こんにちは。
Epic45は Rob GloverとBenjamin Holtonをコアメンバーとして1995年に結成された(当時13歳!)イギリス出身の音楽ユニットです。

音楽のカテゴリーとしてはポストロックを軸にしつつもアンビエント、エレクトロニカ、シューゲイザー、フォークなどの要素を併せ持っており、インストゥルメンタルの楽曲が多いのも特徴です。
2020年10月現在、Epic45は8作品のフルアルバムをリリースしています。
(どこまで正式にナンバリングされる作品なのかはやや不明瞭ですが……)
本記事ではその全てを語ります。
Epic45の全アルバムについて
ここから全アルバムについて見ていきますが、文字だけでは分かりにくいので相関図を作成してみました。

では、アルバムごとに見ていきましょう。
(1st)Reckless Engineers
本作にはEpic45というイメージの原型にして完成形とも言うべきシンプルな美しさが描かれています。
儚くも生命力を帯びた大自然に揺蕩う静寂を、音楽に昇華したような作品です。
アルバムの骨組みとしてはシカゴ音響派的なハードな響きへの探求がありますが、その上にメランコリックで穏やかな旋律が多層的に覆いかぶさっています。
荒涼とした森を想起させるエレクトリックギターの音色、
風のようにたなびくピアノの旋律、
時折岩肌のように姿を見せるひそやなかビート、
そして、どこからか漂う妖精の気配のような電子音。
アルバムを通して大きな起伏はありません。優しく脈打つ音の連なりがそっと続き、そっと次の曲へと移り変わっていきます。
少し感傷的な気持ちで移り変わる車窓を眺めているような感覚、と言えば多くの方に分かってもらえるかもしれません。
自然の美しさとそれに向き合うときに我々の胸に沸き上がるメランコリーを虚飾なく鳴らしている、素晴らしいアルバムです。
(2nd)Against the Pull of Autumn
前作の荒涼とした美しさを維持しつつも、エモーショナルな感覚を起伏を滲ませるようになったアルバムです。
風景を眺めているような感覚を想起させるようなアンビエントな質感だけでなく、線の細いビート感や緩やかな疾走感を匂わせる曲も多く存在します。
また、時の流れに晒されたような、どこか寂しげで複雑な色彩を感じさせてくれるのも魅力的です。
感傷的に揺蕩うエレクトリックギター、
朴訥に紡がれるアコースティックギター、
柔らかに時の流れを描くビート、
時々顔を見せる飾り気のない男性ボーカル。
緩やかに展開していく楽曲の隅々を瑞々しいメランコリーがそっと吹き抜けていくような、儚げな美しさに満ちています。
ゆったりとしつつもエモのような剥き出しの感情が見え隠れするように感じます。
曇天の下、薄暗くも美しい景色を眺めているような気持にさせてくれるようなアルバムです。
(3rd) May Your Heart Be The Map
風景的な空気感はそのままに、繊細でアンビエントなサウンドへと変化を遂げたアルバムです。
より儚く、より朧気に、より幻想的に。
遠い記憶を想起させるような心象風景的な響きが、穏やかに浮かんでは消えていきます。
優しげなアコースティックギターのアルペジオ、
憂いとディレイを帯びたエレクトリックギターの音色、
淡くにじんでは消えていくシンセの音響、
心地よい響きを胸に残すひそやかなビート。
開放的な美しさと内向的な静けさを併せ持つ、「触れたら壊れてしまいそうな」という常套句がよく似合う繊細な音の移ろいを描き出しています。
陶酔的でありながらも長閑でもありどことなく優雅な雰囲気もあり、それと同時にメランコリックな静謐さを湛えています。
そっと始まり、そっと聴き手の心に染みこみ、そっと静けさに還っていく。そんな作品です。
(4th)Weathering
風化(Weathering)をテーマとした本作は前作の繊細な質感を引き継ぎつつも、よりノスタルジックでおぼろげなアンビエントサウンドを醸し出しています。
風雪に晒され色あせた淡い記憶のような、切なく儚い旋律がそっと紡がれていきます。
遠い記憶の片隅から響くようなアコースティックギターの音色、
ぼやけて揺蕩うシンセの響き、
