こんにちは。
JadaLはMahmoud Radaidehを中心にして2003年にヨルダンで結成されたロックバンドです。

90年代から00年代にかけて隆盛したオルタナティブ・ロックの影響を、ヨルダンの日常的空気感に溶け込ませたサウンドを特徴としています。
また、ヨルダンの若者の日常をヨルダン方言のアラビア語で歌っていることも彼等の特徴となっているようです。
2020年12月20日現在、JadaLは3枚のフルアルバムをリリースしています。
本記事では、全てを語ります。
目次
JadaLのアルバムについて
これからアルバムをリリース順に見ていきます。ただ、文字だけでは分かりにくいと思って相関図を作ってみました。

では、本題に入りましょう。
(1st)Arabic Rock
アルバム前史:リリースされるまで
JadaLの核となるのはギタリスト/ボーカリスト/コンポーザーであるMahmoud Radaidehです。
Mahmoudは幼いころから様々なロックを聴いて育ちましたが、やがてMuseやRadioheadに多大な影響を受けるようになりました。
JadaLは2003年に結成されましたが、音楽シーン自体が小規模だったヨルダンではしばらく日の目を見ることはありませんでした。
しかし、Autostradなどの様々なインディーバンドの登場によりシーンが活性化するようになります。
そして、JadaLも徐々に頭角を台頭していくことになります。
2006年頃から複数のシングルをリリースを経て、2009年にリリースされたのがデビューアルバムとなるArabic Rockです。
アルバムの魅力
デビュー作ということもあり、影響をうけたものや表現をしたいものがストレートに表れている作品であるように感じます。
憧れるミュージシャンの良いところと自らのアイデンティティである中東的な響きを融合させたいという意図が感じられ、音楽への熱意が最も素朴に表現されています。
中東的な響きを滔々と歌い上げる男性ボーカル、
力強く妖しげな存在感を放つエレクトリックギター、
サウンドの底からビートを吐き出すドラムスとベース。
ナイーブで耽美な空気感から噴き出す力強くオリエンタルなサウンドが、本作の大きな個性を形成しています。
彼等の憧れであるMuseやRadioheadのような内省的な質感を備えていますが、それと同時に若々しい武骨さがゴリっとした存在感を終始放っています。
とりわけボリューム大きめなエレクトリックギターが紡ぐオリエンタルな旋律は、鮮烈に響きます。
その一方で彼等はきっと真っ直ぐな性格なのだろうな、なんて想像をしたくなるよう清々しさが顔を出すことがあり。
様々な感情・個性が混ざり合い、目まぐるしく濃淡を変えながらアルバムは展開していきます。
本作は決してパーフェクトな音楽ではありません。
しかし、憧れのロックスターへ手を伸ばそうと必死に足掻く少年のような、とても尊い感情が込められている作品だと思います。
(2nd)El Makina
アルバム前史:リリースされるまで
2009年以降、JadaLはトルコやレバノンなど国外の中東地域へとライブやフェスで演奏をするようになりました。
しかし、バンドのコンポーザーでもありリーダーでもあるMahmoud Radaidehにとってはバンドのクオリティを上げる必要性を感じた時期だったようです。
Mahmoud以外のメンバーはほぼ入れ代わり、新しく加入したメンバーの力でバンドをさらにダイナミックにさせることに成功した、とインタビューでは語られています。
そんなリフレッシュした顔ぶれで創られたのが本作El Makinaです。
アルバムの魅力
メンバーが大きく変わったということもあり、完成度が一段階上がっている作品です。
憧れのロックスターの影響を上手に昇華し、中東のエッセンスを強めに振りかけたオルタナティブ・ロックへと進化しています。
ダイナミックに歌いあげる男性ボーカル、
エモーショナルさとスレンダーさを増したエレクトリックギター、
時折差し込まれる、哀愁漂う音色のシンセ、
タイトなビートを生み出すリズムセクション。
引き締まったビート感を持つと同時にメランコリックな雰囲気が強く感じられる作品でもあります。
中東特有の濃密な哀愁が立ち込めるサウンドスケープは変わらず魅力的ですが、本作ではさらに解像度が高くなっています。
細部まで作りこまれているのが本作の魅力ですが、適度な粗さが残っていることもまた、本作の魅力です。
粗すぎず、緻密すぎず。
ロックミュージックが持つエネルギーや内省性を素晴らしい塩梅で表現しています。
中東以外の地域からは決して生まれなかったであろう、オルタナティブロックのもう一つのスタンダードと言えるようなアルバムです。
(3rd)Malyoun
アルバム前史:リリースされるまで
前作のリリース後、JadaLは再びエジプトなどの中東各国を回るツアーへと旅立ちます。
その反応に彼等は手ごたえをつかんだらしく、自分たちは軌道に乗っていると感じるようになったようです。
やがては母国ヨルダンで20000人の観衆を集めたいと夢を見るようになります。
そして、そんな勢いに乗せて2016年にリリースされたのが3rdアルバムにあたるMalyounです。
アルバムの魅力
前作よりもさらに表現の幅を広げ、深めているのが本作Malyounです。
今までの耽美的な空気を残しつつも、ブルースの匂いが強まっているのが印象に残ります。
いぶし銀の渋みが加わった男性ボーカル、
耽美さと哀愁を兼ね備えたエレクトリックギター、
力強くもラフな質感を感じさせるドラムスとベース。
もちろん中東的な妖しさと哀愁は健在ですが、今までよりも自然に(わざとらしくなく)中東的な要素を取り込んでいるように感じます。
今までにないほど洗練されており、安定感の高さも感じます。
前作の成功で自信をつけたという趣旨の発言をしていることから察するに、
その自信に根差したたくましさが本作の自然体の力強さに繋がっているのかもしれません。
その一方、盛り上げるときの爆発力も並々ならぬものがあります。
1stの頃のような初期衝動ごり押しだけではなく緻密に組み立てている面も感じますが、それが効果てきめん、聴き手の息をのませる迫力があります。
さらには静かなパートでも、JadaL的妖しさは残しつつも洗練さを漂わせるようになっています。
流れるように、優雅に、激しさから静謐さへと曲が展開していきます。
洗練しつつ、それでも初期のようなロック的衝動は決して忘れず。そして自らに流れる中東の血もしっかり抱いて。
JadaLというバンドの音楽的完成形の一つとも言えるアルバムでしょう。
個人的にもJadaLで一番好きな作品です。
主要参考サイト
https://scoopempire.com/qa-jadal-band-jordan-arabic-rock/#.VgVDU8uqpBc
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