こんにちは。
Balmorheaはテキサス出身、Rob LoweとMichael Mullerの二人を軸にした音楽集団です。

アコースティックギター、ピアノ、チェロを中心にして荒野のような雄大さとクラシックな気品を兼ね備えたサウンドを描いています。
また、アルバムによってはロック的なダイナミズムが感じられることもあります。
2021年9月現在、Balmorheaは7作のフルアルバムをリリースしています。
本記事では、その全てを見ていきます。
Balmorheaの全アルバムについて 是非ライブを見たい、来日が望まれるおすすめのバンド
言葉だけでは分かりにくいので各アルバムの相関を図にしてみました。

それではアルバムごとに見ていきましょう。
(1st) Balmorhea
セルフタイトルとなる彼等のデビュー作です。
他の作品と比べて非常にシンプルかつ穏やかなのが特徴です。
テキサスの乾いた空気をそのまま音色に変えたような雄大さと素朴さが魅力的です。
アコースティックギター、バンジョー、ピアノ、フィールドレコーディングで構成されたアンビエントな作品です。
ゆっくりとうねるように音色が結びつき、そっと溶けるようにほどけていく。そんな展開がなだらかに繰り返され、やがて大きなカタルシスへと辿り着きます。
アコギやピアノの指使いが伝わるようなアットホームな雰囲気、
長い年月に晒されたみたいに色褪せた質感を持つメランコリックな旋律、
テキサスの日常から切り取ったかのようなフィールドレコーディング、
日本とは異なる自然に囲まれ、その自然を愛しているからこそ生まれている空気感に満ちています。
広大な荒野を、アコースティックギターとピアノと素朴な感性で描き出した作品です。
(2nd)River Arms
ビートレスのまま、表現の深度をぐっと深めた一枚です。
チェロ、バイオリン、ベースのメンバーがレコーディングに加わったことにより、一気にポストクラシカル的な音の厚みを増しています。
前作まで荒野的な雰囲気は十二分に残しつつ、室内楽的な気品がやや強くなっているのもです。
それと同時にドラムスはないもののポストロック的なダイナミズムも常に存在感を放っています。
アコースティックギターやエレクトリックギターの絡まり合うアルペジオを主軸にしつつ、ピアノが壮大さを演出し、ストリングスは流麗なレイヤーを付け加えられます。
アンビエントでビートレスな作品ではありますが広大な自然を感じさせる旋律は力強く、雄大さを感じさせます。
気品を感じさせるサウンドスケープは気高い優雅さを存分に放っています。
まさしく広大な川面を眺めているような気持ちにさせてくれる、自然の偉大さを慈しみが穏やかな音色の隅々まで込められた作品です。
(3rd) All Is Wild, All Is Silent
前作よりもさらにダイナミックになった作品です。
曲によってはドラムスが入るようになりロックサウンドに接近したアルバムと言えます。
テキサスの雄大な自然を雄々しく描き出すアコースティックギター、
ピアノやストリングスは今までになく力強い旋律を奏で、
ベースやドラムスは重たく切れ味鋭い8ビートを刻み、
それらは重なり合い、時に壮大に、時に不穏に、時に唸りを挙げる暴風のような音の壁を生み出すこともあります。
今までのような素朴な静謐さだけでなく、
雄大なビートで聴き手の心を乗らせたり、
早い展開で一気にカタルシスまで駆け上がったり、
響きに複雑さのあるサウンドで聴き手を引き込んだり、
豊富な手数で叙事詩的な物語性を生み出しています。
大自然の素朴な美しさだけでなく、力強い生命力までも表現しているアルバムです。
(4th) Constellations
2010年リリースの4thアルバムです。
前作と打って変わって、ポスト・クラシカル路線を強く打ち出したアルバムです。
音の質感もテキサスの雄大な荒野を連想させるものではなく、闇夜の静けさや神秘を感じさせる質感に大きく変わっています。
アコースティックギターやバンジョーの素朴な音色に、ピアノの優雅な旋律が絡み、ストリングスの伸びやかな響きは曲全体を薫り高い艶やかさで濡らしていきます。
各楽器が今まで積み上げた方法論によって、聴き手の心に確実に迫るような深度の高い旋律を積み上げていきます。
一音一音が持つ叙情性が非常に高く感じられます。
