こんにちは。
Julia Kentはカナダ出身でニューヨークを拠点に活動しているチェロ奏者です。

ジャンルとしては、いわゆるポスト・クラシカルになるでしょう。
チェロが奏でる気品に満ちたエモーショナルな響きとポストロック的な物憂い緊張感がブレンドされたサウンドを特徴としています。
2022年1月現在、Julia Kentは5作のアルバムをリリースしています。
本記事では、その全てを紹介します。
目次
Julia Kentのアルバム一覧
これからリリース順に各アルバムを見ていきますが、文字だけでは分かりにくいと思って相関図を作成してみました。

では、本題に入りましょう。
(1st)Delay
気品あふれるチェロの音色が必要最低限に折り重なり、シンプルながらも荘厳でエモーショナルな響きを生み出しています。
オムニコードの童話的で澄んだ音色を交えつつも、ポストロック的な緊迫感も絶えず帯びています。
ビートのないアンビエントなサウンドなのですが抑揚を丁寧かつ大胆につけているため、聴き手は上手に引き込むことに奏功しています。また、無駄を削ぎ落した構成になっているため、弾き手の息遣いを感じられるような繊細なテクスチャーも魅力となっています。
物憂く重厚、気高く優美。どこか残酷なニュアンスも漂わせる瀟洒でヨーロピアンな雰囲気からは、弾き手の奔放な感性を生々しく感じられます。
虚飾がなく、生々しく、だからこそ高貴さを放つアルバムです。
(2nd)Green and Grey
気品漂う静謐さや張り詰めた緊迫感が増しているのが特徴です。
チェロの音色を中心にしているのは変わりませんが張り詰めた雰囲気はそのままに抑揚が控えめになり、研ぎ澄まされ、抑制された美しさが絶えず鳴り響いています。
剥き出しの生々しさを感じさせつつエレガントさも漂っており、聴き手の感性がそのまま音に直結して現れているような人間っぽさが強く感じられます。
静けさと気高さ。穏やかさと緊張感。繊細に積み重ねられるテクスチャーが織りなす複雑な色彩は欧風の優美さを帯びつつも、息遣いのようなひそやかな躍動感も美しく響きます。
シンプルなサウンドの奥に、人間の本質がエレガントに描かれていると言えるでしょう。
(3rd)Character
ダークな荘厳さを増しているのが特徴です。
チェロの音色が積み重なり、ドローン気味な感情の奔流を表現しています。ポストロック的な音響感・緊迫感はもちろん健在ですが、壮麗な叙情性が強く感じられるのも本作の特徴と言えるでしょう。
ダークでエレガント、影を帯びてエモーショナル。シンプルなサウンドにふくよかな音色。必要最低限の音数で息を呑むような高貴さと繊細な響きの美しさを豊かに生み出しています。
チェロの響きや空気感を活かすようなサウンドになっており、思わず耳を澄まして聴き入りたくなるような微細なこだわりを感じます。時に力強い壮大さを見せることもあり、楽曲展開もバリエーションも広がっています。
環境音っぽさが増していると同時に音色のメロディアスさが上がっていることもあり、ぐっと聴きやすくなったアルバムです。
(4th)Asperities
物憂い雰囲気はそのままに、叙情性や表現力の幅を高めている作品です。
ダークでアンビエント、シンプルでメランコリック。深い叙情性を生み出す穏やかな響きは、優美な物憂さを楽曲に与えています。
繊細さを備えつつもチェロの演奏は多彩さを増しており、深みと豊かさを兼ね備えた洗練性が感じられます。壮麗な気品を湛えたダーク・ドローン的なサウンドが色彩を変えながらアルバムを通して続いており、抑制されたテクスチャーの奥底には感情の激しい蠢きが渦巻いています。
若干、手数は増えていますがそれでも音数は必要最低限の域にあると言えるでしょう、音と音の間を活かした叙情性の魅せ方は本作でもクオリティの高さを見せています。
チェロの荘厳さは今作も変わらず、繊細な響きをゆったりと聴かせることで影を帯びた旋律を人間味あふれる生々しさを添えています。
(5th)Temporal
前作の路線を踏襲しつつ、表現力をさらに深化させている作品です。
チェロを中心としたシンプルな響きとその「間」から生み出される叙情性が変わらぬ魅力を放ちつつ、荘厳さや奥深さが強まっています。
ダークで重厚な響きを積み重ねつつ、壮麗な抑揚によってゆったりとしつつも緊迫感を湛えた音響を創りだしています。ピアノやエレクトロニカ的ビート/グリッチの程よい存在感も相まってサウンドが幅広くなったことで、抑制されたテクスチャーの奥底にドラマティック・ダイナミックな感情のうねりが確かな存在感を持って盤踞しています。
物憂いヨーロピアン感は本作でも変わらず、ただ闇夜に佇む古城のような古びた美しさを秘めた気品・荘厳さも感じられます。それから、どこか寂しげな雰囲気も。
エモーショナルに盛り上がっていく局面も見られ、アルバム全体でなだらかかつダイナミックに起承転結がしっかりついているのも本作も強みでしょう。
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