グランジの歴史をざっくり振り返る。~その言葉に隠された音楽的多様性を見出しながら~


こんにちは。

グランジはワシントン州の都市シアトルで発生した音楽ジャンルの一つです。

90年代前半に流行したロックミュージックに属するカテゴリーで、 パンクロックとヘヴィメタル(バンドによってそのバランスは異なれど)を併せ持ち、陰鬱な感情を歌うバンドと定義されることが多いようです。

また、ロックスターらしからぬ着古したような服を着ていたことも大きな特徴です。

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代表的なアーティストとしてはNirvana、Pearl Jam、Soundgarden、Alice in Chainsあたりになるのでしょうのか。

間違いなく90年代を象徴する音楽的な潮流の一つです。

グランジの歴史・音楽を振り返る前に

本記事の目的

本記事の目的は、

  1. グランジの歴史をざっくりと振り返りつつ
  2. グランジと呼ばれる音楽を聴いてみたいと思っている方の一助となる

ことを目的としています。

また、基本的にはシアトル周辺のバンドを重視して取り上げています。

本記事の構成

本記事はグランジの時代区分を3つに分けています。

  • 誕生期
  • 飛躍期
  • フォロワー多発期

図にすると下記のとおりです。

上記については必ずしも結成年代だけでなく、どの時代の象徴と捉えるべきかによって分類しています。

私的な観点が入っていますが、何卒ご了承を。


グランジってどんな音?

グランジという言葉は非常にあいまいかつ多義的で、カテゴライズされているバンドの音楽スタイルも多種多様です。
また、どのバンドをグランジとみなすかも人によって異なるようです。

ただ、誰もがブームの代表と認めるているのは、この曲ではないでしょうか。

ご存じの方も多いかと思います。

1991年に世に放たれた、 NirvanaのSmells Like Teen Spiritです。
陰鬱な雰囲気、静と動の使い分け、歪んだギターサウンドなどグランジのイメージを決定づけた曲と言えるでしょう。

しかし、この曲が典型的なグランジサウンドなのかは疑問が残ります。

その点を明らかにするためにもまずはSmells Like Teen Spiritよりも少し前、80年代半ばのグランジ誕生期を覗いて見ましょう。

グランジという音楽の歴史を振り返る:誕生期(1985年頃~1990 年)

グランジの由来

グランジという言葉の由来は、「忌々しい誰か・何か」や「不潔なもの」を表すアメリカのスラングに端を発しています(諸説あり)。

そして、いわゆるグランジバンド達にグランジという言葉がラベル付けされるようになったのは、1987年にリリースされたGreen RiverのDry As Boneが初めてだったそうです。

Green Riverとはどんな音楽なのでしょうか。
少し聴いてみましょう。

確かにヘヴィメタル+パンクロックなサウンドです。

ただし、Nirvana的な「静と動」の切り替えはさほど存在しません。

日本におけるグランジのイメージはNirvanaに大きく影響を受けていますが、実態とは必ずしも一致しないと言えるでしょう。

グランジの胎動

グランジ胎動の舞台となったのは、アメリカ北西部のシアトルです。
代表的なインディーレーベルSUB POPの創設者は当時のシアトルは労働者階級の街だったと述べています。

また、シアトルはロサンザルスやニューヨークといったメジャーなロックバンドの拠点から孤立しており、独自の音楽性を育む土壌が整っていました。

シアトルのアンダーグランドには数多くのバンドがいました。
ポストパンクの影響が強いもの、
ヘヴィメタルの影響が強いもの、
ハードロックの影響が強いもの、
実に様々なバンドが互いに影響を及ぼしながらアンダーグラウンドでうごめいており、彼等は中心都市のメディアからは見向きも去れないままに少しずつシアトル的なサウンドを形成していきます。

では、グランジの最古層となった80年代後半のシアトルサウンドを具体的にいくつか見てましょう。

誕生期のグランジ・サウンド

U-Men/U-Men

1988年に解散するまでの間、U-Menはシアトルのアンダーグラウンドで最大級の影響力を誇っていたバンドです。

パンク的なスピード感とヘヴィさを併せ持ち、ダーティでどろどろとしたエネルギーが煮えたぎっています。

その一方で文学的な苦悩などを感じさせる面もあり、ただ闇雲に怒りを吐き出しているわけではない知性があります。


また、当時は過激なライブパフォーマンスでも話題を集めていたようです。
暴力的で破壊的な振る舞いのせいで、警察にライブを中断されることもしばしばあったのだとか。

音以外の部分でも、シアトルのアンダーグラウンドに多大な影響を与えていた存在と言えるでしょう。


Skin Yard/Hallowed Ground

SoundgardenやPearl Jamの一員となるマット・キャメロンやScreaming Treesに加入するバレット・マーティンなどが所属していたバンドです。

