「アラブの春」と日々の苦悩、エジプトの空気を冷冽に映し出すCairokeeというロックバンドについて。

こんにちは。

Cairokee(カイロキー)は2003年にエジプトで結成された5人組のロックバンドです。

アラブ諸国の民主化運動である「アラブの春」において革命の象徴となった存在でもあり、若者の日々の苦悩を代弁し続けています。

エジプトのポップカルチャーにおいて最も有名なアーティストの一角を担って言えるでしょう。

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サウンドの傾向としてはシンプルかつソフトなロックサウンドから始まり、徐々にオリエンタルな旋律と打ち込み系ビートを導入していくという変遷を辿っています。

本記事では「アラブの春」やその後のエジプトにおいて彼等がどのような立場にあったのかに触れつつ、2020年3月現在6枚リリースされている彼等のアルバムについて語ります。

注意!!
本作はCairokeeの世界に深く踏み込むため、歌詞の和訳を試みています。
しかし、著者はアラビア語ができるわけでもなく英語にも決して明るくありません。
参考文献から引用をしている和訳は問題ないと思いますが、英訳された歌詞をさらに和訳したものも掲載しています。
あくまでも雰囲気程度に楽しんでいただければと思います。

Cairokee(カイロキー)を生み出したエジプトの社会背景

エジプトの社会背景(2000年頃~2010年頃)

エジプトの共和制は王政を倒したナセル大統領によって1952年に打ち立てられました。

その政治体制においては民主的な制度が部分的に導入されていましたが、その運用の仕方は非民主的でした。
警察が暴力と恐怖で国民を抑え込み、一党独裁体制を維持していたのです。

ただ、国民には抑圧的な社会を甘受する理由がありました。
福祉サービスの提供や大量の公務員雇用などにより国民の生活を保護していたからです。

しかし、1981年に大統領に就任したムバラク以降はその状況が変わってきます。


https://www.cairo360.com/article/music/12-years-counting-an-interview-with-cairokee-ahead-of-the-bands-huge-galleria40-gig/


ムバラク大統領はいわゆる新自由主義経済へと舵を切ったのです。

公務員の大量削減等により、若者の失業率は上昇していきました。
生活の基本物資に対する政府の補助金が削減されたことによる物価の高騰し、汚職も蔓延するような不公平な社会が完成しつつありました。

そして、ムバラク政権は21世紀に入ってもまだ続いており、若者たちは不満を募らせていきました。

アラブの春の始まり

「アラブの春」はアラブ諸国で2010年頃に巻き起こった民主化を求める運動です。
その大規模な運動はチュニジアのある青年が焼身自殺をしたことによって幕を開けます。


とある青年が露店で野菜を売って生計を立てていましたが、彼は無許可販売を理由に政府職員によって商売道具を没収されてしまいます。
政府職員は賄賂を要求しましたが、青年は払うことはできません。
その結果、青年は平手打ちと暴言を浴びせられてたのです。


翌日、青年は没収された商売道具の返還を役所に求めましたが相手にされませんでした。
そして、青年は抗議として焼身自殺を図りました。

この出来事はTwitter,Facebookなどをとしてチュニジア中に広まります。
やがて、首都チュニスでのベンアリ大統領辞任を求める後に「ジャスミン革命」と呼ばれる大規模な抗議運動へと発展しました。

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エジプトの「アラブの春」とミュージシャン

その勢いはエジプトへと飛び火していくことになります。
体制への不満が濛々と立ち込めていただけに、怒りの火が広がるスピードは速かったようです。
複数の若者グループがタハリール広場でムバラク大統領への抗議活動を活動しだしたのです。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/c/c5/Day_of_Anger_marchers_in_street.jpg



