Idaのアルバムについて。物憂くてナイーブ、息を潜めるようなスロウコア。

こんにちは。

IdaはElizabeth MitchellとDaniel Littletonによって1992年にニューヨークで結成されたロックバンドです。

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ジャンルとしてはSlow Core/Sad Core(スロウコア/サッドコア)、インディーフォーク、チェンバーポップなどが適切なところでしょうか。

アンニュイで静謐なサウンドを基調としていますが生々しい感情を掻き鳴らすこともあり、優美ながらも<コア>でインディー的な質感が印象的なバンドです。

2021年1月現在、Idaは7枚のフルアルバムをリリースしています。
本記事では、その全てを見ていきます。

Idaのアルバムについて。

これから各アルバムについて語っていきますが、文字だけでは分かりにくいと思って相関図を作ってみました。

では、本題に入りましょう。

(1st)Tales of Brave Ida

物憂い響きの奥底で切迫した感情が波打っているような、
デビュー作らしい迫力が静かに湛えられているアルバムです。


ドラムスはほぼ登場せず、ゆったりとしたギターアルペジオ・ストロークと男女構成ボーカルによる感傷的なメロディを軸にして楽曲は展開していきます。

シンプルで、
メランコリックで、
ほの暗く優美さで、
繊細な感傷を孤独に描き出すように。
時折潮が満ちるように激情が押し寄せてくる瞬間が多々あり、それはもう凄絶の一言です。


決して爆発するようなノイズがあるわけではありません。
聴く者の心臓に呼びかけるようなビートがあるわけではありません。
しかし、蒼く痛々しい叙情を張り叫ぶような狂おしさには圧倒されます。

胸の痛みを曝け出すように掻き鳴らされるエレクトリックギターの鋭さと、
己が全てを絞り出すような、今にも崩れ落ちそうな感情が詰め込まれた二人のボーカル。
今にも崩れ落ちそう、というよりも崩れ落ちてしまったかのような悲壮な解放感を激しさを感じさせます。

崩れ去った跡、繊細な心の跡。
そこに取り残された痛みを、優美で優しいサウンドが謡っています。

個人的には、Idaで最も好きなアルバムです。

(2nd)I Know About You

狂おしいような繊細さは残しつつ、バンド編成になったことで完成度が向上しています。

もちろん良い意味でのアンニュイさやエモーショナルさは変わりません。
物憂い生々しさを活かしつつストリングスやリズムセクションが影から楽曲を支えることにより、Idaの特徴である優美な質感を上手に魅せています。

本作が多くのメディアから賞賛されたこともその証左なのでしょう。
人を惹きつけるような、儚くも剥き出しの美しさが絶えず奏でられています。

静謐で、ゆったりとしたメランコリーを帯びていて、蒼く澄んだメロディを紡ぐ。
それでいてヒリヒリとした危うさも備えています。
スロウでありながらコアであるという、スロウコアというジャンルの本質を体現するような美しいサウンドが続きます。

優しくも力強いアコースティックギターのストローク、
叙情性の奥に激情が渦巻くエレクトリックギターのアルペジオ・ストローク、
美しいハーモニーを描きながら高らかに歌い上げられる男女混成ボーカル。
胸の痛みを優しい筆遣いの絵画へと昇華したような、様々な魅力を内包しているように感じます。

また、押し寄せるように盛り上がる瞬間の繊細な美しさも前作同様に強烈です。

無垢であり、豊潤であり、時に鮮烈。
アンダーグラウンドに花開いた芸術のようなアルバムと言えるでしょう。

(3rd)Ten Small Paces

サウンド的な転換点を迎えたアルバムです。

静謐さの中に潜む狂おしさが印象的だった過去2作に対して、本作Ten Small Pacesには澄んだ静寂の中で素朴な音色がぽつぽつと染み渡っていくような味わいがあります。

優しいくも凛然とした響きを湛えた楽曲が、まるで囁きのようにそっと展開していきます。

飾り気がなく美しいメロディを詠う男女混成ボーカル、
ノスタルジックな旋律を紡ぐギター、
囁きのような淡いベースライン、
控えめなビートを紡ぐドラムス。
ナイーブながらもアーシーな空気感が漂い、物憂いスロウさのなかにも自然体の朗らかさがふわりと鼻先をかすめます。

アコースティックギターの存在感が強まっていることも特徴かもしれません。
アメリカーナ・カントリー的なカラっとしたギターサウンドがIda特有の物憂くも優美な響きを奏でることによって、透明度の高いノスタルジーが醸成されています。

肩の力が抜けた、飾り気のないアルバムと言えるでしょう。

(4th)Will You Find Me

Idaといえば真っ先にこのアルバムを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

Idaの魅力である物憂げな優美さが最も美しく、そして最も儚く表現されているのが本作Will You Find Meです。

余分な要素を削ぎ落とし、剥き出しの感傷を慈しむように詠っています。
むろん、薄青いメランコリーは健在です。

感傷的なハーモニーを紡ぐ男女混成ボーカル、
アコースティック/エレクトリックギターの物憂いアルペジオ、
ノスタルジックな気品を湛えるピアノやストリングス、
繊細な音色たちを支えるリズムセクション、
静けさの中に漂うメランコリーをストイックに描き上げており、本作が高い評価を得ていることにも納得ができます。