最古層グランジバンド特有のパンク的な疾走感+ドロドロしたヘヴィさの質感はもちろん魅力的ですが、他のバンドよりややメロディアスな点も見逃せない特徴です。

アンダーグラウンド的な圧迫感だけでなく、メジャー的な開放感もあるとでも言えばいいのでしょうか。
粗野さを残しつつキャッチーに展開させるセンスは、オリジナリティの高さを感じます。

グランジ的で暗鬱な感情を、緩急の使い分け等々多彩な切り口で披露しています。

後に活躍する様々なバンドの雰囲気を一緒くたにしてドロドロになるまで煮詰めたような、グランジの原点という言葉が似あうサウンドだと思います。


Green River/Dry As Bone

後にそれぞれPearl JamとMudhoneyを結成することになるメンバーによって構成され、1984年から1988年まで活躍していたバンドです。

しばしばグランジの先駆者と称されることもありますが、その名に恥じぬほどの
煮えたぎる初期衝動の塊です。
ハードロック/ヘヴィメタルとハードコアパンクの中間点でありつつも、そんな陳腐なカテゴライズを突き破りそうなパワーが波状的にうなっています。


時にパンキッシュで時に禍々しくスロウなドラムス、
エネルギッシュなベースライン、
ハードロック的な鋭さ、ハードコア的な迫力とヘヴィメタル的なダウナーを兼ね備えたギターリフ。
Mudhoneyと同じく苛立ちを張り叫ぶような、やや高音のボーカル。

ジャンル誕生期特有の、未完成ながらも緊張感と熱量を激烈に含んだマグマのようなアルバムです。


Melvins/Ozma

スロウなヘヴィメタルに近いグランジサウンドの代表格がMelvinsでしょう。

ダークな情念だけでなく、叩きつけるような荒々しさがあるのも魅力的です。
沈み込むように暗鬱なエレクトリックギター、
地の底で牙をむくように凶悪なベースライン、
地鳴りのように重たく響くドラムス、
野太く吼え猛るボーカル。

インディー的な未完成さも相まって、禍々しい感情が存分に感じられる作品になっています。
ダークなマグマが身を焼き尽くすようにまとわりつくような、ドロドロのヘヴィネスが魅力的です。


じわじわと飲み込まれていく気分にさせてくれるアルバムです。


Mother Love Bone/Apple

元Green River、Skin Yardのメンバーらによって結成されたバンドです。

他のグランジバンドと違い、メジャーなハードロックサウンドの匂いが強く漂っています。

とりわけ高揚感を煽る切れ味鋭いギターサウンドとアンドリュー・ウッドのきらびやかなハイトーンボイスは、当時のシアトル音楽シーンにおいて異質な存在でした。

ボーカルを務めるアンドリュー・ウッドの奇抜なパフォーマンスや奔放な想像力が生み出す幻想的な歌詞が人気を博したものの、デビュー前にヘロインのオーバードーズによりアンドリューが亡くなってしまいます。
そして、バンドは解散してしまいました。

ボーカルのアンドリューが放つ危うさがMother Love Boneに刹那の輝きを与えていたとも言えるでしょう。


誕生期:まとめ

誕生期のバンドは、おおむね共通してパンク+ヘヴィメタルなサウンドをアンダーグラウンド的なパワーと共に奏でていたと言えるでしょう。

後にヘヴィメタル的な音を作るSoundgardenやロック的なサウンドを作るScreaming Treesも、誕生期においてはハードコア的/パンク的な側面が強く出ています。
そして、後にブームの象徴となるNirvanaとは必ずしも同じ質感のサウンドが揃っていたわけではありません。

誕生期のバンド達の音楽は、必ずしも商業的な成功を得る類のものではなかったかもしれません。
しかし、その熱量は少しずつ伝播し、やがてもっと広いフィールドで活躍するバンドを生み出すことになります。