しかしながら、エジプトの有名歌手たちは若者に支持する声はあげませんでした。

その一方、民主化を求める若者の傍には無名のミュージシャンがいました。
フォークロック歌手のラーミー・エサームやラッパーのラーミー・ドンジュワンなどです。

そして、革命の機運がクライマックスに達したとき、後に革命の象徴となる曲をYoutubeに投稿したのがCairokeeのボーカリストであるアミール・イードです。

アミール・イードが作詞作曲を手掛け、ウスト・エルバラドWust El Baladのハーニー・アーデルと共に歌った「自由の声Sout el-Horeya」です。

タハリール広場の勢いをそのまま切り取ったような映像、爽やかな曲調、飾りのないシンプルな言葉で自由を渇望する歌詞などが相まって、「自由の声Sout el-Horeya」はエジプトで大ブームになりました。

その歌詞を見てみましょう。

もう帰らないと言って俺は出てきた 全ての道に血で文字を書いた

聞こうとしないヤツにも話を聞かせ 邪魔するものはみんな崩れ去った

夢だけが俺たちの武器だった 目の前に明日は開けてる

ずっと前から待っていた なかなか見つからない俺たちの居場所

この国のすべての通りで 自由の声が叫んでる

空に向けて顔を上げた俺たちには 空腹なんてどうでもいいんだ

大事なのは俺たちの権利 俺たちの血で歴史を刻むんだ

お前も俺たちの一員なら もうつべこべ言わないでくれ

「夢なんてあきらめて帰ろう」なんて 自分勝手なこと言わないでくれ

この国のすべての通りで 自由の声が叫んでいる

中町信孝『「アラブの春」と音楽』,DU BOOKS,2016,P189

余計な比喩や婉曲表現を使わず、真っすぐな言葉で自由への想いを歌っています。

この曲は革命を求める若者たちの心に力強くも凛と響いたのでしょう。
「橋の下で演奏する少年たち」と呼ばれるほどマイナーな存在だったCairokeeは、この曲をばねにして一気にエジプトのスターダムへと駆け上がります。

Cairokee(カイロキー)の全アルバム ソフトなロックサウンドと叙情的なアラブ・エジプトの旋律

ここから各アルバムごとに語っていきます。

しかし、文章だけでは分かりにくいと思いますので、相関図を作成してみました。

こちらです。

それではアルバムごとに見ていきましょう。


個人的にはまず6thか5thから聞いてみるのを強くお勧めします。

(1st)Matloob Zaeem (مطلوب زعيم) 

