こんにちは。
Caspianはアメリカ合衆国マサチューセッツ州出身のインストゥルメンタル・ロックバンドです。

その音楽性は、Mogwai以降(さらに言えばExplosions In The Sky以降)の系譜に連なるバースト系ポストロックバンドです。
濁りの無い、澄んだエモーショナルさが彼等の際立った個性の一つです。
2007年以降は、トリプルギター編成になっているのも特徴かもしれません。
2021年2月現在、Caspianは5枚のフルアルバムをリリースしています。
本記事は、アルバムを介しつつ彼等の歴史をざっくり振り返ることを目的としています。
こちらが各アルバムの相関図です。

では、本題に入りましょう。
Caspianというバンドのアルバムについて 力強く生きてゆく、その足音。
(1st)The Four Trees
前史:アルバムをリリースするまで
Caspianはゴードン大学の同級生たちによって2003年に結成されました。
彼等は最初からインストゥルメンタルなサウンドを指向していたわけではなく、当初はボーカリストを迎えたいと考えていたようです。
ただ、Caspianのメンバー達は立ち止まることを良しとしなかったのかもしれません。
部屋に集まっては『草』と『ジャム』を煙らせながら無軌道に曲を創り上げては小さなキャパシティでのライブをひたすら繰り返し、時にはMONOのようなバンドのオープニングアクトを務めつつ、徐々に現在の音楽スタイルを確立していったようです。
そんな彼等の迸る様な若々しさが、まばゆいバーストとなって表れているのがデビューアルバムThe Four Treesです。
アルバムの魅力
Caspianを代表する名曲Mokshaから幕を開ける、素晴らしいアルバムです。
純度の高いエネルギーが渦巻いており、終始圧倒されます。
いわゆる「静「動」を使い分けるタイプのポストロックサウンドです。
しかし、「静」の時でも疾走感があり、弾けるような瑞々しさを放ち続けています。
エレクトリックギターのエモーショナルなフレーズ、
アコースティックギターの暖かなアルペジオ、
微かに垣間見えるエレクトロニカの影響、
空へ駆け抜けるようなベースライン、
解放感があってパワフルなドラムス。
焦燥感と聡明さが描き出す、エモーショナルな推進力は圧倒的です。
そして、最大の魅力はバーストする『動』のパートでしょう。
ギターサウンドからは、金属質なヘヴィネスの気配が立ち昇っています。
彼等が敬愛するISISやToolの影響でしょうか。
唸り叫ぶように叩けつけられる金属質なラウドネスは、しかしながらExplosions In The Sky、Saxon Shore、Sleepmakeswavesのような目も眩むほどまばゆさを帯びてバーストしています。
本作The Four Treesの音楽スタイルは決して個性的なものではありません。
しかし、突き抜けるような衝動とまばゆいバーストが描き出す巨大な風景画のような壮大さは、そうそうお目にかかれるものではないと思います。
(2nd)Tertia
前史:アルバムをリリースするまで
The Four Treesリリース後、Caspianはいわゆるアンダーグラウンドなポストロックファン達からの支持を集め、再びヨーロッパとアメリカを中心としたワールドツアーで積極的にライブをこなしていきます。
一方、メンバーの一人が(恐らくは本業の都合で)ワールドツアーに帯同できなくなるなどの困難にも直面します。
彼等は大学の同級生によって始められたバンドです。少なからぬショックがあったに違いありません。
そして、アルバム制作においても苦労が多かったようです。
「10分あってバーストするポストロック」を脱しようとするもなかなか壁を打破れなかったとインタビューで振り返っていました。
そんな事情もあってか、暗雲垂れ込めるような重苦しさを感じられるのが2009年にリリースされたTertiaです。
アルバムの魅力
前作のまばゆい初期衝動とは対照的とも言える、激流のような苛立ちがアルバムに流れ込んでいます。
ただし、染まっているわけではなくまばゆさとフラストレーションがせめぎ合っています。
基本的には、前作に引き続き「静」「動」の切り替えで緊張感と躍動感を生み出しています。
ただし、アルバム全体を覆うメタル的なダークさが前作由来のまばゆさと随所で化学反応を引き起こしているのです。
