Idahoのアルバムについて。儚く、毅然として文学的。シンプルで、奥深く情景的

Idahoは1992年にカリフォルニア州で結成されたJeff Martinを中心にしたロックバンドです。

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Slow Core/Sad Core(スロウコア/サッドコア)の全盛期を彩ったバンドの一柱とみなされることが多いようです。
素っ気なくシンプルなサウンドが醸成する、馥郁とした叙情性がIdahoの真骨頂と言えるでしょう。

2021年1月現在、Idahoは8作のフルアルバムをリリースしています。
本記事では、その全てを紹介します。

Idahoのアルバム一覧

これからリリース順にアルバムを見ていきますが、文字だけでは分かりにくいと思って相関図を作成してみました。

では、本題に入りましょう。

(1st)Year After Year

冒頭曲のイントロから、90’s前半のスロウコアらしい胸をかきむしるような切なさと透明感を帯びた物憂さがたなびくように響きわたります。

しっとりと叙情的。儚くも生々しく。文学的な響きを失わぬまま、時に暗澹たる心情を爆発させ。無駄を削ぎ落したシンプルなバンドサウンドがとにかく鮮烈で、そのうえ鬼気迫る迫力を見せるボーカルの歌い方も相まって、武骨な悲しみを繊細に奏でています。

深みと影を感じさせる男性ボーカル、物憂いストロークや剥き出しのディストーションを響かせるエレクトリックギター、悲しいアルペジオを奏でるアコースティックギター、シンプルな低音を響かせるベース、淡々としたビートを紡ぐドラムス。スロウコア特有のダウナー・スロウ・長尺さが強烈に際立っているわけではありません。うつむきがちな雰囲気と音と音の間を大切にした繊細なサウンドは、同時代のLow/Codeine/Red House Paintersと共鳴しつつも確固たるオリジナリティを発揮しています。

本作はデビュー作ということもあり、後の時代の作品よりも重たさとシンプルさの面でも上回っています。

ロックバンドのデビュー作らしい濃密な感情が込められている作品であり、音と音の間の合間から感情の軋みが濛々と立ち上がっているのを感じられることでしょう。

物憂い詩情の奥底に、荒れ狂うフラストレーションを秘めているアルバムです。

(2nd)This Way Out

物憂い雰囲気やシンプルなサウンドは変わりませんが、ロック的な硬さが前作よりも強く出ているのが特徴でしょう。

全体としてはスロウコアというよりサッドコアというほうがピンとくる、という感じがします。

実直に掻き鳴らされる悲しみと無駄の無いサウンドにじみ出る深い叙情性が、影を帯びつつも毅然とした強さを放っています。

飾り気のない歌い方をする男性ボーカル、生々しく影を帯びたストロークを奏でるエレクトリックギター、虚飾のない躍動感を生み出すベース、シンプルでソリッドなビートを叩くドラムス。アンニュイ・物憂げではあるのですがダウナー・スロウではなく、簡潔なバンドサウンドの間からじわじわと繊細な文学性が香り立つようなサウンドが印象的です。

武骨だからこそナイーブでもあるとでも言えば良いのでしょうか。粗く素っ気ないサウンドから繊細さが煙のように立ち込めるのは、スロウコアらしい魅力です。

前作に比べるとサッパリしていますが、それが良い意味でシャキっとしたサウンドにつながっています。

ロック、という音楽カテゴリーがしばしば見せる複雑な色彩を感じさせてくれるアルバムです。

(3rd)Three Sheets To The Wind

物憂い叙情性は変わらぬまま、ビートがさらにしっかりしている作品です。

力強い、というわけでは決してないのですが、いわゆるスロウコア勢の静謐さを想像するとすこし驚くかもしれません。

シンプルなサウンドに虚飾はなく、生々しくも詩情にあふれ、それでいてたなびく風のような自然の風味を感じさせてくれます。美しい響きを軸としつつも時に不穏なニュアンスも含み、たおやかながらもダークな色彩を描くサウンドは絶妙なバランスの文学性を感じさせます。

