こんにちは。
Ben Howardはイギリス出身の男性シンガーソングライターです。

音楽的な特徴としては、繊細な精神性を感じさせるフォークなサウンドが挙げられます。
内省的ながらも自然体のオーガニックさが備わっており、良質な「歌」をシンプルに紡いでいます。
2011年にメジャーレーベルからデビューして以来、商業的に成功するだけでなく(1stはミリオン)、ブリット・アワードやアイヴァー・ノベロ賞を受賞するなど華々しいキャリアに恵まれています。
目次
Ben Howardのアルバム・リリース数と相関図
Ben Howardは2020年2月現在、3枚のフルアルバムをリリースしています。
本記事はその全アルバムについて語ります。
ただし、言葉だけでは分かりにくいと思いますので、相関図を作成してみました。

では、アルバムごとに見ていきましょう。
※注意
本記事ではBen Howardの世界について深く踏み込むため、一部の歌詞を和訳しています。
しかし、著者は英語に明るいわけではありません。
よって、歌詞についてはあくまでも雰囲気を楽しんでいただければと思っています。
また、明らかな誤訳があれば教えていただけるととても嬉しいです。
Ben Howardの全アルバムについて 深淵さとオーガニックさ
(1st)Every Kingdom
前史:アルバムがリリースされるまで
Ben Howardはミュージシャンの両親に影響を受け、子供時代から60~70年代の音楽を愛聴していました。十一歳から作曲を始め、ギター、ドラムス、コントラバスを弾きこなす才気あふれる子供だったようです。
最初は学業と両立していましたが、やがて音楽活動に注力するようになります。すると地元デヴォンで評判を呼ぶようになります。それはやがてイギリス全体へ広まり、ついにはメジャーレーベルとの契約にまで至りました。
そして、待望のデビュー作となるEvery Kingdomは自然豊かなデヴォンで過ごした幼き日々をインスピレーションとしています。
彼のアイデンティティがたっぷり詰まっていると言えるでしょう。
アルバムの特徴:魅力
余計な要素を削ぎ落したシンプルなサウンドが、本作の魅力的な要素です。オーガニックなサウンドと繊細な精神世界というBen Howardの特徴が最も分かりやすく現れています。
フォーク的でゆったりとしたテンポ感の曲を中心としつつ、内面を激しく吐露するような剥き出しの感情が度々垣間見えます。
繊細ながらも凛然としたBen Howardの歌声、
アコースティックギターの暖かな音色、
しっとりと低音部を埋めていくコントラバスやベース、
柔らかなビートを刻むドラムス。
棚引くように爪弾かれる旋律は、彼の故郷イギリスを思わせるような優雅さと誰の心にもあるような普遍的なノスタルジーを同時に呼び起こします。
また、内省的ながらもドロドロとした雰囲気はあまりなく、からっと透き通った文学性が心地よいのも特徴です。
繊細でありながらも伸びやかで、峻厳としつつも広々とした解放感もあります。
シンプルにしてディープ、内省的で無邪気、複雑な要素を穏やかな曲調へと落とし込んだ、アルバムです。
歌詞の世界:僕たちは歌った、朝を祝福するために
本作Every Kingdomの歌詞の特徴として、美しい自然の風景に自分の心象風景を重ねていることが挙げられます。
ポジティブ/ネガティブと簡単に割り切れない曲が多く、美しく詩的な表現も散見されます。
後のアルバムに比べて、自然体な雰囲気であることも特筆すべき点でしょう。
まずは冒頭のOld Pineを見てみましょう。
Ben Howardの歌とアコースティックギターを軸にして穏やかに始まりつつ、壮大に展開する曲です。
歌詞は美しくも峻厳な自然の中で生きる人間の在り様を描いているように感じられます。
