『アントニーとクレオパトラ』シェイクスピアが描く、エジプトの悲恋 ~あらすじと感想~

クレオパトラ 何か音楽を、音楽は恋に明け暮れする者には、日々の悲しき糧だもの。

シェイクスピア『アントニーとクレオパトラ』新潮社,1972,P65

『アンソニーとクレオパトラ』は1606年から1607年頃にかけて書かれた戯曲です。



著者はウイリアム・シェイクスピア。本作は四大悲劇から晩年のロマンス劇への移行期にあたる作品と考えられています。

作品の舞台は、紀元前1世紀の東地中海。拡大を続けるローマの執政官アントニー(マルクス・アントニウス)と古代エジプト最後の支配者クレパトラの恋模様を、良くも悪くも人間味たっぷりに雰囲気で描いています。

『アントニーとクレオパトラ』のあらすじ

主な登場人物

  • アントニー ローマの執政官
  • クレオパトラ プトレマイオス朝エジプトの女王
  • (オクテヴィアス)シーザー ローマの執政官。アントニーと険悪
  • ポンペイ(ポンペイアス) ローマの重要人物。反乱を起こす

(1)アントニーとクレオパトラ、彼らを取囲む世界

物語はアントニーの部下が愚痴る場面から始まります。

エジプトの女王クレオパトラの魅力にすっかりハマってしまったアントニーは、毎日デレデレしながらエジプトで暮らしています。かつての雄姿はどこへやら、本国からの使者とさえマトモに話しません。

しかし、シーザー(オクテヴィアス・シーザー、後のローマ初代皇帝)からの召集の可能性を示唆されると、さすがに焦ったりもします。それから、アントニーは妻帯者。時折クレオパトラの嫉妬が、2人の間でピリピリします。

しかし、いつまでも二人の世界に浸ってはいられません。驚きの情報がアントニーの下へ届きます。アントニーの奥さんファルヴィアがアントニーを奮起させるためにアントニーの弟ルーシアスに対して戦を挑み、次いで2人は同盟を結んでシーザーに挑み、しかも敗北。さらに、ファルヴィアは病死します。

さらに旧知の間柄にあった重要人物ポンペイウスがローマに反乱を起こします。アントニーはローマへの帰還を決意します。(こういうダイナミックな展開が一気にやってくるあたり、手紙だけで情報が伝わっていた時代、という感じがします)

となると大変なのがクレオパトラです。いつものようにアントニーの心を惹く方法を考えているところに……

クレオパトラ  もし沈んでおいでなら、私が躍っているとお言い、楽しそうにしていたら、急病だからとお伝えするがよい。

シェイクスピア『アントニーとクレオパトラ』新潮社,1972,P27

アントニーは別れを伝えにやってきます。しかし、クレオパトラは情緒が不安定になり、2人は険悪な雰囲気で別れます。

(2)アントニーの帰還、アントニーの再婚

ローマではアントニー以外の第二回三頭政治の面々(シーザー、レピダス)が深刻さを増す内乱の状況に困り果てていました。アントニーの無責任さを責めたり(シーザー)、擁護したりしながら(レピダス)、アントニーの帰還を望んでいました。

ようやくアントニーが帰還するのですがシーザーとアントニーは仲が悪いこともあり、逼迫した状況なにも関わらず、関係がギクシャクしてしまいます。そこで解決策として、シーザーの姉オクテイヴィアがアントニーと婚姻が提案されます。

かなりシスコン気味なシーザーは内心思うところがありました。

シーザー 俺が一番大切にしていたものを奪っていくのだ

シェイクスピア『アントニーとクレオパトラ』新潮社,1972,P97

と後々言うくらいです。いかほど深刻かが分かります。ただ、とりりあず婚姻の話はつつがなく進みました。

アントニー  (中略)愛情の力比べなら、いつでもシーザーのお相手をしよう

シェイクスピア『アントニーとクレオパトラ』新潮社,1972,P97

と、アントニーがキザな台詞を履いていたことも注目すべきでしょう。

一方その頃……、
優雅に音楽を聴き、玉突きをしながらアントニーの帰りを待っていたクレオパトラは、その話を聞いて激昂。知らせを伝えた使者を鞭でひっぱたきます。理不尽な上司ですね……。

そして、オクテイヴィアがどんな女なのか、年はいくつか、どんな性格か、どんな髪の色か、どんな背丈なのか探るよう部下に命じました。対抗をしているわけです。

(3)一瞬の平穏

その後、ローマ側とポンペイ側での交渉は、友好的に行われました。ローマ側はシシリーとサルディニアをポンペイに譲り、ポンペイは海賊を解散させ小麦を献上する。という方向性で和平は取り決められました。

