A Winged Victory For The Sullenというポスト・クラシカルの音楽家について。静寂を揺蕩うカタルシス



こんにちは。


A Winged Victory For The Sullenは男性二人組のポスト・クラシカルユニットです。
アンビエント・ドローン的な特徴を持つその音楽は荘厳で美しく、「この世で最も美しいアンビエント」とも評されています。

大仰な評価だなあ…という印象を受けるかもしれませんが、決してさにあらず。
なにせ、美麗ストリングスアンビエントの代名詞というべきStars of the LidのAdam Wiltzieと、ポスト・クラシカルのみならず映画音楽でも称賛されているピアニストDustin O’Halloranという組み合わせなのです。

タイプの違うスーパースターがタッグを組んだようなもので、実にハイクオリティな相乗効果を生み出しています。

彼等の楽曲はピアノとストリングスというクラシカルな楽器を中心に、エフェクティブなエコーなども加わって構成されています。
長音符的で起伏の少ないゆったりとした曲調で、荘厳な雰囲気を編み上げています。
誰もいない大聖堂で神々しいフラスコ画を見上げているかのような、心洗われる壮麗さには胸を打たれます。

それでは、その聖なるポスト・クラシカルサウンドについてアルバムごとに語りたいと思います。

A Winged Victory For The Sullenの全アルバムについて。ポスト・クラシカルの至宝たち

2019年12月現在、彼等は4枚のアルバムをリリースしています。
順番に見ていきましょう。

【1st album】A Winged Victory For The Sullen

本作はA Winged Victory For The Sullen最大の魅力である荘厳さを最も美しく描き出しています。

曲の展開はアンビエント・ドローン的で、大きな起伏はありません。
壮麗なストリングスはゆっくりと波打つ絹地のように広がり。
叙情的なピアノが淡く旋律を紡ぎ。
楽器の音色をエフェクティブに加工したエコーは、泡沫のように現れてはゆっくりと消えていきます。

しかし、盛り上がりがないまま曲が過ぎ去っていくわけではなく、静かなクライマックスも用意されています。
音のレイヤーが差し込む薄光のように幾重にも積み重ねられ、最後には神々しい壮大さを呼び起こす展開もあります。
差し込む光に包まれながらゆっくりと心が浮かび上がるような、繊細なカタルシスというべき体験をさせてくれます。


本作にはコンセプトやテーマのようなものはなく、ただひたすらに美しい音色を追及して作られたそうです。
それゆえに純度は圧倒的に高く、透明度の高い荘厳さを感じられます。

【2nd album】ATOMOS

本作は英国ロイヤルバレエの専任振付師Wayne McGregorからダンス作品のスコアを依頼されて創られたアルバムです

一聴して気付くのは、前作よりシンセやエフェクティブなエコーが増えていることです。
ピアノ・ストリングスという荘厳さのみならず、音響的なサウンドパーツが増えたことにより壮大さが増しています。

また、アルバムが進むにつれて楽曲の奥底に肉体的な躍動感が潜んでいることに気付きます。
ただし、本作はドローン・アンビエント作品です。
ビートが入るわけでもピアノが荒ぶり暴れるわけではありません。
しかし、穏やかなストリングスとピアノの裏では、ダンス的な肉体性と物語性が躍動しています。

サウンド的な側面から見ると曲の展開は控えめです。
しかし、その奥底では、力強いマグマが煮えたぎっているような熱量が感じられます。

そして、それらの様子が重なり、遠い地平線が見えてくるようなスケール感や前に突き進むような熱いエネルギーを覚える瞬間が多くあります。
荘厳さは残しつつも壮大さという方向にフォーカスした作品であるといえるでしょう。

【3rd album】Iris

Dustin 曰く「フレンチでパリジャン 」な映画、フランスの映画監督ジャリル・レスペールによる 『Iris』のサウンドトラックとして本作は制作されています。

浮遊感に強い特徴がある点において、本作は異色作でしょう。
従来は主軸を担っていたピアノの存在をあまり感じられません。
代わりに、今までより大規模なオーケストラとモジュラーシンセを主軸にして楽曲が構成されています。


そして、エフェクティブなエコーを多層的に使用することにより、奥行のある空間と浮遊感が生成されています。
広々としたサウンドスケープの中で星のように瞬くシンセが重ねられ。
シャボン玉のようにゆらゆらとオーケストラが揺蕩って。
宇宙でもなければ深海でもないような、静かで不思議な空間を浮遊しているような感覚を覚えます。

また、明確に起伏のある曲展開があるのも特筆すべき点でしょう。
不穏さが強まっていく曲もあれば、勇壮なカタルシスへと導いていくものもあります。


身をゆだねてゆらゆらと揺られたい。
そんな気持ちにさせてくれるアルバムです。

【4th album】The Undivided Five

まさかのNinja Tuneに移籍してリリースされたアルバムです。

1stや2ndのようなピアノやストリングスを基調とした荘厳なサウンドスケープへと回帰しつつ、より密やかになっています。

旋律のメランコリーさはやや強まっているものの過去作のような分かりやいカタルシスはなく、儚く曲が進んでは終わっていく印象を受けるでしょう。

夜気の中で揺らめく白銀の湯気のように立ち昇るストリングスのドローン、
そっと溢れ出す水のように地の底を広がっていくピアノ、
未来的なシンセ/エレクトロニクスが生み出す淡いノスタルジー。
ポストクラシカルの最も繊細な部分を蒸留したのではないかと思わせるほどに美しいサウンドで、雄大な静けさを凛然とした空気感と共に描き切っています。

潮が満ちては引いていくような静けさと壮大さのもとに屹立し、光の揺曳が優しく奏でる抒情詩を屹然と歌い上げる吟遊詩人。
そんな優しくも孤独な誰かの後ろ姿が思い浮かぶサウンドスケープです。

アルバムの統括

文章だけでは分からないと思うので、各アルバムの特徴を図にしてみました。
何かの参考にしてくれる方がいたら嬉しいです。

まとめ ポスト・クラシカルとしてのA Winged Victory For The Sullenの文脈

いかがでしたでしょうか。

彼等の魅力は、王道的なポスト・クラシカルサウンドを・ドローンアンビエントな方向に突き詰めたところにあると思います。


アルバムをリリースするごとに魅力の中心軸は少し変わっていきますが、彼等の音楽を成す根源は何も変わっていません。
それは「この世で最も美しいアンビエント」であるということです。


それでは、また。

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