つま先の上の熱い砂、寝袋の中の冷たい砂、思い出は君が得たもののなかで最も素晴らしいって分かるようになった。夏は輝いていて、骨ばった背中に打ち倒した。家からこんなにも遠く離れ、海が埃と松ぼっくりと轍から撤退する場所。僕たちは火の傍で犬みたいに眠った。僕たちを取り囲む霧の中で、サマータイムの轟きの中で目覚めた。僕たちは立ち上がった、森の星々のようにしっかりと。とても幸福で、温もりが鳴った、この骨の内側で。年老いた松が倒れた時、僕たちは歌った。朝を祝福するために。 つま先の上の熱い砂、寝袋の中の冷たい砂 、君の周りの友達は全部ずっと友達だろうってことが分かるようになった。僕の肺の中の煙、つまり木霊する石。不注意で若くて、重さなんてない魂のように飛ぶ鳥みたいに自由だ。今だ。 僕たちを取り囲む霧の中で、サマータイムの轟きの中で目覚めた。僕たちは立ち上がった、森の星々のようにしっかりと。とても幸福で、温もりが鳴った、この骨の内側で。 年老いた松が倒れた時、僕たちは歌った。朝を祝福するために。 僕たちは成長する、朝のように着実に。僕たちは成長する、新たな夜明けみたいに幸せだ。僕たちは成長していく、まだ年老いていく。
Old pine(全訳)
象徴的な自然描写、複雑な心理表現。
この曲はEvery Kingdomを最も象徴している曲だと思います。
(ちなみにこのOld Pine、キャンプ旅行に出かけたら嵐に直撃された経験を曲にしたのだそうです。夏フェスに足を運ぶ方は共感できるかもしれません……)
次は2曲目のdiamondsです。
僕の全ては君が作ってくれた骨でできてる。ぎらぎらに輝いて、馬みたいに白くて、僕を遠くに連れていく。僕の悪魔は、と君は言う、日々と共に来ては去っていく。弄ぶ心の意思。僕は僕なりに年老いていく。君と同じようなやりかたで。退屈の中にダイヤモンドはない。僕が恐れている暗闇はない。これ以上「愛している」ということは絶対にない。だから、明らかにしろ。ただ明らかに。
Diamonds(抄訳)
非常に多義的な解釈ができそうです。ただ、女性との別離を歌っているのかもしれません。
軽やかで透明感のあるサウンドからは想像もつかない、エモーショナルな歌詞です。
続いて興味深い曲を。
アコースティックギターを中心にしたバンドサウンドが印象的なThe Wolvesです。
高い場所から落ちていく。失われた場所を通って落ちていく。今や僕は孤独だ、今や行くべき場所などどこにもない。どちら側から見ても時計塔は燃えている。ここで僕は自分の時間を失った。僕はもう何もかも我慢できなくなる。そして、僕は信念を失う。愛の腕の中で(愛、愛、愛)君は最近隠れているのか? 君は最近ニュースから逃げているのか? なぜなら僕は最近戦い始めたからだ。最近僕は狼と戦い始めたからだ。狼と、狼と、赤い舌と手。 高い場所から落ちていく。失われた場所を通って落ちていく。今や僕は孤独だ、今や行くべき場所などどこにもない。どちら側から見ても塔は崩れ落ちている。僕はここで心を失った。僕はもう何もかも我慢できなくなっている。領主と共に。そして、僕は信念を失う。愛の腕の中で (愛、愛、愛)
The Wolves(抄訳)
全体的にネガティブな言葉が続きますが、最後の最後に愛というポジティブな言葉が(in the arms of love)何度も繰り返されます。
様々な解釈ができる美しい詩ではないでしょうか。
さらに、Ben Howardがフェイバリットに挙げる友との別れを歌ったBlack Fliesを見てみましょう。