また、張りつめた静けさのなかに生々しい緊張感が揺らめいていることが本作に蠱惑的な匂いを与えています。
その一方で素朴な温かみを感じさせる曲があったり、
時折1stや2ndのようなダイナミックさを見せることもあったり、
完成度の高さとエモーショナルで危うい質感を兼ね備えた、繊細で隙のないアンダーグラウンドミュージックを奏でています。

Idaの芸術としての美しさが、最も良く現れているアルバムでしょう。

(5th)The Braille Night

Idaの持つ<夜のような、しっとりとした艶やかさ>が最も際立っているのが本作The Braille Nightでしょう。

物憂げな旋律が浮かび上がっては消えていき、心に迫るセンチメンタルな楽曲をそっと築き上げています。

アコースティックギターの温もりとエレクトリックギターのメランコリーが巧みに用いられ、優しい吐息のようなしとやかさが全編に渡って立ち込めています。

ナイーブさと慈しみを兼ね備えた男女混成ボーカル、
切なくも伸びやかに広がるギターの音色、
ノスタルジーや緊張感を添えるピアノやストリングスの旋律、
優しいリズムを紡ぐベースとドラムス。
繊細な儚さが印象的ですが初期のような触れたら壊れてしまいそうな危うさはなく、温かさと芯の強さが感じられるようになっています。

楽曲の完成度も増しており、エモーショナルな蒼さだけでなく成熟したエレガンスも感じられます。

本作を覆うスロウコア的で物憂い静謐さの奥には、
そんな複雑な色味の美しさが本作にはあるように思います。


遠い昔の心の痛みをふと思い出すようなメランコリーを、感じられるアルバムです。

(6th)Heart Like a River

前作の大人びた質感を引き継ぎ、風通しの良い空気感をまとうようになっているのが印象的なアルバムです。

穏やかでしとやかなフォーキーサウンドへと踏み込んでいるのが特徴でしょう。
繊細ではありますが詩的な静寂という感じではなく、親近感がわくような、身体に馴染むような静けさを湛えています。


囁くような男女のボーカル、
優しく爪弾かれるアコースティック/エレクトリックギター、
哀愁をそっと描くピアノ、
優しくシンプルなビートを紡ぐベースとドラムス。
素朴で澄んだメロディがじんわりと紡がれ、慈しみに満ちた楽曲が展開していきます。

暖かな音色がぽつぽつと降り落ちて、アットホームな安心感を抱かせてくれます。

もちろんIdaの魅力である優美さとエモーショナルなメロディは健在です。
ただ、突き刺すような衝動ではなく、柔らかでポジティブな光が終始揺蕩っています。

(7th)Lovers Prayers

前作のおおらかな雰囲気をさらに大きく推し進めたのが、本作Lovers Prayersです。

不安定なエモーショナルさは影もなく、大人びてフォーキーなバンドサウンドへと完全に変化を遂げているのが注目点でしょう。
アーシーな気品と繊細な精悍さを兼ね備え、ソフトなグルーヴからは精神的な成熟を強く感じられます。

アコースティックギターを主体にした柔らかな本作のサウンドは特定のジャンルに当てはめるべきものではなく、もっと普遍的なグッド・ミュージックと呼ぶべきものかもしれません。

優しい旋律を歌い上げる男女混成ボーカル、
オーガニックで儚いアコースティックギター、
メランコリックな質感を創り出すピアノやストリングス、
ふわりとビートを刻むリズムセクション。
ElizabethとDanielの歌う素晴らしいメロディを軸にして、毛布にくるまれるような心地よさが奏でられています。

初期のころの凄絶さは既になく、ただひたすらにピュアな音楽が鳴り響いています。
ひょっとしたら本作はどんなときでも誰にとっても、素敵な音楽となり得るかもしれません。


誰かの心に響くような作風だった初期と比べると、本作は誰かの心に寄り添うような音楽であるといえるでしょう。

Idaというバンドが辿りついた、一つの到達点なのかもしれません。

Idaのアルバムについて:主要参考サイト

https://www.polyvinylrecords.com/artist/ida

https://en.wikipedia.org/wiki/Ida_(band)

https://www.discogs.com/ja/artist/536920-Ida-3

3 件のコメント

  • 前から気になってたバンドで、今までで一番いいサイトでしたし、待ってました。

    現在はどうしてるんでしょうか?気になりますし、新譜出して欲しいですね。

    本当に有難うございました。

    • 大橋 洋介さん

      本当に励みになるお言葉です。こちらこそ本当にありがとうございます。

      Ida、Facebookも2018年から更新がないのであまりアクティブな状態ではないのかもしれませんね……。

      新譜、首と気を長くして待っていようと思います。

      • あまり活動してないんですね。でもいつか再始動するまで、音源を集めたいと思います。早速ユニオンで、レアトラック集と初期音源集の2枚を中古で発見したので購入しました。楽しみに、サイトを閲覧させていただきますね。有難うございました。

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