こんにちは。
2003年にデビューしたHammockはアメリカ南部ナッシュビル出身の二人組バンドです。

彼等の特徴は、美しく壮大なサウンドです。
ポストロック/アンビエント/シューゲイザー/ポスト・クラシカルなど様々なジャンルにカテゴライズされる、既存の音楽用語では言い表しにくいオリジナリティを秘めています。
静かに揺らめくギターの音色、荘厳なストリングス、儚げなフィードバックノイズやシンセ。深いリバーブが霧のように曲全体を覆い、文学的な歌詞が泡沫のように浮かんでは消えてゆく。
きらめくような、揺蕩うような、メランコリックで静謐なサウンドスケープが魅力的です。
Hammockというバンドの魅力
Hammockはとにかく心地よい音を奏でます。
公式サイトによれば、彼等はニューヨークなどの都会のシーンで評価されるような実験性の強い音楽を好まないのだとか。
一方、アメリカ南部の雄大な自然はHammockのアイデンティティと深く結びついているそうです。
確かに、包み込まれるような慈しみとどこまでも広がっていくような壮大さはHammockサウンドの根源を成す要素です。
また、彼等が自分達が創った音楽が良いものかどうか迷った時のチェック方法が、Hammockサウンドの在り方を明確に表しています。
「自分の作った音楽をヘッドフォンで聴きながらハンモックに寝ころんで星空を見上げるんだ。もし自然環境と自分が一体になっているような気持ちにさせてくれたら、それが良い音楽ってことだよ」
http://www.hammockmusic.com/about/
聴き手に「刺さる」のではなく、聴き手を取り巻く環境の一部となり、その心に寄り添うような穏やかな音楽を彼等は奏でているのです。
聴き手の環境から切り離されたただの気晴らしではなく、聴き手の環境そのものに作用し、その環境を通して心に作用していく。
感情を揺さぶるのではなく、感情を包み込む。
花が咲くように、風が吹くように、雨が降るように。
聴き手の風景に加えられる一時の変化となっては、静かに去って行くような音楽といえるでしょう。
ちなみに……、
Hammockは自分たちの音楽はstargaze musicと称しています。
心穏やかに、夜空に浮かぶ星々を見上げるような音楽。
Hammockは満天の星空を眺めているときの、心が空高く広がっていくような優しくのびやかな気持ちと似た感情を与えてくれます。
或いは、心の壁を築くようにノイズを鳴らすshoegaze musicとの対比という意味合いも含まれているのかもしれません。
Hammockというバンドが生み出したアルバム達
Hammockのアルバムリリース数は比較的多めです。
どれから聴けばいいのか分かりにくいため、
アルバムごとの特徴をまとめていました。
ただ、文字だけではアルバム間の関係性が見えにくいかと思います。
というわけで、ざっと図にしてみました。
私個人の主観なので、あくまでも参考までに。

それでは、各アルバムについて語ります。
本記事では、特徴ごとに4タイプにまとめていました。
シューゲイザー寄り
【1st album】kenotic
特徴:粗削り
彼等のデビューアルバムです。
全体としては完成されていますが、個々のパーツではまだまだ粗削りな部分が目立ちます。
深いディレイ・リバーブの奥でなっているギターフレーズには、彼等がティーンの頃に好きだったFugaziやhusker du、the cureなどの面影が。
さらに弦楽器には彼等が崇拝するsigur rosの影響がもろにあったり。
試行錯誤の跡がそこかしこに見受けられます。
幻想的なサウンドスケープの奥底には、新しい何かを追い求めようとする初期衝動が感じられます。
【2nd album】 Raising Your Voice… Trying To Stop an Echo
特徴:解放感、王道のHammockサウンド
彼等がブレイクしたアルバムです。
1stから完成度と純度を高めているのも素晴らしいです。
しかし、何よりも重要なのは果てしなく広がる青空を連想させるような壮大な解放感です。
Hammockの他のアルバムにはない特色です。
丁寧に積み重ねられた繊細な音色達が本当に綺麗です。まさにstar gaze musicといったところでしょうか。
世間的にもHammockと言えば、このアルバムのサウンドが連想されるではないでしょうか。
Hammock自身にとっても思い出深いアルバムなようで、後々リリースされたアルバムを時々このアルバムと比較して語っています。
【5th album】 Departure Songs
特徴:最もロック・ポップ的
「Hammockは宿題のBGMにしたり、聴いてる間に寝てしまう音楽」と言われることにうんざりして作ったという本作は、文字通りロック・ポップ的な要素が強めです。
おなじみのリバーブ・ディレイも透明感というよりも眩い光の吹雪を想起させます。
おなじみの壮大さはそのまま全体的に曲の存在感がやや強くなっています。
一方、「言うべきこともなすべきこともなくなってしまった音楽家は何を鳴らせばいいのか?」というテーマに基づいて創られており、アプローチのキャッチーさがそのままの音楽のポジティブさにつながっているわけではないようです。
インディーロック寄り
【7th album】Everything and Nothing
特徴:均整のとれた完成度の高さ
メンバーの抱えていた個人的な悩み・苦しみを経て希望へと抜け出した過程を音へと落とし込んだという本作。
総合的な完成度は本作が一番でしょう。
リバーブ・ディレイは他のアルバムよりは控えめですが、繊細ながらも抑揚のあるギターやリズム隊の動きなどインディーロック的な要素が印象に残ります。