グランジという音楽の勃興:飛躍期(1990年頃~1994年頃)

グランジのブレイク

グランジという言葉は、Green Riverが解散した後も広がり続けていくことになります。
Sub Popを筆頭としたシアトルのインディーレーベルが牽引が功を奏したからです。

グランジバンド達のサウンドが多様化をしていく一方で、インディーレーベルのオーナー達は、地元のバンド達を「シアトルのサウンド」として売り出すべくグランジの名の下にひとまとめにするようになりました。

また、グランジバンドを撮影した写真がメディアに取り上げられたことにより、既存の派手なロックスター像とは異なる彼等の服装も大きな衝撃を与えました。

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ちなみに彼等がそんな恰好をしていたのは、お金がなかったからだそうです。

そして、徐々にメジャーレーベルからリリースをするバンドが出るようになり、NirvanaやPearl Jamを筆頭に大きなヒットを出すバンドが続出するようになります。

グランジバンドはアメリカの内向的な世代であるジェネレーションXの代弁者としての地位を獲得し、一気に開けたフィールドに飛び出していくことになりました。

飛躍期のバンドの特徴

この時期のバンドの特徴は、強い存在感を放つボーカリストが多数存在ししたことです。
Nirvanaのカート・コバーンが筆頭のような印象を持たれているように感じますが、甲乙つけがたいカリスマ性を持ったフロントマンが多数存在しています。

なお、この時期は素晴らしいバンドが多く、そのうえサウンドのバリエーションも豊富であるため、「こんな音が聞いてみたい」というときの参考になればと思って下記の3つにざっくり分類しています。

  1. パンクっぽい
  2. ロック/ハードロックっぽい
  3. ハードロック/ヘヴィメタルっぽい

では見ていきましょう。

1.パンクっぽい

Nirvana/Navermind

グランジブーム最大の象徴として扱われることが多いバンドであり、確かに圧倒的な凄みを感じさせます。

パンク的でシンプルな骨組みの上に陰鬱な不気味さを飾りつけ、他の追随を許さないポップさを築いています。

独特でかすれたカート・コバーンの歌声、
歪んだギターを炸裂される騒々しいパートと静謐なパートを繰り返す「静」と「動」のダイナミズム、
虚飾なく精悍なベースラインとドラムス。
短い曲が次から次へと始まっては終わります。
一貫して雰囲気は暗澹としているにも関わらず、そのキャッチーなメロディは聴く者の耳を惹きつけます。


狂気と闘志をみなぎらせた痩躯のボクサーのような迫力は、まさしく唯一無二。
時代の寵児足りうる、比類なきアルバムです。


Mudhoney/Superfuzz Bigmuff

シアトル・アンダーグラウンドのど真ん中で玉座に座る、グランジの帝王とも言えるバンドです。
Green Riverの解散後に一部のメンバーが結成したバンドでもあります。

Green Riverよりはやや洗練されてはいますが熱量はそのままです。
パンク+ヘヴィメタルなサウンド、
いかにもインディーズ的な粗さ。
暗鬱な雰囲気に、けだるい咆哮。

歪んだギターが生み出すダーティさとシンプルなリズム隊が突き上げる疾走感の組み合わせが実にハマっています。
特にボーカルのマーク・アームのなげやりにも聞こえる歌い方が魅力的です。

様々な音楽の悪魔的合体としてのグランジの側面を、最も体現しているバンドと言えるでしょう。


Hole/Live Trough This

カート・コバーンの配偶者でもあったコートニー・ラブを中心としたLAで結成されたバンドです。
本作はカートの死後たった7日後にリリースされたこともあり、大きな話題を呼びました。

パンク的な要素が強かった前作の路線を継承しつつも、本作は「静」と「動」の使い分けを多用するなどNirvana的な要素も感じさせます。
コートニーが吐き出すむき出しの怒り、
荒々しくもソリッドなエレクトリックギター、
硬質かつ直線的なビート。
全体的に漂うグランジ的でダウナーな空気感。

