こんにちは。
Autostradは2007年に結成されたヨルダン出身のロックバンドです。

ロック、レゲエ、ファンク、ラテン、アラブ古典音楽などをミックスし、オリエンタルで熱量の高いサウンドを奏でています。
また、ヨルダンにおけるインディーバンドの始祖であり自他ともに認める『巨人』でもある彼等は、母国以外の中東圏でも人気を集め欧米へのツアーも慣行しています。
2020年6月現在、Autostradは4枚のフルアルバムをリリースしています。
本記事ではその全てを語ります。
Autostradの全アルバムについて
アルバム全てを見ていきますが、文字だけでは分かりにくいと思って相関図を作成してみました。

では、アルバムごとに見ていきましょう。
(1st)Fe Autostrad
前史:リリースされるまで
2006年以前のヨルダンには、インディーズシーンが存在していませんでした。ししかし、Autostradが結成されたから頃から状況は変わります。
14~15の人気バンドが現れ、インディーズシーンは一気に多様性を帯びるようになります。
そして、ヨルダンやそれ以外の中東の若者に最も大きな影響を与える存在となったのがAutostradであり、彼等が2009年にリリースしたでビュー作がFe Autostradです。
アルバムの魅力
ラテン、ファンク、ハードロック、レゲエといった情熱的なサウンドの影響が、最もストレートに出ている作品です。
曲ごとにジャンルの影響源は明確に異なりますが、どの曲にもアラブ的な質感も仄かに香りたち、(誉め言葉として)暑苦しい勢いを感じませます。
雄々しい節回しのアラビア語ボーカル、
情熱と哀愁を高らかに奏でるエレクトリック/アコースティクギター、
熱いエネルギーを鍵盤に叩きつけたようなシンセ/管楽器、
グルーヴィにうごめき続けるベースライン、
力強くダンサブルなドラムスとパーカッション。
とにかくサウンドの全てがエネルギッシュです。
細部の粗さは目立ちますが、それもまた味わいであり本作の魅力です。
汗のように飛び散る濃厚な初期衝動の塊を楽しめます。
中心人物の Rousan によれば、本作をリリースした時期は「バンドとしての旅の始まりでありファンから多くの愛をもらえるようになった」であったそうです。
オリジナリティの追求などは考えずに、先行者の轍すらない砂漠をただひたすらに突っ走ったような作品と言えるでしょう。
(2nd) Autostrad
前史:リリースされるまで
前作は大きな話題を呼びました。
ヨルダンでの確固たる地位を築き、多くのフォワーも生み出したようです。
2ndアルバムリリースの直前には、彼等の地元アンマンで2000人以上を集めるライブを成功させ、その勢いに乗るようにトルコやレバノンなどの周辺地域へのツアーも慣行しています。
アルバムの魅力
Autostradで最も暑いエネルギーに満ちている作品と言えるでしょう。
スカ、レゲエ、レゲエ、カリプソなどの灼熱の日差しと透き通る海を感じさせるラテン・サウンドが次から次へと繰り出されます。
ハイテンションです。夏だぜ!という感じがします。
しかし、中東的な旋律が高らかに響いたり、安っぽいシンセサイザーの音色がふにゃっと響くこともあり、圧倒的な熱量と親しみやすい隙の多さが矛盾なく混ざり合っているのが独特のクセになっています。
複数人数で歌い上げる熱量の高いボーカル、
スカのように疾走するギターサウンド、
中東節を容赦なく噴き上げる怪しげなシンセ/管楽器、
直線的なビート感を強めに出すベースライン、
情熱的なグルーヴを絶え間なく生み出すドラムスとパーカッション。
色気というよりも漢気的な暑さを強く感じさせるのも重要な特徴でしょう。
カリブ海の暑さと中東の砂漠の暑さをぶつけあったような、日本や欧米ではあまりお目にかかれないタイプのインディーサウンドです。
(3rd)Nitrogen
前史等:リリースされるまで
前作のリリース以降、中東各地でのツアーを精力的に行っていたようです。
本作Nitrogenリリースにまつわる出来事としてはパレスティナツアーがしばしば特筆されています。
イスラエルのビザを使用したことで、彼等は一部のファンや政治的活動家から批判されました。
(イスラエルへのボイコットを行っていた層からしたら、そのボイコットを身内から破られたことになるようです)
Autostradの存在感が大きくなったことの証左でもあるでしょう。
アルバムの魅力