革命直後にリリースされた本作、1stアルバムということもあって素朴な質感に仕上がっています。

サウンド的にはアラビア語で歌われている以外は欧米や日本などとの違いはなく、荒削りながらも普遍的なロックサウンドを聞かせてくれます。


ただし、いゆわるパンクやエモのようなエネルギッシュさが奔流しているような感じではなく、ソフトで肩肘の張っていない楽曲が多数を占めています。

しかし、各曲に込められている熱量は非常に強烈です。
前章で紹介した「自由の声Sout el-Horeya」以外にも革命の空気を含んだ歌が多く収録されています。

例えば、『翼を広げてEfred Genahak』は、革命達成後の若者たちが感じていた底抜けのポジティブさと万能感を反映しています。

君は何だって夢見ることができる 君は希望そのもの

君が求めるものすべてが 君の中から呼んでいる

過ぎたことは忘れよう 自分で運命を書くんだ 

死んだ夢を目覚めさせよう 心の言葉を叫ぼう 

翼を広げて飛び上がれ 天井は遥か空の彼方 

黙っている間に考えろ 自分の心の中を探せ 

色を塗れ 絵を描け 心を開いて輝け 

道のりは遠くはない 君は一人じゃないと信じるんだ

全てが新しい 今こそ君のときだ、きっと

翼を広げて飛び上がれ 天井ははるか空の彼方

ヤツらは君を遠ざけようとする 君の視界を遮り 帰そうとする

生かすも殺すもヤツら次第 君が存在しないかのように

翼を広げて飛び上がれ 天井ははるか空の彼方


中町信孝『「アラブの春」と音楽』,DU BOOKS,2016,P210~211

爽快感に満ちた曲調で、無邪気で楽天的な言葉が紡がれています。



しかし、その一方で勝利の美酒に酔うだけでなく、政治的な主張も述べています。
表題曲でもある『指導者を求むMatloob Zaeem』の後半部分を見てみましょう。

指導者を求む 臆病者を賢いと言わない

俺たちの鼓動までしっかりと聞いてくれて 俺たちの真ん中にいる

決して宮殿なんかに住まない 墓地に住んでいる人のことを気遣って

俺たちと同じものを飲み食いし 俺たちの一員として暮らし

俺たちの意見を聞いて取り入れてくれる 

いざとなれば俺たちは彼のために命を投げだすだろう

指導者を求む 責任感があり 大胆にして勇敢で

嘘をつかず主体性があり 不正にノーと言える

指導者を求む 俺たちが法に問える指導者を

もし信頼を裏切ったらクビにすることもできる

容姿は問わない 年齢も問わない 宗教も問わない 

唯一の条件は人間であること

要するに、真の漢を求む

中町信孝『「アラブの春」と音楽』,DU BOOKS,2016,P189

日本ではあまり見られない政治的な主張を、大仰ぶるわけでもなく率直に語っています。


では、少し重たい雰囲気も曲も。
ムバラク大統領の辞任後も若者が望んでいた就職口、表現・政治的自由、社会的正義などは達成されませんでした。

革命達成後、軍部による政権交代が遅々として進まないときに発表された「広場よYalmidan」では、そんな状況を打破すべく再びデモの現場となったタハリール広場に集まろうと語りかけています。

ああ、広場よ 久しぶりだな

俺たちは一緒に歌い、頑張り 恐怖と戦い、祈った

昼も夜も力を合わせ お前がいれば何だってできた

自由の声にみんなが集まり 人生が初めて意味を持った

ひるまずに声を上げて 夢はついに叶ったじゃないか

ああ、広場よ 久しぶりだな

お前は壁を壊し光を灯し、打ちひしがれた人々を周りに集めた

俺たちは生まれ変わり 見果てぬ夢も生まれた

意見は違えど思いは清らかで 時にビジョンはぼやけてたけど

故郷と子孫と 散っていった若者の権利を守ろうとした

ああ、広場よ 久しぶりだな

俺たちはお前とともに感じ、また始めた 一度遠ざかり終わってしまったけども

俺たちの手で変えるんだ お前は多くを与えてくれた あとは俺たちがやる

お前が思い出になって遠くなり 思いが死んでしまうのが怖くなる

また戻ってきても過去を忘れ 昔話でしか語らなくなるのを恐れてるんだ

ああ、広場よ 久しぶりだな

広場は色んな人でいっぱいだ 日和見する者に勇敢な者

積極的な者 便乗する者 声を上げる者 黙っている者

集まって茶を飲めば どうやって真実を得られるか分かる

お前は世界に聞かせてくれる 人々を集めてくれる

ああ、広場よ 久しぶりだな

思いが俺たちを力づけ 団結の中に武器がある

広場は真実を語り つねに不正にノーと言う

広場は波のよう ある者はそれに乗り、ある者は引く

傍観者は言う めちゃくちゃだ、運命は変えられないのにと

中町信孝『「アラブの春」と音楽』,DU BOOKS,2016,P226

擬人化した広場に語り掛けるようにして、若者に革命のために立ち上がることを促しています。



本作Matloob Zaeem (مطلوب زعيم)  は、彼等が愛するThe BeatlesやPink Floydなどの影響を無垢に感じさせつつも、新たな社会を求めるエジプトの若くて切迫したエネルギーを潜ませたアルバムと言えるでしょう。

(2nd)Wana Maa Nafsy Aad (وانا مع نفسي قاعد) 