直線的なサウンドに理不尽な社会への激しい怒りと絶望を叩きつけています。
自分の周りにまとわりつく嫌悪すべきものを焼き払うような力強さは本作の大きな魅力です。

むき出しの傷跡を暴け出しているようなアルバムと言えるでしょう。

2.ロック/ハードロックっぽい

Pearl Jam/Vs

Nirvanaと併せてグランジの二大巨頭として扱われることが多いバンドです。
ただ、この頃はいわゆるグランジよりもややハードロックに近い側面があります。

本作Vs.はハードロックをグランジの時代に再解釈したような、実にオリジナリティ溢れるアルバムです。
強い存在感を放つエディ・ヴェーダーによる内省的ながらも線の太いボーカル、
時に苛烈な、時に牧歌的な音色を弾きだすギター、
力強い躍動感に満ちたベースとドラムス。

サウンドの中心で聳え立つのは、カリスマ的な人気を誇ったエディのボーカルです。
エディが吐き出す感情に併せ、楽曲のバリエーションも大きく変わります。
激烈な怒り、深い絶望、現実への諦観。
叙情的で深みのあるサウンドも展開されることもあり、深く心を打たれます。

全体的には苦悩の感情が目立ちます。
しかし、サウンドはアグレシッブになることはあれど、本作においては他のグランジバンドのようにドロドロに沈み込むようになることはありません。

決然とした力強さを感じます。

全てにおいて隙がなく、グランジの枠を超えた素晴らしいロックアルバムです。


Screaming Trees/Sweet Oblivion

Screaming Treesは古くから活動をしていましたが、商業的な成功を収めたのは90年代になってからです。
彼等最大の特徴は、なんと言ってもマーク・ラネガンのボーカルでしょう。

ブルージィにしゃがれた味わい深い歌声は、グランジバンドの中でも稀有な個性を放っています。
そして、本作においてはそんなマーク・ラネガンを最大に生かすようなシンプルなロックサウンドが構築されています。

本作には強烈に歪ませたギターサウンドや禍々しいヘヴィネスはありません。
スタイリッシュなハードロックが描き出すのは躍動感と開放感に溢れつつ、薄暗い影を漂わせる楽曲の数々です。


そんな演奏の上で伸びやかに歌うマーク・ラネガンがなんとも魅力的です。
マーク・ラネガンは後にQueens of The Stone Ageや元ベルセバisobel campbellとのコラボ作でもマイクを取っていますが、彼の魅力が一番出ているのはやはりScreaming Treesです。

果てしなく広がる荒野に向かって傷だらけの狼が吼えるような、気高い孤高さが感じられるアルバムです。

3.ハードロック/ヘヴィメタルっぽい

Soundgardern/Badmoterfinger

従来のアルバムよりもヘヴィメタル方向に舵を切った、Soundgardenの3rdアルバムです。

ただ、スロウさやドロドロした質感を前面に出しすぎることはなく、パンク的な推進力にも息を呑まされます。
アンダーグラウンド的なドロドロさよりも、ロックスター的なカリスマ性が強く出ているあたり、本作はもはや一介のインディーアルバムではないとも言えます。

Soundgardenの中心にいるのも、やはりボーカリストであるクリス・コーネルです。
クリス・コーネルが影を感じさせるハイトーンボイスを迸らせれば、その周りを存在感をみなぎらせる演奏隊が取り囲みます。
そして、ダークなエネルギーがぶつかり合って火花をちらすような迫力を生み出します。

後にクリスはRage Against The MachineのメンバーとAudioslaveを結成することになりますが、ハイテンションでありながらも気品を感じるその歌声は、Soundgarden時代においても変わらず魅力的です。

内省的なカリスマと、怒涛の勢いで迫りくるヘヴィネス。
時にスピーディに、時にスロウに。

そしていかなるときもエネルギッシュに。

暗鬱な衝動を爆発させた、素晴らしいアルバムです。


Alice in Chains/Dirt

グランジと呼ばれるアーティストの中でもひときわヘヴィメタル的なのがAlice in Chainsです。
唸るようなヘヴィさを特徴とするAlice in Chainsのアルバムにおいても、本作Dirtの息を呑むような凄絶さは傑出しています。


当時、メンバー4人のうち3人が薬物やアルコールの中毒になっており、曲の半数が中毒症状をテーマにしています。
退廃的な雰囲気によって息苦しいほどの湿り気を帯びたダウナーなサウンドが、禍々しい潮のように引いては寄せていきます。

