「あの日」のノスタルジー、胸の痛み、前を向いて歩くこと。  藤田健次/この惑星の郊外で

こんにちは。

藤田健次という音楽家をご存知でしょうか。
決して有名な存在ではないかと思います。

10年前にひっそりとリリースされた本作『この惑星の郊外で』は、サブスクリプションにも登録されていないし、Youtubeに音源が上がっているわけでもありません。
レーベルのサイトにもアクセスできないし、CDだって新品ではもう買えません。


忘れられかかっている、とさえ言えるかもしれません。

ただ、少なくとも僕にとってはタワーレコード新宿店で手に取ったあの日から、10年間の間、とても大切で愛おしいアルバムであり続けました。

もう視聴をすることさえできなくなってしまいました。
それでも僕は断言します。
このアルバムは中古CDを買ってでも聞くべき美しい音楽です。


貴方が大切な思い出と微かに疼くような痛みを抱えて生きているのならば、『この惑星の郊外で』はきっと響くと思うのです。

『この惑星の郊外で』の魅力 普遍的なノスタルジーと藤田健次という人間が持つ心の影

普遍的ノスタルジーとしての魅力

本作『この惑星の郊外で』の特徴を一言で表現するならば、日本の原風景的ノスタルジーを感じさせる、エレクトニカを経由した宅録インディーポップということになるでしょう。

藤田健次の繊細な感受性から花開いた、純粋で優しすぎるサウンドがそっと展開されていきます。

囁くような素朴な歌声、
ささやかにそよぐエレクトリックギターのアルペジオ、
ふわふわと跳ね回るピアノ、
ノスタルジーを呼び覚ますシンセやストリングスのサウンド、
時折姿を見せるゲームBGM的かつエレクトニカなサウンド、
それを支える打ち込みビートの無機質さ。
その全てが、絶対に戻れない「あの日」を想起させるような儚い旋律を奏でています。


最初の音が鳴った瞬間から懐かしいあの日を感じられるはずです。
川原のかけっこ。夕暮れの公園。ジャングルジム。夏休みのウサギ小屋。ポテトチップスとテレビゲーム。月明りに照らされたコンビニ。線香花火とあの人の横顔。
通り過ぎた過去の、無垢な日々を立ち昇らせてくれます。

心の一番奥の、誰にも踏み込めない場所に隠してある宝物。
それが音として、音楽として、CDとして、ここにはあるのです。

藤田健次のパーソナルな影

『この惑星の郊外で』には、創造者たる藤田健次という個人が持つ心の影が強く投影されていることも重要です。

歌詞に滲み出る少年的な童心と、それを打ち砕かれても生きていく大人の切なさ。
それが鼻先を掠める香りのようにふわりと漂っていきます。
押しつけがましさはありません。
だからこそ、心を打たれます。

宅録感満載の素朴な旋律に乗せて苦難な歩みを歌う『まちわび』、

向こうに見えるは 故郷の面影 ひもとく日記に 何もない白紙を

気付いたら その先はまだ 闇におおわれている いつかまた花が咲いて 揺れている風に

『まちわび』より一部抜粋

ストリングスやベルで優しいサウンドを創り上げ、届かないと知りながら誰かに声を届けようとする『彼方此方』、

またどこかで 会えるのかな 忘れたころ 知らぬ場所で

かなたからハロー ハロー 凍れる楽隊さ こなたからハロー ハロー 聞こえていますか

『此方彼方』より一部抜粋


軽やかなピアノの音色に乗せて言葉を届けられない苦悩を詠う『合唱』、

見知らぬまちはずれで 祭ばやし 振り返る 人いきれかきわけたよ 息をきり 追いかけたよ

声にできない 思いが雨のように 言葉消えても 香りだけのこっている

『合唱』より一部抜粋

アコースティックギターで奏でられる、自分を道化師に喩えた『どうけし』。

水槽のようなまち てくてく歩くよ 水溶の日だまりに どこか地下鉄でゆく

数えた月日の 忘れた夢の向こう

僕はどうけしさ 笑わせることの出来ない 僕は天幕をかけ抜けるだけさ

『どうけし』より一部抜粋



挙げていたらキリがありません。
重たくならない言葉を選びつつ、等身大の苦しさを囁くように歌い上げます。

まとめ

こんな風に藤田健次としての影と普遍的なノスタルジーという陽の部分が混ざり合っています。

そして、絶妙に甘くて苦い、日常を歩いていくためのポップスが醸成されているのです。

結びに代えて 藤田健次『この惑星の郊外で』の個人的な思い出

『この惑星の郊外で』は僕にとって大切な音楽です。

学生時代、僕は悔しい思いを何度も何度も耐えてきました。
そんなある日、タワーレコード新宿店9階のニューエイジコーナーで、一番手前にある視聴機で、僕は『この惑星の郊外で』に出会ったのです。

このアルバムは、大切なものが自分の中に眠っていることを思い出させてくれました。
それと同時に、僕も悔しい思いに共感もしてくれました。

『この惑星の郊外で』は、未来を切り開くために絶望的な戦いをしていたあの頃、僕の傍にいてくれた大切な音楽なのです。

だから、多くの人に聞いてほしいなと思うのです。

もし中古CD店の店頭で見かけたら、是非手に取ってみてください。

貴方が懸命に生きているのなら、この音楽はきっとその心に響くと思うのです。

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