Cat Powerのアルバムについて。サッドコアの女王から、不屈の女王へ

こんにちは。

Cat Powerはアメリカ出身のCharlyn Marie “Chan” Marshallのステージネームです。

last.fmより

ジャンルとしては、フォークロックやスロウコア/サッドコアなどと評されることが多いようです。
粗くシンプルながらも叙情的なサウンドが印象的です。

悲しみをむき出しにしている活動前半期に関しては、スロウコア/サッドコアの中でもサッドコア味が強く、「サッドコアの女王」と称されたこともあります。
後半は、もっと普遍的な魅力を秘めた音楽性へと変化しています。

ちなみに犬派なんだそうです。

2022年7月現在、Cat Powerは11作のスタジオアルバムをリリースしています。
本記事では、その全てを紹介します。

Cat Powerのアルバム一覧 ~名盤の数々を振り返る~

これからリリース順にアルバムを見ていきますが、文字だけでは分かりにくいと思って相関図を作成しました。

あくまで個人的なイメージです。
ご容赦ください。

スロウコア/サッドコア期

活動初期の作品はスロウコア/サッドコア味が強めです。ただ、後半の作品はその雰囲気が薄らいで、もっと普遍的な魅力も備えていくようになります。

(1st)Dear Sir

・前史:リリースされるまで

Cat Powerの両親は、幼い頃に離婚しています。幼少期は新しい父親の仕事の都合で各地を旅行することも多かったそうです。当時は両親・新しい父のレコード(Otis Redding,The Rolling Stones,The Black Flag)などを聞いており、ローティーンになるとThe SmithsやThe Cureなどを好むようになりました。

当初は故郷のジョージア州で活動していましたがボーイフレンドや親友の死を契機に、拠点をニューヨークに移します。その後、Liz Phairのオープニングアクトを務めた際に知り合ったギタリストTim Foljahn及びSonic YouthのドラマーSteve Shelleyと共に、2ndアルバムと一緒に製作されたのが本作Dear Sirです。

・アルバムの魅力

1stアルバムらしいラフが魅力的な作品です。

ブルース的な土っぽさと情念的な感情が混ざり合い、ひっそりとしつつも気迫を感じさせる楽曲が並んでいます。

陰鬱な感情を歌い上げるボーカル、生々しいエレクトリックギター、息づくようなベース、ひっそりとしたドラムス。人間味が感じられるシンプルな編成で、淡々と書き殴るような迫力で、気だるいアンサンブルを奏でています。

ただ、初期衝動ドロドロで激烈にダウナーというわけではなく、感情と楽曲のバランスは均整がとれているように感じます。

カントリー/ブルースとインディーロックを融合させ、悲しい色彩で染め抜いた作品です。

(2nd)Myra Lee

・前史:リリースされるまで

前作はメディアでも高評価を集めました。そんな状況もおそらくは次作リリースの追い風になったと思われます。1stアルバムと同じ日にレコーディングされた楽曲を収録した2ndアルバムは、1996年にリリースされました。

・アルバムの魅力

同日にレコーディングされたこともあって、音の質感や雰囲気はあまり変わりません。

アメリカ南部的な土っぽさと情念がまじりあった、もの悲しく粗いサウンド。悲しみを絞り出すような歌い方と、シンプルな編成。引き算の美学で、震えるような気迫を生み出す才気はさすが、といったところでしょうか。

ただ、強いて言えば若干情念が増し、若干楽曲の幅が広がり、やや緩急が付いている気がします。

ブルース由来のスロウコア/サッドコアとして、独特の雰囲気を醸し出しています。

(3rd)What Would the Community Think

・前史:リリースされるまで

2ndもローリングストーンなどのメディアから好評価を得ました。

本作は再び1stと2ndと同じく、Tim FoljahnとSteve Shelleyと一緒にレコーディングされました。ちなみにレコーディング中には風邪を引いていたそうです。

本作はアメリカを代表するインディーレーベルの一つMatadorからリリースされます。

・アルバムの魅力

変わらず陰鬱ではありますが過去2作よりは軽く、またいわゆるロックに近づいている作品です。

とはいえ、ブルース的な生々しさ、シンプルなサウンドは変わりません。アコースティックな楽曲も印象的になり、表現の幅も広がっても広がっています。情念と悲しみを深く帯びつつも、それをどこか俯瞰視したような聡明さも魅力です。

