アジアのポストロックについて。Part.1東南アジアと南アジア編

こんにちは。

ポストロックのバンドをいくつか思い浮かべてみると、欧米と日本出身のバンドで占められる方も多いのではないでしょうか。
しかし、アジアにも素晴らしいポストロックバンドが数多く存在します。

Post-rock band L'Alphalpha from Indonesia release live videos - Unite Asia
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本記事ではPart.1と題して、東南アジアと南アジアのバンドを個人的におススメしたいバンドをざっと見ていきたいと思います

東南アジアと南アジアのポストロックの特徴

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主に2000年代後半から台頭し始めた東南アジアと南アジアのポストロックバンドの特徴は、ざっくりまとめると下記の通りです。(個人的な印象です)

  • Mogwai、Explosions in the Sky以降の轟音系ポストロックが多い
  • 影響を受けているのか或いは近しい文化的背景を持っているためか、MONO,Toe,Envyと似た雰囲気を漂わせるバンドが多い
  • TTNGなどのエモ経由マスロックの影響を受けているバンドが多い
  • おおらかで牧歌的なメランコリーを漂わせているバンドが多い

といったところでしょうか。
あくまでもざっくりとした傾向です。

なお、本記事においては一定程度の規模のシーンがある(あった)国をピックアップしています。
何か見落としている点や誤っている点がありましたら訂正いたしますので、ご指摘をいただければと思います。

東南アジアと南アジアのポストロックバンド一覧

では、国別にポストロックのバンドを見ていきましょう。

1.シンガポール

シンガポールは独裁制が敷かれていますが、イメージアップ促進のためか音楽には政府の支援が行われています。

アジアというよりも、欧米的なオシャレさが漂っている。
というのがシンガポール・インディーズのざっくりとした傾向とも言われているようです。


しかしながら、シンガポールポストロック黎明期のバンドにはオシャレさよりも荒々しいエモーショナルさを特徴とするバンドが多いのが特徴です。

そして、2010年以降のリリース作品(発展期)としては、いわゆるシンガポール・インディーズ的で上品な香りを纏っているバンドが多いのも特徴と言えるでしょう。

黎明期

I Am David Sparkle

日本で名前が挙がる数少ないシンガポールのポストロックバンドではないでしょうか。2011年には日本ツアーも慣行しています。

彼らの特徴は東南アジアにしては珍しくMogwai直系の荒さを感じさせる轟音サウンドです。
迫力と緊張感が絶えず立ち込め、それが頂点に達するときに歪ませたギターが激しく美しく炸裂します。

スロウにじわじわと盛り上げる、ダークな焔を燃やしつすような物憂い抒情性があります。


また、近年の作品ではドゥームメタル・ポストメタルからの影響を感じさせるようにもなっています。

Amateur Takes Control

黎明期シンガポールポストロックの特徴であるダークな荒々しさは保ちつつ、エモーショナルな激情を武器にしています。

ダークなGhost and Vodkaというべきか、それとも初期Explosions in the Sky以前の荒々しさ+Toeの激情というべきか。

ギラギラしたエモさと滾るような疾走感を爆発させ、前のめりの疾走感を物憂げに叫びます。

衝動のままに、本能のままにエネルギーを吐き出すような原初の剥き出しの魂を見せつけられているような迫力があります。

Astreal

ポストロック的な荒さとトリップホップ的な耽美さを兼ね備えた、妖しい魅力が香るバンドです。

重濃淡の差はあれどの曲でもポストロック的な緊張感とダウナーさが漂っています。そして、そのうえで様々なジャンルの要素が絡み合っています。

軽やかなポップスも、シューゲイザー的な虚ろさにも、トリップホップ的な気だるい色香も、オーセンティックで迫力あるポストロックも。

時々Mogwaiのリフをサンプリングしているような曲もあるのですが(ちなみにMonoと同じところ)、見事に色気を醸す曲へと転嫁しています。

発展期

Paint The Sky Red

Explosions in the Skyの直系らしい流麗な轟音サウンドを基調としています。
それに加えて、シンガポールらしい瀟洒な気品を纏っているのも特筆すべき点でしょう。


きらびやかなエレクトリックギター、
雄大な響きを内に秘めたベースライン、
生命力に満ちた躍動感をしならせるドラムス、
ドラマティックでパーソナルな力強さを感じさせるのも特徴です。