窓辺の黒いハエ、あれは僕たちだ、あれは僕たちだ、あれが僕たちだって知っている。冬が夏のスリルを奪った。川はひび割れ、冷たい。見ろよ、空は人がいない土地だ。滞在するための光彩のない羽根。ここでは希望は粗末な手を必要とする。君の場所では狐は見つからない。そして、島には誰もいない。僕は知ってるけど、君は見えないのか? たぶん君は大洋だったんだ、僕がただの石だったときに。 窓辺の黒いハエ、あれは僕たちだ、あれは僕たちだ、あれが僕たちだって理解している。心地よさは僕の意思とぶつかる。そして、全ての物語は老いねばならない。まだ、僕は旅人のままだろう。顔にあたるジプシーの手綱。君の場所にいるあの馬鹿のせいで道路にはうんざりさせられるけど。 そして、島には誰もいない。僕は知ってるけど、君は見えないのか? たぶん君は大洋だったんだ、僕がただの石だったときに。 そして、島には誰もいない。僕は知ってるけど、君は見えないのか? たぶん君は大洋だったんだか、僕がただの石だったときに。 そんなわけで、僕たちはここにいる。君に許しを請おうとは思わない。君になぜだか聞きたいとは思わない。でも、もし僕が自分の道を進んだら、僕は君を通り過ぎたかな。 君に許しを請おうとは思わない。君になぜだか聞きたいとは思わない。でも、もし僕が自分の道を進んだら、僕は君を通り過ぎたかな。
Black Flies(全訳)
暗鬱な雰囲気な曲調そのままの、ダークな言葉が続きます。
悲痛な思いの丈を吐き出すような、痛々しい美しさです。
そして、最後に。
アルバムの最後を飾るPromiseは混乱が感じられる不思議な歌詞になっています。
だから、そこで俺と会ってくれ、束になった花、黄金の時間に作り上げるだろう。冬が時間のドアを引きちぎりながら壁で喚き散らすだろう、僕たちが行くシェルター。だから、約束してくれ。君は僕だけを待つって。孤独な腕を怖がりながら。地上の爆発の遥か下。だから、たぶん。ただ、たぶん。僕は家に来るだろう。君の最愛の人である僕は誰だ? 僕の物語を君に話す僕は誰だ? 僕は誰だ? 君のための最愛の人である僕は誰だ? 孤独に時の中で重荷を背負う僕は誰だ? 僕は誰だ? 君に? そして、僕は誰だ? 君のための最愛の人? 僕は誰だ? 重荷になる。 そして、僕は誰だ? 君の最愛の人? 僕はここに一人で来る。 僕はここに一人で来る。
Promise(全訳)
アイデンティティの混乱が見受けられます。
もう少し深追いして解釈するならば、音楽家であること/あり続けることへの不安が歌われているのかもしれません。
自我の混乱と未来への不安によって、デビュー作の幕は閉じています。
(2nd)I Forget Where We Were
前史:アルバムがリリースされるまで
前作Every Kingdomは予期せぬ大ヒットを記録しました。
チャートは4位まで上昇し、最終的にはミリオンを達成しています。
ブリット・アワードでも2部門を受賞いました。
当然、彼の生活はがらりと変わります。
ツアーが延々続くと思ったら、ある日突然ニューアルバムの制作に取り組まなければならない日がやってきた。そんな只中でのアルバム制作ににプレッシャーを感じていたと本人も認めています。
ただ、その一方で「いくらか違う音楽を作る正しいタイミングがやってきた」と感じていたことも認めています。
それが具体的にどんな音楽なのかというと……。
「音楽においても他の似たような何かにおいても、本当に理解するための糸口を持っている人はいない。そして、何が起きて、それが人生において決定的な瞬間なのかとか、今身の周りに何が起きているんだとかに気づき始めた(一部意訳)」としても、それはただの後知恵に過ぎない。物事の一側面にしか過ぎない。そして、そのもう一つの側面をつかみ取ろうと必死に足掻いたのが本作I Forget Where We Wereなのだそうです。
要するに急変した現実に直面し、深く考え込んで作り上げた音楽ということでしょう。
アルバムの魅力:特徴
サウンドの軸がエレクトリックギターに変わったことにまず気づくでしょう。
オーガニックな質感は変わりませんが、全体的な雰囲気は冷たく引き締まっています。
また、感情の吐露が前作より激しく、サウンドがそれに引き寄せられているのも魅力です。
色濃い苦悩を漂わせるボーカル、
ブルージィながらも冷冽で鋭いエレクトリックギター、
時に顔を出すチェロやアコースティックギターのフォーク的な響き、
