Haiku Salutのアルバムについて。瀟洒な気品と瑞々しい感性が描く知性の行方

こんにちは。

Haiku Salutはイギリスで2010年に結成されたインストゥルメンタル・音楽ユニットです。

https://f4.bcbits.com/img/0016555259_10.jpg

ジャンルとしては、エレクトロニカ/フォークトロニカあたりになるのでしょう。
チェンバーポップやポスト・クラシカルの影響も感じさせる、キュートながらも上品なサウンドを奏でています。


村上春樹の小説からの影響を公言しているのも、注目すべき点かもしれません。


2021年8月現在、Haike Salutは5作のフルアルバムをリリースしています。
本記事では、その全てを見ていきます。

Haiku Salutのアルバム一覧

文字だけでは分かりにくいと思って相関図を作成しました。

では、本題に入りましょう。

(1st)Tricolore

ブリティッシュ的メランコリーと透明な叙情性を掛け合わせた心地よいサウンドが、優雅に転がるように展開していく作品です。

自然体でゆったりとした響きには、アナログ的でおおらかな伸びやかさを感じることでしょう。

シンセ/ピアノ/アコーディオン/木琴/鉄琴/管楽器/細やかに転がるエレクトロニカなビートなどを組み合わせ、
暖かみを帯びつつも、ノスタルジックなサウンドを形成しているのが本作の特徴です。


時に軽やかに、時にミニマルに、時に情感たっぷりに紡がれる音色は瑞々しい一方で、その奥底には荘厳さが秘められています。

後の作品よりも生楽器の占めるパーセンテージが高く、それが暖かい無垢さの中にも香り高い豊潤さを醸し出しています。

優美さが漂っている一方で民謡的な質感の楽曲も存在し、彼女たちの豊かな感受性が自由に迸ばしっているような印象を受けます。

純粋無垢で自由奔放、瑞々しくて軽やか。
そして、真っすぐでエモーショナル。

デビュー作らしい、飾り気のないサウンドが楽しいアルバムです。

(2nd)Etch and Etch Deep

個人的には、Haiku Salutで最も好きなアルバムです。

メランコリックでノスタルジック。
暖かくてアナログなテクスチャーを丁寧に降り合わせ、ポップで幻想的な響きを編み上げています。

幻想的、という意味ではmumとの比較も可能です。
しかし、本作の魅力はmumのような想像力の奔放な飛躍ではなく、もっと堅実で地に足の着いた佇まいに秘められています。


現実に根差した幻想性、等身大の体温感、リアリティが息づく素朴な童話。
活き活きとした躍動感があって、キラキラとして純朴で。


アコースティックギター/ピアノ/アコーディオン/シンセ/鉄琴/木琴等による軽やかで素朴なサウンド、
変幻自在で軽やかに流れていく優しいビート、
両者が無邪気に絡み合い、知性的でハートウォーミングなウェーブを絶えず織りなしています。

瑞々しい軽快感は前作よりも向上し、コロコロと転がっていくサウンド展開は知性的な透明感を帯びています。

柔らかくて心地よいテクスチャーは当然素晴らしいのですが、クラシカルな素養が微かに見え隠れすることもあって上品な雰囲気が節々から漂っているようにも感じられるのも本作の特徴と言えるでしょう。


また、悠然としたエモーショナルさを見せることもあり、その広大な響きには人を惹きつけるキャッチーさを感じることが出来ます。

サウンド自体は決して目新しいものではありません。しかし、単なるエレクトロニカ・ムーブメントのフォロワーで片づけるには惜しい、きらめくような感受性を感じます。

心が輝くような調べを夜空に響かせる、そんなアルバムだと思います。

(3rd)There Is No Elsewhere

軽快なポップさを残しつつも、メロウな方向性に深化した作品です。

アナログ的な暖かみは変わらずも叙情性を増してきており、ややドリーミィな雰囲気になっています。

ある意味では最もmumからの影響が強く出ているとも言えるでしょう。

シンセの存在感が強まっていることも大きく影響をしているでしょう。
幻想的な空気感も強まっているように感じられます。


地に足の着いたリアリティを残しつつもシンセやピアノが柔らかくウェットなテクスチャーを紡ぎ、しなやかに揺らめくビートと共にノスタルジックな音の帳を描き出しています。