欧米のポストロック的かどうかという観点からも十分に評価できるもので、実際にヨーロッパのフェスティバルなどにも参加しているようです。


現行シンガポール・ポストロックの一柱を担う存在かもしれません。

Hauste

2018年にデビュー作をリリースしたHausteはマスロックにもカテゴライズされるようなテクニカルなギターフレーズや変拍子、抒情的で感傷的な空気感を併せ持つバンドです。

シンガポール的なお洒落さだけでなく、若々しい透明感も感じさせます。
そして、時には大人っぽいつややかさも。

エモーショナルにして技巧的なエレクトリックギター、
瑞々しいエネルギーを秘めて躍動するベース、
時にひそやかに、時にグルーヴィに叩かれるドラムス。
アグレッシブな演奏をしながらも透明感は失われず、ピアノやグロッケンなども織り交ぜ、豊かな色彩を立ち昇らせています。

若々しい感性と未来への可能性を秘めたバンドだと思います。

Anechois

Anechoisは育ちがよさそうで繊細な美しさを特徴としています。
儚げな男性ボーカルがしばしば登場するのもオリジナリティといえるでしょう。


静けさと感傷を基調としつつも時折感情を躍動させており、緩急もきっちり取れています。
柔らかく澄んだエレクトリックギターのアルペジオ、
優雅なローズピアノ/ピアノ/シンセ、
のびやかに広がっていくベース、
優しい時を刻むドラムス。

「触れたら壊れてしまいそうな」という常套句が見事にハマるインディー・ミュージックです。
しかも、力強いロマンティックさを見せる展開もあったりして、夢想的な一面も見せてくれます。


一歩間違えばナルシスト的になりかねないほど繊細なロマンを詰め込んでいますが、繊細で美しくままであり続けているのは、メンバーたちの感受性の豊かさゆえでしょう。

2.フィリピン

フィリピン・ポストロックの始祖とも言うべき Encounters With A Yetiの作品をリリースした Terno Recordingsの創始者によれば、フィリピンのポップミュージックシーンは旧宗主国でもあったアメリカのTOP40そのままなんだとか。自分たちのアティチュードを追求していく姿勢は決して強くはないそうです。

ただ、2010年頃からアンダーグラウンドミュージックが醸成されるようになり、他のインディーミュージックと共にポストロックもその渦の中から徐々に台頭してきたようです。

黎明期は粗さが魅力のバンドが多いのに対し、発展期になるとエモ的な透明感を湛えたバンドが存在感を放つようになっています。

黎明期

Encounters With A Yeti

初期の代表格としてはやはりEncounters With A Yetiを挙げるべきでしょう。

ポストロック的なゆったりとした情感に満ちた、しかも微かにエレクトロニカの香りもする柔らかなバンドサウンドを奏でます。

若干シューゲイザーの気配も感じさせますが、切迫した内省さは一切感じられません。
ひたすらに優しく、慈しむような音楽が静かに通り過ぎていきます。
緩やかな時間の流れを紡ぐエレクトリックギター、
優美な響きをひそやかに奏でるキーボード/シンセ、
朴訥に伸びていくベースライン、
控えめに鳴らされるシンプルで開放的なドラムス。

ある意味では我々が抱く美しいステレオタイプ的な東南アジア像に近いのかもしれません。
たおやかで、風通しが良くて、だけど少しだけ神秘的で。


このバランス感覚は世界的に見ても貴重だと思います。
素朴で優雅で開放的なサウンドといえるでしょう。

Legarda

Legardaもフィリピン・ポストロックの初期を支えた存在ですが、2013年にスピリット作品をリリースしています。

ポストロック的な抒情性を発揮しつつも、粗さを感じさせるエモーショナルさが魅力的です。
また、パンキッシュなポエトリーリーディングが挿入されるなどオリジナリティが発揮される瞬間もあります。

躍動的なバンドサウンドを軸にしつつ、盛り上げどころで一気に爆発するような展開が一番の特徴でしょうか。
高らかにビートを響かせるドラムス、
有機的なグルーヴを紡ぐベース、
ざらついた粗さと透明感を併せ持つエモーショナルさの塊のようなギター。

全体としては強烈な特徴があるわけではありませんが、シーン黎明期を支えたささくれ立った力強さは魅力といえるでしょう。

Monochrome

Legardaと同じくシーン黎明期を支えた粗い迫力が特徴のバンドです。

というか、粗いエネルギーという意味ではMonochromeのほうが高出力でしょう。
不穏さを漂わせつつ、激しいバンドサウンドを叩きつけています。


粗くエモーショナルなギターサウンド、
感情を高鳴らせるようにシンプルに上下するベース、
叩きつけるようにビートを刻むドラムス。
ただ、粗さを残しつつもギターにコーラス/ディレイによって清涼感をかけることもあり、ゆったりとしつつも奥行きのある高揚感が漂っているときもあります。

