こんにちは。
Early Day Minersはサウスインディアナ出身の4人組ロックバンドです。
ジャンルは、キャリア全体を通して見ればSlow Core/Sad Coreということになると思います。

Red House PaintersやLowのような圧倒的な存在感を放っているわけではありません。
しかし、スロウコア的な物憂げさの奥に、アンダーグラウンド的なざらついたエモさを強烈に煙らせているのが彼等の魅力です。
そんな彼等の全アルバムについて語ります。
Early Day Minersというバンドの全アルバムについて。Slow Core/Sad Core(スロウコア/サッドコア)における無冠の帝王
アルバムについて語りますが文章では分かりにくいと思うので、まずは図にしてみました。

いかがでしょうか。
また、アルバムのリリース時期に沿ってある程度音楽的な傾向があるので、そちらに基づいてざっくり分類しています。
- ややLo-Fi期
- 冷冽で激エモ期
- ギター激しめ期
- 大地の匂いがするインディーロック期
といったところでしょうか。
では行きましょう。
ややLo-fi期
ここは表題通りです。
Slow Core/Sad Core的なサウンドではありますが、ややLo-fiな質感が印象的です。
(1st)Placer Found
デビューアルバムとしては珍しいことに、非常に穏やかなアルバムです。
特徴としては、清冽なエモーショナルさを温もりのあるサウンドで描いでいることでしょうか。
感傷に浸るかのようにスロウな曲調、
控えめながらも決然とリズムを刻むドラムス、
寄り添うように優しげなベースライン、
儚く揺曳する旋律を爪弾く二対のエレクトリックギター、
俯き加減が目に浮かぶような、ぼそぼそとしたボーカル、
ややLo-fiな質感の中で泳ぐ、胸を打つノスタルジーが何とも愛おしいです。
物憂い感じはしますが、「陰鬱」とか「沈鬱」という言葉はやや重いかなというサウンドです。
美しいメランコリーを、虚飾することなく純粋かつ美しいままに描こうとしたのでしょう。
もちろん諦観めいた胸の疼きを感じさせる瞬間も多々あります。
しかし、刺々しい感情が露わになる瞬間はなく基本的には泰然としています。
やりきれないからこそ美しい感傷を描き切った、深い人間性を感じさせる穏やかなコア・ミュージックです。
冷冽で激エモ期
ここが最もSlow Core/Sad Coreっぽい時期でしょう。
この界隈でのマイナーなバンド特有のエモーショナルさも切れ味が鋭いです。
(2nd)Let Us Garlands Bring
一曲目の最初の一音が鳴ったその瞬間から、あまりにも儚いスロウコアな世界へと連れていかれます。
インディー・ミュージック的な焦燥感を、
胸を突き刺すエモーショナルな激情を、
Slow Core/Sad Coreのフォーマットに余すことなく落とし込んでいます。
まばゆい光輝を帯びた凶暴さが淡く繊細なサウンドレイヤーの中で悲鳴を上げて暴れうごめく様には、刹那的な美しさを感じます。
スロウでなだらやかに緩急をつけていく曲調、
控えめながらもしなやかなドラムスとベース、
静謐にしてきらびやかなエレクトリックギター・アルペジオ、
時にうねる波のように高まり爆発するディストーションギター、
そして、胸打つ旋律を歌い上げる物憂げなボーカル。
エモーショナルな旋律とコアなざらつきが溶け合るように存在しているのが特徴でしょう。
ただし、基本的には冷泉を思わせる淡々とした色調ですが、時折強烈にエモーショナルな旋律が吐き出されることもあります。
それが流れ出す瞬間の瞬間たるや、なんと美しいことか。
聴き手の胸に計り知れない切なさと思わず息を呑むエモさを焼きつけます。
爆発しそうな凶暴さを秘めつつも、静謐で叙情的なアルバムです。
(3rd)Jefferson At Rest
個人的には一番好きなアルバムです。
エレクトリックギターの存在が前作より強くなり、それが情感の色鮮やかさを高めています。
解像度の高い音像とそこに突き刺すような激しさや慈しむような切なさが特徴でしょう。
スロウでおだやかな曲調、
控えめで優しげなドラムスとベース、
穏やかにかき鳴らされるエレクトリック・ギターの奥から漂う暖かな激情、
ギター・アルペジオから生み出されるエモさは霧のように深く立ち込め、
アコースティックギターが囁きのように零れ落ちては溶けていき、
ボーカルは物憂げながらも落ち着いた旋律を歌います。
それらによって組み上げられたのは、鮮明ながらもウォーミングなサウンド・レイヤーです。
胸を締め付ける切なさとじんわりと心温める情感が、若々しい瑞々しさそのままにせせらでいます。
相反するものが混ざり合っているという味わい深さは、非常に魅力的です。
言葉では形容できないような複雑な色合いのノスタルジーが、鮮明に描き出されたアルバムです。
(3)やや激しめスロウコア期
エレクトリックギターのサウンドが強く出ているのが特徴です。
Slow Core/Sad Coreとしてのスタイルを保ちつつ、他のバンドにはない激しさを打ち出しています。
(4th)All Harm Ends Here
エレクトリックギターの存在感がさらに強まり、曲調もSlow Core/Sad Coreとしては速くなっています。
前作から明白な変化を遂げたアルバムです。
しかし、Early Day Miners節とも言うべき、激しさを秘めたエモさは健在です。
スロウでなだらかな時もあればビート感を強めに打ちだすこともある曲調、
ドラムスとベースはロック的なダイナミズムを潜ませながらリズムを刻み、
歪ませたエレクトリックギターの音色からは時に瑞々しい叙情性が、
時に激しいロック的ダイナミズムが、
そしていかなる時も鮮烈なエモさが力強くあふれ出します。
主に穏やかさを彩る時に顔を出すアコースティクギターやピアノは、暖かな質感を常に伴っています。
そして、物憂くも落ち着いた雰囲気のボーカルが不動の存在感を放っています。
Early Day Miners特有の「相反する特徴を矛盾なく併せ持つ」という特性が、本作においては緩急をつけるために用いられています。
力強さと温かさ、スピードと緩やかさ。曲によって匙加減は大きく違います。
エモさだけでなく起伏にも富んだ、ロック的な魅力を合わせ持つアルバムです。
(5th)Offshore
アルバムが始まった瞬間、ヘヴィなギターが瀑布のように解き放たれます。
ドラムスもベースも沈み込むような力強さでリズムを刻み、フィードバックノイズが随所でばらまかれます。
Slow Core/Sad Coreという枠を力任せにぶち壊したかのような幕開けが非常に印象的です。
全体的に見ても、躍動感が印象的です。
インディーロック的なリズムセクション、
激しいかき鳴らされる時もアルペジオを奏でるときもエネルギー量多めのエレクトリックギター、
ボーカルの旋律もロック的です。
それらは混ざり合い、静かにたぎる推進力へと昇華されます。
瞳に炎を燃やし、どこかを見据えているような。
しかし、Slow Core/Sad Core的なしっとりとしたエモーショナルさは健在です。
そして、ボーカルは強烈に感情を込め、力強く壮麗に高らかに歌い上げていきます。
盛り上げるときにはストリングスが壮大さを演出し、かき鳴らされ、打ち下ろされるバンド・サウンド達が強烈に響きます。
しっとりとした物憂げな質感を、静かに燃え滾らせているようなアルバムです。
(4)大地の匂いがするインディーロック期
この辺りは、単純なカテゴライズの話をするのであれば、Slow Core/Sad Coreではないでしょう。
文化系的な空気は残していますが、からっとした大地の匂いをまとうインディーロックになっています。
Early Day Minersにとって新境地と言えるでしょう。
(6th)The Treatment
燃え滾るような前作の後に残った、乾いた大地を思わせるサウンドスケープが印象的です。
ゆったりとしつつもブルースロックを感じさせるドラムスとビート、
切ないアルペジオだけでなく鋭いカッティングを繰り出すエレクトリックギター、
しばしば登場するオルガンが演出する朴訥さ、
南部の匂いを感じさせるというべきか、ブルースロックの影響を強烈に感じます。
もちろん、元来Early Day Minersが持っていた俯きがちな叙情性は残っています。
曲によってはそちらが前面に出ることももちろんあります。
ただ、激情的なエモーショナルさはありません。
そして、代わりにそこにいるのは、虚しさを抱えたまま歩くような乾いたブルースです。
Slow Core/Sad Coreとは非常に縁遠い世界観を取り入れただけのことはあり、希少価値のあるサウンドを構築しています。
ブルースの蒼さとSlow Core/Sad Coreの蒼さが混ざり合ったアルバムです。
(7th)Night People
2019年7月現在、最新リリースとなっているアルバムです。