淡々と物憂い歌を鳴らし、時に重苦しい雰囲気を帯びつつも、土っぽいだけでなく気品も感じさせます。

Cat Power流の悲しみを貫きつつ、やや色彩が豊かになった作品です。

(4th)Moon Pix

・前史:リリースされるまで

前作リリース後、Cat Powerは南アフリカ共和国へと旅行し、その後オレゴン州、続いてサウスカロライナ州へと転居。そこで見た悪夢をベースに、次作の中心となる楽曲を6つ制作。

オーストラリア出身のバンドDirty Threeのメンバーと共に本作Moon Pixをレコーディングしました。

・アルバムの魅力

(サッドコアというよりも)スロウコア、と言う観点から名盤として扱われることが多い作品です。

Dirty Three的で渋みのあるポストロックのニュアンスを帯びつつ、Cat Powerらしい物憂い雰囲気もまた印象的。その両者の組み合わせが、スロウコア的な魅力を醸しだしているのかもしれません。

単純なダウナーさで言えば、過去作よりも控えめです。ただ、土っぽい渋みと澄んだ音響を兼ね備えたサウンドは、大人の深みがあるように思います。

深い影を帯びつつも、それを飼いならそうとしているかのような、泰然としようとしているかのような魅力を感じさせるアルバムです。

入門編にはぴったりの作品だと思います。

(5th)The Covers Record

・前史:リリースされるまで

前作は批評家から好まれ、ローリングストーンはブレイクスルー作と評しました。ただ、その成功は次作への期待につながり、そのプレッシャーはCat Powerが普通の生活を営むのを困難にさせました。

カバー曲の方が演奏しやすいと感じたこともあり、彼女はキャリア初となるカバーアルバムThe Covers Recordをリリースします。

・アルバムの魅力

原曲らしさを残すというよりも、Cat Power流のひっそりとした個性に染め上げているような作品です。

The Rolling Stones、The Velvet Underground、Bob Dylanなど60’sロック/ブルース/フォークの楽曲中をカバーにしていますが、どこか当時の匂いを漂わせつつも、ひっそりとしたスロウコアに再構築しています。原曲感はあまりないです。

サウンド的にはピアノやギターだけをバックにした、ソロ作という側面が強くなっています。

ただ、ささくれだった情念や沈み込むような陰鬱ではなく、哀しみの底でひっそり佇む癒しのような、温かみを感じる雰囲気です。

個人的にはとても好きな大名盤です。

(6th)You Are Free

・前史:リリースされるまで

前作は元Nirvana/Foo fightersのDave Grohlに称賛されるなど、やはり好評を博します。

また、この時期は彼女のNeo Grungeな外観がファッション業界に注目され、ファッション誌にモデルとして登場したこともあったそうです。

その後、旅の間に1年をかけてレコーディングをされたのが本作You Are Freeです。

・アルバムの魅力

スロウコア/サッドコアという観点ではなく、Cat Powerとしての名盤としては本作が挙げられることが多いように感じます。

ゆったりとしていますがあまり陰鬱な感じはせず、繊細ながらも優しい雰囲気を帯びています。

Pearl JamのEddie VedderやFoo FightersのDave Grohlがゲスト参加していることのその象徴なのかもしれませんが、(特に前半部)スロウコア/サッドコア感は薄れ、もっと普遍的なインディーロック/フォークにかなり接近しています。

ギターやピアノの弾き語りを中心にしたシンプルな楽曲が並び、味わい深くもキャッチーな魅力を噛み締めるように楽しめます。

伸びやかで美しい、優れたインディー/オルタナティブロックです。

インディーロック期

これ以降の作品は、ブルース/ソウル/カントリー/60~70’sロックの影響を洗練させた、穏やかなインディーロックサウンドが特徴。初期のような陰鬱さはありませんが、幅広い層に希求する普遍的な魅力を秘めています。

(7th)The Greatest

・前史:リリースされるまで

前作もまた、多数のメディアから称賛を浴びます。ただ、この時期のワールドツアーは飲酒問題により、「とりとめのない告白」や「ステージから友人の赤ん坊に話しかけていた」を行っており、ステージと表現するのさえ難しいという指摘も受けています。

そんな状況も影響していたのかは分かりませんが、本作The Greatestはメンフィスのベテランミュージシャンと共に制作されています。

・アルバムの魅力

生楽器のラフな質感を残しつつ、穏やかな空気が感じられる作品になっています。

ソウルの影響を感じさせる等身大の温もりがとにかく素晴らしく、ゆったりとしつつもポジティブな優しさに満ちあふれています。


アーシーなオルガン、包容力のあるピアノ、たおやかなリズムセクション。古いレコードの世界をCat Powerの感性で全く新しく転生させたような、透明感や聡明さを帯びつつもほんのり陽気な雰囲気もあって、繊細な慈しみを全編に渡って感じられます。