ただ、本質的には彼等の魅力はやはり初期衝動、洗練という言葉とは程遠い「そのまま」さでしょう。

こちらも「いかにもシーン黎明期」のバンドといえるでしょう。

発展期

tide/edit

非常に好きなバンドの一つです。

フィリピンのポストロックバンドの中で最も海外での成功を手にしているバンドといえるでしょう。

ダイナミックに対流するエモーショナルな透明感と鋭角的なリズムが特徴でしょうか。
日本のtoeに影響を受けたことを公言するだけのことはあり、胸を打つ激情を鮮烈に奏でています。


とはいえ、フィリピンのバンドらしいゆったりとしたリズム感覚も内在しており、心地よいうねりを感じることもできます。
鋭くかき鳴らさられる澄み切ったエレクトリックギター、
マグマのような熱い熱量を低温で響かせるベース、
アグレッシブにエモーショナルなビートを刻むドラムス。

抑制されつつも熱いエモーショナルを滾らせることにより、今にも爆発しそうなエネルギーとクールに佇む静謐さが同時に存在しているような、アンビバレンツな抒情性を感じることができます。

また、情景的でノスタルジックな質感が強いことも特徴といえるでしょう。
聞き手の心をひそやかに揺さぶるような、エモーショナルな音楽です。

Tom’s Story

激しく上下するタッピングど各々のパーツはマスロック的な要素も垣間見せますが、全体的には激しさではなく穏やかなサウンドを展開しています。
根底にはマスロック的な鋭さがあるように感じますが、澄み切った透明感に満ちていて、優しい時間の流れを感じさせてくれます。

ビート感を感じさせつつもゆったりとしたエレクトリックギターの響き、
風に揺れるようにのびやかなベースライン、
時に控えめに、時にしなやかに根底でサウンドを支えるドラムス。
過度に叙情的なわけではなく、自然体の感情がゆっくりと流れていきます。

マスロック・エモ・ポストロックを上手に昇華し、ありふれた日常を美しく切り取って絵画にしたような、等身大の物語を感じられる物語です。

Sound Architects

フィリピンのポストロックバンドとしては特異な立ち位置にいるのがSound Archtectsです。

メンバーの言葉を借りれば「全てのステレオタイプなExplosions in the Sky的なポストロックから離れるように舵を取った」ということになります。

つまり、意図的にステレオタイプ的なポストロック・サウンドと距離を置こうとしたことになります。

確かに全くのオリジナルというわけではありませんが、典型的なポストロックサウンドとは毛色が異なります。
チューニングを落としたヘヴィサウンドによって、スロウでダークなサウンド――ポスト・メタル的な――を形成しています。

沈み込むようなリフを刻むエレクトリックギター、
打ち付けるように沈みこむベースライン、
スロウで力強いドラムス。
そして、根底のところには叙情的なメロディアスさがあり、暗鬱としながら美しい旋律を奏でています。

また、アルバムによっては煙たいシンセを導入したり、ドラムスに深いディレイ/リバーブをかけたりと、とにかくダークでヘヴィな質感にこだわっている印象を受けます。


完成度も高く、隙のないバンドサウンドを展開しています。

3.インドネシア

インドネシアはロックや国外の音楽が規制される時代が長く続いていましたが、90年代後半より徐々にインディーズシーンが形成されるようになっていきます。
その後、インターネットなど技術的革新もあり、首都ジャカルタと若者の街バンドゥンで様々な音楽に関する情報が集まり、それを吸収した若者が様々な音楽を演奏していくことになります。

そして、2006年頃から徐々にポストロックが姿を見せるになります。

インドネシア・ポストロックの特徴としてはExplosions in the SkyMONOなどのMogwai以降の壮麗な轟音系ポストロックの影響を他の東南アジアと比べても一際強く受けていることでしょう。