特にボーカルのレイン・ステイリーの存在感は傑出しています。
己のすべてを吐き出すような鬼気迫る迫力と地の底でのた打ち回るような異形性を併せ持ち、
破滅的でありながらも透明感を併せ持つ歌声は圧巻です。
全てを喰らいつくして悲愴な咆哮をぶちまけるその有り様は、幽鬼めいているとさえ言えます。

沈み込むようなバンドサウンドやドロドロとしたコーラスなども相まって、破滅の美を見事に描ききったようなアルバムとなっています。


TAD/8-Way Santa

巨漢のフロントマン タッド・ドイルを中心としたTADはアンダーグラウンド的な衝動を強く感じさせるバンドです。
パンク的で投げやりなエネルギッシュさを感じさせつつ、圧倒的なヘヴィネスで聞き手をなぎ倒していくフィジカルの強さを感じさせます。

野太く叫ぶボーカル、
煮えたぎるようなエネルギーを感じさせるヘヴィなギター、
地を揺らすようなベースとドラムス。
全ての楽器が渾然一体となって、破壊力に満ちたサウンドを構築していきます。

また、誕生期のグランジ的な熱量を感じさせつつも、完成度の高さも感じさせるのが彼らの特徴です。
自らの粗暴さを適切に魅せる方法が分かっているのか、華麗な印象さえ受けます。

TADは熱量の高い竜巻のような威容を誇っています。
しかし、コントロール不能な自然現象ではなく絵画としての美しさも追求しているような、頭の良さも感じさせます。


心優しき大男の孤独な心象風景のようなアルバムとも言えるかもしれません。

飛躍期:まとめ

こうして振り返ってみると、グランジがブレイクした時期にブームの渦中にいたバンドは実に多彩な音楽性をしていたことが分かります。

強烈に歪んだギターや「静」と「動」の切り替えなどは、当時のアメリカにおけるグランジの必要要件ではなかったようです。


また、グランジのバンドとそれ以前のメジャーなロックバンド(というかGuns N’ Roses)が対立していたかのようにしばしば取り扱われます。
これはカート・コバーンがGuns N’ Rosesを毛嫌いしていたことや、両者の服装が対比的であったことに起因しているように思います。


しかし、SoundgardenはGuns N’ Rosesと一緒にツアーをしていたし、Alice in Chainsも多くのヘヴィメタルバンドと共演しています。
Pearl Jamの音楽性も当時のメジャーなバンドと共通する部分がありそうです。

様々に新たな潮流が無数に流れ込んでいたのがグランジブームの実態であり、「グランジvs既存のロック」という分かりやすい二項対立の構造を持ち込むのは画一的なように感じます

グランジは個性豊かでバンドの緩やかな集合体であり、Nirvanaもまた偉大な一柱だったのです。

グランジという音楽の拡大:フォロワー多発期(1992年~1998年頃)

グランジの拡大

Nirvana、Pearl Jam、Alice in Chains、Soundgarden等のヒットによってグランジは一気に音楽業界を席巻します。

さらにはデザインなどの他カルチャーへの影響を及ぼすようになります。
ファッションにおいてグランジという言葉が高級な服を売りつけるための用語へと変わっていったのは特筆すべき点でしょう。

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これはグランジがメジャーになったがゆえに抱えざるを得なかった矛盾を良く表しているように思います。
何せ彼等は経済的に豊かではないから「グランジファッション」をしていたのですから。

そして、聴覚と視覚両面においてわかりやすく記号化されたグランジは、シアトルから遠く離れた地域にも広がっていきます。
グランジのフォロワーが多数現れたのです。

フォロワー多発期の特徴

彼等の特徴としては、シトアル周辺のグランジバンドよりもグランジらしいサウンドを奏でている点でしょう。

大きく歪ませたギターと「静」と「動」のダイナミックな切り替えは必ず登場する要素ですし、Pearl Jamのような雄大さを持つバンドも数多く登場します。
彼等はグランジという音楽の記号を捉え、上手に再生産をしたのです。

彼等の登場は、グランジブームが狂騒と化していることを象徴していたように思います。

彼等の登場がグランジというムーブメントを陳腐にし、終焉に導いた大きな要因であることは否定しません。
しかし、一度きりしかない人生においてなりふり構わずに成功を掴みにいく姿勢はとても尊いものですし、そんな感情によって創られた音楽もまた尊いと個人的には思います。