暑さは変わりませんがテンションをやや落とし、大人びた哀愁を濃密に漂わせるようになりました。
ラテンだけでなくジャジーな展開なども見せるようになり、聞き手を引き込むようなテクニックの片鱗を感じさせます。
また、アラブっぽさが最も後退しているアルバムともいえるでしょう。
ただ、色気というよりも漢気を感じさせる雰囲気は変わりません。
複数人で歌い上げる重層的で男性的なボーカル、
タメと哀愁を効かせた怪しげなギター、
熱量を燻し出すに揺らめくシンセ/管楽器、
ゆったりとしたラテンなグルーヴを生み出すベース、
息をひそめるようなひそやかさと煮えたぎるような迫力と律動を兼ね備えたドラムス/パーカッション。
スロウなラテンサウンドであるものの、相変わらず色気というよりも漢気が軸になっているのも大きな特徴でしょう。
ある意味では大人っぽいメロウサウンドとも言えるのですが都会的な妖艶さは皆無です。
灼熱の砂漠を吹き抜けるカラっと乾いた風のようと言えばいいのでしょうか。
砂漠の日差しに焼かれ、身を焼くような熱を孕んだ偉大なるいぶし銀。
荒々しくも絶妙なバランス感覚で成り立っている作品と言えるでしょう。
(4th)Turathy
前史:リリースされるまで
前作のリリース後、中東や欧米などでライブを行う日々を過ごしていました。
彼等の勢いは大きくなり、アメリカやイギリスなどの欧米圏にも進出するようになっていきます。
しかし、その反動なのか、Autostradは2年間に渡り母国ヨルダンを旅します。
そして、数多くのヨルダン伝統音楽の演奏者たちとコラボレーションを行い、その結果として生み出されたのが作品として本作Turathyです。
アルバムの魅力
ヨルダンの伝統音楽に非常に接近しているのが印象的です。
ファンク・レゲエ・ラテン的な要素は後退し、代わりにオリエンタルな旋律がむんむんと香り立っています。
西洋の楽器よりも中東の楽器が主役にいると言ってもよいでしょう。
強烈な暑さは変わりませんが、前作に引き続き大人のいぶし銀が特徴と言えるでしょう。
オリエンタルな雰囲気を醸し出す合唱的ボーカル、
これでもかと言わんばかりに砂漠的な響きを吹かせる伝統楽器、
ブルージィながらも民族的なエレクトリックギター、
シンプルながらも地に根付いた躍動感のベース、
熱砂のように穏やかながらも確かな熱を秘めた民族的なビート、
中東的なサウンド・旋律を軸に、ファンク・レゲエ・ラテンなどの熱いサウンドの雰囲気を取り入れているというべきでしょう。
過去3作とは中東的なサウンドと欧米的なサウンドの立場が逆転しています。
本作には「ヨルダン人でさえ知らないヨルダンの音楽」を知ってもらうことを目的としているそうです。
Turathyはその目的を見事にAutostrad流に飲み込み、蒸留した作品と言えるでしょう。
結びに代えて
中東のインディーロックにはドリームポップやポストロックなどの繊細なサウンドは少なく、たくましさを感じさせるものが多い傾向があります。
Autostradはまさしくその典型的な例と言えるでしょう。
中心人物のRousanはヨルダンのインディーシーンにおいてAutostradがどれだけ重要であるかを公言し、「私たちの目的は私たち自身を人間として一流であると(音楽を通して)表現することです」とまで言い切っています。
強烈な自信と自己顕示欲です。
でも、きっと、それだけの情熱的なエネルギーがなければAutostradの圧倒的な暑さは生まれないのでしょう。
その力強さを、とてもうらやましく思いました。
自分にはないまばゆさが、とても美しいと。
それでは。
主要参考サイト
http://www.jordantimes.com/news/local/autostrad-indie-band-members-express-their-humanity-through-music https://www.thenational.ae/arts-culture/music/how-autostrad-became-the-indie-ambassadors-of-jordanian-culture-and-music-1.78420Interview: Autostrad – Jordanhttps://www.facebook.com/AutostradBand/events/?ref=page_internal
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