知性的/文学的な繊細を帯びつつも、穏やかな力強さを備えているのも重要な特徴でしょう。
決してナルシスティックな悲観に沈むことはなく、勇壮なエモーショナルさが常に脈打っています。


知性と強さを兼ね備えた感性の持ち主が書き上げた幻想的な物語のような、大仰ではない自然体の強さを感じます。

幻想的でありながら逃避的な雰囲気がしない、比較的珍しいタイプのアルバムかもしれません。

(4th)The General

4作目にあたるThe Generalは、1926年に発表された同名コメディ映画のために新しく制作されたサウンドトラックになります。

サウンドトラックという特質もあるのでしょうか。安心感のある柔らかいテクスチャーはそのままに、なだらかなうねりに満ちているのが印象的です。


軽快さではなく心地よい波のような展開が魅力の中心をなしており、ノスタルジックで密やかな雰囲気が続いています。

ピアノの存在感が強く出ているのも特徴で、もの悲しくもエモーショナルな旋律が綴られていきます。
その周りを長音符中心のシンセや控えめなビートが揺らめいて、繊細で物憂いサウンドスケープを構築しています。


それはあたかも暗闇の中で一人だけにスポットライトが当たっているような、寂しげな演劇のようにも感じられるでしょう。
淡々と、しかし切実な響きを持って楽曲は連なっており、あまりコメディ映画のサントラという印象は受けません。

知性的で、時に物憂くて、時に優しくて。
ただ、モノクロである原作映画に合わせたかのような無色彩な雰囲気は漂っています。

「サウンドトラックであること」に徹した結果、真摯に何かと向き合っているような瞑想的な響きが生じているように感じます。

精神的成熟を感じさせるアルバムだと思っています。

(5th)The Hill, The Light, The Ghost

Haiku Salutの中でも深みと気品が強く出ている側面が強く出ている作品です。

ポスト・クラシカル的な側面が顔を出す瞬間が長い傾向にあるのが印象的に感じる方も多いかもれません。

叙情的で繊細なサウンドのテクスチャーが優しく響いては静寂に溶けているのが特徴と言えるでしょう。
欧州の森――それこそノルウェーの森――のような、まるで妖精が息づいていそうな瀟洒で澄んだ空気感を醸し出しています。


今までの作品よりも一段と深い気品に満ちてはいますが、Haiku Salutらしい伸びやかさも変わらず帯びています。

時に長閑な響きを紡ぎ、時に荘厳な旋律を奏でるピアノ/シンセ、
儚い叙情性を描くエレクトリックギター、
控えめながらも優美な色を添えるストリングス、
鳥の鳴き声などのサンプリング、
時折顔を見せるエレクトロニカ調のこまやかなビート、
初期の弾むようなカラフルさではなく、深い透明感によって大人びたメランコリーを表現しています。

聡明な知性と繊細な憂いを感じさせるサウンドが、触れたら壊れてしまいそうな儚さとその奥に秘めた毅然とした力強さを生み出しています。

しっとりとした叙情性が揺らめき、
淡いノスタルジーが漂って、
いかなるときも、どこか空想的な広がりを持ったサウンドが続いていきます。


柔らかな響きは穏やかな精神世界を反映しているのかもしれません。
ただ、傷つき、苦しみ、人知れず乗り越えてきたかのような傷痕も感じさせ、それが単に<心地よいサウンド>では終わらせない奥行きを本作に与えています。


前作は独りぼっちの舞台でスポットライトを浴びているような作品でしたが、本作は雑踏の中で一人歩いているようなニュアンスが込められているような気がしています。

普通の日常を、孤独な日常を、たとえ演劇の一場面じゃなくても、独りぼっちだったとしても、スポットライトなんか当たらなくても、いつも通りに生きているような強さを感じます。

電車に乗っていて窓を見つめていると、ふとあの日のことを思い出すような。唐突に胸を締め付けられるような。
そんな人生の一場面を感じさせてくれる、不思議なアルバムと言えるでしょう。

主要参考サイト:Haiku Salutのアルバムについて

https://haikusalut.bandcamp.com/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です