個人的には、「The東南アジアのポストロック」という顔ぶれが揃っているように感じます。

ここでは、ジャカルタ出身のバンドとバンドゥン出身のバンドで分けてみてみましょう。

バンドゥン出身

A Slow In Dance

インドネシアのポストロック最初期を飾るバンドの一つです。

空間系のエフェクターを多用したリラックスしたサウンドから、ディストーションを効かせつつもゆったりとした叙情的轟音サウンドの切り替えを特徴としています。

各所に拙さが目立つのも事実ですが、それがまた独特のゆるさを醸し出す良い要素にもなっています。

奥行きの深さと未完成な青さを感じさせるエレクトリックギター、
ゆらゆらと伸びながらビート感を広げていくベースライン、
真っ直ぐでゆったりとしたビートを刻み、懸命に盛り上げていくドラムス。
余計な要素は存在せず、シンプルなパーツのみで若々しく美しい轟音を奏でていきます。

伸びやかで、自由奔放で、粗を探そうと思えばいくらでもできるけれども、そんなことはしたくないなと思わせるような、懸命に芽吹こうとする若葉のようなひたむきさを感じさせます。

こういうひたむきさが傷づかないまま世に出る、というのは日本文化で起こりえないようにも思います。

Under The Big Bright Yellow Sun

非常に好きなバンドの一つです。

東南アジア的/インドネシア的なレイドバック感を残しつつも、楽曲の完成度を高めているのがUnder The Big Bright Yellow Sunの特徴です。

土台にあるのはExplosions in the Sky的な文学的系ギターバーストです。
しかし、轟音バンド的な緩急に重きを置きすぎることはなく、柔らかな躍動感が絶えずに揺らめいているのが彼等のオリジナリティと言えるでしょう。

美しく織り込まれたツインギターの旋律、
有機的でしなやかなラインを駆け巡るベース、
力強く軽やかにビートを描きあげるドラムス。
東南アジア的感性のフィルターを通したロックサウンドが、優しく煌めいています。

微笑みと希望に満ちた光輝と高らかで抜けの良いスケール感は、彼等の大いなる魅力と言えるでしょう。

Autumn Ode

他のバンドと同じように柔らかなポストロックサウンドを特徴としていますが、Autumn Odeはシンセやグロッケンシュピーゲルなどを適宜用いており、柔らかながらも色彩豊かなサウンドを構築しています。

ポストロック的叙情性を繊細な物語的な雰囲気に上手に落とし込んでいます。
サウンドトラック的とも言えるかもしれません。

聴き手の心を強く揺さぶるような無垢さに、優しく心を揺さぶられます。

ジャカルタ出身

Individual Life

MONO的でクラシカルで重厚なポストロックバンドの影響とストリングスを用いた室内楽的な気品を併せ持つ、ジャカルタ出身のポストロックバンドです。

特にストリングスやピアノの存在感が際立っており、吹き抜けの良い空気感からは東南アジア的な緩やかさを感じます。
軽やかで優雅なステップから始まり、徐々にエモーショナルなポストロックワールドへと切り替わっていきます。

時に不穏になることもあれば、眩い轟音へと転じることもあり、多彩なアプローチで聴き手を絶えず曲の世界へと惹きつけ続けます。

ヨーロッパ的な童話性と東南アジア的な伸びやかさを併せ持つ、独特の味わいを含んだバンドです。

L’Alpalpha

非常に好きなバンドの一つです。

Sigur Rosを思わせる妖精的/祝祭的なサウンドを特徴としています。

楽器の一つとして楽曲に織り込まれる美しい声、
時折差しはさまれるポエトリーリーディング、
ノスタルジックに煌めくギターの音色、
光を浴びて輝く水面のように瑞々しいピアノの旋律、
穏やかながらも楽隊的な響きを含むリムズセクション。

Sigur Ros的でありながらもMogwai型ポストロックのような分かりやすい静/動のコントラストがある楽曲構成もあるのが印象的です。
そして、根底には東南アジア的で自然体な緩やかさがあることが、彼等の大きな個性となっています。


精霊たちの合唱を想起させる希望に満ちた光輝の揺らめきが揺蕩っているように思います。

Marche La Void

初期MONOを思わせる重厚で不穏なポストロックサウンドを、ぎらついたエネルギーによって奏でています。

荒涼としたその響きは、インドネシアではマイノリティに属するでしょう。

静かな時はダークな叙情性を描き、爆発するときにはヘヴィなエモーショナルさを爆発させるエレクトリックギター、
聴き手を引き込む荒波のようにうねるベース。
緩急を巧みに使い分け、情感を叩きだすドラムス。