寄り添うように揺れるベースライン。
ひそやかにサウンド全体を支えるドラムス。
バンド的な躍動感がひそやかにうねっており、物憂げながらも力強さを感じます。
前作よりも内省的になりつつも、芯の太さを増しているように感じます。
何かを掴もうと必死に足掻いていたBen Howardの経験が反映されているのかもしれません。
歌詞の世界:僕は自分の愛が見えない
重苦しく荒涼とした心象風景が描かれていることに大きな特徴があります。
等身大の苦悩や生きる意味をのびのびと歌っていた前作と違い、本作の語彙はダークかつ抽象的になっています。
また、成功によって激変した環境を主題としている曲が多いのも特筆すべきポイントでしょう。
まずは冒頭曲Small Thingsから見てみましょう。
ああ、僕の心よ。僕はもう一度メイフラワー通りを降りていく。泣き叫ぶ太陽。公園からの木霊はとても馬鹿げているように思える。バスは数時間かかる。それくらい知ってるけど、そんなに棘は振れないな。皆のなかで、僕の時間を過ごせない。もし建物が崩れるなら少なくとも僕たちは婚姻関係にあるだろう。僕にはコントロールできない。僕の頭の中にある言葉のカレイドスコープを。世界はおかしくなったのか? それとも僕か? 彼等が集めたちっぽけなものが僕を丸め込む。そいつらは全部最悪なのか? 僕には見えない。 彼等が集めたちっぽけなものが僕を丸め込む。 警察を見かけた。そいつは「平和を守れ」とかそんなどうでもいいことを言ってた。世界は移り行くし、君は音を振ることができない。僕は知ってる、誰かを待ちながら彼女が家にいることを 光を嫌がりながら。すべては僕の頭のなか。鉄床と重みは僕の背中に。世界はおかしくなったのか? それとも僕か? 彼等が集めたちっぽけなものが僕を丸めこむ。そいつらは全部最悪なのか? 僕には見えない。彼等が集めたちっぽけなものが僕を丸め込む。 そして、僕は自分の愛が見えない。世界はおかしくなったのか? それとも僕か? 彼等が集めたちっぽけなものが僕を丸め込む。そいつらは全部最悪なのか? 僕には見えない。彼等が集めたちっぽけなものが僕を丸め込む。そして、僕は自分の愛が見えない。
Small Things(全訳)
冷然としたエレクトリックギターから始まり、「そして、僕は自分の愛が見えないAnd I can’t see my love」いう印象的な最後の台詞に向かってじわじわ盛り上がっていきます。
世界の峻厳な一面を描き、その中で生きる人々の葛藤をエモーショナルに表現しています。
続くRiver In Your Mouthも似たような展開を見せます。
内側に抑え込め、君の口の中にある川は溢れ出している。水は周りにあるもの全ての形を取る。ああ、知ってるよ。君の日常全ての時間に間に合わせられないほど僕は頑張ってきたんだ。(中略)僕は今日僕自身じゃない、僕は大丈夫な気分ではない。
River In Your Mouth(抄訳)
成功に忙殺されている自分の現状を歌っているようです。
「自分が自分自身はない」という言葉が印象的です。
乾いた風のような軽やかな曲調からは想像しにくい、深い懊悩が刻まれている曲です。
続いて、重苦しいアコースティックナンバーのIn Dreamsです。
世界にはいつも謎があると彼女は言った。僕の頭の中にもいつも謎。いつも不思議なこと。僕たちがするだろうやり方。僕には大きくて古い場所だな。ああ、実に大きくて古い世界だよ。誰もが僕をうんざりさせるし、誰もが共謀してる。夢の中で僕はそれが回転してるのを見たんだ。暴力的な原子の雷鳴を見た、全ての光りが入り込む場所で。夢の中で僕は罪の中に横たわっていた。ただ打ち砕かれ、治癒されるために。(中略)僕は一人で生きてる。君のいない孤独な生活をしている。そして、僕は困っているかもしれない。だけど、僕は敗北の中で優雅なんだよ。
In Dreams(抄訳)
