfs of East Agouza、
エレクトロニカ調のアンビエントを奏でるomrr、

などが現在の私のお気に入りです。

プレイリストを用意してみましたので、興味があれば是非聞いてみてください。

Mayram Salehの特徴

それでは、エジプトのインディークイーンMayram Salehの世界に入っていきましょう。

特徴1:カリスマ的な女性ボーカリストであること

彼女の特徴としては、カリスマ的な人気を誇る女性ボーカリストであるという点が挙げられるかと思います。
私が見た限りではアラビア語圏のアンダーグラウンドは、男性のほうが明白に多いように感じました。
そういった意味でも、Mayram Salehの重要性は大きいのかもしれません。

特徴2:社会的・政治的なテーマを扱うこと/中東的なサウンドと欧米的なサウンドが混ざっていること。

また、歌詞のテーマとして自身で政治的かつ社会的なテーマについて扱っている点も日本文化の我々には意外に思われるかもしれません。
サウンド的にはアラビアの音楽のほかにネオソウル、トリップホップ、サイケデリックロックの影響があるように感じられます。

特徴3:コラボレーションが多いこと。

誰かとコラボレーションをすることが多いのもMayram Salehの特徴です。
音楽をフルタイムの職業としたことで、音楽に対する遊び心を失わないようにするためなんだそうです。

天才気質なのかもしれません。

Maryam Saleh(マリヤム・サーレフ) のアルバムについて

それではアルバムごとに語っていきます。
ただし、文章だけでは分かりにくいと思うので相関図を作ってみました。

では、個別のアルバムごとに見ていきましょう。

(1st)Mesh Baghanny

彼女の1stにして唯一の単独名義のアルバムです。

後の作品がエジプトの古典的ポップスに強く接近するのに対し、本作は欧米のポップミュージックの匂いが強く出ています。

ジャケットアートはエリカ・バドゥのMama’s Gunのオマージュなのでしょうか。

ソウル的なグルーヴ、サイケデリックなロックサウンド、エジプトの古典的アンダーグラウンド・サウンドを掛け合わせ、スタイリッシュかつグルーヴィに仕上げています。

ピアノ、ギター、民族楽器が奏でるアラビアンブルースとパーカッションやベースが紡ぐ欧米的グルーヴがせめぎあい、胸が高鳴るテンションの高さを維持しています。
そして、Mayram Salehの独特の歌唱方法がそこに加わり、ソウルフルな脈動感を楽曲に与えています。

時にゆったりとしつつも、時にロック的なエネルギーが炸裂するのも魅力的です。
Mayram Salehが今まで蓄積してきた音楽経験を一枚のアルバムに叩きこんだのが本作なのかもしれません。

ありとあらゆる文化の旋律が初期衝動と共に顕現しています。
喧騒に満ちたカイロの街並みを思わせるパワフルな作品です。

(2nd)Halawella

第二作目はレバノンの人気コンポーザーZeid Hamdanとの共作です。

10曲中6曲がエジプト・アンダーグラウンドの帝王Sheikh Imamの曲になっています。
ただし、共作相手のZeid Hamdanの得意分野に合わせ、本作はエレクトリックな方向に舵を切っています。

サウンドとしては、前作と打って変わってエレクトリックかつシンプルです。
オリエンタルな旋律を、素朴なシンセサイザーやギターで飾ります。

シンプルな打ち込みビートを基調とするサウンドは南国調の明るさを帯びていることもあれば、非常に重苦しいこともあります。
そして、Mayram Salehの力強い歌声が魅力的です。

歌詞は風刺的でダークなユーモアと政治と人生における反抗について歌っているそうです。

淡々とエレクトロなビートが続くため、ディストピア的な印象を感じます。
さらに本作はアラビアンな旋律を奏でているため、極めて異質な作品へと変貌を遂げています。

Mayram Salehの中でもクセが強めのアルバムと言えるでしょう。

(3rd)Lekhfa

三作目は多彩なギタリストMaurice LoucaとパレスティナのシンガーソングライターTamer Abu Ghazalehとの共作です。

彼女の作品の中で芸術的な完成度が最も高いアルバムと言えます。

本作の特徴を一言で表すならば、アコースティックでパーカッシブ、オリエンタルでそのうえダウナーというところでしょう。

サウンドとしては共作者Maurice Loucaの特徴が良く出ており、沈み込むようなアコースティックギターを主軸に旋律を組み上げていきます。

時に蕩けるようにスロウに、時にパーカッシブに。
ビートミュージックの影響を受けた複雑怪奇なリズムを巧みに使い分け、妖しくも洗練された世界観を構築しています。
それに加えてもロック的な切れ味の鋭さやグルーヴを強く感じます。

ボーカルパートはMayram Salehが前に出ることのほうがやや多いですが、
Tamer Abu Ghazalehとユニゾンと歌うことも多く、聞く者を引き込む迫力が増しています。

「インターネット世代が聴きたいものを表現している」と豪語するだけのことはあり、ユニークでありながら普遍的な求心力があります。

実験的で民俗的。そして、才能あふれるクリエイターがぶつかり合うエネルギーが感じられるアルバムです。

個人的には一番お勧めのアルバムです。

結びに代えて Maryam Saleh(マリヤム・サーレフ)と日本文化の共通点

日本とエジプトは遠い国か?

エジプトは我々日本とは異なる文化を持つ国です。
我々が影響を受けた欧米とも異なる文化を持つ国です。


そして、現在のエジプトを取り巻く環境は、日本以上に困難を極めていると言えるでしょう。
我々のインディーミュージックとは全く異なるテーマを歌うことのほうが多いようです。

では、我々と彼等の音楽には共通点はないのでしょうか。
エジプトの音楽は我々には理解のできない感性で歌われたポップミュージックなのでしょうか。


個人的にはそうは思いません。
Maryam Saleh(マリヤム・サーレフ)が自身の音楽について語った言葉を見てみましょう。

社会や権力体制から私たちに対して一定の在り方・道筋・枠組みが課されていて、しかもその在り方とかは既に歪められている。私の音楽はそういうのを観察しているんじゃないかな。

https://www.thenational.ae/arts-culture/music/egyptian-indie-singer-and-actor-maryam-saleh-on-her-new-super-group-and-distinct-vocal-style-1.625102

Maryam Salehが見つめるエジプト社会の問題は、私たちの社会が抱える本質的な問題の一つに、とても似ているのではないでしょうか。

突き詰めれば、私たちの苦悩は同じなのかもしれません。


それでは。

主要参考サイト

http://english.ahram.org.eg/NewsContent/5/33/168776/Arts–Culture/Music/INTERVIEW-Egyptian-singer-Maryam-Saleh-on-her-new-.aspx https://scenenoise.com/Artists/Profile/maryam-saleh https://daily.bandcamp.com/scene-report/cairo-egypt-underground-electronic-guide https://www.albawaba.com/entertainment/all-hail-egypt%E2%80%99s-queen-pop-maryam-saleh-861192 https://amp.rfi.fr/en/20180510-lekhfa https://en.wikipedia.org/wiki/Shaabi https://thearabweekly.com/alternative-music-bands-struggle-place-egypts-music-scene https://www.thenational.ae/arts-culture/music/egyptian-indie-singer-and-actor-maryam-saleh-on-her-new-super-group-and-distinct-vocal-style-1.625102 http://www.maryamsaleh.com/

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