長尺の曲展開にも関わらず、飽きさせることなく聴き手を引き込み続けられるのは、曲の練度の高さに起因するように思います。

ダークな叙情派ポストロックとして、卒のない佳作と言えるでしょう。

4.マレーシア

1980年代に生まれたパンクシーンが徐々に発展・拡大していくなかで数多のサブジャンルが生まれていき、その一つとしてポストロックシーンがマレーシアに誕生しました。

マレーシアの特徴として、王道的な東南アジアポストロックサウンドを抑えつつも比較的個性豊かで異彩を放つバンドも集っているのがマレーシアの特徴と言えるでしょう。


本記事では異彩派と王道派に分けてみました。

異彩派

Citizens of Ice Cream

こちらも見逃せないバンドです。

轟音・エモ・美麗系が多数派を占める東南アジア・南アジアのポストロック界隈にしては珍しく、GY!BEやDo May Say Thinkといったカナディアン・ポストロックの影響を感じられます。

管楽器や鍵盤楽器を多用した多人数コレクティブ的な構成が生み出すダイナミズムは迫力満点です。ただ、本場の面々よりもキャッチーで分かりやすいエモーショナルさを感じさせてくれるのが、彼等の特徴でもあります。

影響源より薄味になっているとも言えますが、東南アジア・南アジア的な穏やかさによって味わい深いマイルドさを帯びたとも解釈できるかもしれません。

カナディアン。ポストロック・ミーツ・サウスイーストアジア・ポストロック。
異なる風味が混ざり合っているサウンドに耳を傾けるのが、彼等の作品の楽しみ方と言えるでしょう。

mutesite

日本で最も知名度が高いマレーシアのポストロックバンドは、おそらくmutesiteでしょう。

澄んだエモーショナルさを湛え、
鍵盤の叙情的な旋律が美しく。
センチメンタルな美麗ポストロックサウンドを構築しています。
轟音を炸裂させたり、激情的で過剰な爆発を見せるでもなく、都会的でスレンダーなバンドアンサンブルを流麗に奏でています。


日本のMouse on the Keysなどにも似ているように思いますが、バンドの根底にある空気感には東南アジア・南アジア的なメランコリーがたっぷりと含まれているように思います。

穏やかで、優しくて、素朴で。
胸がきゅっとなるようなノスタルジーを時折見せてくれて。
凛然としつつも愛おしい響きが詰まった、感傷的な気持ちにさせてくれる音楽です。

DIrgahayu

激情系ポストロック・マスロックあたりの影響を感じさせつつも、良い意味で粗さを感じさせるのがDIrgahayuです。

エモーショナルではあるものの透明感ではなく緊張感を帯びていて、ゴリゴリとした音塊の応酬によってハードコアな迫力を生み出していることのほうが印象に残ります。また、切れ味も鋭く、変態タッピングや変拍子も華麗に決めて、マスロック的で聡明なアグレッシブさを体現しています。

さらに完成しきっていないが故の不安定さが、危うい魅力を醸し出していることも重要なアクセントになっていると言えるかもしれません。

ただ、根底のところではキャッチーなことをしたいのかな、と感じさせる瞬間も多いです。
あまりアンダーグラウンドになりすぎることはなく、またキャッチーさを志向している旋律が登場することもあり、敷居を下げた作風になっています。

濃厚な影響源をざく切りのままスープにぶち込んではいるものの、それが東南アジア的なマイルドで若干優しくなっているような印象を受けます。
複数のプラモデルのパーツを組み合わせて自分だけの機種を作りあげようとするような無垢な探求心は、これはこれで味わい深いものがあります。

王道派

Deepset

Deepsetは、轟音系ポストロックの影響を強く受けています。明らかにMONOの気配を感じさせるのが印象的で、深い叙情性を湛えたノイズ・バーストサウンドを形成しています。

優しく穏やかなクリーンサウンドから少しずつ叙情的な盛り上がりを見せ、ダウナーな轟音へと展開していきます。また、楽曲も長尺で、道行を少しずつ進みながら最頂点のクライマックスへと到達していきます。

オリジナリティがあるかと言われればそうではないのですが東アジアから中東までアジア地域で幅広く散見されるMONO以降のポストロックの在り方を見せてくれる、良い例であるとは言えるでしょう。

また、楽曲としてのクオリティも十分に及第点であり、個人的には楽しく聴ける作品として挙げても問題ないかと思います。

Moi Last Von

Go Die!という不穏なアルバムタイトルとノイジーな冒頭から不穏な気配を感じ取ってしまいますが、その中身はメランコリックで美しいポストロックサウンドとなっています。

淡く滲むようなストリングスやシンセの音色がノスタルジックな響きを残し、
穏やかなベースとドラムスはゆったりとした時を刻み、
優しいギターアルペジオが優しく溶けていきます。
また、時折顔を出すボーカルは囁くようなソフトさが印象的で、それらが折り重なってアンニュイながらも叙情的なサウンドが醸成されていきます。