ゆったりとしてはいますがスロウコアではなく、もっと普遍的な魅力を秘めた作品です。

これも非常に好きな作品です。

(8th)Jukebox

・前史:リリースされるまで

2008年、The Jon Spencer Blues Explosion、Dirty Three、The Delta 72といったそうそうたる顔ぶれを揃えたDirty Delta Blues Bandを結成します。そして、本作がそのメンバーと共にレコーディングした最初の作品です。

・アルバムの魅力

このあたりになると、もう完全にブルースやソウルや60~70’sの匂いがする良質なインディーロックという感じになっています。

本作もほぼカバーアルバム。Janis Joplin、Joni Mitchell、James Brown、Bob Dylanなどの楽曲が並んでいます。本作もCat Power色に染め上げていますが、もっと乾いた優しい色彩です。


ブルージィだったり、昔ながらロックだったりの気配がしつつ、かつてはスロウコア/サッドコアだったことを想起させる引き算の美学は健在。シンプルに、クールに、聡明に、時にひっそりと。無駄を削ぎ落したアメリカ南部のロック/ソウルを奏でています。

本作を聞いていると、一つのカテゴリーに留まり続ける音楽家より、変わり続けている方が魅力的だと強く思います。

(9th)Sun

・前史:リリースされるまで

前作リリース後、Beckのアルバムでコーラスを2曲担当しています。また、車のコマーシャル用の楽曲としてDavid Bowieの楽曲もカバーしています。

本作のレコーディングは難航したそうです。レーベルともゴタゴタしつつも、どうにか完成させたのが本作Sunです。

・アルバムの魅力

ソウルフル/ブルージィだった前作と異なり、ゆったりとしつつも打ち込みビートやシンセも必要に応じて利用しており、インディーロック感が増しています。

ただ、引き算の美学に基づいたシンプルなサウンドは健在。生々しさを感じさせるバンドサウンドも健在。どことなく物憂い雰囲気を帯び、土っぽい雰囲気も残し、それど同時にModest Mouseにも近しい雰囲気を感じさせます。芯は細めながらも精悍というか。

その一方でメジャーフィールドにも通じるような泰然とした大物感も十二分。並みのインディーバンドにはない、懐の広い存在感を放っています。

ひそやかなサウンドから立ち昇る才気の塊には、静かな迫力を感じます。

(10th)Wanderer

・前史:リリースされるまで

前作はビルボート200で10位を記録し、Cat Power初のトップ10入りアルバムとなりました。
ただ、やはりレーベルとの亀裂は大きかったようで、本作はDominoからリリースされています。

なお、2015年には息子が生まれています。

・アルバムの魅力

円熟を感じさせる泰然さを帯びていますが、丸くなったというよりも力強さを感じさせます。

アメリカ南部的なロック/ソウルを魅力の根底としつつ、インディーロック的でキリっとした雰囲気を帯びつつ、穏やかな響きが印象的です。

引き算の美を感じさせる味わい深いシンプルなバンドサウンドに、奥行きを深めるように加わるドラムマシーンやエレクトロニクス。決然とした精悍さが印象的です。ただディストーションギターを掻き鳴らす、ドラムスを打ち鳴らすだけが強さではないということを強く感じさせます。

というよりも、本当の強さとは本作のようなモノを言うのかもしれません。

苦悩の果てに、数多の傷つく経験の果てにたどり着いた静かなる境地。世界を見つめる力強い眼差しのようなアルバムです。

(11th)Covers

・前史:リリースされるまで

Coversは三作目のカバーアルバムです。当初はカバー作にするつもりはなかったそうです。

ただ、レコーディングバンドに緊張をほぐしてもらうため、即興で演奏しているときにふとボーカルブースに入って歌い、「この演奏にどんなカバーを歌えばいいんだろう」と思うようになり、それが本作の発端となりました。

・アルバムの魅力

収録曲は60~70’sサウンドを中心としつつLana Del Rey、Frank Ocean、The Replacementsなどの顔ぶれも混じっています。

サウンドとしては「本当に落ち着いたな」という印象を受けます。無駄を省いたシンプルなサウンドで、素朴な暖かみを感じさせる楽曲を奏でています。


ひっそりとしたサウンドには60~70’sへの愛を感じさせつつ聡明さを滲ませるしなやかさもあり、そしてゆったりとした余裕と力強さがあります。

こんな音楽を創れる人とお酒を飲めたら楽しいだろうな、と感じさせる音楽です。

主要参考サイト

https://en.wikipedia.org/wiki/Cat_Power

https://cincymusic.com/blog/2019/03/review-cat-power

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