彼等をSlow Core/Sad Coreたらしめていた俯きがちな叙情性が完全に消失したアルバムです。
ビートも全体的にアップテンポになり、もはやSlow Core/Sad Coreという言葉は当てはまりません。
曲そのものも非常にバリエーションが豊かです。
穏やかなインディーロック調だったり、
直線的なニューウェーブ調だったり、
メジャーなアメリカンロック調だったりと様々です。
陰鬱なスロウさは存在せず、力強いビートのうえに精悍なサウンドが林立しています。
アルバム全体を覆う共通点を挙げるとしたら、長年の風雪に晒されたような味わい深さでしょうか。
メリハリある旋律を歌い上げる大人びたボーカルのかすれた艶も魅力的です。
雰囲気は素っ気ないし、煌びやかさもありません。
決して「人気大爆発!」とはならないでしょう。
しかし、確固たる存在感を持っているアルバムです。
終わりに Early Day Minersのアルバムを聴いていると見えてくるもの
Early Day MinersはSlow Core/Sad Coreに分類されるバンドです。
意図的にSlow Core/Sad Coreであろうとしていたように感じますが、後半期には自らのアイデンティティを脱ぎ払おうとしています。
変わろうともがく姿は不器用であろうとも美しいもので、私自身もそうありたいと強く願いました。
それでは。
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