また、作品全体を覆うゆったりとしたメランコリーなど、シューゲイザーからの影響を感じさせるのも特徴と言えるでしょう。そこに東南アジア・南アジア的な優しく素朴な空気感が上手に作用して、胸に染み入るノスタルジーを醸成しています。

たおやかで、叙情的で、ディープで、それでいて等身大の素朴な空気感も混じっていて。
物憂くも優しさが感じられる、揺蕩うようなメランコリーに触れることができます。

Damn Dirty Apes

こちらもダウナーな轟音系ポストロックで、Mogwaiを筆頭とした先達の影響を感じられます。

ただ、強く影響を受けつつも引っ張られるすぎることなく、自我がハッキリしているよう印象を受けます。

時に激しく鋭く、時にメロディアスでゆったりとした轟音を鳴らしています。
この手のバンドの常として良くも悪くも感情過多なサウンドになる傾向がありますが、Damn Dirty Apesはカラっとしたニュアンスが感じられます。

轟音特有のゾクゾクした魅力を残しつつも、ゆったりとした曲や歌モノの曲では東南アジア的でノスタルジックなキャッチーさが顔を出すのも素晴らしい点であり、Damm Dirty Apesのオリジナリティの一端でしょう。

ぶっ飛ぶような個性はありませんが、確固たる足場を築いているバンドでもあります。

5.タイ

タイでは90年代半ば以降にインディーミュージックが醸成され、幅広く発展するシーンのその一枝として2000年中頃からポストロックバンドが登場するようになっていきます。

「クオリティ」「オリジナリティ」という観点からすると、最も目を見張るのがタイなのかもしれません。


本記事では轟音・シューゲイザー型とマスロック型に分けてみます。

轟音・シューゲイザー型

Hope the Flowers

個人的にはとても好きなバンドです。

轟音ポストロック的なスタイルをとっていますが、物腰穏やかな雰囲気を特徴としています。
東南アジア的なおおらかさが全面を覆っている1stや2ndも素晴らしいですが、シンセなどの多彩な音色やトラップのビートを取り込むなどオリジナリティを追求したスタイリッシュな3rdを本記事では取り上げます。


メランコリックな雰囲気を基調としつつシンセ、ストリングス、管楽器と轟音を組み合わせ、壮大なスケールのカタルシスを創りあげています。
その一方でアグレッシブなパートでも東南アジアの民俗的なニュアンスを時折匂わせており、独特の濃密さをエモーショナルな轟音に添えています。

SF的で民俗的。胸を打つような儚さと叫ぶような激情。
時に重厚に、時に美しく、絡み合った重層的なサウンドが高らかに響き渡っていきます。

多彩なサウンドが織り交ぜられながら、典型的ポストロックサウンドというカラを突き破ろうとする意欲を感じられるアルバムです。

Inspirative

「クオリティの高さ」ではInspirativeがずば抜けているのではないでしょうか。

シューゲイザー的な陶酔感を帯びた耽美なサウンドが印象的です。

ディレイを帯びた儚い雰囲気を絶えず帯びており、ピアノ、ギターによる穏やかなパートから柔らかな轟音が潮のように高まることによってゆったりとした緩急をつけています。

濃霧のように心地よくも濃密なメランコリーが漂っており、艶やかながらも壮大なサウンドがしっとりと広がっていきます。

また、展開の仕方が穏やかなのも特徴で、シームレスに少しずつ高まったり引いたりしていきます。
優しく揺らめく幻想が波のように引いては寄せ、徐々に聴き手を音の世界へと誘い込んでいくかのようです。

深いディレイはまるで幻のようにふわふわと漂い、叙情的な轟音はまるで優しい包容のようです。
そして、触れたら壊れてしまいそうなほどに美しい、柔らかで繊細な叙情性が立ち込めています。


胸を打つような、あの日の思い出を呼び起こすような、心の深くにまで染み込んでくるようなアルバムです。

Forgot Your Case

Mogiwai・Explosions in the Sky経由のポストロックを、やや武骨にしたようなサウンドを特徴としています。

エモーショナルで、程よくラフで、秘めたるメランコリーもあって。
ただ、文化系的な迷いやナイーブさはなく、凛々しく力強い響きが燦然と広がっています。


そして、無垢な純粋さを感じさせる「隙」もあるのも重要な点でしょう。

また、根底にあるのは極めてオーセンティックなオルタナティブ・ロックサウンドであり、Mogwai的なニュアンスもその中での主要素として漂っているように感じられます。

