Godspeed You! Black Emperorのアルバムについて。~黙示録的名盤の数々~

こんにちは。

Godspeed You! Black Emperorは1994年にカナダで結成されたインストゥルメンタル・ロックの音楽集団です。

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ジャンルとしてはポストロックにカテゴライズされることが一般的です。
Mogwaiなどと一緒に語られることもありますが、より実験的で複雑な曲構成をしています。
大人数の奏者から生み出される重厚なダイナミズムと啓示的な精神性は、異形の存在感を放っているとさえ言えるかもしれません。

また、楽曲やジャケットアートに政治的な主張を込めているのも重要な特徴でしょう。

Godspeed You Black Emperor!は2021年1月現在、6枚のフルアルバムをリリースしています。
本記事では、全てのアルバムをみていきます。

Godspeed You! Black Emperorのアルバムについて。重厚なハーモニーを奏でる名盤たち。

これから各アルバムをリリース順に見ていきます。
ただ、文字だけでは分かりにくいと思ってアルバム相関図を作成してみました。

では、本題に入りましょう。

(1st)F#A#∞

前史:リリースされるまで

Godspeed You! Black Emperorの事実上のリーダーEfrim Menuckは、幼いころは世界はより良くなり続けると信じていたそうです。しかし、思春期になると、どうやらそうではないと気づきます。
17歳から23歳まではホームレスとして過ごしていました。

さらには自分以外にも同じような境遇の人間がいることにも気づきます。
そして、世界への憤りを強く格差の存在を感じるようになったようです。


そして、Efrim Menuck,Mike Moya,Mauro Pezzenteの3名でGodspeed You! Black Emperorは結成されました。

彼等は資本主義が生み出したロックバンドのイメージとは決別し、インタビューは受けず、プレス写真も用意せず、ライブ中では座って演奏しプロジェクターの映像を流すというストイックな姿勢をとるようになります。

地元のミュージシャンたちが入れ代わり立ち代わりメンバーに加入しながらバンドの規模は拡大していきましたが、本作F#A#∞のレコーディングに際して10人に絞り込まれます。

アルバムの魅力

本作F#A#∞は陰鬱なモノローグや不穏なフィールドレコーディングの占める存在感が大きい実験精神に溢れる作品であり、ダークでひりついた怒りがプリミティブに渦巻いています。

大規模バンドが有するジャム的な爆発力と、荒涼としつつも凄絶な衝動が本作の魅力でしょう。

ギター、ストリングス、サンプリング等を用いたドローン・アンビエントがアルバムの主要部を成し、暗雲垂れこめる精神世界を形成しています。
そして、そこから爆発する様も強烈です。
ダウナーなスピード感から徐々に熱気を孕んでいく迫力は凄まじく、狂気に達した画家がキャンバスに絵の具を叩きつけるかのようです。

複雑かつ長尺な曲も個性的で、重厚な文学性を湛えています。
意味深なモノローグや不穏なフィールドレコーディングと相まって、破滅的オペラを見ているような感覚に陥ります。

後のインタビューで、彼等はバンド結成時の自分達を「誇り高く、恥ずかしがり屋のマザーファッカー」と称していました。

F#A#∞は才気と知性と怒りを抱えたマザーファッカーたちの衝動が注ぎ込まれた、世界への挑戦状なのかもしれません。

(2nd)Lift Your Skinny Fists Like Antennas to Heaven

前史:リリースされるまで

前作F#A#∞のリリース後、Godspeed You! Black Emperorはイギリスの音楽誌『BBC』に「今世紀最後の偉大なバンド」という鮮烈なコピーとともに表紙を飾ります。

その結果として多くの視線を集めることになりましたが、それは必ずしも彼等の本意ではなかったようです。
後のインタビューでも「恥をかかされた感じがした」と述べています。

ただ、この頃から彼等の名前が広まったのは事実で、2000年にはMogwaiが主催するオール・トゥモローズ・パーティーにSonic Youth,Sigur Ros,Mice Parade,Hood,The Delgadosらと共に出演しています。