現実世界で打ちのめされたことを抽象的な表現で語っています。
暗い延々と言葉が続きますが、最後の一節でほんのわずか希望を差し込んでいるのも印象的です。
それから、静かに始まり徐々に激しくエモーショナルなサウンドを展開していくEnd of the Affairです。
事件の終わり。戦争の重さ。優しさはベッドへ行った。君の笑いの重さ。ホールの中で生きている。彼は聞いたのか? 彼は聞いたのか? 君が語った、弄りまされた言葉を。彼女なしに生きていく。何もなしに生きていく。永遠に生きていく。地獄だ、僕には分からない。僕は気にするのか? 僕は気にするのか? 轟く雷鳴を。
End of the Affair(抄訳)
こちらも孤独についての歌です。本作に頻出するテーマでもあります。
そして、最後を飾るAll Is Now Harmedは壮絶です。
子どもとしては、そこにはいなかった。君の胸の中の血を恐れたりせず、音やドタバタする音。明らかに安らかで、僕は恐怖でいっぱいだった。冬による永遠の凍結。孤独だけど、君の傍にいる。ここで、光の中で柔らかな分水嶺を掲げた。大きくうねったカーテンコール。押さえつけてくれ。僕は嘘をつくために生まれたのか? ここには何も。ここには何も。光の中の僕の恐怖。僕が言ったこと全てが家に来る。こんなこと一人じゃできない。内側で眠ってる、僕は嘘をつくために生まれてきた。今こそ、僕が間違ってるって証明してくれ。僕が間違ってるって証明してくれ。でも、それが君の本質なんだ。君の血の内側で花開く。苦痛な方法で僕を傷つけてくれ。今や全てが傷つけられている。
All Is Now Harmed(抄訳)
世界との軋轢や深い孤独に覆われている本作ですが、最後の曲でもそれは変わりませんでした。
複雑に絡まりあうエレクトリックギターの音色に乗せて、こんがらがってしまった感情を激しく吐露しています。
(3rd)Noonday Dream
前史:アルバムがリリースされるまで
前作We Forget Where We WereはUKチャートで1位を獲得し、1stに引き続き大きな成功をおさめました。
そして、長い長いツアーを終えた後、Ben Howardはひょんな偶然から中米ニカラグアの小島を買うことになりました。
そこでガールフレンドとバカンスを過ごしたことが本作にも影響を与えたそうです。
夢のように素晴らしい休暇だったようです。ラムベースのカクテルを飲んだり、現地の詩を読んだり、二人で島に移住する計画について話たり。
ただ、Ben Howardにとっては必ずしも完璧な時間というわけではなかったようです。
「自分自身をある種の全てから切り離された人間にしなくてはならない。実現可能なロマンス以上のもの、実現不可能なロマンスだ」と述べています。
相変わらず非常に抽象的な言い回しです。
人々からも何もかもから切り離されているがゆえに、ロマンティックな空想が果てしなく広がりすぎてしまうということなのでしょうか。
かといって、人々との関わりがあれば良いというわけでもないようです。
Ben Howardは曲に込めた物事の意義を他人が勝手に解釈することに不快感を覚えていたそうです。
Ben Howardは気難しい性格なのかもしれません。
ただ、そんな気難しいBen Howardが真っすぐに自分自身と向き合おうとしたのが本作Noonday Dreamです。
アルバムの魅力
過去作よりも深淵さを増しつつも、温もりとひたむきな強さを感じられるようになっています。
また、オーガニックな質感はそのままにエレクトロニカ的な要素を導入しているのも大きな特徴です。
思索的な深さを保ちつつ、陽光のように穏やかな曲が続いていきます。
Ben Howardのソフトで乾いた歌い方、
暖かなアコースティックギターのアルペジオ、
凛としたエレクトリックギターのディレイ、
揺らめくようなエレクトロニクスやチェロのレイヤー、
