こんにちは。
ヒップホップが世界中で人気を博している音楽カテゴリーであることに異存がある方は、あまりいないでしょう。
日本ではあまり知られていませんが、中東地域にも豊かなヒップホップシーンが存在します。

本記事では、個人的に好きなヒップホップ・アーティストについて紹介します。
ただし、私はヒップホップが好きですがあまり明るくはありません。
その点をご理解ください。
また、本記事は随時更新していく予定です。
目次
中東におけるヒップホップの始まり
中東におけるヒップホップの歴史についてまずは簡単に触れたいと思います。
中東で最初にヒップホップ・カルチャーに触れたのはマグレブ諸国(モロッコ、アルジェリア、チュニジア)でした。
90年代初頭、旧宗主国であるフランスとの文化的交流をもたらされたのがきっかけだったそうです。
その後、瞬く間にヒップホップは中東全体に広がり、アンダーグラウンドで最も大きなシーンを形成するようになりました。
おすすめしたい中東のヒップホップアーティスト(地域別)
本記事では、地域別にまとめてみました。
エジプト
エジプトには豊かなインディーシーンが存在し、ヒップホップにおいてもエジプト出身のアーティストが強い影響力を誇っています。
Wegz
エジプトのヒップホップシーンの最前線にいるのがwegzです。
中東のストリーミングサービス Anghamiと音楽情報サイトScenenoizeによる2020年の調査によれば、今最も再生されているアラビア語ラッパーなんだとか。
USに影響を受けたトラップサウンドを基調にしつつも、中東的な荒涼感が漂うトラックが印象的です。かっこいいです。
Yunis & Ibrahim X
個人的には一番好きな中東のヒップホップ・アーティストです。
エジプトの伝統音楽shaabiとヒップホップのブレイクなビート感を組み合わせたサウンドに、熱い語りのようなポエトリー・リーディングが乗っかります。
中東でしか生まれないオリジナリティと普遍的な熱い初期衝動が融合した、唯一無二の傑作です。
Arabian Knightz
Arabian Knightzは「アラブの春」に際して政権を批判するラップを公開し、若者から多くの支持を集めた三人組ラップグループです。
コテコテなオールドスクールで重たいビートを基調としつつも、ウワモノにはアラビアンな旋律がさりげなく登場させるなど、自らのアイデンティティを上手に匂わせたサウンドが魅力的です。
Felukah
ニューヨークで活動するエジプト人女性シンガー・ラッパーの3rdアルバムです。
拠点がニューヨークであるためか非常に洗練されており、トラップなビートとブームバップな質感を組み合わせ、メロウで艶やかなサウンドを構築しています。
アラブ圏のアーティストには海外を拠点にしている方々が多くいますが、アラブ圏内外どちらで活動しているかによって雰囲気が大きく変わる印象を受けます。
パレスティナ
複雑な政治情勢もあるのか、素晴らしいヒップホップ・アーティストを輩出している印象を受けます。
DAM
ドキュメンタリー映画『自由と壁とヒップホップ』でも取り上げられたDAMは、我々のような非中東地域の人々にとってパレスティナのヒップホップを代表するような存在かもしれません。
彼等は暴力ではなく音楽でイスラエル政府にプロテストし、「自分の故郷にただ住んでいる俺がテロリストなのか? それとも俺から全てを奪ったお前がテロリストなのか?」というリリックは特に大きな話題を呼びました。
サウンドを一言で表現するならば、軽快なオールドスクールといったところでしょうか。リリースを重ねるごとにアラブ風のサウンドに接近していくのも彼等の特徴でしょう。
Sindibad el Ward
個人的には非常に好きなグループです。
アンニュイながらも切れ味鋭いトラックに流れるようなフロウのラップが重なり、タイトで叙情的な音世界を構築しています。
また、アラビア語のリリックも巧みな言葉選びで編み上げられ、パレスティナで暮らす若者の日常を物語っているそうです。
意図的に政治的な要素が排除されていることも、彼等が評価されている一因とのこと。気になります。
El Far3i
MCとしての活動だけでなく、フォークシンガーやパーカッショニストとしても知られています。
ヒップホップという観点から彼を見るのであれば、ドープで煙たいトラックといぶし銀の渋みが漂うラップが魅力といえるでしょう。
大人びた落ち着きと攻撃的なエネルギーが共存しており、路地裏の闇から立ち上る危うい魅力を帯びています。
ヨルダン
Satti
Sattiの特徴は中東の民謡的なサウンドをサンプリングする一方で、エレピやギターでファンク的やジャズ的なビート感を形成している点でしょう。