また、1999年にはEP作品のSlow Riot For New Zero Kanadaをリリースしています。

何にせよ脚光を浴びることで様々なしがらみと深く関わらざるを得なくなった過程を経て、本作Lift Your Skinny Fists Like Antennas to Heavenはリリースされました。

アルバムの魅力

CD二枚組の超大作、このアルバムをGodspeed You! Black Emperorのお気に入りに挙げる人も多いのではないでしょうか。

前作からの変化は2点あります。
一つはアンビエント・ドローン的な面よりもバンドサウンド的な面が前に出て、全体的な骨格がしっかりしていること。
もう一つは、全体としては前作よりも希望に満ちた作品になっていること。


完成度も高く、重厚で破壊的な組曲が繰り広げられていきます。
明るい雰囲気の場面があるのは非常に印象的ですし、暗い場面も前作のような沈み込むような質感は伴っていません。

ストリングス、ギター、ピアノ、サンプリング等から成る荒涼としたアンビエント・ドローンから、徐々にほの暗い緊張感が高まっていきます。そして、数多くの楽器が同時に鳴らされるカオティックなジャムサウンドが姿かたちを変えながら長く続き、終わっていきます。

本作はCD2枚組でそれぞれサイド1とサイド2にタイトルが付され、さらに4曲が振り分けられています。(2枚組LPの両面といったほうが適切かもしれません)

複雑かつ重厚なアルバムの展開も相まって、力強い物語喚起性を感じさせます。それも決してポップで安易な慰めを与えるようなものでもなく、残酷な現実に立ち向かうような。

全ての音に、作り手の経験や想いに裏打ちされた「ヘヴィ」ではない「重さ」が蠢いているアルバムです。

(3rd)Yanqui U.X.O.

前史等:リリースされるまで・アルバムの背景

Godspeed You! Black Emperorは以前よりジャーナリストへの無料チケット配布を拒否するなど、音楽ビジネスへの抵抗を行っていました。

しかし、成功すればするほど彼等が本来敵視していたはずの資本主義に巻き込まれ、当初のスタンスを決然と維持することに対してのプレッシャーを感じるようになったようです。

また、初の海外レコーディングをスティーヴ・アルビニのもとで行った本作Yanqui U.X.O.は、音楽ビジネスと軍事産業の繋がりを示す裏ジャケットアートや、イスラエルに対するパレスティナの蜂起(第二次インティファーダ)を示唆する曲名もありました。

2001年の同時多発テロ事件の記憶も生々しかった頃でしょう。2003年にはツアーでの移動中にテロリストと疑われて警察からの取り調べを受けるような出来事も起きています。

そんなことも重なったのか、彼等は本作Yanqui UXOを2002年にリリースした翌年、活動を休止します。

なお、本作からバンド名の!の位置がEmperorの後ろからYouの後ろに変わっています。

アルバムの魅力

Godspeed You! Black Emperorを評して「黙示録的」という表現が使われているのをしばしば見かけますが、個人的には本作Yanqui U.X.O.が最も黙示録的であるように感じます。

苦しみを背負い、幻視的に世界をとらえ、吹き荒れる終末とその先の新たな世界を目指して歩みを進めるような重厚さがこのアルバムにはあります。

過去作との違いはモノローグ・サンプリングが消え、楽器演奏がより力強く前面に出ていることです。
また、静謐なパートもドローンというよりも旋律を感じさせる部分が多く、全体の緩急の勾配が緩やかになっているのも注目点といえるでしょう。

絶えることなくエネルギーが燻り、時に火柱のように燃え盛るような凄絶さをギター、ベース、ドラムス、ストリングスが重層的にぶつかり合って変幻自在に形を変えながらとどまることない咆哮となって溢れ出しています。

陰鬱としながらも啓示的で、破滅的でありながらも荘厳で。
複雑な曲展開でじわじわと崇高な精神性を高め、世界への怒りを天啓的な芸術まで高めていく様は圧巻です。

絶望を引きずりながら希望を求め歩くような気高さを感じずにはいられません

暗黒のオーケストラが奏でる終わりの黙示録、
最後の一音が消え去った瞬間の余韻には、死力を尽くした旅路を踏破した瞬間のような凄絶な解放感があります。

(4th)Allelujah! Don’t Bend! Ascend!

