こんにちは。
Ilvyはレバノンで2016年に結成された4人組のインストゥルメンタル・ロックバンドです。

カテゴリーとしてはポストロックに該当するかと思います。
叙情的な旋律を軸として、「静」と「動」を使い分けるいわゆる轟音ポストロックといえるでしょう。
2020年11月現在、Ilvyは一枚のアルバムをリリースしています。
本記事では、そのアルバムについて紹介したいと思います。
目次
Ilvy/China Girl
サウンドの特徴
アルバム全体の特徴を俯瞰すると、先ほども申し上げたように本作はいわゆる轟音ポストロックに当てはまります。
ベースになるのは日本のMONOを連想させるような、長尺でゆったりとした、それでいて強烈にエモーショナルな楽曲です。
光に満ちたエレクトリッキギターのアルペジオから、徐々にダークな曲調になっていき、暴風荒れ狂う階段を下りていくように壮絶な轟音へと展開していく様には、息を呑むような迫力があります。
ベースやドラムスもシンプルながらも叩きつけるようなヘヴィネスを空間に刻み込み、じわじわとカタルシスへと向けて、エネルギーを爆発させています。
一方、そんな激しい楽曲以外にも穏やかさと陰鬱さを兼ね備えたダークアンビエント的な楽曲が登場し、アルバム全体としてのアクセントになっています。
いわゆる中東っぽさはなく、普遍的で澄み渡る様なサウンドが印象的と言えます。
また、見る角度によって色が変わるレンズのような、一概に「光」とも「闇」とも言えない質感が多く登場するのも素晴らしい点です。
全体としてはダークでありながらも明るい響きも存在し、時にはそれが混ざり合う点が、大きな魅力といえるでしょう。
サウンドの背景
Ilvyは自分たちのアルバムにある背景として、以下のような印象的な文章をバンドキャンプに残しています。
China Girlは自身の破壊と私たちを人質にしていた体制からの解放について語っている。各曲のタイトルは一見多義的に感じられるかもしれないが、それらは多くの社会的要因、例えば集団妄想、憂鬱、忘却、トラウマといった社会的要因を反映している。
https://scenenoise.com/Reviews/lebanese-shoegaze-outfit-ilvy-dive-into-ever-darker-territories-on-debut-album-china-girl
私たちは呼吸すること、進むこと、共存すること、理解すること、忘れることへの衝動を感じている。でも、前に進もうとすると未来が時計の針を戻そうとやってくる。
https://scenenoise.com/Reviews/lebanese-shoegaze-outfit-ilvy-dive-into-ever-darker-territories-on-debut-album-china-girl
レバノンの繰り返される内戦、宗教対立、深刻な貧困、汚職などが色濃く反映されているということなのでしょう。
特にアルバムの冒頭を飾るLes Trancheesなどは光に満ちた、何かが始まりそうなスタートから一転、ダークなヘヴィサウンドに向かっています。
「前に進もうとすると未来が時計の針を戻そうとやってくる」という言葉を表しているように感じられます。
一般的な日本社会とは異なる質感の絶望があるのでしょう。
MONOと似たサウンドをしていますが込められている感情はだいぶ異なるようです。
また、日本のポストロックバンドtoeがリリースしたアルバムにthe book about my idle plot on a vague anxiety(漠然とした不安に対する私のぼんやりとした計画についての本)というタイトルのものがありました。
一方、Ilvyの自分が属する社会に対する言葉は、非常に具体的です。
レバノンの社会には漠然とした不安を抱ける余地が、日本よりも遥かに少ないのでしょう。Ilvyの言葉にはそんな社会的な背景が潜んでいるように思います。
(個人的には、Toeの上記タイトルへの共感はないのですが……。属する社会階層の違いでしょう)
それにIlvyの「前に進もうとすると未来が時計の針を戻そうとやってくる」という感覚には、共感できる人が多いのではないでしょうか。
日本とは大きく違う社会的背景から生み出されたにも関わらず、極めて普遍的な響きを持っているのは、Ilvyの音楽がそれだけ純度が高いことの証左なのかもしれません。
それでは。
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