非常に多くのバンドが存在しますが、ここではその一部を見ていきましょう。

フォロワー多発期のバンド達

Stone Temple Pilots/Core

後追い勢の中で最初に登場したバンドの一つであり、大きな成功を収めたバンドでもあります。
カリフォルニア州サンディエゴ出身の彼等は、バンドを結成したのは1986年ですがブレイクを果たしたのは1992年のCoreです。

品質の高い楽曲が並んでいますが、やはりグランジ的な香りがするのが印象的です。

Nirvana的で深く歪ませたギターとPearl Jam的でミドルテンポで雄大な曲調を上手に融合したサウンドは、本人達は否定しているものの、やはりグランジというイメージを上手にまとめているように感じられます。

ただ、表層的な怒りや陰鬱さはやや後退し、聞き手を惹きつけるメロディセンスが光っているのも特徴です。
また、全体的に漂うアメリカンでブルース的な雰囲気もとても素晴らしいです

しかし、それと同時に繊細で内向的な雰囲気も目立ちます。
その理由はボーカルのスコット・ウェイランドの存在感でしょう。

ブルース的な色気と手負いの獣を思わせる危うさを併せ持つ声にはワケありの男めいた苦みばしった魅力があります。
激しい楽曲ではもちろんのこと、アコースティックな楽曲においても聞き手をぐいぐい引き込む迫力に心奪われること請け合いです。

後にGuns N’ RosesのメンバーとVelvet Revolverを結成するスコットですが、個人的にはやはりStone Temple Pilotsこそが一番フィットする場所だったのではないかと思います。

センスの光る魅力的な楽曲とスコット・ウェイランドが放ついぶし銀の色気が、本作を傑出した存在にしているのでしょう。


Bush/Sixteen Stone

Bushは海を隔てたイギリス出身のグランジバンドによる1994年のデビューアルバムです。
そして、彼等もまた商業的にも大きな成功を収めています。

Nirvanaに強い衝撃を受けていることを公言しているだけのことはあり、その影響が強く現れています。
カートを意識した歌い方、暗鬱な雰囲気、「静」と「動」の使い分けによるダイナミズムなどは本当にそっくりです。

ただし、Nirvanaよりもメロディアスで、イギリス的なひねたポップネスが匂っているのも特徴でしょう。
Nirvanaが持っていたパンク的な粗さがUK的ロックサウンドに置き換わっているとでも言えば良いのでしょうか。

そして、そんなポップネスが光るからこそ、激しく歪んだギターとノイズを炸裂させながら絶叫するボーカルがさらに光ります。
その破壊力は分かりやすい分だけ強烈で、聴く者の心に響かせる訴求力も高いです。


表面的な刺々しさは他のグランジバンドと変わりませんが、根底のところでは他のバンドよりもマイルドなのかもしれません。
穏やかな曲では特にそのような一面が顕著になります。

グランジの獣を装った紳士とでも言えばいいのでしょうか。
日本語圏においても、もっと高い評価を受けてよいのではないかと個人的には思います。


Silverchair/Frogstomp

Silverchairも海を隔てたオーストラリア出身のバンドです。

地元テレビのオーディション番組で優勝し、1995年に若干15歳で本作Frogstompでデビューしています。
まさに狂騒的なグランジブームの中から生まれたバンドといった経歴です。

しかし、そのサウンドはとても魅力的です。
ミドルティーンらしい衝動と瑞々しい無垢さが昇華されて結晶化した、完成された未完成さは本当に素晴らしいと思います。

もろにNirvanaな歌い方や歪んだギターによる「静」と「動」、
Pearl Jamを思わせる雄大な空気感、
小難しいことはしない演奏スタイル。
そして、若いがゆえの切迫した苦悩を直接的に吐き出した言葉。

真っ直ぐで澄み切った苦悩をダーティなサウンドと渾然一体にして本能のままにぶちまけている、とでも言えばいいのでしょうか。
テクニクカルさは皆無といっても過言ではありませんが、それを補って余りある楽曲のクオリティがあります。
もちろん、深い苦悩と情熱も。


荒削りとか若々しいという言葉がまさしく当てはまるのですが、それ以上の何かが宿っていることも感じさせるアルバムです。


Candlebox/Lucy

Candleboxはシアトル出身です。
しかし、フルアルバムのリリースが93年と動き出しがやや遅いことや先達のグランジバンドの影響がモロに出ていることもあり、後追い組にカテゴライズされることが多いようです。