前史:リリースされるまで

2003年以降、無期限の活動休止していましたが2010年にオール・トゥモローズ・パーティーへの出演やUSのツアーがアナウンスされました。
さらにはヨーロッパのツアーなども行っています。

長期にわたるツアーでは、本作に収録されている曲なども演奏しています。
(活動停止前から演奏をしていましたが)

そして、2012年のボストンでの公演の際に、商品を置くテーブルにこっそりと紛れ込まれる形で、本作Allelujah! Don’t Bend! Ascendはリリースされました。

アルバムの魅力

重厚でカオティックな破壊力は変わりません。
しかし、エレクトリックギターがやや前に出て、ハードコアなサウンドになっている印象を受けます。


また、ドローン的な面も戻ってきています。
ストリングスで砂塵吹き荒れる砂漠のようなサウンドスケープを描いてみたり、エレクトリックギターのノイズで獣の唸り声のような凶悪でダウナーな響きを垂れ流しているのが印象的です。

アルバム全体としては混沌としたエネルギーを秘めつつもを鮮烈さが増しており、今までにはない切れ味も魅力となっています。また、今までよりもややメランコリックな面が顔を出すのも特徴かもしれません。

各楽器は紆余曲折の曲展開を経て妖しげなエレクトリックギターの旋律のもとに集い、壮絶に荒れ狂います。エモーショナルでハードコアな音塊がぶつかり合い、飲み込み合い、うねり合い、姿かたちを変えながら漆黒の叙事詩を叫び続けています。

その結果、静謐なドローンパートとの緩急がついており、その緩急も非常に魅力的です。
静謐なパートは不穏さと透明感を兼ね備えた複雑な色味の美しさを備えており、盛り上がるパートもカオティックな破壊力だけでなく叙情的な物語性を湛えています。

従来の魅力を残しつつ、キャッチーになったアルバムといえるでしょう。

(5th)Asunder,Sweet and Other Distress

前史:リリースされるまで

2013年に前作Allelujah! Don’t Bend! Ascendはカナダの音楽賞Polaris Music Prizeを受賞します。
しかし、授賞式のコストを批判したり、賞金を刑務所での音楽教育のために寄付するなど、らしいスタンスを崩すことはなかったようです。


世界各地をツアーしていくなかでNine Inch Nailsのサポートアクトを務めているのは、少々意外な点かもしれません。

一方2012年頃からは40分にも及ぶ大作Behemothをライブで披露するようになりました。
Behemothは旧約聖書の登場する神が創造した巨大な化け物です。

架空の化け物の名を冠した曲を4分割し、それぞれに新たなタイトルを付け直してリリースしたのが本作Asunder,Sweet and Other Distressです。

アルバムの魅力

基本的には前作と同じ路線です。
しかし、さらに重たく激しくなりつつ、時にクリアーな高揚感を放っているのが本作Asunder,Sweet and Other Distressの魅力です。


地の底から這いあがるような混沌とした重たさと、ゆったりと空に手を伸ばすような希望を同時に感じさせる、重厚で高らかで、それでいてカオティックなオーケストラを奏でています。

ギター、ドラムス、ベース、ストリングスがぶつかり合いながら複雑怪奇な曲展開を縫って進み、じわじわと盛り上がり、千変万化に形を変える激流のぶつかり合いが絶えることなく続き、まるで聴き手を飲み込むようにクライマックスへとなだれ込んでいきます。

時にダークに、時にブライトに。時に激しく、時にドローンに。
黙示録的な重厚さのなかにもハードコア的な生々しさを色濃く溶け込ませ、地底から吹き上げるマグマにも似たエネルギーを感じ取ることができます。
激しい感情と解放感がないまぜになっている、と言えばいいのでしょうか。


