こんにちは。
Adonisは2011年にレバノンで結成された4人組ロックバンドです。

サウンドの特徴としては、
- 中東らしいオリエンタルな郷愁、
- 欧米的なロマンス
が融合している点でしょうか。
(アルバムによって濃淡は大きく異なります)
ニューウェイブ、ネオサイケの影響が感じられるのは中東界隈では珍しいように思います。
また、同郷のレジェンドSoapkillsからも影響を受けていることを公言していることも特筆すべき点かもしれません。
2021年5月現在、Adonisは5枚のフルアルバムをリリースしています。
本記事では、その全てを見ていきます。
なお、個人的にはまず4th以降から聴いてみることをオススメしたいです。
目次
Adonisのアルバム一覧
これからリリース順にアルバムを見ていきますが、文字だけでは分かりにくいと思って相関図を作成してみました。

では、本題に入りましょう。
(1st)Daw El Baladiyyi
初期の作品らしい粗削りっぽさを存分に感じさせる、中東流インディーポップに仕上がっています。
中東伝統民謡の気配を感じさせる旋律・妖しさが主役となって、非現実的な優美を湛えたアラビアン・エレガンスを描いています。
とはいえ、まだまだ良くも悪くも素朴さを残しており、彼等が影響を受けたという昔ながらの中東歌謡的な色彩も強く感じられます。
ロマンティックでノスタルジックな男性ボーカル、
中東フォーク的な響きを奏でるアコースティック/エレクトリックギター、
シンプルなグルーヴを創る牧歌的なベース、
控えめながらも熱量を秘めたパーカッション/ドラムス。
ボーカルのメロディをとにかく大事にした楽曲構成になっており、楽器はそれを引き立たせるために一歩引いている印象を受けます。
その結果、意図しているどうかは分からないもののソフトロックにも似た軽やかさが生まれています。
そこに適度なシンプルさや、中東風味、ロマンティシズムが加わり、独特の味わいを創り出すことに成功しています。
4th以降の作品ほどのオリジナリティはありませんが、こちらのほうが好きという方も少なくないアルバムだと思います。
(2nd)Men Shou Bteshki Beirut
中東っぽい妖しさがやや控えめになり、Vampire Weekend、Dirty Projectorsなどの2010年代USインディー勢の影響が感じられるようになっています。
ただ、根っこのところは中東の血を感じさせる仕上がりになっており、
Adonis特有のロマンティシズムも根底にあり、
前作より一段階洗練・深化されてはいるものの、素朴さもまだ全面に出ている印象を受けます。
とはいえ、民俗性が強かった前作と比べ、ロック性が主軸に置き換わってはいるのは重要な点でしょう。
ドラムスやホーンが強く主張したり、
エモーショナルなギターアルペジオが楽曲の屋台骨になったり、
メランコリックなピアノのフレーズが美しく棚引いたり、
ロック的ダイナミズムを躍動している瞬間があるのは印象的です。
ただ、濃密な中東っぽさを醸し出す場面も変わらず多々あり、その切り替わりが新鮮であったりもします。
そして、USインディー的な軽やかさと中東っぽい郷愁を併せ持つメロディは、本作の魅力になっていると言えるでしょう。
十分に楽しめる作品ではありますが(特にアルバム後半)、過渡期的な作品という一面もあるのかな、と個人的には思っています。
(3rd)Nour
USインディー路線を押し進めつつ、さらにポップでメロウな完成度をさらにもう一段階高めている作品です。
中東的なディープさはさらっとしたものになり、清涼剤のような軽やかなインディーポップ的側面が強まっています。
トロピカルな展開を見せることが多い、という表現が当てはまるかもしれません。
というと、Vampire Weekendの模倣ではないかと思われるかもしれませんが、隠そうとも滲み出る中東歌謡っぽさが良い塩梅に空気感を変えています。
その結果として、基本的に長閑で牧歌的な印象が強くなっています。
メロディがポップになっていることもあり、聴いていると「楽しそうだな」と微笑ましい気分になることが少なくありません。
インディーロック的で線が細めながらも、跳ねるような心地よい疾走感が魅力的です。
また、アルバムの最終盤には4つ打ちの楽曲も現れるなど、今までにない展開も存在しています。
中東的匂いを残しつつも、シンプルでクリアーなインディーロックを楽しめる作品と言えるでしょう。
その一方後の作品に繋がるような洗練されたロマンティシズムが、その殻を破ろうとしている瞬間も存在します。
Adonis前半期の集大成であると同時に、これ以降の作品を示唆しているように思います。
(4th)12 Sa’a
一気に化けた作品です。
80’sの匂いを感じさせるロマンティックなシンセ・ピアノ・ドラムマシーンを導入し、中東的な濃密さと耽美・優雅系ニューウェイブを融合させています。
Echo and the BunnymenやPrefab Sproutが中東の空気を吸って生まれ育ったらこんな音楽を奏でていたんだろう、なんて思わせる雰囲気に仕上がっています。
また、ボーカルもニューウェイブ風に寄せているように感じられます。
中東らしさを変に押し出していないのが、非常に功を奏しています。
ロマンティックで優美なサウンドから自然に滲み出る中東の旋律が、他にはない絶妙の風味を醸し出しています。
とりわけボーカルのメロディラインに現れる中東感が素晴らしいです。
また、「オリジナリティ」以外にも楽曲の「クオリティ」も向上しています。
耽美系ニューウェイブだけでなくトラップなどのベース・ミュージックを導入するなど、果敢な「攻め」の姿勢をとっており、それが上手くハマっています。
ロマンティシズムな叙情性を絶やすことなく、
時に中東的なディープさを見せ、
濃密でドラマティック、胸を高鳴らせるキラキラとしたサウンドが続いていきます。
中東流エレガント・ロックミュージック、そんなサウンドが本作には響いています。
(5th)A’da
80’sポップやクラブミュージックのスイートな部分を取り入れた、キラキラまばゆい傑作です。
楽曲全体のレベルも上がっており、「クオリティ」という意味でも欧米に引けを取らない仕上がりになっています。
前作同様Echo and the BunnymenやPrefab Sprout、さらには80’s王道ポップスの影響を受けているのはもちろんですがそこにシューゲイザーや2010年代USインディーの要素をかすかに加わっているのも印象的で、単なる懐古サウンドで終わらせていないあたりも新鮮です。
そして、とにかくメロディがもう最高です。それころ80’sポップの黄金時代に引けを取らない胸に突き刺さる旋律が高らかに響き渡るときもあり、こればっかりはぐっとくると言わざるを得ません。
きらめくメランコリックなピアノ・シンセの音色、
澄み渡るように伸びていくエレクトリックギター、
優美な4つ打ち、
そして、中東の匂いを微かに漂わせるポップなボーカル。
きらびやかだけどノスタルジックな、そしてオリエンタルな風味も微かに漂うサウンドに仕上がっています。
また、アルバム全体での緩急もしっかりついています。
アンビエントやポスト・ダブステップ(ひょっとしたらヴェイパーウェイブも)の影響を感じさせつつ、控えめながらもオリエンタル胸キュン・サウンドに調和するようにチューンアップされています。
中東らしからぬ優雅でナイーブな魅力がたっぷり詰まった、中東でしか生まれ得ないフレーバーの80’sスタイルミュージックです。
主要参考サイト
https://www.arabnews.com/node/1824166/lifestyle
http://adonisband.com/
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