軽やかなフロウとドープなトラックを組み合わせ、中東の匂いを纏いつつも90’sヒップホップのような精悍とした空気感を創り出しています。
リリックでは母国ヨルダンのみならず中東全体の問題にタックルしているそうです。
Emsallam
Emsallamの特徴は、アラブの伝統楽器からストリングスまで様々なサウンドをトラップと融合している点でしょう。
攻撃的な感情を叩きつけるようなサウンドでぐいぐい迫りつつもメランコリックな質感があるのも素晴らしいところです。
Lil Asaf
ダウナーで煙たい、ドープなトラックが印象的です。力強くも影を帯びたラップがその上を流れていき、退廃的でアブストラクトなサウンドがドロドロとあふれ出しています。
中東の伝統音楽の旋律が隠し味程度に顔を出しており、良い意味での異様さ/危険さを漂わせているのも見逃せないポイントです。
暗黒で蠢く獣のような、破滅的な魅力を感じさせてくれます。
レバノン
El Rass
El Rassの特徴は、イルでオリエントながらも知性的な雰囲気が漂うトラックとフロウです。
ラッパーに転身する前はジャーナリストであったことも関係しているかもしれません。
レバント地方について語るべきことがたくさんあると主張しており、革命的な内容のリリックが多いそうです。
個人的には特にお気に入りです。
サウジアラビア
BLVXB
近年のサウジアラビアのラップシーンにおけるライジングスターとも呼ばれるBLVXB。
レイドバックしたローファイなトラックにゆったりとメロディアスなフロウを載せ、センチメンタルなサウンドを構築しています。DRAKEなどにも近いキャッチーさを感じさせます。
普遍的なメランコリーを秘めている曲も多く、幅広い層に受けるサウンドであるように思います。
UAE
Kafv
90’sの匂いをたっぷり漂わせているだけでなく、オールディーズ・ムーヴィー、伝統中東音楽、80’sJ-POP、ベリーダンスなどをマニアックなサンプリングしているのがKafvの特徴です。
また、ジャケットアートからも分かるようにMF Doomからの影響を感じさせる、「間」が効いたドープ&ギーク&アンダーグラウンドな雰囲気も印象的です。
肩の力が程よく抜けているニュアンスを含んでいることもあり、メインストリームではなくサブカルチャーな立ち位置に身を置いたヒップホップサウンドと言えるでしょう。
シリア
Bu kulthoum
Bu Kulthoumはアムステルダムを拠点に活動しているラッパー/プロデューサーです。
サンプリングベースの軽快なサウンドをベースにしており、肩の力が抜けた質感が楽しめます。
シリアスな雰囲気な時でもふざけた雰囲気があるのが良いところです。
Sallam Naser
Sallam Naserの出自は複雑で、シリアの項目に置けばよいのか迷っています。
彼の祖父母はパレスティナがイスラエルに侵攻された際、難民としてシリアの難民キャンプに移り住み、Sallamはそこで生まれ育ちました。
しかし、シリアの情勢悪化に伴って現在ではノルウェーで難民として暮らしています。
シリアではパレスティナ人と呼ばれ、パレスティナではシリア人と呼ばれ、ノルウェーでは外国人と呼ばれ、自己のアイデンティティには悩みを抱えているとのこと。
ダウンテンポ気味の洗練されつつも物憂いトラックが多いのが特徴で、男性的ながらもしっとりとしたフロウが滑らかに波打っています。
活躍拠点のせいでしょうか、ヒップホップ的な煙たさの中にもヨーロッパ的な艶やかさを感じさせます。大人びた、それでいて切ない雰囲気が美しいです。
スーダン
スーダンではポップカルチャーにおける政権に対するプロテストソングのほとんどがヒップホップで絞められているそうです。
また、リリックにはアフリカ人としてのアイデンティティとアラブ民族の一員としてのアイデンティティがユニークに併存しているのだとか。
Flippter
Flippterはラッパー以外にもコンポーザーやエディターとしての顔を持ちます。
サウンドはアブストラクト・ヒップホップ的で、時に伝統的な音色を織り込みつつ複雑怪奇なトラックを編み上げます。
さらにラップという語りに近いフロウが奇妙に動き、独特のトラックを構成しています。
アーティスティックであることを追求しているような印象を受けることでしょう。
Ramey Dawoud
Rameyはエジプトのアレクサンドリア生まれ、1999年にカンザスに移り住んだスーダン系アメリカ人です。
また、ヌビアと呼ばれる少数民族の出身であり、複雑な出自を持っています。
