こんにちは。
A Whisper in the NoiseはWest Dylan Thordsonを中心とした音楽プロジェクトです。

ジャンルに関しては、スロウコアやインディーロックといった言葉で表現をされることが多いようです。
ギターをあまり用いず、チェロやバイオリンといったクラシカルな楽器やピアノなどを主役にしていることが特徴と言えるでしょう。
スロウコア的な蒼く生々しい憂鬱さだけでなく、ゴシックな雰囲気が漂っているのがオリジナリティとなっています。
2021年9月現在、A Whisper in the Noiseは4作のフルアルバムをリリースしています。
本記事では、その全てを見ていきます。
A Whisper in the Noiseのアルバム一覧
これからリリース順にアルバムを見ていきますが、文字だけでは分かりにくいと思って相関図を作成してみました。

では、本題に入りましょう。
(1st)Through the Ides of March
個人的には、A Whisper in the Noiseで最も素晴らしいと思っている作品です。
ダークで物憂いゴシックサウンドとスロウコア的物憂さが混ざり合い、生々しく叙情的なメランコリーを奏でています。
ダウナーではありますが静謐という感じではなく、沈み込んだ水底でもがいているような苦悩に満ちています。
そして、もがいているゆえの、迫力も感じます。
男性ボーカルの飾り気がなく、実直な歌い方。
クラシカルな楽器が紡ぎあげる、影を帯びた気品。
ピアノやシンセの音色が描く、胸を打つエモーショナルさ。
控えめながらも毅然とした迫力を見せるドラムス。
時にゴシック的で暗澹たる蠢動を見せることもあれば、時に美しいメロディを清冽に歌い上げることもあり。
古色蒼然とした文学性を感じさせつつも繊細な透明感を湛えていて、気品と生々しい感情の両方が違和感なく融合しています。
しなやかなビートがしばしば顔を出すこともあり、メリハリの効いたテンポ感を創りだしています。
どうしようもなくダークで、だけど凛とした姿勢もまた強くみなぎってるのが堪りません。
ボーカルを含めたすべての音がA Whisper in the Noiseらしい調性を築きあげ、生々しい美を描いています。
気品、古びた空気感、うごめく苦悩。
そんな要素が、絶妙のバランス感覚で成り立っているアルバムです。
個人的には、美しいメロディを歌い上げる瞬間がたまらなく好きです。
(2nd)As the Bluebird Sings
ゴシックな雰囲気が強まり、欧州童話的な狂気が蠢動しているアルバムです。
演劇的な迫力・躍動感を湛えている一方で良い意味での粗っぽさも漂っており、渋い色気を放っています。
ぶっきらぼうながらながらも内省的な男性ボーカル。
ピアノやストリングが生み出す物憂い気品。
時折姿を見せては鮮烈な旋律を残すシンセ。
蠢くような存在感を放つベースと芯のはっきりしたドラムス。
不穏で優雅な雰囲気を絶えず帯びており、物語的でダークな陶酔感を演出しています。
森の古城を思わせるシックな気品は変わりません。ただし、おとぎ話の中に登場する人気のない闇夜のような、ゾワゾワする異質感も漂わせています。
また、比較的ビートの効いた冒頭部分から静謐で美しいメロディへと展開していく楽曲が多いのも特徴かもしれません。
静謐な物憂さ・陰鬱さが顔を見せる機会は減っており、いわゆるスロウコアとの乖離が前作より広がっていると見ることもできるでしょう。
苦悩を語るおとぎ話の公演を鑑賞しているような、そんな感覚にさせてくれるアルバムです。
特に美しい楽曲が続く終盤が個人的にはお気に入りです。
(3rd)Dry Land
ゴシック的なニュアンスが若干後ろに下がり、インディーロック的/ハードコア的な生々しさが前に出ているアルバムです。
知性的なのは変わりませんが、ダークな雰囲気も変わりません。
ぶっきらぼうな雰囲気だって、もちろん変わりありません。
ただ、物憂いテクスチャーの中で生々しいドラムの質感が(1stと同じくSteve Albiniがプロデュース)重たい存在感を放つことがあり、凄みを感じさせるサウンドになっているのが魅力的です。
憂鬱なメロディを呟く男性ボーカル。
もの悲しい旋律のピアノやシンセ。
陰鬱な気品を演出するストリングス。
そして、毅然としたビートを生み出すリズムセクション。
沈み込むようなダウナーさ・静謐さを基調としつつ、時に凄絶な迫力を見せたり、時に繊細な美しさを見せたりと様々な側面が生まれては消えゆく泡沫のように展開していきます。
また、今回はアコースティックギターの存在感が一定程度感じられるのが、以前にはない特徴でしょう。
スロウコア的な側面に接近しています。
クラシカルな楽器を使ってアンダーグラウンド的で痩躯的なサウンドを紡いでいるためか、アルバム全体から狂気を帯びた文学性が漂っているように感じられます。
繊細で、煙たくて、ぎらついて。
ひっそりとした、のらりくらりと。
かと思えば、苦悩がのたうち回るような鬼気迫るサウンドに発展したり。
一筋縄ではいかない魅力を秘めたアルバムと言えるでしょう。
(4th)To Forget
アンダーグラウンド/ゴシック/ハードコアな匂いが強かった過去作と比べ、繊細なインディーロック/ドリームポップ/ポスト・クラシカル的なムードが増しています。
敢えてスロウコアに例えるなら、LowやCodineのような雰囲気からL’altraやEmpress方面に転じたようなものかもしれません。
ポスト・クラシカルやエレクトロニカにも通じる優美なテクスチャーによって儚い響きが生み出され、抑揚控えめのしっとりとしたサウンドが続いてきます。
繊細で優しい雰囲気の男性ボーカル、
瑞々しく叙情的なストリングス、
静謐でインディーロック的なテイストを添えるギター、
ドリーミィな音の揺らめきを紡ぐピアノやシンセ、
柔らかさでしなやかなドラムス。
丁寧な透明感と澄んだメロディがゆらゆらと沸き上がっては消えていく様には、胸をじわりと締め付けるような切なさを感じさせます。
静寂に包まれ、ひそやかで、触れたら壊れてしまいそうなメランコリーを淡々と丁寧に描いており、澄んだ悲しみがさりげなく揺蕩ってはそっと流れていきます。
静謐で蒼い叙情が、高い純度で詰め込まれています。
ある意味、ステレオタイプなスロウコアに最も近いアルバムかもしれません。
個人的には1stに匹敵するくらい素晴らしいと思っているアルバムです。
コメントを残す