深みと微かな不安定さを帯びた男性ボーカル、生々しくも美しいアルペジオ・力強いストローク・ゆらめくようなフィードバックノイズを奏でるエレクトリックギター、素朴な叙情性を感じさせるアコースティックギター/ピアノ、シンプルだからこそ存在感を放つベースとドラムス。時に穏やかな、時に迫力のあるサウンドを鳴らすバンドサウンドからは「ロックの良さはこれだよね」と言いたくなるシンプルな魅力と、スロウコア的なメランコリーが高いクオリティを保ったまま混ざり合っている印象を受けます。

強烈にスロウだったり強烈にノイジーだったりするような尖った個性があるわけではないのですが、全てのバランス感覚が絶妙だからこその馥郁とした影の味わいを漂わせていると言えるでしょう。

しなやかで素朴、アンニュイで優美。典型的なスロウコアではないし、いわゆる線の細いインディーロックとも違います。もちろんソリッドなロックというわけでもありません。悲しみを小粋にまとい、それでいて自然体だからこその魅力を秘めています。気負ったところや気取ったところがない物憂さからは、言いようのない心地よさを感じます。

Idahoは、Idahoの音楽を奏でている。そんなことに改めて気づかせてくれる、自然体のオリジナリティを感じるアバムです。

(4th)Alas

ゆったりとしたスロウコア感が強まっているアルバムです。

極端にスロウなわけではなく、心地よい緩やかさとメランコリックな空気感が絶妙にマッチしており、Idahoの真骨頂とも言えるアンニュイなロックナンバーがぎっしり詰まっています。

無駄を削ぎ落したシンプルなサウンドが物憂くも豊饒な響きを紡ぎ出しており、カントリー的で素朴な匂いとたっぷり含みつつ、優しく美しい揺らぎに身を委ねることができます。

渋みとノスタルジーを漂わせる男性ボーカル、揺らめくようなアルペジオやセンチメンタルなストロークを紡ぐエレクトリックギター、ゆったりと伸びゆくベース、控えめにシンプルなビートを紡ぐドラムス。エレクトロニカ的な音響への接近を見せる局面もあるのも特徴です。物憂く繊細なテクスチャーをそっと積み上げ、それでいてインディーロック的な芯の硬さも失わないバランス感覚はIdaho最大の魅力と言えるでしょう。

シンプルさで言えばパンクロック並なのですが、そこから匂い立つ柔らかで馥郁とした叙情性は生半可な文学作品なら凌駕できるでしょう。

ざらついているのに、しっとりとしていて。生々しいのに、芳醇で。アンニュイなのに、透明感があって。素っ気ないのに、暖かみがあって。とにかくその美しさを言葉で表そうとしたら、矛盾する語を積み重ね、その合間から浮かびあがる複雑な美しさを伝える必要があります。

同時代のスロウコア勢との接近を感じさせつつも、芯の部分は全くぶれない毅然とした美しさを感じさせるアルバムです。

サブスクはThe Forbidden EPとのコンパイルになっており、Alasは6曲目から14曲目Leaves Upon Waterまでです。

(5th)Heart of Palms

前作のスロウコア路線をさらに突きつけた作品です。

ゆったりと、詫び寂びがあって、優しく柔らかなメランコリーがそっと吹き抜けていて。特に冒頭のTo Be the Oneの狂おしいまでの寂しさ・悲しさ・美しさは、言葉で言い表せないほどに聴き手の心に突き刺さります。


無駄を削ぎ落したシンプルなサウンド、アメリカの荒涼とした郷愁を感じさせるメランコリー、音と音の間から浮かび上がる影を帯びた叙情性。毅然とした芯の硬さを根柢に置きつつ、詩情たっぷりを帯びた美しい悲しみはさらに深みを増しています。

気取ることなく渋みを帯びた男性ボーカル、シンプルながらも深みを帯びたエレクトリックギター、控えめにうねるベース、芯の硬さを秘めたシンプルに刻むドラムス。洗いざらし・剥き出し、そんな言葉が似あう質感のサウンドを繊細に折り重ね、物憂く豊穣な音世界を醸しだしています。

控えめで文学的ながらもナヨナヨした感じはせず、アンニュイながらもしなやかな力強さを絶えず感じさせるのも特徴です。少ない音数から剥き出しの叙情性を紡ぎ出している辺りにIdahoの強力な魅力が感じられます。