Cairokee曰く、1stとは違い、政治性とは程遠いところにあるアルバムとのこと。

サウンド面においては前作よりもしっとりとした雰囲気になっていますが、大きな違いはありません。
ボーカル、ギター、キーボード、ベース、ドラムスという編成をシンプルに活かした穏やかなロックサウンドを奏でています。

その一方で、歌詞は大きく変化しています。
人生を生きる上での普遍的な苦悩を歌った曲が存在感を強めています。


寂しげなMVが制作されているWana Maa Nafsy Aaedを見てみましょう。

木々のように 空気は俺の上をうねらせる

そして俺が遠くに行くときは、いつでも俺は自分の同じ場所にいる。

俺は見るための目を失った 俺はかたわらに投げ捨てられる

俺は孤独だ 自分の影に話しかけている

でも、影は俺が言っていることを理解してくれる

そして、俺は一人で座ってる 俺はここに一人で座ってる

ここで 俺の場所で

ここで 俺の場所で

https://www.musixmatch.com/ja/lyrics/Cairokee/%D9%88%D8%A3%D9%86%D8%A7-%D9%85%D8%B9-%D9%86%D9%81%D8%B3%D9%89-%D9%82%D8%A7%D8%B9%D8%AF-Wana-Maa-Nafsy-Aaed/translation/english より英訳された歌詞を和訳(抄訳)

前作の社会に訴えかけるような言葉から一転して、内省的な詩へと変わっています。


また、大切な人との別れを歌ったBasaal Aliekiも印象的です。

俺たちは一緒になんていなかった

俺たちは別れなければならなかったし、傷ついている

俺の過ちでも君の過ちでもない

俺は自分自身を見出せない

俺は自分自身を理解できない

いつも夢で君に会う

どこか俺の場所よりもよいところで

俺は空に訊ねる

俺の後悔を風に乗せて送る

毎日

毎日俺たちは現実から逃げる

いつも俺たちは新たな始まりを宣言する

毎日俺たちは言い、繰り返す

たくさん挑戦して、何も起こらない

俺たちは一緒になんていなかった

俺たちは別れなければならなかったし、傷ついている

俺は空に訊ねる

俺の後悔を風に乗せて送る

https://www.musixmatch.com/ja/lyrics/Cairokee/Basaal-Alieki/translation/english より英訳された歌詞を和訳(全訳)

こちらも非常に内省的です。



革命に破れた人々を鼓舞するかのような、自分たちをどうにか肯定しようとするEl-Malekも胸に刺さります。

俺の話を聞け、そしてお前が誰に話しているのか知れ

俺はこの地球の偉大なる王

そしてこの人生は全て俺のもの

西から東まで

金は全く持ってないけど

でも俺は祈れるし、祈りの言葉を言うこともできる

ボタンのついた武器は持ってない

偉大な王のようには生きてない

でも

俺には水と空気がある

俺には星々と空がある

俺の傍には優しい人々がいる

俺には忍耐と信念がある

俺は決して臆病者になんてならない

https://www.musixmatch.com/ja/lyrics/Cairokee/%D8%A7%D9%84%D9%85%D9%84%D9%83-El-Malek/translation/english より英訳されたものを和訳(抄訳)

「アラブの春」での民主化に失敗したエジプトの若者は、優しい音色で紡がれる本作の楽曲に染み入るような慈しみを感じたのかもしれません。


(3rd)El Sekka Shemal (السكة شمال)

第三作目となるEl Sekka Shemal (السكة شمال)は、従来のソフトなロックスタイルに中東的な旋律をより強く組み込むようになった方向転換作です。