メロウなトラックとラップが印象的で、哀愁を感じさせるギターサウンドや事情的なピアノのサウンドが耳に残るでしょう。
朴訥としていて良い意味で垢抜けていないのが好印象です。
Sufyvn
スーダンのレコードやカセットテープからサンプリングした素材をベースにしながらもフライング・ロータスを思わせるビートミュージック系のサウンドを構築しているのが、Sufyvnの個性です。
SF的なスペイシーさもありますが、素材が素材なだけに独特のアフリカン/アラビアンな空気感が染みこんでいます。
相反する要素を新しいサウンドへと昇華するように織り込んだ、美しいビートが楽しめます。
モロッコ
Khtek
衝撃を受けたアーティストです。
激しい怒りを叩きつけるラップ、力強くも繊細なトラップのトラック。クールダウンすることなく続く激しい感情の発露には、誰も思わず惹きつけられるのではないでしょうか。
男性中心のラップシーンとは距離を置き、女性としての誇りを前面に打ち出したリリックを紡いでいるそうです。
Shayfeen
メインストリーム的でキャッチーなサウンドが特徴といえるでしょう。
ハイファイでエモーショナルなトラップサウンドですが、印象的に上下するシンセの旋律からは中東の気配を感じます。
ぐいぐいと若者の心を掴もうとするような、ぎらついたヒップホップドリームが顕現したような力強さです。
Tange
モロッコ系カメルーン人(Moroccan-Cameroonian)という日本人にはなじみが薄いかもしれない出自のTagneによるデビューアルバムです。
サウンドとしてはトラップビートの上に不穏なシンセが絡まり、メロウなフロウがそのうえで揺らめいています。ダークな色彩ではありますが、淡いメランコリーも含まれているのが特徴でしょう。
また、フィーチャリングにはモロッコのラップシーンの俊英たちが名を連ねているとのこと。アルバムリリース後には、Deezerのトップ10チャートのうち8曲がこのアルバムの曲で占められていたそうです。
イエメン
Amani Yehia
イエメン人の彼女は、母国の忌むべき慣習である児童婚に牙をむいたラッパーです。
アコースティックギターだけを伴って紡がれるその怒りはあまり純粋で多くの反響を呼び、多くの反感を呼びました。
そして、公に活動することができなくなりました。
中東のヒップホップ・アーティストについて。主要な参考文献・サイト
https://scenenoise.com/Best-Of/the-40-best-middle-eastern-albums-of-2017
https://scenenoise.com/Features/ten-tracks-school-best-arab-rap
https://scenenoise.com/Features/what-rap-music-is-the-middle-east-listening-to
https://scenenoise.com/New-Music/10-hip-hop-tracks-from-the-sudanese-revolution
https://scenenoise.com/Features/the-middle-easts-breakthrough-rappers-of-2020-part-1
https://scenenoise.com/Features/13-of-the-best-independent-female-singers-in-the-middle-east
https://scenenoise.com/Reviews/saudis-blvxb-and-ruhmvn-team-up-for-collaborative-trap-album-galaxy
https://scenenoise.com/Artists/Profile/el-rass
https://scenenoise.com/Reviews/rapper-tagne-triumphs-on-debut-album-moroccan-dream
https://scenenoise.com/New-Music/felukah-drops-third-album-dream-23-on-nycs-abu-recordings
https://avyss-magazine.com/2020/07/22/17700/
https://scenenoise.com/Features/Big-Hass-Big-Guide-on-the-Movers-Shakers-of-UAE-s-Rap-Scene
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