深呼吸をするようにゆったりとしたビートを刻むベースとドラムス。
伸びやかではありますが1stのような開放的な繊細さはなく、
かといって2ndのように苦悩を激しく吐露するわけでもなく、
常に研ぎ澄まされた緊張感を漂わせています。
沈み込むような探究性と浮かび上がるような陽性も併せ持っています。
無論、時には重苦しさも黒い霧のように漂います。
しかし、絶望や悲嘆は感じられず、その根底に佇んでいるのは勇壮さです。
また、インタビューでは「コンフォートゾーンから出るときが来た」と述べ、パリに移住したことを明らかにしていました。
新しい一歩を踏み出す決意が、本作の背後にはあるのかもしれません。
歌詞の世界:今日の僕は轍の上の勇気
中米の美しい海や島、共に過ごしたガールフレンドを思わせる単語の割合が増えています。
ただ、非現実的なパラダイスとしてではありません。
Ben Howardは現実世界の残酷さや複雑さを美しい海や島に見出しています。
では、柔らかなアコースティックサウンドが印象的な冒頭のNica Libres At Duskから見てみましょう。
ドアには鍵がかけられ、僕のガムは血を流してる。外で彼女は読む。外で彼女は読んでいる。退去の手続き、声を出して、服を脱がされ僕の健康は悪くなりつつある。彼女が夢見る何処か、彼女が夢見ている何処か、夕暮れのカリブ海のニカ・リブレのような。信者たちは世代を廃棄し、全ての山々が知ったかぶりで囁く間、僕はピニャ・コラーダを注文し、自分の金を数えるために座っている。空で鷲たちが弧を描きながら飛んでいるのを見つめている。ずっと。ドアには鍵がかけられ、僕のガムは血を流してる。外で彼女は読む。外で彼女は読んでいる。退去の手続き、声に出して、服を脱がされ僕の健康は悪くなりつつある。夕暮れのカリブ海のニカ・リブレのような。
信者たちは世代を廃棄し、全ての山々が知ったかぶりで鳴り響く間、 僕はピニャ・コラーダを注文し、自分の金を数えるために座っている。空で鷲たちが弧を描きながら飛んでいるのを見つめている。ずっと。 永遠に、永遠に。なんて美しいんだ。今や僕は年を取り、後ろを振り返らない。僕は自分の前に何があるか知っている。僕が巻いた10本のマルボロの紙巻きたばこ、ビンの蓋の中の吸いさし。今日、僕は海を見つめるだろう。僕の目がもう十分だと感じるまで。※Cica Libre。テキーラをコーラで割ったカクテル。キューバ・リブレのニカラグラ版。
Nica Libres At Dusk(全訳)
南国めいたカクテルや美しい海などが舞台のようですが、何やら緊迫した雰囲気が漂っています。
Ben Howardとガールフレンドが過ごしたニカラグアの小島を、契約のトラブルで追われるように去らなければならなかった出来事を描いているのだと思われます。
つまり、アルバムの始まりに「終わり」についての歌を配しているのです。
続いてオーガニックな旋律が印象的なTowing the Lineです。
線を引きながら、主人が全てのワインを飲むのを見た。彼女は取り留めもなく歩く、誰かや誰でもない人々の間を。その老人は絵描きで、くたびれた海の風景の。傾いた冒険。腐敗を治癒するためにテーブルを拾い上げながら、僕の心は彷徨う。木々のない世界の鳥のように、君は君の猜疑心によってそこにつるし上げられる。引っ張りまわすには僕は気難しいって、わかってはいるよ。愛は早朝にある。木々の影の中に。カラスの群れから滑り落ち、女を寝取られた灰の中にではなく。ここに降りて、僕は君のために勝ち誇る。君は僕のために勝ち誇る。ここに降りて、僕は君のために勝ち誇る。君は僕のために勝ち誇る。
Towing Line(抄訳)
言葉自体は文学的ですが、語られる内容は力強く感じます。マッチョさすら感じます。
今までの歌詞にはあまり見られなかったタイプです。
次は穏やかな曲調のWhat the Moon Doesです。