エレクトリックなShaabiのリズムを盛り込むなど、彼等のエジプト人としてのアイデンティティを感じさせるサウンドが展開されています。

比較的ロックなサウンドと非常にディープなエジプトの空気感が混ざり合うことなく、両方の個性が強く感じられるのも印象的です。

また、歌詞については1stの政治性と2ndの内省が同時に感じられる曲があります。

Ghareeb Fi Belad Ghareebaを見てみましょう。

俺は人々の顔を覗く 俺は意味を理解し、学んだ

俺は狼狽した貧乏人を見た 俺は瞳の内側に悪魔を見た

俺は宗教と信頼を見た 狂気と忘却を見た

俺はおかしい国で迷子になった 俺はおかしい国で迷子になった

おかしい国で おかしい国で

働いて金を増やしているやつもいる 他の連中は人生に不満を言ってるだけだ

多くの若者が変えたいと思っている 彼等は夢を見出せないし、伝えたいと望んでいる

俺はおかしい国で迷子になった


https://www.musixmatch.com/ja/lyrics/Cairokee-feat-Abd-El-Baset-Hammouda/Ghareeb-Fi-Belad-Ghareeba/translation/english より英訳された歌詞の和訳(全訳)

続いて表題曲のEl Sekka Shemalです。

俺は待っていて、生きていて、歌っている。

そして、君は俺を理解してくれであろう唯一の存在だ

俺は叫んでいて、誰も聞いてくれない

アクロバットをしてるのに誰も見てくれない

子供の頃から真っすぐ進んできた

後ろの道へなんて進んでこなかった

だけど、俺たちの国は俺たちを必要としない

そして、俺たちに一発をお見舞いする

道はいつも右か左

働くな、進むべき場所へ!

俺も君のように役割がない

打ち捨てられた映画館のエキストラ

馬鹿なヒーローが演技をしている

俺と君は何にも関係がない

何もかもが間違った方向に進んでいく

メルセデスからタクシーへ

全てのステップにはジンクスがある

なぜ君は俺たちに失望を掲げるんだ?

道はいつも右か左

働くな、進むべき場所へ!


https://www.musixmatch.com/ja/lyrics/Cairokee/El-Sekka-Shemal/translation/english より英訳された歌詞を和訳(抄訳)

どちらにも「社会を変えよう」とする意思は込められていません。

Ghareeb Fi Belad Ghareebaは打ちのめされているのに対し、El Sekka Shemalには不合理な社会の中で突き進もうとする力強さを感じさせます。

酸いも甘いをかみしめた大人っぽいテイストが漂っているように思います

(4th)Nas w Nas (ناس و ناس)

前作よりも優しく穏やかなサウンドが前面に出ており、ソフトロック的な側面が非常に強く出ているアルバムです。

3rdで導入された中東的な音色も香りづけのように時折ふわりと漂い、独特の妖しさがアクセントになっています。

また、歌詞は3rdと同じように政治的なものもあれば、日々の暮らしについてのものがあります。

まずは若者の日常を切り取ったNeaady El Sharea sawaを見てみましょう。

俺は道路を横切るためにあの娘の手を握った

あの娘は見れば分かるから大丈夫って言った

俺は馬鹿みたいにふるまった あの娘の手を握り続けた

あの娘は鋭い一瞥とともに「手を放して」って言った

俺は「冗談だよ」って言った

あの娘を映画館に連れて行って、ポップコーンを買った

良いアクション映画だったヒーローがいつものように悪者をぶっ倒す

俺は早く映画が終わればいいのにと思った

彼等は映画の輝きを照らす

あの娘に近づくのが怖い つまり、間違ったことをするのが

信じられない 俺はどこからスタートすれば良いのか分からない

考えたくない 

思い出せる限り、俺はずっとこの日を待ってた

俺の心を開いてあの娘に全てを見せるために

思い出せる限り、俺はずっとこの日を待ってた

俺の心を開いてあの娘に全てを見せるために

あの娘の手を掴むために

そして、ストリートを一緒に渡った

俺たちはストリートを渡って、別のストリートに行く

ごった返したストリートで俺たちは迷子になる

人生がより良いものであるように感じる

ストリートは俺たちのもので、俺たちは初めて孤独になる


https://www.musixmatch.com/ja/lyrics/Cairokee/Neaady-El-Sharea-Sawa/translation/english より英訳の和訳(抄訳)

