古代インドの名言集 『バガヴァッド・ギーター』

こんにちは。

紀元前文学 第6回です。
今回は古代インドの叙事詞『マハーバーラタ』の一部を成す『バカヴァッド・ギーター』です。

インド古典でも最も有名な物語で、苦悩する大英雄と彼を導くヴィシュヌ神の化身クリシュナを主役にしている小編です。
インドでも8世紀のシャンカラや11世紀のラーマーヌジャなど太古の思想家によって注釈を記されており、インド宗教思想の聖典といえるでしょう。

成立時期は諸説ありますが、紀元前5世紀から紀元前2世紀頃とされています。

あらすじ 『バガヴァッド・ギーター』 

では、簡単にあらすじをまとめます。

戦場を前に、苦悩する英雄アルジュナ

主人公はインドラ神と人間の子アルジュナです。
アルジュナは武勇に優れ、神から弓を授かるほどの実力者です。人々からも尊敬されています。
しかし、領土問題に端を発した親族同士の戦いに身を投じることになります。

彼にはかつての冒険で出会ったクリシュナという友人がいます。
クリシュナは御者としてアルジュナの乗る馬車を駆り、戦場へと向かいます。
しかし、そこで敵対しあう親族の姿を見てアルジュナは戦うことを拒絶します。


勝利も幸福も欲しくない。自分は彼等の幸せのために戦ってきたのになぜ殺さなくてはならないのかと懊悩します。
「彼等が私を殺しても、私は彼等を殺したくない」と弓矢を投げ捨て、アルジュナは涙に瞳を曇らせて座り込んでしまいます。

アルジュナを諭すクリシュナの叡智

クリシュナ(いつはヴィシュヌ神の化身)が導き手となって、アルジュナを諭します。

戦いは戦士(クシャトリヤ)であるアルジュナの本分であり、義務(ダルマ)であること。
そして、無心で成すべきことをなし、その結果に執着しなければ心は平穏になること。

重要なことは成功・不成功ではなく行為そのものということ。
不安や迷いは無知から来るものであり、正しい知識を身につけて自己を律すれば心は平穏に保たれること。
怒りや欲望に捕らわれず、自己の外ではなく内に平穏を見出すこと。

といったことを変幻自在に言葉を変えながら諭していきます。

ヴィシュヌ神の化身たるクリシュナの威容

続いて、ヴィシュヌの化身たるクリシュナは自らの偉大さを語ります。
曰く、全世界の根源であり終末である、と。
そして、自分を念じれば解脱の境地に達するとも語ります。

アルジュナは感銘を受け、クリシュナに本来の姿を見せてほしいと頼みます。
そして、クリシュナの神としての威容を見せます。
多くの口、牙、目。
数多の腕、腹。
王冠、こん棒、多くの装飾品や花環。
前進から放たれる太陽のような輝き。

アルジュナは畏怖します。
怖れに恐れて頭を下げクリシュナを称賛し、友人のように接していたことを謝罪します。

クリシュナへの信仰

そして、クリシュナは自らへの信仰について語ります。

クリシュナを想起する者達が、そうでないものより高い知性を得ること。
ブラフマン(宇宙の根源)の根底にはクリシュナがいること。
自己の制御に努力する者にはクリシュナの姿が映ること。
クリシュナの崇高さを知る者をクリシュナは親愛すること。
教典に則ってクリシュナを信仰しなくてはならないこと。
クリシュナを親愛し、礼拝すること

クリシュナが偉大であり、崇拝することによって知性を得られるということが語られます。

大英雄アルジュナの再起

迷いが消え去ったアルジュナは立ち上がります。

そして、「ヨーガの主クリシュナと弓を執るアルジュナがいるところには幸運があり、勝利があり、繁栄がある」
という言葉によって『バガヴァッド・ギーター』は締めくくられます。

『バガヴァッド・ギーター』の魅力 名言の数々

幾度となく飛び出す名言の数々は非常に魅力的です。

神から授かった弓で戦うアルジュナは大英雄です。
しかし、自分に課せられた義務に悩み、戦場を前にして涙を流す姿は半神半人の英雄というよりも等身大の人間です。
我々現代人にとっても共感できるものといえます。
そして、アルジュナに与えられるクリシュナの言葉は、我々の言葉にも凛然と響きます。
少し見ていきましょう。


「あなたの職務は、行為そのものにある。決してその結果にはない。行為の結果を動機としてはいけない」

色々な受け取り方ができる言葉できますね。
ただ、見返りを求めすぎているときには清涼剤のように効いてくれる言葉だと思います。


「自ら自己を高めるべきである。自己を沈めてはならぬ」

沈み込んでいるアルジュナに向けられた言葉です。
こちらも色々な解釈ができる言葉だと思います。
深い自己嫌悪に陥っているときに、響くのではないでしょうか。


「自己の義務(ダルマ)の遂行は、不完全でも、よく遂行された他者の義務(ダルマ)に勝る」

現代には様々な価値観が氾濫しています。
気付いたら誰かの価値観に従って生きていることも多いのではないでしょうか。
そんな時に助け舟になってくれること言葉でしょう。


「海に水が流れ込む時、海は満たされつつも不動の状態を保つ。同様にあらゆる欲望が彼の中に入るが、彼は寂静に達する」

現代社会は様々な情報がノイズの濁流となって人々の心に流れ込みます。
心の平静は簡単に乱されます。
心の羅針盤が狂うことも多々あるでしょう。

成さねばならないことをしているはずだったのに雑念が混ざったり、見返りを求めることに必死になっていたり。
心の平穏を見失った時には、もう一度、この言葉を自分に染み込ませたいですね。




こんなところでしょうか。
他にもたくさんあるのですが挙げていたらきりがないので…。

まとめ  『バガヴァッド・ギーター』の魅力 名言と悩める大英雄

いかがでしたでしょうか。

2000年以上前という遥か昔に遠い異国インドで語られていたとは思えないほど、現代人の生き方の指針を見せてくれる物語だと思います。
インド思想の深さを感じさせてくれる物語です。

個人的には、苦悩する英雄アルジュナの在り方が好きでした。
身もふたもなく泣いたり恐れたりしていて、普通の人間という感じでした。
そんな普通の人間を立ち上がらせるための言葉だからこそ、現代人に響くのかなとも思ったり。


また、同時期にお隣中国で成立した『荘子:内篇』が世俗との完全な離別を主張しているのに対し、『バカヴァッド・ギーター』はあくまでも社会の中での生き方をテーマにしています。
同じアーリア系の宗教文学である古代ペルシャ『ガーサー』の燃えるような激情との対比もなかなか面白いです。



それでは。

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