そっと寄り添うように鳴らされるピアノやバイオリン。
控えめにならされるベースとドラムス。
素朴なメロディを囁く男性ボーカル、
ポストロック的な骨組み、エレクトロニカ的な陶酔性、フォーク的な叙情性が混ざり合って響く木霊は、豊潤な色彩を余韻として残しては消えていきます。
ディレイ/リヴァーブによる心地よい揺らぎとアコースティックサウンドによる暖かい温もりがノスタルジックな静寂が本作の大きな魅力と言えるでしょう。
(5th)Through Broken Summer
1stや2ndのころのようなはっきりとした輪郭のサウンドに回帰しつつも、おぼろげな雰囲気はそのまま保っています。
水面に揺れる陽光のような、優しい輝きの揺らぎを帯びたサウンドが本作の特徴です。
メランコリックな余韻を響かせるディレイがかったエレクトリックギター、
ノスタルジックな慈しみを奏でるアコースティックギター、
心地よい日差しを思わせる優しいシンセの音色、
温もりを感じさせるベースライン、
穏やかながらも力強いビートを刻むドラムス。
生命力を感じさせる力強い揺らめきが作品全体に通底しており、静謐な律動が何とも心地よいです。
決してギラギラしているわけではなく、過度に陶酔的なわけでもなく、あくまでも穏やかな日差しのような自然体の優しさが作品を覆っています。
ナチュラルな優美さが香り立つアルバムです。
(6th)We Were Never Here
本作は幻想的なアンビエント路線へと再び接近しています。
電子音的な要素も多めに取り込んでいるのが特徴でしょう。
幽玄で儚いエレクトロニカを、解像度の高いテクスチャーで表現しています。
陶酔的な響きを揺らめかせるディレイがかったエレクトリックギター、
穏やかに紡がれていくテープノイズ、
冷冽ながらも柔らかなドローンなシンセ。
奥底で鼓動するように揺らめくビート。
淡々と繰り返される各々の旋律が混ざり合い、静謐ながらも万華鏡のような濃度の高い幻想性を醸成しています。
情景的というよりも感傷的でノスタルジックであり、ここではないどこかへの希求性も含んでいるように感じます。
霧が立ち込め、どこかで小鳥がさえずっている。
そんな美しい架空の世界のような、優しさを漂わせているアルバムです。
(7th)Cropping the Aftermath
本作が一番色鮮やかな作品と言えるでしょう。
シカゴ音響派型ポストロック的な精悍さの上に淡い幻想性に満ちた旋律が漂っているようなサウンドをしています。
サウンド全体にリヴァーブがかかっていますが、その幻想的な木霊の向こう側ではきらめくようなシンセやゆったりとしつつもエモーショナルなエレクトリックギター、アブストラクトなビートが蠢いています。
その一方で鳥のさえずりなどのサンプリングも導入されており、幽玄で感傷的ながらも躍動的な音響世界が煙のようにたなびいています。
そして、時には力強く波打つことも。
アンビエントテクノ的なアシッドさやサイケデリックな陶酔感をEpic45のアルバムの中で最も多く含んでいるように感じます。
ただし、トリッピーということは決してなく、あくまでもEpic45特有の情景的で静謐な美しさが魅力の根幹をなしています。
一つ一つの音が持つ響きの美しさを最大限に生かした繊細な音響世界の揺らめき、煌めき、余韻があまりにも美しく煙っています。
隅々まで触れたくなるようなこだわりに満ちた作品と言えるでしょう。
結びに代えて Epic45とTortoise
音響的であること
改めてEpic45をじっくり聴きこんで思ったのは、彼等のサウンドはTortoiseをはじめとしたシカゴ音響派に近いなということです。
epic45はセンチメンタルで非実験的なMogwaiフォロワー以降のムーブメントの中で生まれたバンドという扱いをされがちですが、骨組みのところではあくまでも音響への探求心に満ち満ちていた鋭敏な初期ポストロック時代と非常に似通っていると思います。
主要参考サイト
https://en.wikipedia.org/wiki/Epic45
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