モーセが中間管理職にしか見えない『出エジプト記』  あらすじと感想


こんにちは。

紀元前文学その10、今回は旧約聖書の『出エジプト記』です。

ユダヤ教とキリスト教の聖典の一部を成し、『エクソダス』や『モーセの十戒』など現代日本で生活していれば否が応でも耳に入る言葉の由来になっています。

物語の舞台は紀元前13世紀頃ですが、成立年代は紀元前7世紀以前であるとされています。

『出エジプト記』のあらすじ 十戒・海割り・エクソダス

あらすじから見ていきましょう。
さて、大まかな話の展開としては

  • ヘブライ人、エジプトで奴隷になる。
  • モーセ、奴隷になったヘブライ人を連れて脱走
  • ヤハウェ、シナイ山で神としてヘブライ人達と契約

の3本です。

(1)エジプトでの奴隷生活とモーセ誕生

エジプトに暮らすヘブライ人の状況

紀元前13世紀頃、エジプトに定住しているヘブライ人達がいました。
エジプトのファラオは異民族の数が年々膨れ上がることに怖れを感じ、ヘブライ人を奴隷扱いすることにしました。

そして、彼等の産女には男性の赤ちゃんが生まれた場合は殺すように命じます。

モーセ誕生と逃亡

そんな状況の時に生まれたのが救世主モーセです。
モーセは男性です。当然親としては殺したくありません。

モーセはパピルスの箱舟に入れられナイル川に捨てられてしまいます。
しかし、運の良いことに湯浴をしていたファラオの娘に拾われます。

そして、上手いことファラオの娘の養子に収まります。

モーセの殺人

ところが、モーセはヘブライ人がエジプト人に殴られているのを見てしまいます。
そして、そのエジプト人を殺してしまいます。
そして、それがファラオにバレたためエジプト国外に逃亡します。

(2)モーセによるヘブライ人救出

モーセ、再びエジプトへ

長い年月が経った後、モーセの前に神ヤハウェが現れ、エジプトにいるヘブライ人を連れ出すよう命じます。

モーセは兄アロンと合流し、エジプトに向かいます。

ファラオとの交渉

モーセは宗教的な儀式を国外で行いたいと嘯き、フォラオに交渉します。
当然ですが、ファラオは首を縦に振りません。

ヤハウェの指示のもと、モーセは様々な魔法を使います。
ナイル川を血に変えたり、土をアブに変えたり、雷鳴や雹を振らせたり等々。
さんざん嫌がらせをして、どうにか一族全員と家畜の外出許可を取ります。

そして、モーセはヘブライ人と共にエジプトを後にします。

海の奇跡

ヘブライ人が帰ってくることはないと気付いたファラオは大軍を差し向けます。

モーセはすっかり慌てふためくヘブライ人を一喝します。
そして、素手で海の水を二つに割り、その間を通って逃げていきます。


続けて追いかけてきたエジプトの大軍は元に戻った海に呑まれて全滅してしまいました。

(3)シナイ山への道のり

一同は荒野を歩きます。
しかし、水や食べ物だったりがなくなると、その度ヤハウェの奇跡が解決してくれます。
また、法律を整備し、モーセ以外の人間にもトラブルを解決できる仕組みを作ります。

そして、シナイ山に到着するとヤハウェから十戒を授かります。

その頂で他にも様々な法律や祭儀に関する決まり事を授かります。
そして、ヤハウェの指示どおりに神のための幕屋を建てたところで物語は幕を閉じます。

『出エジプト記』の魅力 感想と共に

色々面白かったんですが、下記の3点について特に語りたいです。

(1)モーセが中間管理職にしか見えない

とにかくモーセに同情しました……。
下々からの要求を神様に伝えたり、また神様のやたら大変な指示を受けなきゃいけなかったり。

  • 突如現れた神様から「エジプトからヘブライ人連れ帰ってこい」と無茶ぶりをされる。渋ったらキレられる。
  • 連れ出したヘブライ人、ピンチが訪れるとすぐモーセのせいにしようとする。ひどい時には殺そうとする。
  • 連れ出したヘブライ人、モーセの指示も神様の指示を守らない。
  • 連れ出したヘブライ人、問題事が起きるとすぐモーセに解決させようとする。
  • モーセ、神様と連れ出したヘブライ人に挟まれてエンドレス伝言ゲーム

「お前のしていることは無理がある」

『出エジプト記』第18章 モーセの岳父の台詞より

激務……だったんでしょうね……。
割に合わない仕事だったんでしょう。
せっかく助けてあげたのに感謝なんてされないですし。

というか、もしもモーセが道を間違えたり食事の準備ができなかったら、本当に殺されていた感じがしますね。
ギリシャ傭兵による『アナバシス』でも感じましたが、古代社会のリーダーというのは大変そうです。
皆言うことを聞かないくせに、何かあるとすぐに責任をおっかぶせようとしますから。