互いを侵食すべく牙を剥き、血を流し、煙が出ているような。
ポストロック的で躍動感あふれるリズムセクションのうえで、ポストメタル/ニューメタル的で沈み込むようなヘヴィネスが唸りを挙げていることには瞠目せざるを得ません。
ポストロック的壮大な美しさを破壊的でヘヴィなギターサウンドが創造するような展開を耳にすることだって出来るのです
特に3曲目のGhosts Of The Garden CityはExplosions In The SkyとKornという大波同士がせめぎ合っているような迫力があります。
また、そうしたフラストレーションの反動なのか、あるいは消化なのか聖性を感じさせる静謐な曲もあり、燃え尽きてしまったような刹那的な美しさが心に残ります。
何にせよ、メタル由来のヘヴィネスとポストロック的で壮大なサウンドスケープが互いを呑み込むようにして共存しているのが本作Tertiaの特徴と言えるでしょう。
(3rd)Waking Season
前史:アルバムをリリースするまで
前作をリリース後、再び世界中をツアーしていきます。
そして、経験を重ねたことが良い方向に作用したのかもしれません。
彼等はワールドツアーをし始めた当初はアメリカと世界中のオーディエンスの反応の違いに、困惑していたそうです。
しかし、世界中にはそれぞれの文化に沿った楽しみかたがあることを理解できるようになったとインタビューで述べています。
また、多くのメンバーが結婚し、子供を持つようにもなりました。
様々な経験を経て「世界」「他者」との向き合い方に変化が生じたのかもしれません。
Caspianは「賛歌のように成長と変化」をテーマとしたアルバムを制作し、2011年にリリースします。
アルバムの魅力
渦巻く感情をそのままに吐き出したような過去2作と異なり、精緻繊細な音楽世界を創り上げるべく多彩な演出をしているのが本作Waking Seasonです。
初期衝動の消失と侮るべきではありません。
Caspianが元来持っていた知性的なエモーショナルさのうえに、荘厳で美しい世界が花開いているのですから。
奥行きの深さと色彩の豊かさは格段に増しています。
「静」「動」の切り替えによるバーストギターが中軸を担っていることは変わりません。
ただし、「静」のパートが聖性を大幅に含んでいます。
いわゆるバンドサウンド以外にもギターのハーモニクス音やバイオリン奏法、柔らかなシンセ/ピアノの音色、澄んだベルの音、コーラスのSE等々を盛り込み、繊細で神々しいサウンドスケープを細部にわたり描き出しています。
そして、まるで視界が開けていくように「動」の轟音パートに展開していくのです。
メタル由来のヘヴィネスはやや存在感が弱まりましたが、荘厳な解放感を緻密な筆さばきで描き切った傑作です。
(4th)Dust and Disquiet
前史:アルバムをリリースするまで
前作Waking Seasonをリリースした翌年、バンド創設時からのメンバーだった
Chris Friedrichが亡くなります。
しかし、彼等は間髪入れずにHimのヨーロッパツアーのサポートアクトや65daysofstaticとのダブルヘッドラインツアーなど、積極的な活動を行っています。
悲しみに沈み込まないように敢えてスケジュールを過密にしていたらしく、同時並行で新しいアルバムのマテリアルも多く作成していたようです。
いわば本作Dust and Disquietは浄化/昇華の過程として生み出された楽曲と言えるかもしれません。
アルバムの魅力
今までにない優美さが感じさせる、深みのあるポストロックサウンドが展開されています。
前作ほど多彩で繊細な音世界を築き上げているわけではありません。
しかし、複雑に折り重なるギターサウンドを主軸にして、激しくも澄んだエレガンスを漂わせています。
エネルギッシュなドラムス、
力強く叩きつけられるベース音、
そして、渋みと透明感を併せ持つアルペジオを奏でることもあれば、メタル由来のヘヴィネスを容赦なく吐き出す重厚なエレクトリックギター。
過去3作のようなきらびやかさはありませんが、深みのある透明感を備えたエモーショナルさは相変わらずです。
濁流のようなヘヴィネスが怒涛の勢いでぶつかり合い、壮絶なクライマックスへと隆起していきます。