個人的には一押しの歌詞です。
日本における男性の恋愛を歌った歌詞は過度にロマンティックだったり、過度に厳しい現実を突きつける攻撃的なものが目立ちますが、この曲は現実を的確に捉えつつもバランスが取れていると思います。



また、政府によるプロパガンダに警鐘を鳴らすEl Televisionも鋭く世相を捉えています。

その一節を見てみましょう。

ヤツらはお前の好みを知っていて どんな考えでも植え付ける

一日中動いている洗濯機が みんなの頭を洗濯し汚染する

テレビジョン それは動いている

中町信孝『「アラブの春」と音楽』,DU BOOKS,2016,P302

アルバムも4作目に入って、円熟を迎えたのかもしれません。

初期のような突き抜ける解放感はありませんが、味わい深いメロウさが魅力の作品です。

(5th)Noaata Beida (نقطة بيضاء)

方向転換作にして一気にクオリティを上げたアルバムです。

エジプト政府にオンライン以外での発売を禁止されたものの、それが奏功してItunesエジプトのチャートで1位、中東全体でも2位を獲得しました。

中東的な旋律とソフトロック的な性質が完璧に融合させつつ、完成度の高い哀愁を描き出しています。
それと同時に打ち込み系ビートやファンク的なビートの曲もぐっと存在感を増し、力強い躍動感が感じさせるアルバムです。


日本や欧米では生み出せないサウンドが荒削りながらも姿を見せています。

個人的にはCairokeeで一番好きな曲であるEl Seka Shemal Fe Shemalを見てみましょう。

過ちの道は正しき道が消えた時に現れる

俺たちはぐるっと廻ってまた同じ場所にたどり着いた、顔面への平手打ちと共に

真っすぐで狭い道を歩け ケツを上げな 矢が刺さるぞ

曲がりくねった道を行け 良いものは全て通り過ぎていくだろう

彼等がなぜ金持ちなのかとか、日々のパンをどこから調達しているかとか そんなことは尋ねるな

政治はない 代わりに君は最高のドラッグを手にするさ

窮屈に眠れ 明かりもなく 政策に疑問を持つな

かつて求めすぎていたことを求めろ 

やがてお前が眠る墓のなかで

貧乏人がここを統治する 安物が尊い

俺たちはもうここにはいない

だから俺は前と同じことをして 過ちの道のブルースを歌う

貧乏人がここを統治する 安物が尊い

俺たちはもうここにはいない

だから俺は前と同じことをして 過ちの道のブルースを歌う

https://www.youtube.com/watch?v=RdvxvQ9h2AA より英訳を和訳(抄訳)

貧困にあえぐ絶望的な状況です。
ひょっとしたら革命後のエジプトに暮らす若者を歌っているのかもしれません。

しかし、エネルギッシュでダンサブルな曲調や戦い続ける意思を歌うことによって、血潮のたぎる様な力強いプロテストソングに仕立て上げています。

俺のなかの声が遠くから聞こえる それは分かるんだけど俺は迷ってる

暗闇の中の白い点 石への新鮮な呼び声

彼はナイーブで純粋で、俺は二つの顔を持つ世界でいつも否認する

俺は囚人で看守 鍵をかけられている

俺は全てのカギを持ってるけど、開けるには臆病すぎる

俺は犯罪者で犠牲者

俺は何故なのかずっと尋ねてる でも、俺が全ての理由なんだ

彼は俺で 俺は彼

俺の中で戦争が巻き起こる

俺の奥深くで 俺を殺す 俺は逃げられないし自由にもなれない

彼は俺で 俺は彼

俺の中で戦争が巻き起こる

俺の奥深くで 俺を殺す 俺は逃げられないし自由にもなれない

https://www.youtube.com/watch?v=LoIG0ppRIo0 より英訳を和訳(抄訳)