ボーカル入りの曲が多いのも特徴でしょう。
サウンドアプローチは多彩でいずれも高い完成度を誇ります。
インディー音楽的な文脈でもから見ても、高いクオリティを誇ります。
2ndアルバムの精神的継承者と称されているだけのことはあり、アルバム全体を覆う雰囲気は明るめです。
ポストロック寄り
【3rd album 】Maybe They Will Sing for Us Tomorrow
特徴:妖精的なサウンドスケープ、アンビエント。
本作は他のアルバムとは明らかにサウンドの違いがみられます。
理由は明白で、sigur rosのヨンシーが所有するスタジオで収録されたからです。
結果として壮大なhammockサウンドに、妖精のような美しさと妖しさが混ざり合い、音の色彩は他のアルバムとは大きく変わっています。
そして、ビートのないアンビエントアルバムであることも特徴でしょう。
Hammockの荘厳で伸びやかなサウンドスケープの中で妖精が空を舞っているような、他に類を見ないサウンドスケープへと深化した傑作です。
【4th album】Chasing After Shadows…Living With The Ghosts
特徴:リバーブがやや控えめ 楽器本来の美しさが目立つ。
本作はHammockのアイデンティティでもあるリバーブ・ディレイが他の作品よりも明らかに控えめです。
特に曲を盛り上げるところは、楽器の音色そのものでじわりじわりと積み上げていきます。
幻想的な美しさではなく、ありのままの大自然の美しさを音にしたのかのようなアルバムです。
結果として、epic45やhood、slowsix、unwed sailorのようなポストロックサウンドへと接近しています。
楽器本来の音色が生み出す肉感的な響きが楽しいです。
ポスト・クラシカル寄り
【6th album】Oblivion Hymns
特徴:アンビエント 荘厳
ほぼ全編にわたりストリングスが導入された初めてのアルバムです。
ビートレスな音のレイヤーの上に、荘厳なストリングスが叙情的に伸びていきます。
静謐なシンフォニーは神々しく、時折挟まれるギターフレーズはまばゆいディレイの中に溶けていきます。
サウンドの中に溶けてしまいそうになる、慈しみを感じさせるサウンドです。
聴き手の心に色々な風景を想起させるような、神々しく高貴な音楽であるといえるでしょう。
【8th album】Mysterium
特徴:アンビエント 聖歌的な壮麗さと物憂げな響き
全体を覆う悲しいトーンが特徴です。
20歳で亡くなったメンバーの親族に捧げられているアルバムです。
ただし、仰々しく悲嘆に浸るようなものではなく、悲しみを受け入れ浄化するようなサウンドです。
舞い降りてきた天使のイメージをさせるような悲しみと祝福が混然一体となった音色が、聴き手の心に優しく染みわたります。
アンビエントなサウンドのうえに聖歌のようなコーラスが多用されているのも特徴です。
神聖な雰囲気は音の隅々まで生き渡り、ノイズの合間からは気高さが満ち溢れています。
【9th album】Universalis
特徴:ポジティブな音像、クラシカルなサウンドとバンドサウンドとの融合
本作は8thの悲しみから、光のある場所に向けて立ち上がった作品です。
とはいっても2ndのような飛翔するような解放感はありません。
悲しみの底からようやく立ち上がる気になって、一歩一歩悲しみを振り切るように歩くような、心の奥底に潜んでいるような小さな希望のような音色です。
また、slow core/sad coreから影響を受けたというバンドサウンドも印象的です。
ゆっくりと着実に音を刻むビートは、力強い歩みというイメージを聴き手に印象付けます。
【10th album】Silincia
特徴:クラシカルな楽器による荘厳でドローンなサウンド 聖歌的でありながら妖精的なサウンドスケープ
7th album Mystriumから続く三部作の最終作です。
ざっくり特徴を言うとポスト・クラシカルなアンビエントということになるでしょう。
重厚なストリングスが生み出す光輝な音像、
聖歌隊の歌声が響かせる無垢な旋律、
きらびやかなエレクトリック・ギターが澄んだ音色。
全体的に、強い聖性を感じさせます。
シリーズものの最終作という性質もあってか、聖性というか上昇していくような神聖さが非常に強く出ています。
しかし、その一方で3rd album Maybe There Will Be~のような妖精的/童話的なメルヘンが顔を覗かせることもあります。
人間とは異なる神秘さとその祝福によって得られる精神的な浄化を、Hammockらしい濃霧のように深淵な静謐さで描いています。
不眠への音楽
Hammockはsleepover seriesという眠りのための作品もリリースしています。
睡眠障害のメンバーが自分のために創ったものだそうです。
ひたすらに柔らかい音のレイヤーが緩やかにゆらめき、まるで毛布のように積み重ねられていきます。
Sleepover series Volume.1
Sleepover series Volume.2
volume.1は試行錯誤の形跡が見られますが、
Volume.2はひたすらに美しいサウンドスケープです。
まとめ Hammockと一緒に、星空を。
Hammock は「サウンドが美しいだけ」と揶揄されることもあります。
でも、その美しさの向こうに何を見出すのか、アルバムを聞き終えた後に何を手にして日常へと帰っていくのか。
それを考えるところにもHammockの魅力があると思っています。
それでは。また。
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