個人的には本作のような好きな音への「憧れ」がざく切りで浮かんでいるような発展途上の味付けも好みです。

Avada

シューゲイザーの影響を漂わせている轟音系ポストロックです。

若々しく瑞々しい感覚が印象的で叙情的ではあるものの、「青さ」を存分に放っています。
また、過度に文学的・耽美的な感じもせず、繊細ながらも等身大のメランコリーがディレイサウンドによって綴られています。


時折顔を見せる東南アジア的ノスタルジーも違和感なく溶け込んでおり、パーソナルでエモーショナルなバンドサウンドを築き上げています。

箱庭的とでも言えばいいのでしょうか、素朴ながらも丁寧な、心のひだを感じさせるような音楽が詰まっています。

マスロック型

Faustus

タイ出身の2人と日本出身の1人による混成バンドです。

粗くラフな魅力を帯びながらも、流麗なエモーショナルさを秘めたサウンドが印象的です。
敢えて例えるのであれば、Shipping Newsのソリッドなポスト・ハードコアとLiteの理知的なマスロックが混ざり合っているような感じといったところでしょうか。

長大なアルバムタイトルも相まって、荒々しくも哲学的な雰囲気を感じてしまいます。

ざらついた歪みを弾き出すエレクトリックギター、生々しくゴリッとしたベース、鋭く破壊力をぶっ放すドラムスがバチっと息を合わせて煙たくアンダーグラウンドな激しさを生み出しています。

そして、そんな危うさを絶えず全開にしながらも時折知性的な叙情性も姿を見せ、それらが混然一体となってヒリヒリした緊張感を帯びたエモーショナルさを創り出しています。

January

クリアーでエモいポストロック・マスロックを、さらにポップにさせたサウンドを特徴としています。
ただ、激情的なアクセル爆発は(例外はあるものの)姿は見せず、そよ風のような軽やかさを絶えず帯びています


Chon、Six Part Seven、TTNGなどをさらにキャッチーさせたような、ソリッドなビートと抜けるような爽快感を武器にしてアルバムは展開していきます。

ポストロック的な緊張感、(轟音ポストロック的)な濃味な叙情性ではなく、心躍るようなスピード感が魅力になっているのも印象的。ただ、時折込み入った透明感を帯びたアルペジオを見せる瞬間もあり、一応伝統にも心配りをしているのかもしれません。

また、ノスタルジックで牧歌的な雰囲気が漂っているのは東南アジア的と言えるでしょう。
胸にすっと染み入るような優しさを、澄み渡るエレクトリックギターの音色と共に。

6.インド

インドでポストロックが誕生したのは、首都デリーではなく南部の都市ベンガルールです。

ベンガルールではアンターグラウンドの中心を担っていたのはヘヴィメタルでした。
そして、どうやらそのシーンに対するオルタナティブという意味合いも含みながら、2005年頃からポストロックというバンド・言葉が広がっていったようです。


そのため、黎明期のバンドについては我々のイメージするポストロックとは少々異なる印象を受けます。

ただ、裏を返せばシカゴ音響派と呼ばれる原初のポストロックバンドが持っていた精神と最も近しいものを持っていたのがインドの面々ということになるかもしれません。

2015年頃のベンガルールでのポストロックブームの頃のバンドたちもまた、多少洗練されはしたものの、従来のポストロックバンドがやっていない「何か」を持ち込もうとする気概が感じられます。

黎明期

Lounge Piranha

インド・ポストロックの原点とも呼べるバンドで、インド内のポストロックシーンにおいては大きな影響力を誇っているようです。

音響やビジュアル・エフェクトなどにこだわり小さな会場を選ぶ姿勢なども含めて「ポストロック」と呼ばれるようになったようで、単純に音楽だけを聴くとややアンビエントなオルタナティブロックという印象も受けます。


何偽よ、やや土っぽくソリッドな質感のするサウンドからは、精悍な美しさを感じます。

The Eternal Twilight

インドに残した影響という意味ではLounge Piranhaに劣りますがドイツの Oxide TonesからリリースされたThe Eternal Twilightもまた注目に値します。

HammockやSigur rosを思わせる美しく荘厳なアンビエントサウンドに鳥のさえずりなどの自然音を織り交ぜています。しかし、その一方で自然体のロックサウンドを匂わせる瞬間もあり、未完成であるが故の危うい美しさも感じます。