ドローンパートもフィートバックノイズなどで暗澹たる空気感を醸成していますが、感情的なダウナーさは個人的にはあまりそういう印象は受けません。

全体を通して暗黒叙事詩的な空気感は維持しつつも、いわゆるインディーロックな匂いがほんのわずかに立ち込めているように感じます。

個人的には、最もキャッチーなアルバムだと思っています。

(6th)Luciferian Towers

前史:リリースされるまで

前作Asunder,Sweet and Other Distressのリリース後、Godspeed You! Black Emperorは主に北米とヨーロッパを中心にツアーを慣行しています。

特筆すべき点としては2016年にコンテンポラリー集団Holy Body Tattooの公演でライブ演奏を行っていることでしょうか。

また、所属レーベルConstellationは本作Luciferian Towersのプレスリリースに際して、偉大な要求(Grand Demands)を記しています。

具体的には、

  • 外国への侵略を終わらせること、
  • 国境の撤廃、
  • 監獄産業複合体(the prison–industrial complex)の完全なる解体、
  • 健康や衣食住の確保を不可侵の人権として認めること、
  • この世界を破壊する権威あるクソ野郎たちを二度と喋れないようにすること、

が挙げられています。

変わらぬ高潔な志が感じ取れる一面と言えるでしょう。

アルバムの魅力

今までの作品に比べて、やや穏やかになっているのが特徴と言えるでしょう。
啓示的な重厚さは変わりませんが、全体的に祝福を感じさせるのが印象的です。


ノイジーでサイケデリックな音塊は健在です。
ただ、今までのぶつかり合う荒波から、雄大にうねりながら続いていく大波のような迫力ある伸びやかさへと変貌を遂げています。

ドローン・アンビエントパートはヘヴィーなギターサウンドとポストクラシカルにも通じる叙情的なストリングスサウンドが共存し、影と憂いを帯びながら緩やかに旋律を紡いでいきます。

そして、激しいパートも鮮烈です。
徐々に緊張感を高めながら光の差す方に向かって一歩一歩足を踏みしめて進めんでいくような、ダイナミックで暖かな盛り上がりが続きます。

光を帯びたカタルシスには大地の匂いがする力強さもあり、陶酔的な啓示性と肉体的な躍動感が渦巻く祝祭的プロレタリアート叙事詩が繰り広げられています。

黙示録な重厚さはアルバムに占める光量が増えた結果、従来のGodspeed You! Black Emperor節とは異なる極めて独特の色彩を帯びています


枯れ葉てた土地から遠くに見える祝福を目指す旅路のような、埃に塗れた矜持を抱えた勇壮さを個人的には感じます。

もっとも広大で伸びやかなエネルギーを放っているアルバムではないでしょうか。

結びに代えて:Godspeed You! Black Emperorの信念について

2012年のインタビューのなかで、彼等は音楽を王や宮臣のために創るものと壁の外の農奴のために創るものに二分しています。

当然、Godspeed You! Black Emperorの音楽は農奴のための音楽であるという自負があるのでしょう。
己の信念に対する確固たる矜持が感じられます。

大抵の人々は、望むにしろ望まないにしろ、王たちのために日々の行いを成しています。

彼等の気高さを見習うことができたら、どんなに素敵だろうと思いました。

Godspeed You! Black Emperorのアルバムについて~黙示録的名盤の数々~:主要参考文献及びサイト

主要参考文献

主要参考サイト

http://p-vine.jp/artists/godspeed-you-black-emperor

https://www.brainwashed.com/godspeed/deadmetheney/monologues/deadflag.htm

https://music.avclub.com/godspeed-you-black-emperor-s-lift-your-skinny-fists-r-1844406486

https://www.theguardian.com/music/2012/oct/11/godspeed-you-black-emperor-interview

https://en.wikipedia.org/wiki/Godspeed_You!_Black_Emperor

https://web.archive.org/web/20050208194407/http://ardmoreite.com/stories/031603/loc_band_release.shtml

https://www.bbc.co.uk/news/entertainment-arts-24231672

https://pitchfork.com/news/51053-nine-inch-nails-announce-massive-tour-with-godspeed-you-black-emperor/

https://www.bam.org/dance/2016/monumental

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