こちらは自我の苦悩について語っています。

歌詞のテーマとスロウでアラビア的なディープ・サウンドとマッチしており、トリッピーな深淵さを感じます。

何にせよ、本作は彼等の音楽をアップデートした、素晴らしい作品と言えるでしょう。

(6th)The Ugly Ducklings (أبناء البطة السوداء)

個人的には彼等の最高傑作だと思っています。

中東的な旋律が匂い立つディープな叙情性、
ミニマルながらもダンサブルな打ち込み系ビート、
静かに始まり、じわじわと盛り上がる壮大なスケール感、
そのすべてが唯一無二のオリジナリティと高いクオリティを誇っています。

これは中東でしか生まれえなかったサウンドでしょう。
シンセの存在感が強まったこともあり、オールディーズなオリエンタルSFを思わせる雰囲気を醸し出しています。


また、歌詞の世界も印象的です。
特に本作のMVは全て胡散臭い日本語字幕がついているのが面白いところです。
実際に見ていただくほうが分かりやすいと思います。

生きていくうえで抱える苦悩や社会との軋轢、他の人々との考えの違いなどを実にシンプルに描いています。

「白か黒の世界 灰色で生きていたって別に構わないのに」というフレーズは現代日本にも違和感なく通じる言葉なのではないでしょうか。

また、こちらも印象的な曲です。

自分をちっぽけなタバコに例えたうえで、美しくも残酷な世界になす術もなく捕らえれ、吸い尽されて捨てられてしまう、と表現しています。

こちらも世界の残酷さを鋭く表現しています。

紹介した 2曲からも分かるように本作はディープな中東の旋律をシンセなどで再現しています。
しかし、強烈に民族性を押し出しているわけではなく、洗練された雰囲気にまとめています。

さらに文学的な雰囲気も漂っており、シルクのような高貴さを感じます。

もっと幅広く評価されるべき作品ではないでしょうか。

結びに代えて Cairokee(カイロキー)とエジプト

Cairokeeのようなバンドが存在できるエジプトの文化的土壌からは見習うものがあるはず

あまり日本ではなじみのない中東の音楽ですが西洋のポップ・ミュージックをそのままコピーするのではなく、独自の感性を通して美しい音楽を奏でているミュージシャンが多数存在しています。

Cairokeeはその魅力を最も体現しているバンドの一つです。

また、彼等の場合「アラブの春」や若者の空気感をふんだんに含んでいるところにすばらしさがあります。

さらに彼等にはロックバンドに付き物とも言えるナルシズムがありません。
例えば同じように時代の空気感を含んだグランジと比べると抽象的な言い回しの歌詞がなく、直接的に社会を変えようと訴える言葉が多く、困難な人生を歌う曲でも決して下を向かずに進んでいく曲が多いのが印象的です。

それから日本に多くありがちな歌詞のように自己愛的に閉じこもるものも少ないのが特徴です。

エジプトの文化を諸手を挙げて賞賛するつもりなど毛頭ありませんが変なナルシズムに酔うことなく、自己愛に耽りすぎることもないCairokeeというロックバンドと、彼を受け入れる層が存在している事実からは見習うべきことが多いと思います。



それでは。

主要参考文献&サイト

主要参考文献

主要参考サイト

https://www.musixmatch.com/ja/artist/Cairokee https://scenenoise.com/Best-Of/the-40-best-middle-eastern-albums-of-2017 https://wwww.dailynewssegypt.com/2015/04/07/cairokee-celebrates-the-release-of-their-5th-album/
Cairokee Turns Left
Exclusive Video Q&A: Cairokee Uncovered
12 Years & Counting: An Interview with Cairokee Ahead of the Band’s Huge Galleria40 Gig

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