鎖をまとったアン・マリー、こっちに来てくれ、僕を正気にしてくれ、犬に餌をやってくれ。1マイル歩いてくれ。シンプルに喋ってくれ。僕を笑わせてくれ。君の考えを教えてくれ。美しいものを教えてくれ。野生的に木々が生い茂る入江に向けて川はどうやって曲がるのか、とか。僕は歴史を作っているのか? 僕は上手くいっているのか? 月だけがすること、信心深い者たちへ向けて。そして、僕は記憶の中を漂っているのかもしれない。僕たちは蝶の壊れた羽根になるかもしれない。だけど、僕たちは大きな夢を見なかった。1回か、2回か。それで十分さ。
What the Moon Doesより(抄訳)
こちらは非常にナイーブで、現実を冷厳に表現しています。
今度はアルバム後半部を飾るThere’s Your Manです。
君の男がいる。彼は輝きからほど遠い。外を歩いているのを見ろ。良くない頭に、偉大な回復力。彼がどれだけ君の周りにいたいか見てみろ。 彼がどれだけ君の周りにいたいか見てみろ。彼がどれだけ。そう、あれが僕たちの生き方なんだ、ラベンダーがあり、愛情がなく。あれが僕たちの語りかたなんだ。 ラベンダーがあり、愛情がなく。 全ては会話。全ては会話。今時、愛情なんて。
There’s Your Man(抄訳)
There’s Your Manというタイトルや曲の冒頭からはマッチョな世界観を連想させますが、その実ラベンダーという言葉を用いながら内向的な思いを語っています。
では、最後のMurmuraitonsを見てみましょう。
僕は隣人に時間を尋ねた。知ってると思うけど時間は戻せない。どんな者であろうと。寄り集まった事実。僕は病気をすり抜けた愛。今日の僕は轍の上の勇気。ここはとても平和だし、誰もめちゃくちゃにしない。ここに何時間も横たわっていられたらな。君は多くを求めらてるわけじゃない。頭の中で陽光と結婚した。僕は流れ去っていた。全ての花々が満開なのが見える。こんな日々が続いて、ずっとここにいられればいいのに。まあ、いいや。最も暗い時間を生きていく。(中略)僕は病気をすり抜けた愛。今日の僕は轍の上の勇気。僕は君を餌付けする手。僕は家へと帰り着く神聖な道。まあ、いいや。 最も暗い時間を生きていく。 まあ、いいや。 最も暗い時間を生きていく。
Murmurations(抄訳)
重苦しい現実と立ち向かう勇壮さを兼ね備えています。
相変わらずポジティブともネガティブとも言い難い歌詞です。
しかし、過去2作とは異なり、前進する意思を感じさせる終わり方をしていることは注目に値します。
主要参考サイト
https://www.esquire.com/entertainment/music/a22591012/ben-howard-interview-noonday-dream/
https://vk.com/@bhwrd-q-magazine-interview
https://vk.com/@bhwrd-q-magazine-interview
https://en.wikipedia.org/wiki/Ben_Howard
https://genius.com/artists/Ben-howard
https://laist.com/2012/06/22/ben_howard_interview.php
結びに代えて
今回Ben Howardの歌詞について調べて改めて感じたのは、非常に情緒的で美しい言葉だということです。
また、それは彼が創る音楽にも滲み出ているとも感じました。
音であろうと歌詞であろうと、自身の本質が出てしまうのは避けられないのかもしれません。
そして、それは何もBen Howardだけでなく、私たちにも言えることなのかもしれません。
何気ないときに出てしまう自分の本質。
Ben Howardの美しいそれと比べたときの、自分は。
少し考えてしまいました。
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