こんにちは。
『ブッダチャリタ』は、1~2世紀頃のインドで成立したブッダの生涯をまとめた伝記です。

ブッダの全生涯を記したものとしては最も成立年代が古く、完全な仏伝とされています。
著者はクシャナ朝カニシュカ王にも尊敬されたとも伝えられるアシュヴァゴーシャ(馬鳴)で、原サンスクリット語(一部のみ)、チベット語、漢文の写本などが現存しています。
とても面白かったので個人的に関心がある部分をまとめていました。
『完訳 ブッダチャリタ』のあらすじ
本著『完訳 ブッダチャリタ』は28章編成になっていますが、主に4点に内容を分類することができます。
- ブッダの生誕と成長、出家
- 悟りを開くまでの出来事
- ブッダの教えが広まる過程
- ブッダが死に至る過程とその後
では、上記の分類に従って内容を見ていきます。
1.ブッダの生誕と成長、出家
シャーキャ族の王妃マーヤーは白い像の王が自分の中に入ってくる夢を見ます。
その後、王妃マーヤーは太陽のように輝き、深い知性を備えた赤子を産みます。
それがブッダです。
赤子のブッダは立ち上がり「悟りのため、世の利益のため、私は生まれた。これが輪廻における私の最後の誕生であるように」と宣言しました。
過保護な王のもとでブッダは宮廷で何不自由なく成長しました。
ブッダは容姿も美しく、深い知性も備えていました。
やがてヤショーダラーと結婚し、ラーフラという息子も設けます。
しかし、とうとう王によって遠ざけていた老いや病の苦しみ、死の恐怖におびえる庶民の姿を見てしまいます。
世界は、その中で生きる人々は逃れようのない苦しみに苛まれていることを知るのです。
ブッダは、馬丁をだまし、城を飛び出してしまいます。
2.悟りを開くまでの出来事、様々な人との問答
苦行者が集う森にたどり着いたブッダは、そこで常軌を逸した貧しい食事や奇怪な修行を聖者達が行っていることに疑問を持ちます。
輪廻からの解脱を求めているブッダにとって、彼らの行いは苦しみのために苦しみを求めているようにしか見えませんでした。ブッダは森を離れます。
その後も王や聖者との対話を繰り返し、自我の否定や愛欲の超越といった境地を経て、少しずつ悟りに近づいていきます。
悟りとは、森羅万象に対する無知がなくなることにより、執着や欲望が消えうせ、解脱へと到達できるというものでした。(ざっくり)
3.ブッダの教えが広まる過程
ブッダは世の人々を苦しみから救うべく、自分の教えを広める決心をします。
ヤシャス、アーナンダといった弟子達が集いました。
また、教えは広まっていき、マガダに住む人々をはじめとして徐々に帰依していきました。
4.ブッダが死に至る過程とその後
やがてブッダは自分の死期(3か月後)を悟ります。
弟子たちをはじめ多くの人々が悲しみますが世を去ります。
その死に際して、天や炎が巻き起こる奇跡が起きました。
遺骨の分配についてもめごとがあったものの、骨を分かつことによってブッダの教えと名声も分かつという趣旨の元、八つに分けることになりました。
『完訳 ブッダチャリタ』の魅力
1.仏教の教えが分かる
これが一番大きいと思います。
短く引用するのが難しいのですが、その趣旨は生きることには必然的に苦しみが伴い、その苦しみは執着から来ていて、その執着は我々の無知から来ている。
だから、無知を減らし、執着を滅するという理解になるかと思います。
個人的には非常に的を射ているように感じます。
2.異文化的な比喩が面白い
1~2世紀のインドで書かれたということもあり、現代日本人には想像もつかない比喩が登場します。
その発想が素敵で面白いんです。
いくつかご紹介します。
ブッダがこの真理をまさしく知られたとき、大地は酒に酔った女のように揺れ動き~
『完訳ブッダチャリタ』講談社学術文庫,p168
ブッダが悟った時、様々な奇跡が起きました。
この一節はその中に登場します。
揺れる大地を酔っ払った女性に例える。
なかなか現代日本人にはない感覚ですね。
(ブッダは)老いのことを聞いておののいた。あたかも雷鳴をすぐ近くで聞いた牛のように。
『完訳ブッダチャリタ』講談社学術文庫,p35
こちらは、ブッダが出家する原因となった老人との邂逅です。
衝撃を受ける様子を、雷鳴をすぐ近くで聞いた牛に例えるのは騎馬系民族の名残を感じます。
(心配でたまらない王は)その夜、心臓に槍のささった象のように横になることができなかった。
『完訳ブッダチャリタ』講談社学術文庫,p51
こちらは思い悩むブッダの父が、心配のあまり眠れなかったことを表現しています。
心臓に槍のささった像、という表現は絶対に現代日本人にはひねり出せない気がします。
ポップカルチャーに登場する有名人の名前が登場
アルジュナやラーマといった古代インドの英雄達の名前も登場します。
特にラーマは北部インド出身という共通点もあってか頻繁に名前が登場し、ブッダの振舞いとの比較対象にもなります。
結びにかえて 『完訳 ブッダチャリタ』は偉人の伝記として面白い
仏教の複雑な定義についても面白かったのです。
それと同時に偉大な人物として語られた存在としてのブッダのあり方や、古代インドという文脈における立ち位置もほんの少しだけ分かった気がします。
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