特に本作Dust and Disquietはボーカルが本格的に導入された曲もあり、今までにないストレートな感情表現を感じる瞬間が多々あります。
シンプルでありながらシンフォニック、そしてビターな雰囲気のアルバムと言えるでしょう。
(5th)On Circles
前史:アルバムをリリースするまで
再びバンドはヨーロッパや北米を中心にツアーを敢行していたようで、Minus The Bearのサポートアクトも行っていたことも注目点かもしれません。
2019年の3月に、Caspianはソーシャルメディアにレコーディングを開始したことを示すような投稿をしています。
2019年の7月には2018年以降からサポートメンバーとして活動を共にしていたJustin Forrestが正式なメンバーになっています。
また、リリース後の出来事ではありますが、グラミー賞のパッケージ部門にノミネートされていることは特筆すべきでしょう。
アルバムの魅力
今までにないほどの感情の奔流と、煌びやかな希望に満ちたバースト。
力強くも叙情的で、優美ながらも精悍で。
しかも、今までにないほどのキャッチーさを秘めており、迸るエネルギーのままに突き進んでいくような鮮烈な魅力を聴く者に感じさせます。
エモーショナルに澄み渡るエレクトリックギター、
勇壮な感情を表現するような力強いベースライン、
高らかに響き渡るドラムス、
「静」「動」の二項対立ではなく両者の間を巧みに行き交いながら、機が熟したタイミングでカタルシスへと達するような展開が印象的です。
また、全体的に光・希望の成分が強く、ダークな色彩が感じられないのは重要な特徴です。しかし、日和ったかというとそんなことは全然なく、曲に込められた衝動や熱量は高まっています。
過去作を特徴づけるシンフォニックやヘヴィネスとは異なり、眩い光のバーストとでも言うべき気高いポジティブさを奏でています。
そのうえ曲の起承転結精度も上がっており、曲が持つエモーショナルさを上手に魅せることに成功しています。
成熟はしていますが、エネルギーはむしろブーストされていると言って良いでしょう。
個人的には、Caspianで最も好きなアルバムです。
主要参考サイト
http://sin23ou.heavy.jp/?p=6334
https://lomophy.tumblr.com/post/130194453970/interview-philip-jamieson-from-caspian
http://www.tokafi.com/15questions/interview-caspian/
http://www.tokafi.com/15questions/interview-caspian-ii/
https://indiecurrent.com/interview-caspian/
https://nbhap.com/people/interview-caspian
https://en.wikipedia.org/wiki/Caspian_(band) https://www.grammy.com/grammys/news/2021-grammys-complete-nominees-list#22
The Four Trees日本盤の帯
結びに代えて ポストロックバンドとしてのCaspian/その後ろにいる人間としての言葉
Caspianはインストゥルメンタルバンドです。
その音楽には言葉はありません。
ただ、あくまでも個人的にですが、彼等の音楽には自意識の澱みに囚われていない透き通った佇まいがある気がします。
そんなCaspianの音楽性の一端を示していると思われる文章がありましたので、最後に引用したいと思います。
(インタビュアーからの『ツアーを通して世界中の人や文化に触れて、何を学んだか』という質問に対して)
人間はどこに居たって変わらない、一人ひとりを見れば同じやつはいないけど、君が思うより僕らはきっと似ている。
https://lomophy.tumblr.com/post/130194453970/interview-philip-jamieson-from-caspian
この透徹した眼差しが、Caspianの音楽の根底にあるように感じます。
それでは。
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