ポンペイがクレオパトラの元カレ シーザー(本作のシーザーから見た養父)の話に触れたりと、地味にチクチクしていましたが。

しかし、シーザーとレピダスは和平を無視してポンペイ側に攻撃を仕掛け殺害。さらにシーザーはレピダスがポンペイに送った手紙を口実に弾劾。3人のパワーバランスが崩れ、シーザーとアントニーの関係に緊張が走ります。

アントニーはエジプトのクレオパトラの下へ向かいました。

(4)決戦、恋の終わり

シーザーはエジプト側にとって不慣れな海戦を挑み、アントニーは自分の不利を理解しながらも正面からシーザー軍にぶつかります。

しかも、クレオパトラが指揮するエジプト側の船はさっさと逃げ出してしまいます。あろうことか、アントニーは部下たちから散々非難されながら、その後を追って戦場から去ります。

極度のストレスもあったのでしょう、アントニーは半ば狂乱気味に自分の失態を恥じます。そして、クレオパトラに心を支配されていたからこそ、自分は彼女の後を追って逃げてしまったと悔みます。(本当でしょうか?)

シーザーは、「クレオパトラには礼を持って接する」とアントニー側に告げました。ただし、アントニーについては首を要求します。

そして、シーザーは使者を通してクレオパトラに強烈な一言を告げます。そもそもクレオパトラがアントニーを受け入れたのは愛していたからでなく、ローマの有力者である彼を恐れたからとある、と。

そのアントニーに話を移しましょう。すっかり落ちぶれたアントニーはクレオパトラに凄まじい罵声を浴びせます。

アントニー 初めて会ったとき、貴様は死んだシーザーの上の冷めた食い残しだった

シェイクスピア『アントニーとクレオパトラ』新潮社,1972,P139

あまりにも酷い言い方です。ただ、クレオパトラの心はまだ変わっていません。アントニーにそのことを伝えると、アントニーは冷静さを取り戻します。クレオパトラ、戦場での失態が嘘のような肝の座り方です。

冷静さを取り戻したアントニーは次の戦には勝利します。

しかし、アントニーはクレオパトラがシーザーと内通したと誤解、クレオパトラに罵声を浴びせます。クレオパトラはアントニーを落ち着けるため廟にこもります。そして、アントニーに「クレオパトラは死んだ」と告げるよう家臣に伝えます。

その話を真に受けたアントニーは自らの身体に刃を突き刺し、死に至ります。

その後、シーザーが自分をローマで凱旋の見世物にするつもりと知ったクレオパトラは、蛇の毒によって命を絶ちました。

感想

アントニーのリアリティ

アントニーという男の在り様が非常にリアルです。

偉大な戦績を上げて高く評価され、女性にハマって自ら評判を一気に落とす。築き上げた地位と名誉が失われば、猜疑心に駆られ愛した女性にさえ罵声を浴びせる。若いシーザーに地位を追われそうになると老いに負い目を感じる。ストレスがたまってくるとちょっとしたことにも被害妄想を発動する。

「イイ男だな」とは思えないんですね。でも、それってリアリティの裏返しだと思います。

クレオパトラのリアリティ

じゃあ、クレオパトラにリアリティがあるかと言えば、少なくともアントニーほどではありません。

とにかく気ままだし、アントニーの気を引くことばかり考えています(そういう場面しか登場いない、というのもありますが)。情緒が不安定だし、冷静さを欠いたら話を聞いてくれません。


性格も生活も明らかに浮世離れしています。女王なのに国政に関わっている描写はなく、アントニーのことを考えている場面ばかり。唯一社会と接点を持っているのが、終盤の海戦。自ら船団を率いる場面ですが、周りから反対されていたし、実際に彼女の判断ミスが契機となってアントニーたちは大敗を喫します。(この辺り、ジェンダー的な研究が数多くあるような気がします)

アントニーがローマ内での政治や権力闘争に関わっているのとは対照的です。というか、精悍だったアントニーが堕落してしまうのはクレオパトラのせいでもあります。

(そもそも、実際のクレオパトラは恋のことばかり考えているような人物ではなく、生き残るために周りをドライに使う人物であったように感じられます)

クレオパトラは重要な人物であると当時に、アントニーという男を堕落させる重要な装置としての役割を果たしています。

歴史の激動

何にせよ、アントニーもクレオパトラも、現代カルチャーの主人公・ヒロインとは明らかに違います。

人間のイヤな面(つまり、人間の大部分)と良い面(つまり、人間のほんの僅かな部分)を描き、ダイナミックな歴史の激動に飲み込まれていく生き様を描いています。

現代に生きる我々もまたイヤな面を抱えた人間であり、歴史の波に押しつぶされそうになりながら日々戦っています。アントニーとクレオパトラの生き様から得られるものも、きっとあるはずです。

主要参考サイト

シェイクスピア『アントニーとクレオパトラ』新潮社,1972

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