Pearl Jamに似たハードロックスタイル、Mudhoney的なダーティさ、Nirvanaに似た気だるいポップさを混ぜ合わせたような、アップテンポで躍動感のある曲が並んでいます。

また、グラム的な華々しさも同時に匂い立っているのがCandleboxの魅力的なところです。
そして1995年にリリースされた本作Lucyはそんな華やかさが良く出ています。

ぎらついたハイトーンなボーカル、
マッドで攻撃的な質感のエレクトリックギター、
野性的なグルーヴをたたき出すベースとドラムス。
どこかで聞いたことがあるような雰囲気なのは事実です。
しかし、ラメが散りばめられたような派手さも加わっており、Candleboxの個性を演出しています。


ダークさやアンチスター性ではなく、王道的なスター性が彼等の根幹を成しているように思います。
グランジ的でアンチスターなフィルターを通してもにじみ出ているのが面白いところです。

グランジブームの一角を占めるに値するバンドだと思います。

フォロワー多発期:まとめ

この時期のバンドはグランジ的なサウンドを見事に体現しています。

ただし、Nirvana的なだけではなく、他のバンドを含めたシアトルサウンド全般に影響を受けている傾向がみられます。

彼等の登場はブームのクオリティを下げたかもしれませんが、グランジというブームがどれほど多彩で重層的であったかを証明しているように思います。


最後に クランジの歴史 音楽とその向こう側

いまこそグランジ像の見直しを

Soundgardenのベーシストであるベン・シェパードはグランジという言葉を憎んでいて、そこに組み込まれることも憎んでいると述べていました。

見てきたようにグランジは非常に多彩な音楽であり、グランジという言葉で括りつけること自体に無理があったのかもしれません。
当事者が息苦しさを感じるのも当然でしょう。

ただし、グランジと呼ばれる音楽に通底するものがあったのも事実です。
ブレイクせずに消えていった誕生期のバンドも、
時代の寵児となった飛躍期のバンドも、
グランジの特徴を上手に模倣したその後のバンド達にも。
その複雑な魅力を複雑なまま打ち出さずに、グランジという言葉に単純に集約してしまったのが過ちだったのかもしれません。

そして、破滅のロックスターという分かりやすい偶像が魅力的だったのか、日本ではNirvana=グランジという図式が強固になりたっており、他のバンドの存在は感じられない状況が長く続いています。

この状況についても、今後見直されていくべきと個人的には思っています。
何故ならグランジという複雑で美しい潮流の、極めて一部しか捉えられていないからです。


グランジがブレイクしてからおよそ20年の歳月が流れました。
冷静に過去を分析するには、十分な月日が経っているはずです。

グランジの炎とその中で燃え上がる薪

なんにせよカート・コバーンの死や、グランジバンドの供給過多などが原因になりブームは終焉しています。

グランジブームへの反発・反応としてブリットポップやSlow Core/Sad Core(スロウコア/サッドコア)などが新たな潮流として生まれる一方で、直線的な後継としてCreed、Staind、Nickelbackなとが登場します。

グランジの勃興は、本来は狭いコミュニティで流行していたものが世界に発見され、記号的に扱われ、やがてその記号の意味が陳腐化して沈んでいくというブームの典型的な過程をなぞっています。

しかし、グランジというブームが世界中で華麗に燃え盛っていたとき、その中で薪となって力強く燃えていたバンド達は美しく輝いていたとも思うのです。



それでは。

主要参考サイト

https://books.google.co.jp/books?id=jLmfGIusRy4C&pg=PP2&hl=ja&source=gbs_selected_pages&cad=2#v=onepage&q&f=false https://books.google.co.jp/books?id=k5g6DwAAQBAJ&pg=PA6&redir_esc=y#v=onepage&q&f=false https://web.archive.org/web/20180716165748/http://www.rockcellarmagazine.com/2013/04/02/everybody-loves-our-town-grunge-book-interview-author-mark-yarm/#sthash.q3K63PaD.dpuf https://www.udiscovermusic.jp/stories/live-through-this-hole-courtney-love https://en.wikipedia.org/wiki/Grunge https://www.udiscovermusic.jp/stories/grunge-music-90s-rock https://rollingstonejapan.com/articles/detail/25810

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