発展期

Aswekeepsearching

非常に好きなバンドの一つです。

インドのポストロックバンドのなかで最も対外的な成功を収めているのはAswekeepsearchingでしょう。
15か国以上を周るヨーロッパツアーを敢行しているのは注目に値します。


特徴としては穏やかで壮麗なポストロックサウンドにヒンディー語やウルドゥー語の歌を載せている点でしょう。
壮大かつゆったりとした曲調で、伸びやかなギターサウンドに慈しみを乗せた優しいサウンドを展開しています。


心地よくも美しく、そしてふわりと神々しい質感を絶えず湛えています。

また、徐々にシタールなどのインドの楽器を導入するようになるなど、自らのアイデンティティに向き合っているのも特徴です。

Stuck in November

こちらも素晴らしいバンドです。

Stuck in Novemberはポップでテクニカルなマスロックを個性としていますが、本作はアコースティックサウンドへとダイブした意欲作です。

マスロック的な変拍子やダイナミズムは残しつつ、夢の国なカラフルさを備えたキュートで楽しいサウンドへと展開しています。


テクニカルで無垢なアコースティックギター、
アコーディオン、クラリネットの暖かな響き、
玲瓏なアクセントとなってサウンドを彩るベルの音、
さりげなくサウンドを支えるベースやドラムス。
その全てが織り合わさって、可愛らしくも奇想天外な冒険譚を創り出しています。

それと同時にエモーショナルな一面もちらりと見せたりして。

インドのポストロックらしい、高いオリジナリティを秘めたアルバムです。

Until We Last

インドの、そしてアジアのポストロックの王道とも言えるサウンドです。

壮麗、柔和、エモーショナル。
エレクトックギター、ベース、ドラムスが慈しむように絡み合い、ゆるやかに流れゆく久遠の時を感じさせるような、優しく雄大なサウンドを展開します。


シンプルな構成で、だからこそ聴き手の胸にダイレクトに響くような浸透力を秘めています。

轟音系のように緩急を使い分けるわけではなく、なだらかに上下する有機的な展開によって感傷的で力強い潮の満ち引きを描いた、研ぎ澄まされた交響曲のような作品です。

Space Behind The Yellow Room

個人的に好きなバンドの一つです。

ハードコアかつエモーショナルなサウンドが胸をかき乱します。

荒々しくも鋭いバンドサウンドを特徴としており、SlintやShiping Newsなどの最初期のポストロックバンドの影響も感じられます。

その一方で音響的なこだわりを見せたり、
と思ったら透明感漂う現代風ポストロックのフォーマットをなぞってみたり。
非常に多彩なサウンドを違和感なく消化し、不穏ながらも叙情的なサウンドへと落とし込んでいます。

緊張を湛えたエモーショナルなアルペジオ、
徐々に蠢動するドラムスやベース、
苛立たしげな嘆きや呟き、そして絶叫。

激情の一言では片づけられない、苛立ちという感情の複雑さを体現しているような音楽です。

ダークな感情を複雑な道のりを経由しながらも力強く放出しており、アンバランスな危うさを煙のように漂わせています。

実験精神を備えてはいますが、それを内側から食い破るような情念が一番の魅力でしょう。

結びに変えて:アジアのポストロックとは何か?Part.1東南アジアと南アジア編

Part2は東アジアをテーマにする予定です。

主要参考文献&サイト:アジアのポストロックとは何か?Part.1東南アジアと南アジア編

https://daily.bandcamp.com/scene-report/southeast-asian-post-rock-and-math-rock

https://kittywurecords.wordpress.com/

https://ototoy.jp/feature/2019070201/1

https://mag.mysound.jp/post/101

https://www.billboard.com/articles/news/international/7882025/sound-architects-filipino-post-rock-interview

https://heapsmag.com/indie-music-indonesia-society-mainstream-mondo-gascaro

https://www.djarumcoklat.com/article/kemunculan-postrock-di-indonesia

https://heapsmag.com/indie-music-indonesia-society-mainstream-mondo-gascaro

https://www.insideindonesia.org/the-indie-takeover

https://www.cekaja.com/info/7-band-post-rock-indonesia-yang-inspiratif-dan-lagunya-enak-didengar/

http://indian-music-catalog.com/indian-post-rock-scene/

https://en.wikipedia.org/wiki/Thai_rock

https://www.redbull.com/my-en/5-malaysian-instrumental-bands-to-rock-out-to

https://en.wikipedia.org/wiki/Malaysian_rock

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