しかし、音の濃度が過剰になるようなこともなくシンプルに美しい音を響かせ、静謐でクラシカルなサウンドスケープを生み出しています。
夜の静けさが含む気品と色香を、虚飾なく再現しているアルバムです。
(5th)Stranger
Balmorheaの全アルバムにおいてもっともロック寄りのサウンドになっています。
エレクトリックギターを多用した複雑な響きや、ドラムスとベースが生み出すじわじわと盛り上げるグルーヴなどは明確にポストロック側の方法論とリンクしています。
轟音こそないもののクライマックスに向けてひた走る曲構成などはポストロックの長所を見事になぞっています。
しかし、生み出されるサウンドスケープはやはりテキサス的な雄大な大自然と結びついています。
荒野の乾いた空気感、緩やかながらも力強い躍動感、そして果てしない青空の早期させる解放感が同時に味わえたりもします。
ひっそり聴かせるような静謐なパートでは、エレクトリックギターのアルペジオやストリングスが素朴に絡みあい、飾り気のない美しさを紡ぎます。
聴き手を引き込むようなパートでは、叙情的な旋律が胸を打ちます。
ストリングスは壮大な映画のサウンドトラックのような感情を編み上げ、エレクトリックギターは咆哮のような音塊を叩きつけます。
そして、そのいずれも陰鬱な匂いがしないのが特徴です。
からっとした風通しの良さを感じます。
きらきらと眩い陽光を思わせる、Balmorheaの中で最も陽性値の高いアルバムと言えます。
(6th) Clear Language
2017年リリースの6thアルバムです。
デビュー作以来となる主軸2人のみによるアルバムとなっています。
アンビエント寄りの作風ではありますが、決して1stのようなシンプルさを売りにしているわけではありません。
ドラムス、打ち込みのビート、エレクトリックギターはもちろんのことストリングスやシンセなども使われており、非常に色彩豊かなサウンドスケープに仕上がっています。
また全体的に穏やかでウォーミングな質感をしていることも特徴でしょう。
彼等のアイデンティティだった「いかにもテキサス!」な気配はあまり感じられません。
肩肘の力が抜けてはいますが、どこか幻想的な街の姿を美しく描いています。
揺蕩うようなドローン調のエレクトリックギターやシンセ、
ピアノやシンセが生み出す淡い色彩の数々、
ノスタルジックで温かなノイズ。
手作り感が漂う慈しみに満ちた世界が編み上げられています。
(7th)The Wind
クラシックの名門ドイツ・グラモフォンからのリリースされた本作Theは、Balmorheaのアルバムでもクラシックに寄った作風になっています。
朴訥としたアコースティックギターと優美で叙情的なピアノを中心に、本作は紡がれていきます。
シンプルながらも伸びやかで、室内楽的な優雅さを湛えているのが特徴と言えます。
ソフトでクラシカルなサウンドになっている一方で従来のテキサス的な解放感もひっそりと漂っており、飾り気のない素朴な美しさを感じる瞬間も多々あります。
澄んでいながらもオーガニックなニュアンスが漂っています。
本作は「自然界とその儚さについての瞑想、空気のないフランスの谷間に風を運んだ聖人の昔話、環境活動家のグレタ・トゥーンベリが大西洋を横断した時の思い」など、様々なことからインスピレーションを得ているとのこと。
様々な切り口ではありますが、自然との関係が発想になっていることが多いように思います。
また、欧州中世の物語『皇帝の閑暇』のアルルの大司教が荒涼とした谷間に潮風を運び、それを放ってその場所を「実り豊かで健康的な場所」にするというシーンに感銘を受け、自分たちの音楽に共鳴するメタファーだと話しています。
曰く、「風は再生のためにある」。
本作は静かに吹き抜けるそよ風とも言えるでしょう。
しかし、クラシカルながらもオーガニックで澄んだ響きには心の澱みを晴らす力があるのかもしれません。
結びに代えて:Balmorheaの魅力とテキサスの自然
Balmorheaの魅力はやはりテキサスの自然というところにあると思います。
そして、それを室内楽的編成でポスト・クラシカル/ポストロック的に描いたこともそうでしょう。
結果的に彼等は上記ムーブメントの中に身を置きつつも、明らかに異質な存在としての立ち位置を得ています。
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