魔法が厨二心をくすぐる

何故かは分かりませんが、現代オタクの琴線に触れる魔法にしばしば出会えます。

  • 蛇で出来てる魔法の杖
  • 杖で突くとナイル川の水が全て血に変わる(!)
  • 手で触れただけで海を割る
  • 手を天に向けただけでエジプトは3日間真っ暗闇
  • 聖なる山の頂上で、厚い雲から現れる神との邂逅

個人的に『川の水を全部血に変えてしまう』のが最強だと思います。
酷薄な笑顔を浮かべながらやってみたいです。クク…。

やや年齢層高めのクリエイターの方々は、とくにイスラエル系の魔術を好む印象がありますね。
FGOなんてモロにそんな感じですし。

『出エジプト記』の構造から感じる権力者とのつながり

当然ではありますが、『出エジプト記』は、宗教に関する書物です。
そして、古代イスラエルでは宗教と権力には当然密接な関係があったでしょう。

人々を従える権威として宗教は効果的です。
宗教に関する書物なんて、権力側からすれば有効活用をしたいわけです。
『出エジプト記』にはそんな匂いが充満している気がします。個人的に、ですが。

気になった点をいくつか。

出エジプトは遥かに聖書の記述より遥かに小規模だった?

『出エジプト記』によれば、脱出したヘブライ人は荘年男子だけでも60万人はいたそうです。
なかなかの規模ですね。

ところで、紀元前13世紀のエジプトは最強のファラオラムセス2世などが活躍していた時代です。
全盛期と言っていいほどの栄華を誇っていました。
国境地帯の警備もしっかりしていたらしく、たった2名の逃亡奴隷についても記録していたそうです。
当然、60万人もいれば記録が残るはずです。
しかしながら、ヘブライ人についての記録は何も残っていません。

『出エジプト記』は実際に起きたことと書き記されたことに間に数百年の差があります。
つまり、フィクションの入り込む余地が大きいのです。
実際の移動は大脱出エクソダスという類のものではなく、ありふれた非常に小規模な奴隷の逃亡に過ぎなかったと考えられているそうです。

しかし、小規模脱走奴隷達の体験談は多くの関心を集め、いつのまにか民族全体の体験へすり替わっていたかもしれないらしい。
そんな説もあるらしいのですが、なんだか納得してしまいます。

その一方では100年程度しか存在していなかったエジプトの都市名が正確に記録されていたりもするんです。
史料伝承、面白いですね。

(この項目では特に参考にさせていただきました)

膨大な量の法律や祭儀規則

『出エジプト記』は40章あります。
そのうち後半20章が罰則や宗教儀礼などの決まりごとを長々と書き連ねることに当てられています。

それも神と契約し授かった、という形で。

『出エジプト記』を書き残した人は、ここが一番書きたかったのかなあ、などと考えてしまいます。

昔からあった決まりごとを「いや、昔に偉い人が決めたものだから。正当だから」と主張するために書物が書かれる、というのは古今東西よくあることです。

『出エジプト記』の場合は……どうなんでしょうね。

何にせ2500年以上、多くの人のアイデンティティであり続ける物語です。
色々気になっちゃいます。

結び 『出エジプト記』の感想 あらすじだけでは分かりにくいことがたくさん

やはり宗教的な内容だったなあ、というのが率直な感想です。
もちろん、『ガーサー』や『バガバッド・ギーター』など他地域の宗教的な書物と比べたうえで強くそう感じました。

物語そのものから強い宗教性を感じるというか。
決して大規模集団とは言えないイスラエルの宗教が現在まで残っている理由をなんとなく感じられる気がします。

そして、そういう宗教的な内容を短くまとめるのが難しいです。頑張ります。

それでは。

2 件のコメント

  • モーセが中間管理職とは慧眼ですね。
    彼のことは名前は聞けどよく知りませんがこの記事を読むとその辛い立場が伝わってきます。
    私事ですが近々生まれてからずっと出たことなかった埼玉県から東京(23区外)へ引っ越すことになり
    そのことを勝手に出サイタマ記と呼んでモーセさんも頑張った、私も全部かなぐり捨てて新しい場所で
    やり直すぞ、などと考えていましたが、ちょっと調べたらエジプトからイスラエルへの旅は故郷への帰還の旅だったのですね…。少し興冷めです。勝手な話だけど。
    生まれた場所とその土地との相性は凄く個人差があって、私は埼玉県は結局水が合いませんでした。
    40年経って自力で出サイタマできること幸せに思います。
    脱線しましたが面白い記事をありがとう。

  • 中村カオス様

    コメントありがとうございます。

    モーセ、冷静に『出エジプト記』を読むとかなり辛そうなんですよね……。
    中村様もモーセと同じく水が合わない土地を自らの力で飛び出されたのですね。
    それはとても尊敬すべきことであるように思います。

    お忙しい中、拙文を読んでいただきありがとうございました。

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