生々しいのに芳醇で、素っ気なく気高く。豊かな叙情性を香り豊かに描き出す手腕は、絶妙のオリジナリティを感じます。

Idahoというロックバンドの真骨頂が垣間見えるアルバムです。

(6th)Levitate

Idahoというバンドが奏でる音楽の完成形。個人的にはそう思っています。

無駄を削ぎ落したサウンドが奏でる、物憂く繊細な響き。ゆったりとしたメランコリーから香り立つ豊穣な叙情性には一分の隙もありません。影を帯びつつも豊かな情景性も感じさせ、それでいて毅然とした強さも帯びています。


文学的なインディーロック/しなやかなスロウコアとしての極致とも言える、味わい深い音世界を築き上げています。

素っ気なくもエモーショナルなボーカル、シンプルながらも豊かな叙情性を奏でるエレクトリックギター、時折現れては気品と豊潤さを漂わせるピアノ、虚飾を削ぎ落した必要最低限のサウンドで効果的にバンド全体を支えるベースとドラムス。音と音の「間」や「余白」を効かせた詫び寂び系のサウンドにアメリカの雄大な大地を思わせる乾いたノスタルジーが吹き抜け、聴き手の心に深く染みわたる儚さを注ぎ込みます。

余計な装飾を削いだ生々しさはもちろん健在、そのうえ繊細な響きを丁寧に紡ぐエレクトロニカ的な魅力も高まっていることで、しなやかな質感とナイーブな雰囲気を併せ持つメランコリックな精神性を描き出しています。

しっとりとしつつも、ざらついて。馥郁としつつも、生々しく。柔らかなのに、研ぎ澄まされ。影を帯びた透明感を常に讃えながら、繊細な心の揺れ動きをありのまま描いています。

Levitateというアルバムタイトルが示すように、影とメランコリーを帯びた浮遊感を楽しめる傑作です。

(7th)The Lone Gunman

しっとりとしたスロウコア感が印象的な作品です。

ゆったりとした叙情感が揺らめき、エレクトロニカ的な繊細さを強めに帯びながら時に感情的な高まりを見せながら続いていきます。

ピアノやエレピの存在感が前面に出ていることもあり、生々しくも豊穣なサウンドスケープが印象的。物憂く繊細なメランコリーからは息を呑んで聴き入りたくなるような密やかで力強い存在感が感じられます。

囁くような歌い方の男性ボーカル、しっとりとした気品を添えるピアノやエレピ、感情の揺れ動きを大胆に表すエレクトリックギター、時に打ち込みを交えるソフトなビート。サウンドアート・音の風景、そんな言葉が似あうような音響世界がメランコリックに続いています。

ロック的な硬さではなくエレクトロニカ的な繊細さを軸にして、良い意味の粗さを微かに残しつつも情景的な広がりを音の揺らぎで形作っています。

密やかで、芳醇で、深く澄んだ透明感を湛えていて。時にノスタルジックな色彩を帯びて、時にsigur ros的な祝祭感も漂って。

柔らかで優しく、儚くて物憂く。繊細な響きが紡ぐ心の揺れ動きを楽しめるアルバムです。

(8th)You Were A Dick

物憂い透明感を残しつつも、円熟を感じさせる作品になっています。

ピアノ・エレピ・アコースティックギターを重用したソフトさを残しつつも、エレクトロニカ的な質感からロック的へ若干のシフトが感じられます。アットホームな暖かみも感じられるようになっており、繊細ながらも情緒が不安定な感じはしません。


素朴ながらも優しさを感じられる男性ボーカル、ピアノ/エレピ/アコースティックギターが奏でるノスタルジックで暖かい音色、時折顔を出す柔らかなビート。優しい深みを帯びたサウンドは、儚いながらも凛とした力強さも感じます。

自然体で、奥深さがあって、温かな木漏れ日のような飾り気のない安らぎがアルバム全編を通して続いています。殺伐とした感じは全くせず、人間味のあるサウンドを心地よく楽しめるのが魅力です。

しっとりと、丁寧。アメリカの自然を思わせる、素朴さの内に感傷を秘めた音色。心を打つ旋律が素朴に響き、仄かな叙情性を湛えながらゆったりと揺らめきながら芳醇な温もりを紡いでいきます。

強烈に心をかき乱す、というよりもこちらの心に丁寧に寄り添ってくれるような包容力を感じさせるアルバムです。

主要参考サイト

https://en.wikipedia.org/wiki/Idaho_(band)

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